1章―6 剣の稽古
朝食を食べ終えた二人は早速剣技を磨く為に庭へ出た。
ソルファはそのまま黒い軍服だがフィーナは学院の制服を来ている。この制服は訓練服としても機能する。その理由は一番は動きやすさだろう。素材は軽い素材を使っていて、伸縮もしやすく、戦いでの様々な体勢になる時にも扱いやすくなっている。
容姿は、色が白をベースに空色のライン、左胸には黄金花の紋章が入っている。
「では初めにお嬢様、木剣を握って前に構えて下さい」
「わかりました」
フィーナは軽く握った木剣を前に構える。が、なんと表現したらいいか、一言で言えば不格好である。剣を握ったことのある者ならこんなことにはならないだろう。
「あのもしかしてお嬢様?」
「何でしょうか?」
フィーナは不格好を保ったまま疑問の返答と共に首を僅かにかしげる。
「もしかして剣を握ったことがないのですか?」
「ええ、今初めて握りました。触ったこと自体今日が初めてです」
剣技を教える為、最低限の動作である剣を振ることぐらいは流石に行ったことがあるだろうと思っていたのだが。まさか触ったことすらなかったとは。
ソルファはそこからかと頭を抱えそうになったがもちろんそんなことはしなかった。感情を表に出したりもしない。
「そうでしたか。では剣の基礎的な動作から入ることにしましょう」
淡々とした声色で告げる。表情は穏やかである。
そして二人は稽古を始めた。
まずは剣の持ち方、構え方から。
基本的に剣を自分の武器とする者は両手で持つことが多い。フィーナも両手持ちから稽古を開始する。
「背筋を伸ばす、足を前後に出す、柄をしっかり握る」
ソルファの指導のもと基本的な構え方はだいぶ様になった。フィーナは真剣な表情で構える。
次に行うのは剣の素振りだ。
「次にお嬢様、素振りを行います。縦素振り百回」
「が、頑張ります」
ソルファは従者であり、お世話係であるが今、稽古中は教師として接するつもりでいる。そのため多少はきつい稽古になるだろう。
「四十、四十一、四十二──」
声を出しながら数を数えて素振りをする。その額には光でキラリと反射する汗が見られる。
だがまだ七十回ほどしか素振りをしていない。こんなものでバテてしまっていては話にもならない。
八十、八十一と着実に回数を重ねていく。しかし重ねるにつれて汗がにじみ出て息が荒くなる。木剣の振りは徐々に弱々しくなっていく。
「──九十九、百!」
最後は力いっぱい素振りをした。フィーナはやりきった顔をしている。
「お嬢様、出来ればもう百回はして頂きたいのですが」
「もう百回!?」
驚愕といった表情のフィーナ。その様子から疲れていることが読み取れる。
「と言いたいところなのですが、お嬢様には無理そうですね」
体力が少ないだろうことは想像出来ていたのだがこちらも流石にここまでとは想像していなかった。そのため一旦ここで休憩を取ろうと家の中へ目を向ける。が、
「いえ、まだできます!」
気迫のある声が返ってきた。ソルファが振り向くとそこには木剣を構えるフィーナ。
なんとなくそう返ってくる気がしていたソルファは特に驚きもしなかった。その代わりに
「お嬢様がそういうのでしたら。ですがその前に一応」
一応とソルファはフィーナの前へ歩く。
すると周囲に気配が感じられる。それはソルファを中心に渦巻くかのように。だが目に捉えることは出来ない。
そしてソルファは唱え始めた。
「天の光は体を癒し 加護を与えん【治癒】」
たちまち金色の光を放つ玉が中に現れフィーナの周りに集まる。溶け込むかのように徐々に体へ溶けていく。
フィーナは疲れが僅かに取れていくのを感じた。体の隅々まで行き渡っていく感覚。初めてじゃない気がする。
これが限られた才をを持つもののみが操ることができる神素を使った呪文、神光術。奇跡の力とも言われる。
「一応【治癒】はかけておきました。体の疲れも少しは取れたと思います」
フィーナは自分の体がさっきまでより軽くなった感覚を覚えた。
「ありがとうございますソルファ──さん。これは神光術ですよね?」
「ええ、その通りです。今日は剣の稽古の後にやっていただく予定でいます」
フィーナが自分のことを呼ぶとき少し間が空いたことにソルファは気づいた。朝食のときにもあったこのことについてソルファは何かあるなと感じていた。
「わあ、すごい。体が軽くなったようです。私にもこんなことが出来るんでしょうか」
「ええ、お嬢様なら少し練習をすれば」
無邪気な笑みで全身を見渡すフィーナ。
こうみると、口調は大人びているがやはりまだ子供だと感じられる。
「ソルファさん、早く剣の稽古を終わらせて神光術を教えてください!」
「焦らないでください。神光術の発動には心身が安定していないといけないですから。それにまだ素振りは残っていますよ」
「そうでした...」
フィーナは素振りのことを思い出すと脱力したかのように肩を落とす。
「でもあと少しです。頑張ってください」
「はい!頑張ります!」
気合い充分のフィーナはさっきより軽やかに素振りを再開した。
「ほら、しっかり脇を締める。顎を引く。もっと力強く」
「はい!」
奇跡の力に魅了され、フィーナは先程より早く素振りを終わらせた。だがやはり途中で少しばかりゆっくりとなってしまった所はあったが。
「お嬢様、初めての稽古にしてはよく頑張りました。では一旦休憩にしましょう」
二人は休憩を取りに家の中へ入っていく。
ソルファはフィーナの素振りの最中に何者かの視線を感じたが今は置いておくことにした。
ちょっと描写が細すぎてる気がするのでこれからはテンポ良く進められるように頑張りたいです