12 新しい生活
季節は夏から秋へと進み、冬がやってきた。2014年12月…離婚成立から1年が経った。
恭子はもちろん、佐倉家の人間や親父とは、この1年間全く関わりはない。3人の子どもたちには、3月以降月に1度、自宅の最寄り駅まで会いに行く。そして一緒に昼ごはんを食べ、買い物をしたり公園で遊んだり…そして駅で別れる。
和田優子さん…優子とは、相変わらず男女というよりも、親友みたいな感じで仲良くやっている。彼女のサバサバした性格は非常にありがたい。そして、常に私を立ててくれる。親友たちにも紹介したが、皆太鼓判である。1週間ほど前、恐る恐る、従姉のみちる姉にも紹介した。
「直樹!マルや!この子なら間違いない!天国のお母ちゃんも喜ぶで!もう逃がしたらあかんで!優子ちゃん。直樹のことよろしくね。私この子のオシメも替えてたんよ。小さい頃はかわいかってんけど、今はただのおっさんや…」
姉ちゃん、優子の目の前で何を言うんか…優子はみちる姉の喜びように圧倒されていた。
2015年正月。また新しい年がやってきた。私も優子も実家に帰ることはない。年末年始は、彼女の家よりも広い我が家で2人で過ごし、正月2日の夕刻、国松課長のご自宅に伺った。
「おう!来たか!まあ上がれ。飲むぞ!」
国松課長はすでに出来上がっている。
「お前ら…仲良くやってるか?俺の目は間違いなかったなぁ…」
「はい。おかげ様で、仲良くやってます。ありがとうございました」
2人で深々と頭を下げた。そのタイミングがこれまた絶妙だったらしく、国松課長の豪快な笑いを誘ってしまった。
「森山、和田ちゃん。前に森山には話をしたんやけどな、『結婚』という単語にこだわることはない。確かに結婚することで、法律的な効果は生まれるし、対外的にもわかりやすい。でもそれは一種の『契約』みたいなもんで、世の中には籍を入れずに仲良く同じ屋根の下で暮らしている人たちもたくさんいる。それは君らも仕事を通じてわかってると思うねん。で…俺が何を言いたいかというとやなぁ…」
国松課長はお銚子を手に取り、私のおちょこに酒を注いだ後、こう続けた。
「要はな。君らが生活しやすいように、君らなりの生活スタイルを築いたらええねん。2つの家を行ったり来たりする。1つ屋根の下で生活するけど籍は入れん。そういうのんもありとちゃうかな?お互い信頼関係でつながってたら何も問題がない。で、実際やってみて…やっぱり籍を入れようか…それもありやな」
我が国では、おそらくほとんどの人が、「夫婦」は結婚して同じ屋根の下で暮らす。そして子どもをもうけて次世代に引き継いでいく…それが「あるべき姿」と信じて疑わないと思う。国松課長の考えは、「社会」の継続性という観点からは若干疑問が残るが、「男女」という最小単位で物事を考えるならば、特段疑問はない。
私は前妻・恭子との離婚のトラウマから、優子は幼少期に両親の不仲を経験したトラウマから、「結婚」という二文字に強い嫌悪感を抱いている。
「俺は和田ちゃんと結婚せえとまでは言うてない。別に結婚はせんでも、人生を共にする方法はある」
お花見の翌日の朝、国松課長が私に投げかけた言葉…。
別に無理をして「結婚」をしなくても、肩肘張らず、気の合う者同士、仲良く生きていけば良いのだ。「形」はその時々の状況で、臨機応変に考えればよい。
そして、あっという間に3月がやって来た。優子のアパートの契約更新月だったが、彼女は更新しなかった。
「直樹さん。不束者ですが…よろしくお願いします」
玄関の表札は「森山・和田」…に替わり、我が家での「同居」生活が始まった。