6章―5 繋がった解決策
「どうするればいいの…」
神光術を使えない状況下では外との連絡が絶たれているため、助けを呼ぶことはできない。
「…犯人の狙いが身代金だったら自ずと連絡してくれるはず。それを待ちましょう」
できるだけ冷静を繕うようにしながら、セラは手段をひとつ挙げる。狙いが違かった場合のことは考えないように。
「そうだよね、やっぱり待つしかないよね」
その結論に達してからは静寂が場を満たした。普段話すことがない、からということもあるが、理由はそれだけでない。恐怖、不安があった。
聖ソレイフィア学院の生徒はクラスに関わらず、誰でも多少なりと神光術を会得している。それが彼女たちの精神面を強く保っている。神光術があるから身の安全は大丈夫だ、というふうに。
つまり、二人は誘拐された恐怖と神光術の使えない不安で満たされていた。
数分経った頃、早くも待っているだけでは居られないフィーナは新たな解決策を考えた。
書庫で読んだ本にはこうとも書いてあったのだ。
「内側の神素量が結界の許容量を超えると崩壊する…」
「なに?」
セラが無理だったのならフィーナにも無理だろう。少なくとも一人では。
「もう一度、次は二人一緒に神光術を使ってみない?」
「わかりました」
可能性があるならということだろう、セラはすぐに立ち上がった。
そして各々現状使える最上位の神光術を使う。
周囲に風が立ち込め始める。
しかし、すぐに止んでしまい顕現には至らなかった。
あらん限りの神素を使ったことで、力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまう。
一瞬垣間見えた一縷の望みも潰えてしまい、流石のフィーナも落胆する。
唯一の光源である松明の火が弱まる。
今できることは試した。フィーナの思いついた解決策も過程はどうであれ、結果的には役に立たなかった。
やはり、待つしかないという結論に至る。
再び静寂が場を満たす。
それも束の間、フィーナの向いていた先の壁に初めて変化が見えた。亀裂が走り始め、瞬く間に扉を型どる。
その扉が開かれたと同時に部屋が急に明るくなった。
「結構激しくやってくれたわね。まあこのぐらいじゃ私の結界はビクともしないけど」
部屋に入ってきたのは黒い外套を羽織った人物だった。声音からして女だろう。
「おっと、入る時には結界切れちゃうんだったわね」
口元しか見えないが、二人の方を見ながら笑みを浮かべているように見えた。
その言動から、一時与えられた神光術を使える逃してしまったのだと二人は気づいた。
うっかりではなく、意図的に結界を切ったのだと。
その瞬間を狙って二人が全力で神光術を放てば、この部屋が壊れ、目の前の未知数の女も少なくとも戦闘不能には持ち込めただろう。そのチャンスを与えてくれていた。
しかしその前に一度全力をだしていたゆえに、疲弊していた二人は全力を出すどころか、神光術を放つことさえ出来なかった。
「もしかして、さっきのちょっとした揺れで全力だったわけ?」
裏付けるように黒外套は煽るような発言をしてくる。
「あなたがわたしたちをここまで連れてきたの?」
フィーナは質問には答えず、一番知りたいことを問う。
セラは相手の質問には答えなければならないと思っていたため、フィーナが答えるより先に質問で返したことに不安を覚えた。
明らかに自分たちより強い相手の機嫌を損ねてしまったら何をされるのかわからない。
真面目さゆえの不安だ。
同時にある記憶がフラッシュバックしたことにより、フィーナを制止することは叶わなかった。
「私の質問には答えないのに聞いてくるのね。まあ気にしないでおいてあげる」
幸い気分を損ねてしまうことはなかった。
「ええ、そうよ。私たちが連れてきたの」
特に隠す必要もないということだろう。存外あっさり答えたが、すぐに分かるに越したことはない。
「…何のために?」
「うーん、どこまで話していいかな? 簡潔に言えば人探しね」
誘拐までしないと確かめられない人探しということなら、何をされるか分かったものじゃない。
「でも安心していいわよ。探している人は丁重に扱わなきゃいけないから痛いことはしないわよ」
不安で翳っていく表情を見てか、特に危害を加えるつもりは無いことを伝える。
それを聞いてひとまず安心する二人。
ただ、学院には数週間来ていない生徒がいる。彼女らも恐らく誘拐されたのだろう。危害を加えないといっても未だに学院へ来ていない生徒がいるのだ。物理的なものはなくてもまだ知り得ない神光術による攻撃はあるかもしれない。
「帰れる保証はしないけどね」
すなわち安心はできないということだ。
「無駄話が過ぎる」
声が聞こえる。
そうフィーナが認識ときには目の前に外套が増えていた。
女の方より背は高く、その声音は男だろう。
「そう? あなたを待っている間の暇つぶしだったんだけど、もう準備は出来たのね」
「ああ、ここが見つかってしまうのも時間の問題かもしれない。すぐに取り掛かる」
「時間の問題? どうして?」
「強力な神素のオーラが近づいてきている。学院で確認した限りではあれほどのものはいなかったはずだが」
いつかは見つかってしまうと考えていたが、こんなに早くとは予想はしていなかった。
表面上の冷静さとは裏腹に、内面は焦りをみせていることに気付き、男は一つ呼吸をついた。
二人の会話に耳を傾けていたフィーナは強力な神素と聞いて直感的にソルファだと考えた。
そして、その直感通りソルファとキレナは二人のもとへと近付いてきていた。
久々に2週連続投稿となりました!
ただ、自分で読んでて思ったのは「やっぱり1話分短くないか!?」ということでしたねw
5月にも入れば一応投稿開始してから2年ということになるというのに、執筆レベルは全然上がっていませんね…
今回のタイトルは次の話に繋がるタイトルとなっていますのでお楽しみに!




