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黄昏の神女と執行者  作者: 神木 蒼空
第1幕 少女と記憶を失った剣士
17/49

3章―1 学年別模擬戦

 ソルファがフィーナの従者となってから一週間が経った。

 今日も彼らは学院へ向かう道を歩んでいた。


「ねえソルファ。そろそろ学年別の模擬戦があるの知ってる?」


 フィーナとソルファはすっかり打ち解けていた。

 その証拠に口調もこうなっている。

 あの夜、セラとの模擬戦の夜、二人が再び目覚めたのは深夜だった。

 リルノたちを起こさないようにと静かに話し、笑いあっていたことでここまで打ち解けたのだ。


「ええ、存じ上げております。これは生徒の技量を確認するのが第一の目的でしょう」

「そのためにお嬢様」


 ソルファは笑顔を浮かべる。傍にいるフィーナにはわかったが、その笑顔には圧力のようなものが含まれている。


「わかっているわ。稽古(けいこ)でしょ。私だって勝ち上がりたいもの」


 この模擬戦は年に二回行われるもので、学年別に各クラスからランダムに選ばれて行う。

 これには貴族クラスでも平民クラスでも同様のルールが適用され、相対することもある。

 派手に負けるのを見たいだけとしか思えないルールに一部の者は不満を持っていた。それによって今年からは希望した者のみ、貴族クラスの生徒と模擬戦ができるようになった。

 もちろんそれに納得のいかない者が多いようだったが。

 フィーナはソルファの方針のこともあり貴族クラスの生徒と模擬戦もすることになっている。


「わかっているのならいいです」


 またも笑顔を浮かべる。次のは期待がこもったようにフィーナには見えた。

 そしてフィーナとソルファは稽古の内容の話をしながら学院へ向かっていたのだが、


「何事でしょうか?」

「どうしたの? 特にいつもと変わりないでしょう」


 フィーナの言うように一見変わった様子はなかった。

 だが一人の教師が隠そうとしているが必死な様子が滲み出ているのをソルファは感じた。

 ソルファはその教師の元へ近づいていった。フィーナは何事か分からず、取り敢えずソルファの後に続く。


「すいません。何かあったんですか?」

「え、いや特に何もありませんよ」


 その教師は平然を装っているが、観察力はあると自負しているソルファには筒抜けだ。

 そして教師が手に持つあるものを見つける。

 この学院の生徒と思われる少女の顔写真だ。


「どなたかお探しなのですか? 行方不明の生徒がいるとか」


 教師の焦っている様子から何か大事だという推測。行き過ぎたものかもしれないと思いながら問う。

 周囲の人々へ聞こえないように声を潜めながら。


「ど、どうしてそれを!? あっ!」


 そう言って教師は口を(つぐ)む。だがもう遅い。

 フィーナは相変わらず何が何だかわからない様子だ。ソルファたちの声は彼女には届いていなかった。が、教師の行動から何かを察したようだ。


「…誰ですか」


 自分が関わる必要のないことだと考えたが、フィーナの学院生活に支障が出るようなら片付けなければならない問題だろう。今のソルファにとっては彼女の平穏な日々は第一であるためだ。

 教師はもう気づかれてしまったと諦めたようで、見た目で大丈夫だと判断したのか。話し始めた。


「平民クラス一年のメグ=デルク」

「メグがどうしたの?」


 教師はまず生徒の名前を明かした。

 平民クラスか。この学院では二つの階級には決定的な差、扱い方がある。それでもいなくなったと校外の者に知られれば、大変な事態になると学院は踏んで捜索をしているのだろう。

 これをフィーナは偶然聞き、ソルファへ問う。


「今日は諸事情でご欠席するそうです」


 あながち間違っていない答えをソルファはした。フィーナを今は心配させてはいけない。


「お嬢様、先に行っててもらえませんか。俺はこの方とお話があるので」

「わかったわ。何か分からないけど早くね」


 そう言ってフィーナは寂しそうに一人で歩いていく。

 だが、幸い今日は平民クラスの生徒がちょうど学院に着いていたので、それを発見次第フィーナは駆けていき数人で教室へ向かっていった。

 二人はそれを見送り、人目の少ない場所へ移動した。


「で、ほんとに行方不明なのですか?」


 先ほどの会話の確認を始める。


「いえ、彼女の親がそう言い張っているのが現状で、学院としては家出ぐらいとしか考えていません」


 そんなに話して学院的に大丈夫なのかと心配するが、そこはソルファには関係の無いことだ。

 

