6章―6 助け
学院を飛び出したソルファとキレナは街中を疾走していた。
いつもは人通りの多い道だが、今日は学院で模擬戦があるため観戦に行く人が多く、少なく閑散としている。
形としては二人は横に並んでいる。
「彼女たちがどこかわかるのですか?」
自分にはわからないが、迷いを持たず、目的地へ一直線といった様子のソルファへ問いかける。
「ええ。わかるのはフィーナ様の居場所のみですが、二人一緒にいると信じましょう」
キレナはもう一つ、なぜわかったのか聞こうとしたが、その言葉を飲み込んだ。
今は急いでいるということと、聞いてはいけない気がしたからだ。
神光術無系統─支援には【探索】が数種類存在する。ひとつに人を探すものがある。ゆえに【探索】が発達してからは、行方不明者が出たりすることは限りなくゼロとなった。
よった今回のように行方不明者が出るのはそもそもおかしなことなのだ。
学院の教師の中にも【探索】を専門とする者はいる。それでも見つかっていないのにソルファが居場所をわかっているのは、彼が自分よ知りえない、つまり独自の神光術を用いているのだと考えた。
通例その人固有であろう神光術は詳細を聞くべきではないとされている。
聞かれたら聞かれたで答えを用意していたソルファだったが、結果的にキレナが躊躇ったのを感じ取り安堵した。嘘を伝えるのは流石にどうかと思っていたからだ。
ソルファがフィーナの居場所をわかったのは【神素共有】の繋がりがあったからだった。
フィーナの少ない神素容量を補うための神素共有は、模擬戦が行われている最中は彼女自身の力で戦うために、ソルファからの神素の流れを制限していた。
しかしつい先程、制限を超える神素の要求があった。普通人間の本能として神素を限界まで使うことは無く、途中で無意識にストッパーがかかる。限界を超える量を使おうとしたのだから、危機的状況あるいはそれに近しいのは間違いないだろう。
そういった状況に至ると危険な一人の神素がもう一人の神素と呼応し、位置などを感じ取ることができることがある。
これは感応現象と呼ばれるもので、神素の性質の近しいもの同士で起こることがあると言われている。
主に双子に起こるとされているが、ソルファとフィーナの場合は【神素共有】の影響から起こったものだろう。
【神素共有】にしても感応現象にしても言えるものではないということである。
嘘を伝えることになってしまうとはこういうことだった。
「そろそろです。戦闘の準備を」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フィーナとセラは扉のなかった部屋から出され、連れてかれていた。
二人の手は女の黒外套に連れられている。視界を封じられているためだ。光系統の神光術で影を作っているのだろう。足元には彼女らの影とは別に濃い影がある。
「そこに座らせろ」
「りょーかい」
男は指示を出し、女は座るよう促す。
そこには奇妙な文字や紋章などが描かれていた。
腰を着いた瞬間、フィーナとセラは全身に悪寒を感じた。気温が下がったわけではない。視界を閉ざされていて見えているわけではないが、二人は自身の座っている場所に何か異物があるような気がした。
「そこに描かれているものは全て魔素によるものだ」
魔素──神素と性質は同じとされているが人間が使用することはない。人類の敵である魔獣、魔族が使用するもの。それから意味するのは、外套の二人は魔族またはその仲間ということ。
それを理解し、一層全身が強ばった。
普通に暮らしている上で魔族と出会う機会などない。人類の領域には入ることのないように騎士が見張っているからである。
学院の生徒たちはその存在を文献で知る程度。腕に自信のあるものは倒せるとでも思っているかもしれない。しかし、そういった文献を書いているのは大半が実際に魔族に会ったことのないものだ。
フィーナはともかく、セラは倒せるとまで自信過剰ではないが対抗は出来ると思っていた。実際下級の魔獣、魔族であれば実力でみれば対抗出来るだろう。
しかし対峙してみてわかる。外套の二人が強者ということもあるかもしれないが、二人が魔族かもしれないとわかった時点で恐怖が襲った。神素と同じ性質といっても近くで感じればわかる。魔素は神素とは全く異なるものだと。異色の存在に身体が動かなくなるほどに。
「これを読んでもらわなければならない。視界を開放しよう」
そういってフィーナとセラの視界は真っ暗な状態からクリアになる。
ぱさっと目の前に紙切れが落とされる。
【神素共有】と同じ類だろうか、とフィーナは思った。
「もし読まなければ……?」
フィーナは恐怖を押し殺して気丈に振舞おうとするが、その声音は震えている。
「無理やり読ませるか、強制手段もあるからそちらを使うまでだ」
脅しではなく本気だという威圧が続けようとしたフィーナの言葉を止めた。
「この人怖いからちゃっちゃと終わらせた方がいいよ。もっとも対象者だったら良くはないかもだけど」
最後の言葉に圧を込めるように女は言う。
フィーナはセラを一瞥するが、彼女は動けそうにない。だったらわたしが何とかしないと、と思うが声も身体も思うように動かない。
「時間はない。自ら読まないのなら読ませるまで」
そういい男がフィーナへ手を伸ばす。その時フィーナの胸元から光が溢れた。フィーナとセラは思わず腕で目を覆う。その光はなぜかあたたかく感じる。
「くっ、なんだこの光は! 目が……!」
しかし彼は違った。目眩し程度だと思って腕で目を覆ったりしていなかった黒外套の男は、浴びた光に悶え苦しむ。女も例外ではなく同じような状態だ。
なぜこんなものがと思っていたフィーナは昨日のことを思い出した。
初戦の前、ソルファがくれた小さな石。神素が切れかけたとき役に立つと。
この好機を逃すわけにはいかない。フィーナはセラへと目を向ける。次こそは彼女もこちらを見ていた。頷きあい立ち上がる。
そして走り出す瞬間、
「行かせるか!」
二人は足を掴まれ倒れ込んだ。男の手ではなく、影だ。
「……そんなものを隠し持っていたとは。お前の確認不足だ」
「ごめんって。私だってこんな灼けてるんだし許して」
焦げたように黒い眼球でフィーナとセラを見下ろす。その目には今までなかった殺気が込められている。
「大切な商品であるゆえ大事に扱わなければならなかったが、殺すまでしなければ問題ないだろう」
「ていって、その目は殺す気でしょ?」
「お前に言われたくはないな」
外套から黒い瘴気のようなもの、魔素が溢れ出す。
「自分の行動に後悔しろ」
いつの間に取り出したのか、外套の二人は短剣を持っていた。対するフィーナとセラには何もない。
ゆっくりと歩いて近づく。逃げようにも影に掴まれて逃げることは出来ない。
まずは、とフィーナへ剣を振り下ろそうとした刹那。
「【幻剣流】初ノ型 迅雷!」
稲妻の如く一瞬にして迫ってきた影は短剣を弾いた。
早く書くと言ったのにこの様です…
前回の話からお久しぶりです。これももう恒例ですね。早く投稿しろよ
GW中も部活ばかり、大会だったり、模試だったり。これももう恒例ですが、時間は作るもの、隙間を見つけて書けるはずなんですよね。しかし思うように筆(スマホ執筆のため指ですが)が進まず、ゲームやら他のことに逃げてしまうんですよね。どうしたらいいやら…