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黄昏の神女と執行者  作者: 神木 蒼空
第1幕 少女と記憶を失った剣士
35/49

5章―8 二回戦

 開始と同時に互いに神光術を発動した。

 それは互いに想定外の事だったがここで発動をやめて他の行動に移ることは出来ない。その前に相手の神光術が完成してしまうからだ。

 たとえフィーナの速さをもってしてもミヤの発動速度には追いつけない。

 先に発動したのはどちらか。

 強風が突如発生し、ミヤの後ろ側から吹き始める。フィーナが成功したと思ったのも束の間、目の前のミヤは微動だにしていなかった。

 勢いが足りなかったのかと考えるが、それは違っていた。

 ミヤは強固な氷の壁に守られていた。フィーナのいる辺りまで届く冷気に一瞬身震いをする。

 攻撃が防がれた時のことを考えていなかったフィーナは、ひとまず止まっていては動かぬ的だと直感的に走っていた。

 不意に視界にいる少女が笑みを浮かべた気がした。

 走り始めて三歩ほどの辺りで突然足が地面を蹴る感覚が失われた。代わりに得た感覚は氷だった。

 勢いそのままだったため前に滑り転ぶ体勢となってしまうが、反射的に手をついて冷たさを堪えつつギリギリで一回転して着地する。途中瞬間ではあったが制服のスカートが翻ってチラリと覗かせたものがあったがフィーナは気づいていなかった。気づいていたとしても観客には生徒、教師含め女性だけだと考えてしまっているからか気にする素振りはなかった。そんな余裕もないだろうが。

 着地時に手から剣を落としてしまっていることに気づき急いで拾いに向かう。

 しかし、落とさせるのも作戦のうちだ、拾うの見す見す待つわけがない。阻むように氷の(つぶて)が飛来する。

 氷系統───攻性(アサルト)───【氷粒旋(グレイン・ブリザード)】による追い打ちにより避けなければならないゆえ、剣を拾うことは叶わずに、それどころか避けていくうちに剣とは正反対の位置まで誘導された。


───やられた。まさか神光術が防がれた挙句、剣まで落とさせられるなんて。


 地面(フィールド)にはられた氷のせいでフィーナの長所である速さが生かせないことに毒づく。

 

───この状況どう打開すれば。剣がなければ攻撃することも、防ぐこともできない。

 

 フィーナが思考を巡らせ動きを止めている今、ミヤが攻撃を仕掛けないのは余裕で勝てると慢心しきっている訳では無い。

 確かにこの状況は並大抵の相手なら絶対勝てると余裕を持て余しているだろうが、ミヤは学年内でも上位者だ。油断することの危険さを理解している。

 彼女は臨戦態勢で神素を調整しているのだろう。フィーナが動こうとしたときにすぐに神光術を使えるように、規定を超えた威力にならないように。

 戦う経験の浅いフィーナはこの状況下且つ少し前なら諦めはしなくとも、勝とうとは考えもしなかっただろう。

 しかし今は違う。

 研ぎ澄まされた集中と一人で戦うという意思がある。


 必ず勝つと。


 フィーナは模擬戦に備えて、正確にはセラとの戦いに備えて一つ、密かに特訓を積み重ねてきたものがある。

 まだ完璧には成功したことはないが、この身体に残っている(、、、、、、、、)感覚さえあればできるはず。あとはそれを届かせるだけの間合いを詰める。それだけだ。

 

 不確定要素のある策だが賭けにでるしかない。

 フィーナはたっぷり十秒ほど要したが、策と決心を固めた。


 持ち前の速さを生かさずして間合いを詰めることは難しい、いや無理だろう。

 しかし生かそうにも氷で滑ってまるで役に立たなく、並の速さと同等になってしまう。

 何か手を施さなければ。

 フィーナは氷上へと足を踏み出した。それと同時に風が吹き始める。

 彼女が咄嗟に思いついた策は自らに風を吹きつけ、氷上を速さを増幅させながら滑走させる。自分の身に風が吹いてくることがわかっていれば転倒する可能性は大幅に減るはずだ。

 もちろんそれだけでは剣もない状態であるから、動いてはいるが的と同義だ。だからさらに工夫を凝らす。

 工夫の一つは砂煙を起こす。

 いくら神光術を得意するミヤでもまだ第一学年だ。神光術を及ばせる範囲は標準より広くとも狭いほうだ。だからフィールド全てを覆う氷とはなっていない。それに氷を張り続けているのにも限界はある。その証拠に僅かしか経っていない時間でも先まで氷だった一部分が地面になっている。