「そうですか。俺もあなた方の邪魔をしないように探してみます」


 ソルファは何かあるのではと考え、自分も捜索に協力すると申し出る。


「いや、それはやめて頂きたい」


 しかし、きっぱりと断られた。

 その理由は明白だ。

 ソルファはまだ学院側からの信頼度が低いからだ。

 急にフィーナの家庭教師という形で学院に入って来たのでは、何かあるのではと思うのも普通のことだ。


「分かりました。では俺はこれで」


 ソルファは意図を汲み取り、足早にフィーナの下へ行くことにする。

 詳しい事情は保健の教師であるサレカから聞こうと考えながら、生徒がいなくなり滞った学院の門を(くぐ)った。



 



 授業を全て終えた放課後、フィーナとソルファは学院の練習場へ向かっていた。

 二週間後に開催されるという学年別の模擬戦に向けての稽古(けいこ)をするためだ。

 練習場はいくつかあるのだが、見たところフィーナとソルファの借りた練習場以外に人影はない。

 模擬戦も近いというのに練習場を使用する生徒がいないのは不自然な気もするが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 フィーナは貴族クラスの生徒と対戦するのだ。今のままでは歯が立たないだろう。

 フィーナが勝ち抜くためには度重なる稽古、他の生徒を(しの)ぐ練習量が必須だ。

 故にこうして練習場へ来た。

 屋敷に帰ってからの稽古ではないのは学院の方が本番に近いという結論からだ。


 最近の稽古は剣を重点的に行っている。

 フィーナは神光術を使えない訳では無いのだが、効率よく、勝てるような稽古をするのならこれが最も効果的だ。

 神光術の上達には時間を要する。それなら剣の上達を目指したほうが早いという考えからきたものでもある。


 しかし、これはフィーナに対する言い訳だ。神光術の練習をあまりさせないのには本当の理由がある。

 

 セラとの模擬戦のよるの出来事のとき、垣間見えたフィーナの神素に混じっていた違和感。

 あれによってフィーナは神素を制御が困難な状態になっているのだ。

 そんな状況で稽古をしていても模擬戦で制御がきかなくなった場合、意味がなくなってしまうと判断してさせていない。

 もう一つ理由がある。

 フィーナが過剰使用(キャパシティオーバー)で倒れてしまうことを危惧したためだ。

 神素容量(キャパシティ)は並大抵の努力では増えることは無い。

 数年単位の期間が最低でも必要だ。


 ───ある方法を行えばすぐに増やすことができる。これはあの夜にも思いついたことだがフィーナの意思次第だとソルファは思っている。


「九十九、百!」


 フィーナはいつも通りの素振りを終え一呼吸つく。

 そこに歩み寄る足音にソルファはいち早く気づき身構えるが、必要がないとわかりすぐに解く。


「フィーナさんちょっといいでしょうか」


 その人物はセラだった。

 サイドテールを風にたなびかれながら、練習場へと入っていく。


「何か用かな」


 緊張じみた様子のフィーナにセラは近づいていく。


「あなたも貴族クラスと対戦すると聞きました」

「うん。その通りだよ」


 フィーナはしっかりと(うなず)く。


「そうですか。ということは私たちのクラスから出るのは私とあなただけのようですね」

「そうみたいね」


 予想通りの答えが返ってくる。


「あなたと決勝で会えるのを楽しみにしています」


 セラはそれだけ言い残して、(きびす)を返し去っていく。

 その後ろ姿は勝ち上がってこいと言っていた。そして、絶対に負けないとも。


「お嬢様、わ──」

「わかっているわ。わたし決勝にどうしてもいかないといけないようね」


 ソルファの言葉を遮りフィーナは言う。

 強固な決意がここに芽生えた。

こんな投稿ペースになると思いますがよろしくお願いします!

投稿が間に合わない場合は今までのを改稿したりするつもりです。

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