6章―7 追った先で
倉庫を後にした黒外套の男は街の郊外、荒廃した大地を疾駆していた。近くに女の姿は見当たらない。
「なんだあの二人は!? 女の方は生徒会長ということで知ってはいたが、あの男はいったい……」
誰かしらが連れ去った少女たちを連れ戻しに来る可能性は考えていた。途中強力な神素の持ち主が近づいてきているのにも気づき、急いで任務を遂行しようとした。しかし想定より早く着いた彼らに邪魔をされ任務は未遂となった。
あの倉庫には結界が貼ってあった。そんな簡単に見つけることが出来るものでは無いはずだった。結果として結界は意味をなさなかった。それほどの人物が学院にいるのならもっと万全を期していた。
そんな動揺と怒りを抱えながら地を蹴り駆ける。急がなくては追ってきているであろうあの軍服の男に追いつかれてしまうだろうからだ。
勝てる算段がない訳では無い。切り札を使えばだが。
それにあの軍服には見覚えが……しかしそれ以上に彼の装いで特に気になったのは、あの手に持っていた剣だった。あの剣からは魔族に似た何かを感じた。オーラ、剣に宿る魂とでも言うか。青年自身は魔族の気配を感じられなかった。しかし剣からは感じられた。あの剣に何が込められているというのか。あのお方の復活に繋がるのか。
突如逃げながらの思考は止めざるを得なくなった。
後方から聞こえてくる風を切る音に振り向くと、亜音速ともいえる速さで迫るソルファの姿があった。
「追いついたぞ」
足を止めた二人は幾分か距離を空けて相対する。ソルファの目に漂うは殺気。隙を探しつつジリジリと一歩ずつ詰め寄る。
睨み合い視線を交差させる。瞬間地を蹴る音。先に動いたのはソルファだった。
中段に構えた直剣を右手に地を蹴った勢いで斬りかかる。それを黒外套はソルファのより少し短めの剣で受け止める。ソルファは剣に力を込め少しずつ押していく。そして押した要領で剣を上にはね上げ上段から斬りつける。しかし半身ずらされたことにより空振りに終わる。
黒外套は空振りの隙をついて横腹に剣を斬り込もうとするが、空振りをしたのに関わらず流麗な動作でソルファに流される。ちっと舌打ちをついて一つ跳んで後退する。
「お前の軍服、まさか『晦冥の執行者』か」
男が脳裏に過った言葉を呟く。
「『晦冥の執行者』? ッ!」
聞き覚えのない言葉に思考を巡らせる。ふと激しい頭痛がソルファを襲う。何か禁忌に触れたようなそんな痛み。
それでも目の前の男を逃がしはしまいと頭痛に耐えながら視界には捉え続ける。
外套の男はソルファの異変に勘づいたのか逃げ出す隙を探しているように見える。
「仕方ないわね。中途半端ではあるけど今思い出させてあげる」
突然脳内に響く優しい声。いつかも聞いた声。そして失われたピースが埋められるように映像がフラッシュバックする。
脳を満たす流れてくる多量の記憶。それは徐々に頭痛を和らげていく。
思い出していく記憶。自分が何者だったのか。以前何をしていたのか。
「……ああ、そうだったな」
頭痛はいつの間にか過ぎ去り、足りなかったピースが埋められたことによる爽快感に満たされる。
ソルファは右手に持つ闇色の直剣を見つめほほ笑みかける。
「すまなかったレイシア」
「いいのよ。早く思い出して欲しかったのは事実だけど。私は寛大な魔王だからね」
「そうだったな」
闇色の剣から返ってくる声に苦笑しながら応える。暫くぶりの会話は今までと変わらないもので安堵する。懐かしく優しいそれ。
「誰と話している」
先程までの異変は収まったが、傍には誰もいないのに話すソルファを訝しげに思いつつ問う。
「お前らの崇拝する方だよ」
「それは、どういう意味だ」
「直にわかるさ。行けるかレイシア」
「もちろん、私を誰だと思っているの?」
ソルファはそれに頷きで答える。右手に持つ剣──冥闇の聖剣がソルファの思いに応えるように今までより剣圧を増し、重量を増やす。だがその重さこそ手によく馴染む。
そして表情を真剣なものに変える。
「さあ、執行の時だ」
そう言い放つと、迸る神素を冥闇の聖剣に纏って先と同じように黒外套に迫る。それから繰り出される怒涛の剣。黒外套はあらゆる方向から降りかかる剣を神素を込めた剣でかろうじて受け止める。
絶え間なく続く剣戟。しかし捉えきれなかったソルファの剣が身体を斬り裂く。男は血を流しながら苦痛に顔を歪めて後退する。その隙を与えずにソルファは攻めようとする。
が、即放たれた神光術によって視界を奪われる。しかしそれも一瞬。視界は瞬く間に回復する。宵闇の聖剣の弱体無効の効果によるものだ。黒外套に逃げるすきは与えない。
「その剣、どこのものだ。闇色の刀身をしていながら聖属性を帯びているなど」
「お前の言う通りだ。闇属性でありながら聖属性を持っている聖剣」
「いやそんなはずはない! そんなもの神話の中にしか存在しない。そんなはずが……」
「予想通りかもしれないが、ここで終わるお前が知ろうとどうでもいい」
ソルファは身を屈め、溜めるように剣を後ろに引く。そして最速の剣で突進する。【幻剣流】初ノ型 迅雷。莫大な神素によって生み出される幻の速さ。
黒外套は反射的に剣を構える、のではなく何かを地面へ投げた。
「現れろ、そして奴の身体を薙ぎ払え!」
地面に投げられた手のひらサイズの石は地に触れた瞬間巨大な影が現れる。
獅子の頭に幻獣鳥の体、蛇がそのまま尻尾についている。合成魔獣が唸りながらソルファの前に立ちはだかった。
1週間ぶりです。
部活などが忙しいため投稿頻度は低くなりがちですが、読んでいただけると嬉しい限りです。
先日から言っている通りひとまず第1幕を終わらせて、改稿作業に移る予定ですのでお待ちして頂けたら幸いです




