17 最終回・2人の新居
年が明けて、2016年がやってきた。法律婚の夫婦として、初めて迎えるお正月である。私の実家、足助の優子の実家、そして、我々の「仲人」である国松課長のご自宅を回る。これぞ「日本の正月」…久しぶりに、お正月らしいお正月を満喫した。
十日戎が終わった頃、森山家の引っ越し大作戦が始まった。現居は、私が1人で住む前提で契約した「1LDK」の小さなアパートである。単身世帯用であり、原則的には2名で住むことは認められていない。家主と交渉し、「当面の間」ということで、優子と一緒に住むことを例外的に認めてもらっていたのだ。
どこに住むか…あまり大きく生活環境を変えたくないよねということで、2人の意向は一致した。早速次の日曜日、駅前の不動産屋の扉をくぐった。
我々の希望条件を伝えると、若い担当者がいくつか条件に合う物件を検索してくれた。しかしピンと来ない。2人で唸っていると、見覚えのある男性が出てきた。4年前、私が現居を契約した時の担当者…津久野さんである。名札に「店長」の文字。この間に昇格されたようだ。
「森山さん、お久しぶりです。その節はありがとうございました」
「あぁ…津久野さん、お久しぶりです。こちらこそお世話になりました。実は引っ越しを考えてまして…」
津久野店長は担当者に、奥からファイルを持ってくるよう指示した。
「森山さん。この物件なんかいかがでしょう?オーナーの希望で、紹介者を絞るように言われてるんですよ。森山さんのご職業とご収入でしたら、オーナーも十分納得されると思います」
駐車場2台付きの一戸建て…それも新築である。店長、何か間違ってないか…?
「津久野さん、我々は賃貸を希望してます。家を買いにきたのではありませんよ」
「森山さん。これ、賃貸物件なんですよ。物件からすれば賃料もお値頃です。それに、管理費共益費もいらない…もちろん駐車場代も込みです。トータルで見れば、近隣の同じくらいの広さのマンションより安いかもです」
想像もしない展開に、優子と顔を見合わせた。ただ、一点だけ問題が…。前妻・恭子と3人の子どもたちが暮らす、私名義の家と同じ小学校区内なのである。行動力のある長男・仁あたりはすぐに探り当てるだろう。一旦この物件をキープしてもらい、持ち帰って検討することにした。
私は8年前、「終の棲家」として選んだ土地に、家を建てた時のことを思い出していた。佐倉家の義父母にさんざん介入されながら、やっとのことで建てた我が家…。離婚調停での取り決めで、次女・絵美が20歳になるまでの「定期賃借」と言う形で住まわせている。「定期賃借」と言えば聞こえが良いが、実態は「乗っ取り」である。それが証拠に、私の了解も得ずに「森山」の表札を引っ剥がし、「佐倉」の表札を掲げている。「森山」の表札なんぞは、今頃焼却炉の中であろう。
私の中では、そのことが根深く残っていた。なぜ自分が選んだ地に住むのを躊躇せねばいけないのか…?文句があるなら、あいつらが出て行けばいいのだ。私は優子に、この物件を契約したいと告げた。しばらく考え込んだ後、
「わかりました。私も腹をくくります」
おそらく優子は、複雑な思いを抱きながらも、最後は私の心情を理解してくれたのだろう。
2016年3月26日、我々は新居に引っ越した。私と優子、2人の「新居」である。私は、終の棲家として選んだこの地に、3年半ぶりに最高の相方を連れて帰ってきたのだ。そして翌27日には、国松課長のご自宅の庭で、花見を兼ねた我々の披露宴が行われた。
それぞれの友人もひっくるめ、たくさんの人たちに祝福されて、私たちの新生活がスタートした。
アラフォー男の決断…4年近くに及んだ長い長い苦悩の道は、ようやく終わりの時を迎えた。はっきり言えること…私の決断は間違っていなかった。一卵性親子との決別、そして新しい人生へ…。
私は、いや、我々は一緒に歩いていく。「とりあえず」ではなく、この先もずっと…
前を向いて、前を向いて…
(完)
17日間の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。次回「エピローグ」にて、「アラフォー男の決断」シリーズは完結いたします。




