6章―10 黄昏の神女
そこからは一方的だった。
次々と繰り出される絶え間ない槍の攻撃。加えてどこからともなく襲いかかる無音の暴風。
黒外套の女が次の行動に動こうとした時にはキレナは動きを読んで、的確かつ素早く対処する。
為す術なくただ防げる攻撃だけを防ぐ。少しでも受けるダメージを減らすために。
猛攻が過ぎ去った頃には全身に刻まれた痕が痛々しく残る女の姿。横に倒れてなんとか呼吸を行う。肺などの呼吸器官への影響も大きく、ままならないながらもゆっくりと。
対照的にキレナはそこに佇んでいた。視線は目下の女へと向けて。
いつ間にか雷撃による傷は癒えており、呼吸も一切乱れていない。
「なんで…殺さない、の」
いっその事殺してくれと言外に含む問いかけ。
屈辱的なまでに完敗し、身体は死ぬほど痛む。息をするのも辛いこの状況ではそうも思いたくなる。
「なぜ、ですか。貴方たちはセラに精神的に危害を加えつつも肉体には大きな傷はみられなかった。だからです。言ったでしょう然るべき報いを受けて頂くと」
それに人を殺したくなんて。そう小さく付け加えるが誰にも聞こえない。
「じゃあ身体に危害を加えたり、殺してたりしてたら…?」
「その時も然るべき報いを受けて頂くまでです」
あくまでそう返すキレナ。
その返答に対して先を想像したら震えが止まらない、そう女は感じた。
「この後は私を放置?」
「流石にしませんよ。逃げられるかもしれませんし」
既に殺気は去っているが、相手を射止める眼光は健在だ。
逃げる隙など与えるはずがない。
「まあそうだよねー。でもそろそろかな」
「きゃぁぁぁ!!」
ふと女が視線を向けた先から悲鳴と何かが爆発したような音が聞こえた。
それにキレナは思わず振り返る。だがその一瞬が妨げとなった。
はっとして視線を戻した時には黒外套の姿は消えていた。
自らの失態を自覚しつつも逃げられたものは仕方ない、と割り切りセラたちのもとへと駆けつけることにした。
キレナが黒外套の女に逃げられる少し前。
執行を終えたソルファは急いでフィーナたちのもとへと戻っていた。
「キレナ様もいるから大丈夫だと思うが」
「あら、そんなに彼女たちのことが大事?」
腰に携えた宵闇の聖剣から、神素を通じて脳内へと直接声が聞こえてくる。
嫉妬の混じった声音にはソルファは気づかない。
「今の俺にはな。もちろんレイシアのこと大切だ」
「ふーん。今もそうやって女の子たちを誑かしているのかしら?」
「な、今もってどういうことだ?」
記憶にないことを話されて動揺する。以前の俺はそんなことをしていたのかと。
「ねえソルファあれって」
レイシアの示す方へ視線を向ける。そこには不自然な影が地面に映っていた。
その正体をソルファは一瞥して看破した。
「忠告だ。このまま逃げるのなら見逃してやる。条件付きではあるがな」
影へ向かってそう告げると動揺を表すように奇妙に揺らいだ。
「貴様らはなぜフィーナお嬢様に接触した?」
少し間を開けて影から声が発せられた。
「彼女が候補者だったからよ」
「候補者?」
「そう。黄昏の神女のね」
聞き慣れない単語に頭を捻る。レイシアによって戻っている記憶の中には存在しない単語だ。
右手に持つレイシアへ意識を向けると困惑の様子が伝わってきた。魔王に何らかの関係があるのだろうか。
「…これ以上は話せないわ」
魔族間の関係上これ以上は伝えられない。影はそう告げると同時に不安の色をみせた。これで足りるか、殺されないかと。
逃げるという選択肢もあるにはあるも、逃げ切れる気はしない。
それに仲間の黒外套の男の姿が見えない以上彼は殺されたのだろう。キレナでさえあの強さであるのにこの青年に敵うはずが。
「そうか」
