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13 和解

 2015年6月…我々の「同居」生活は順調に続いていた。そんなある日、優子が私に切り出した。


 「直樹さん。私、一度お父さんに挨拶がしたい」


 おいおい、何を言うか…。親父は佐倉家のスパイであり、私はもう縁を切ったと思っている。優子とのことが親父に知れたら、間違いなく佐倉家に筒抜けである。前妻・恭子は山越弁護士にそそのかされ、私の女性問題を疑っていた。いや、未だに疑っているに違いない。そうなると、飛んで火にいる何とやら…彼女に火の粉が降りかかる可能性は極めて高い。


 「優子。まだ今は止めておいた方がいいと思うよ。あまりに危険や」


 優子は私の目を見てこう続けた。


 「私はね、直樹さんとお父さんに仲直りして欲しいのよ。確かに、お父さんはしてはいけないことをしてしまったと思う。でも、それは直樹さんが心配だからこその行動であって、今は直樹さんと連絡がつかないことを気に病んでいると思うのよ。だから、私たち…直樹さんが今こうして落ち着いて生活していることを知らせてあげるべきだと思います」


 6月…私にとっては鬼門である。3年前の2012年6月、その前月に離婚問題を切り出した私が、精神的におかしくなったと思い込んだ親父と当時の義母によって精神科医の面談を強要されるという事件が起こった。当然、私は病気ではないことが明らかになったのだが、私の中ではそのことが大きなトラウマになり、それ以降梅雨時になると精神的に不安定になる。医師の診断を受けたわけではないが、おそらく「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」なのだろうと思っている。


 「優子の気持ちはありがたいと思う。でも、決心がつかない。特に今この時期は…」


 私はそう答えた。


 「直樹さん、ごめんなさい。でもいつかは…時期が来るのを待ちましょうか…」


 優子はそれ以上、私にその話をすることはなかった。


 8月。まもなくお盆である。私は優子に、亡母の墓参りに一緒に行ってほしいと伝えた。彼女はコクリと頷いた。


 8月15日土曜日。2人で亡母の墓前に出向くことにした。そしてその前日、私は親父に、明日の朝10時頃、相方…すなわち優子とともに墓参りに行くこと。彼女は職場の後輩であり、私を谷底から救い上げてくれた恩人であること。今年の春から同居している旨のメールを送った。


 親父にメールを送ったことは、家を出る直前に優子に伝えた。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、


 「お父さん、きっと来てくれますよ」


 そういって微笑んだ。私は内心ドキドキしていたが、優子は根っから肝が据わっている。


 ほぼ時間通りに霊園に到着すると、そこには親父の姿があった。電話やメールでの最小限のやりとりはあったものの、実際会うのは実に久しぶりである。そして、優子の姿を見つけて深々と頭を下げた。


 「親父。和田優子さん。俺の相方や。優子、私の親父。よく似てるやろ?」


 その後は特に会話を交わすこともなく、静かに亡母の墓前に手を合わせた。


 「おかん。俺の新しい相方や。この人なら絶対大丈夫やと思うねん…」


 私は心の中で、亡母にそう告げた。


 その後、親父を車に乗せ、近くの和食レストランに出かけた。そして3人で昼食を摂った。予想に反し、3人での会話は弾んだ。離婚問題勃発後のブランクはそこにはなく、優子も自然に溶け込んでいた。親父は初対面の優子に、身の上話をし始めた。これにはちょっと驚いた。比較するのは失礼かもしれないが、前妻・恭子に初めて会わせた時とは全然違う。親父が優子に心を開いたと言っていい。


 「優子さん。こんなやつですが、直樹のことよろしくお願いします。直樹、今度こそ…やぞ。頑張れ」


 食後、親父を乗せて我が家へ向かった。そして、いつでも来てもらって構わない旨伝えた。佐倉家には絶対言うな!という言葉は封印した。親父の態度から、我々のことを吹聴することはないと確信したから…。

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