 範囲系の神光術は拡大されるにつれ、必要となる神素も増えていく。自分の安定して保てる神光術の範囲を超えているため神素が消耗が早く、氷ではなくなくなっている部分があるのだ。

 そして一箇所だけ、初めから氷になっていないところ、ミヤの足下とその周辺。

 フィーナはその場所に風を起こし、砂煙を発生させ目を遮ったところに詰めよろうと考えた。

 蒼海の双眸が氷の姫を鋭く捉える。突然風がざわめきを増す。そして砂が舞い上がり、砂煙となる。思わず目を閉じたくなるがそして相手を見失うわけにはいかないため、ミヤは懸命に目を開く。

 踏み出した氷上で風に身を任せるようにフィーナはスピードを上げていく。想定外のことに瞬間驚愕の色を見せるが、それに対しミヤは砂煙の中対応をみせた。

 視界が遮られているというのに、正確にグレイン・ブリザードを当てたのだ。培ってきた勘が成せるものか。

 ハイスピードで氷上を駆けるフィーナは攻撃を紙一重に交わす。避けきることができないものは風で僅かに軌道をずらし当たらないようにする。


 二つ目の工夫は相手を転倒させて攻撃を確実に当てることだ。

 初めに防がれたようにただ強風を起こすだけでは転倒させることは無理だろう。だからフィーナは相手が防げず、不意をつける場所に風を起こすことを考えた。

 足の裏側だ。

 これはソルファが一度見せた、屋敷で二階から庭への着地をするときに用いた、風を足の裏に発生させ減速させるという応用技から思いついたものだ。

 風は隙間にしか起こすことが出来ない。足の裏側に風を起こすということは即ち、靴の溝というとても僅かな空間に風を起こすということ。後に聞いた話だが、ソルファでさえそんな繊細な神光術の使い方は聞いたことがないと、酷く驚いた。

 それをしようとするフィーナの度胸は驚くべきものだ。


 全く想定していなかった転倒方法に対処する術もなく、あえなく倒れてしまう。しかしそれと同時にフィールドが静寂に満ちた。風は止み、氷は消える。互いの神光術を使うだけの神素が尽きたのだ。

 この状況下で相手に攻撃をするには武器を用いる他ない。だがフィーナにはそれがない。

 それを好きと見るやいなや、すぐにミヤは立ち上がった。


「速さの生かせないはずの氷上で、神光術を駆使してここまで近づけたのは賞賛に値します。しかしあなたには剣がない。わたしは戦えない相手に傷を負わせるのは不本意です。ですから降参を」


 戦いの最中(さいちゅう)とは違う、闘志の宿っていない、優しさをもってそう提案をする。こちらが本来の彼女なのだろう。

 しかし、


「誰が戦えないって?」


フィーナはその提案を受け入れなかった。フィーナの手のあたりにに神素の気配が漂い始める。互いに神素が尽きたわけではなかった。フィーナはわざと神光術を止めたのだ。


「幻剣流初ノ型───」

「なっ!?」


 少し遅れて神素の気配を感じ取るがもう遅い。


「【迅雷(じんらい)】!」


 雷が轟くが如く、目に捉えることが困難な速さで神素で作られた不可視の(つるぎ)で一閃する幻剣流の一つの型。これが奥の手だ。


「いつの間にそれを!?」


 ミヤの驚きとは違う意味で驚愕を表すのは観客席にいるソルファだ。


「……もしかして、稽古のあとの俺のを…?」


 フィーナをよく見てみるがあの時、セラとの模擬戦を行った時のような雰囲気はない。即ち通常のフィーナということはやはり。

 視線はたまに感じていたが敵意のあるものではなかったので、別段気にしていなかったが、フィーナは完璧にではないにしろソルファの自主練をみて自分のものにしたのだ。


 幻剣流の初ノ型ではあるが、それを見て練習を積み重ねてはいるが、ものにしている。

 


 フィーナには才能が秘められている。



 そして決着が着いた。

遅れてしまい大変申し訳ない!

今後も忙しい日々が続くとこんなになってしまうかもしれません。ご了承を。

なるべく頑張ります…!

今回は3週間ほど空いてしまったこともあり、最近では最も長かったのではないでしょうか。

バトルシーンも模擬戦ということであまり派手なシーンは書けなかったですが、まだまだ未熟な自分にしては凝って書けた方ではないかと思っています。

楽しんでいただけると幸いです。

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