3章―3 禁忌の方法
「生徒会長すごかったわね。わたし、全く気づけなかった」
屋敷への帰り道、フィーナとソルファは先の出来事について話していた。
「そうですね。あれは間違いなく学院内トップクラスの実力でしょう」
教師陣の実力はまだ不明であるが、それでもあれは生徒、教師含めてずば抜けているとソルファは感じた。
キレナが使った神光術は風属性だった。
だから、剣が飛んできたり、風烈刃を起こしたりできたのだ。
ただそれだけならある程度の能力者なら鍛錬を積めばできるようになる。
キレナが学院内トップクラスだとソルファが言ったのはそれだけだけではなかったからだ。
彼女のそれには音がなかった。
ゆえにフィーナは気づくことが出来なかった。
弱い風なら音を立てないようにすることは安易だ。
しかし剣をあの速度で飛ばすにしても、皮膚を刹那の間に切り裂くほどの風烈刃を起こすにしても、それらを可能にするだけの強い風が必須だ。
強い風にはそれに伴って消すことの難しい音がある。
だが、キレナの風には音が一切ない。
音を限りなくゼロにに近づける技術は存在するが、それには研ぎ澄まされた神素の制御が必要となる。
彼女はそれを弱冠十五歳ながらに会得している。
更にそれだけでなく、一切なのだ。
学生でなければすぐにでも魔獣の討伐へ駆り出されるのではないだろうかという人材。
フィーナの目標とするのも悪くはないとソルファは思った。
何事も目標は高く持つものだ。
「貴族クラスの人もあんな神光術を使うのかな」
フィーナは不安の入り混じった溜め息を吐き出す。
それも当然だろう。自分にはない力を相手が有しているなら戦き、不安になるのは人間の本能だ。
未知の力ではないだけまだましか。
「あんな第六感でもないと防げるか危ういような神光術は使えるはずはありません」
「え? ソルファが生徒会長のを防げたのは第六感なの?」
「まあそんなところです。戦闘の勘です」
記憶を断片的に失っていても体に染み付いている勘は簡単には失われることはなかった。
「でもわたしには神光術を使われた場合対抗する手段がない…」
「お嬢様、ひとつだけあります」
「え?」
「神光術です」
「でも、わたしには使えない」
一瞬晴れた顔はすぐに曇っていく。
「お嬢様に神光術を使わせないのには理由がありました。しかしこの期に及んでそんなことは言ってられません」
「ひとつだけ神光術を安定して使えるようになる方法があります」
「どうやって…?」
「魔法陣。古来より伝わる神光術の発動方法の一種とは前に説明しましたよね」
「ええ」
初めてソルファに神光術のことを教えてもらった時のことだ。忘れるはずもない。
「その中に禁じられた呪いのような神光術が存在するのです」
「それが…神素共有」
「神素共有を使えばわたしも神光術が使えるようになるの…?」
フィーナはあたかも砂漠でオアシスでも見つけたように目をしている。
しかしとソルファは続けた。
「これの失敗率は七割ほどと言われています」
「失敗した場合は…?」
フィーナは恐る恐るソルファに訊ねる。
ソルファはそれに首を横に振って答えた。
それだけで十分に伝わった。
禁じられた神光術というようにこの神光術には伴った代償がある。
それが死だ。
もし失敗した場合、元々あった神素と入ってきた神素とが反発し合い、暴走する。
それは即ち、身体中を流れる神素が暴走するという事だ。
そうなった場合に至るのが死というわけだ。
「オレからは強制できません」
フィーナ自身が決めなくてはならないことだ。
この先神素なしで強くなることなど出来るはずがない。
まだ十三歳の少女が天秤に乗せるには重すぎる決断だ。
静寂の五分が過ぎ去った。
「お嬢様…」
「…わたしやる!」
その表情は何と表現するべきか。
不安はまだ残っているのだろう。
自らを鼓舞するような意気込みは一切言わなかった。
「わかりました。では早速お屋敷へ戻りましょう。準備があります」
このときのソルファにはこれが正しい選択だったかわかる由もなかった。
今回も短めです。
短めであれば今までより投稿頻度あげられるかな?