1章―5 朝食とお世話係
「あ、お嬢様とソルファさん。今ちょうど朝食の準備が整ったところです」
ソルファとフィーナはフィーナの部屋を出て廊下を進み、一階へ下りる階段に差し掛かった時、メイド服姿の少女―リルノにそう告げられた。
「ありがとうリルノ。今行きます」
笑顔で返答するフィーナ。その姿はまさにお嬢様を想像させる。幼さにしてはしっかりしていて完璧と言えるだろう。だがソルファにはフィーナに何か、裏のようなものがあるように感じた。リルノは何故かフフッと静かに笑っている。
二人は階段を降り、先に食堂へ入ったリルノに続いて食堂へ入った。
「お嬢様、ソルファさんおはようございます」
入ったと同時に綺麗なハーモニーの重なった声が聞こえる。リルノを合わせた六人のメイド服の少女達だ。
「おはようございます皆さん」
「おはようございます皆さん方」
二人は揃って挨拶を返す。揃った時にフィーナの顔が若干赤くなったような気がするのは気のせいか。
そして既に朝食が置かれている机に向かって椅子に座る。リルノ達も一緒に。
普通メイドは傍に立っているものでは、とソルファは思ったがこの家、フィーナの方針だろうと特に何か訊いたりはしなかった。
「皆さん、フィーナお嬢様とリルノさんは改めましてですが、初めまして。俺はソルファ=フォルスと申します」
皆が席に着いたことを確認し、ソルファは座る前に名前だけの自己紹介をした。
言い終わると執事のような礼をする。
すると、
「こちらこそ改めて言わせてもらいます。ここの主でのフィーナ=トワイライトと言います。ソルファさんよろしくお願いします」
フィーナが代表して立ち、お嬢様として返答する。
続いてリルノが立ち、
「私も改めて自己紹介させていただきます。リルノ=ナルヒノと申します。ここのメイド長を務めさせております。よろしくお願いしますねソルファさん」
改めて自己紹介をする。メイド長と言ったことからメイド達の代表としての自己紹介と挨拶だろう。
「じゃあ朝食を食べましょう。話は食べながらで」
フィーナの提案によりまずは朝食を食べ始める。「いただきます」とこれまた揃った声で。ここのメイド達は声からするに皆明るい人達なのだろう。
「早速ソルファさんについての話何だけれど──」
フィーナが一口食べ終えたところで話を切り出す。
「その、記憶喪失みたいなのです」
「え!?」
リルノ達は揃って驚きの声を上げる。フィーナ同様当然であろう。
「それで数週間はここに居させてあげたいのだけれどどうですか?」
フィーナはリルノ達に訊く。ソルファはそれを眺める。──因みにソルファのいる位置はフィーナの隣だ。
リルノ達は迷った素振りもなく、
「そうしましょう。記憶喪失の人を放ってなんておれません」
まったくもってフィーナと同じ意見のようだ。
「ありがとうございます。それと─」
話を聞いているだけだったソルファはここで沈黙を破り御礼を言う。それと、
「ここに居させてもらう以上、何かお手伝いしたいのですが」
ソルファの本題である話を切り出す。
「お手伝いですか...。あ、それなら──」
人差し指を立て何か思いついたことを示す。
「フィーナお嬢様の側近の従者っていうのはどうでしょう?」
「え!?」
驚いた声を上げたのはフィーナ。今度こそしっかり顔を赤らめてたじろぐ。
「そうですね...側近ならお嬢様のお世話係というのはどうでしょうか?」
「リ、リルノ!?それは問題がある気が!?それにソルファさんだって嫌がるかもしれませんし」
フィーナは小動物のような目でソルファへ救いを求める。
「俺はどんな役目でも引き受けますよ。ここにいさせてもらう側ですから」
「では決まりですね」
すぐにソルファの役目は決まった。と思ったのだが、
「ちょっと待ちな──待ってください。私の意見を聞いてください」
フィーナには何か不満のようなものがあるようだ。一瞬間が空いたのをソルファは聞き逃さなかったが今は置いておくことにした。