存外あっさりとした反応だったので拍子抜けしてしまう。
ともに敵の前であるというのに安堵するというあるまじき感情。影はその感情を振り払う。
ソルファとしては話せないのならそれ以上追求する気はなかった。話を聞きたいのは山々であるが、そんな簡単に話してくれると思っていなかったため、聞けただけで十分満足であった。
そもそもこんなところまで駆り出されるくらいだ。それほど重要な情報を持っているとも思っていなかった。
「もう一つの条件だ。これ以上フィーナお嬢様に近づくな。帰ったら必ず魔族の連中に伝えろ」
急激に下げられた声音はもし再度来たらどうなるかを暗示している。
その双眸はキレナより遥かに鋭く、掻い潜ってきた死線の数を表していた。
奇妙な影は数秒の逡巡の末、家々の影を伝って去っていった。
「そういう甘さは変わらないのね」
呆れたというより変わっていなくて良かった、そう含んだ言葉に気恥しさを感じる。
それはそうとして。
「魔王がそんな感じでいいのか?」
恥ずかしさの反撃として、魔王がそんな慈愛を持ったような表情でいいのかと問う。
「魔王なんて戦いのとき以外はこんなもんよ」
楽観的に言ってのけるが彼女自身が言っているのだからそんなもんなんだろう。
「レイシア一つ聞かせてくれ」
「黄昏の神女のことね?」
「ああ。どういう存在なんだ?それにフィーナお嬢様やセラ様が候補者って」
それからレイシアは語り始めた。
黄昏の神女とは魔王へ奉納される存在だ。
戦争などには参加せず、後方にて魔王に仕える役割を持っている。
黄昏の神女には素質を持った者が選出され、その素質を持つ者は世界に一人しか存在出来ない。
そしてその者は人間から生まれる。
産まれた瞬間からその素質はわからず、成長してから発現し、魔王へと奉納される。
今となっては人間と魔族は対立こそしているものの、魔王や聖王の存在していた時代には共存していた。
だから今も人間から黄昏の神女が現れたのだろう。
しかしもう魔王は存在しない。
厳密に言えばここにいるのだが。
なぜ魔族たちが今になって黄昏の神女を探しているのかの見当はレイシアにもつかない。
「二人に限らず、学院の生徒が何人も連れ去られていたのは学院内に黄昏の神女がいるからでしょうね」
レイシアは最後に二人だったのは、だんだんと候補が絞れていったためだろうと推測する。
「魔族がどうやってその情報を?」
「それはわからないけど、可能性があるとしたら学院内に内通者がいるってことね」
はっと息を呑む。
それはつまりフィーナへの危険は去っていないということ。
生徒という可能性は低いからあるなら教師か。教師が魔族と繋がっているなんて重大なことだ。
魔族や魔獣へ対抗する神光騎士を育成する学院にいるなど。
後からサレカに伝えておこうと考える。学院の関係者には伝えた方がいいと思うが、全体に伝わるのは混乱を生む。彼女なら大丈夫だろうという判断だ。
「何があってもフィーナお嬢様には危害を加えさせない」
「あら妬けちゃうわね」
「子ども相手にか?」
からかうように言うレイシアに、意趣返しのつもりで反撃する。
「そうね。私はあなたが大好きだもの」
しかし相手の方が上手だった。
直球に言われると返答に困ってしまう。
脳裏に微かに響く笑い声がからかっていることを語っている。
「…フィーナお嬢様のもとへ急ぐぞ」
感情を隠すように地を蹴って加速を始めた。
今回も遅れてしまいました
最近ゲームのアップデートが来てしまい、そっちにかかりっきり遊んでしまっていました笑(MHWアイスボーン等々)
頑張って書かなくてはですね!(決まり文句)
テスト期間に入るので勉強しないと…
ブックマーク等よろしくお願いします!




