6 ありがとう、杉山先生
桜が新緑へと置き換わり、また一歩季節が進んだ。2014年5月のある日、私は久しぶりに、杉山先生の事務所の扉をくぐった。
「先生、お久しぶりです。委任契約終了の確認書と、成功報酬を持ってきました」
長く続いた委任関係も、ついにこの日で終了である。離婚成立から大方半年…。戦後処理もまだ完全に済んだとは言い切れない状態ではあったが、いつまでも甘えるわけにはいかない。ここで一旦区切りをつけることにした。
「森山さん、長い間お疲れ様でした。すべてがあなたの思い通りにはいかなかったと思うけれど、とりあえずこれからは、前を向いて歩いていってください。季節はどんどん進んでいきますよ」
杉山先生には、本当にいろんなことを教えてもらった。効果的な交渉術、法律的なものの見方、そして何より、常に依頼者の最善の利益を考えて突き進む姿勢…。私がこれからも今の仕事を続けていく上では、非常に大きな武器になる。
「成功報酬ですが、これだけお返しします。あなたの今後の生活再建に役立ててください。お父様と和解すること。そして、いつまでも1人でいてはダメです。新しい人生を見つけてください。そして、私に報告してください」
私は深々と頭を下げた。こんな素晴らしい先生…山越弁護士に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!
杉山先生とは、今でも時々メールのやりとりをし、仕事で事務所の近くに行く時には、手土産を持って立ち寄るようにしている。もう個人的な事情でお世話になることはない…と思うが、私にとって尊敬する人物の1人になったのは間違いない。
世の中、結果がすべてだという人が多いが、私は結果よりも「プロセス」が大事だと思っている。結果に向かって考え、悩み、時には戦略的に布石を打ち、一歩引いたり横に歩いたり…逃げずにきちんとプロセスを踏んでおれば、たとえ結果が望みどおりにならなかったとしても、納得して受け入れることができる。少なくとも私はそうである。
離婚協議・調停で、山越弁護士…いや、佐倉家から猛攻撃を食らい、財産分与や自宅の取り扱い等、結果として譲歩せざるを得なくなった部分もあるが、杉山先生の助けを借りながら、私なりに悩み、考え導き出した結論である。私は納得している。
しかしながら、恭子…佐倉家はどうであろうか?少なくとも、恭子は早期の決着を望んでいたはずである。ところが山越弁護士主導で期間の引き延ばしをし、法外な要求もし、いかに自分たちの身入りを多くするか…そればかりに終始していたように思える。
自宅や財産分与等、高額な弁護士費用を負担しても、手元に残った目に見えるもの…物質的なものは多いと思うが、果たして納得しただろうか?心は満たされたのだろうか?
通い慣れた西天満の街…これでお別れである。帰り道、大阪天満宮にお参りし、神様にこれまでの感謝を伝えた。