「他に誰か余ってないんですか? それにソルファさんは男の人ですよ?もし私が何かされたらどうするのですか」
「そんなことは俺は絶対しません」
会ったばかりにしてもそんなに信頼なかったのかと内心項垂れるソルファ。
「そうですよお嬢様。そんなことする方に見えますか?ソルファさんに失礼です。わがままも言ってはいけませんよ」
「...! 失礼なことを言ってしまいソルファさんごめんなさい!」
自分の発言を指摘され気づきソルファへすぐに謝った。
「いえいえ。大丈夫ですよお嬢様。俺は全然気にしていません。むしろそんな考えを持たせてしまうような言動を取っていたなら俺の責任です」
内心項垂れていたのは秘密にソルファは特に気にしていない、と素振りで示す。
「お嬢様そのような心配は無用ですよ」
リルノはフィーナを安心させる声で言う。
「お世話係といっても、お嬢様と一緒に学院へ行って頂いたり、勉学を手伝ったりして頂くだけですから」
「そうなの?そうなら先に言ってください」
ふぅ、と安堵の溜息をつく。
「それに加えて、とその前に」
忘れてた、とリルノはソルファの方へ向く。
「訊くのを忘れていたのですが、剣を持っていたのを見たのですがソルファさんは剣が扱えるのですか?」
リルノは朝にソルファの剣の存在を知っていたのだが皆に聞かせるようにソルファへ訊いた。
「ええ、記憶は曖昧ですが体に剣の感触は染み付いている気がします」
実際、ソルファは物心ついた時から剣を持っていたような感覚を剣帯ごと剣を腰に付ける時に感じた。
「それは良かったです。その、もしかしたら神光術も?」
「ええ、記憶はやはり曖昧で剣よりは使い慣れていない感覚ですが神素の扱いもしていた気がします」
これもソルファは傷が癒えていく感覚が神素の動きに感じられていた。だから治療術師が傷を治してくれたのかと考えたのだ。
ただ、その時の感覚は確かに神素の動きに感じられたのだが、微妙に違和感も感じていた。
「それは助かります。お世話係の仕事として先程のに加えて、剣技、神素の扱い方などを指導して頂きたいのです」
ソルファは顔には出さないが心の中で驚いていた。
剣技というのは、貴族には武の嗜みとして用いられることもあるから大して驚かなかった。
だが神素は違う。神素というのは限られた才を持つ人のみに操ることが許された特殊なエネルギーだ。
それに神素は魔獣の討伐を志す、行う者しか使用が許可されていない。ということはフィーナは魔獣の討伐を将来行うということなのだ。
こんな娘が、とは思った。
だが顔にまでは出さなかった理由として、魔獣を討伐する者《神光騎士》には貴族が多いのだ。
それ以前に神素を操ることが出来るのは九割がた貴族なのである。だから納得は出来た。
「わかりました。ということはお嬢様は神光騎士を目指すのですよね?それなら手を抜く理由にはいきませんね」
内心密かに闘士を燃やす。教える側としての。
「お嬢様これからいつまでかはまだわかりませんがよろしくお願いしますね。」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますソルファさん。」
これから少なくとも数週間は 主と従者 という立場で二人は生活することになる。その挨拶だ。
「それとお嬢様。剣技、神素の御指導は徹底的にやりますからね?学院へ行くようですのでせめて学年トップ3には入るぐらいに」
「が、頑張ります...」
不安な色を見せる顔はその内側にやってやる、というサインも持っているように見える。
「ではお二人共、細かい話は後にして、まずは朝食を食べましょう」
「あ」と二人は忘れていたことを思い出す。
そうして二人は揃って朝食を始めた。
投稿遅れてすいません!
勉強しながらなのでこれからも遅れることが多くなると思いますか何卒よろしくお願いします。