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黄昏の神女と執行者  作者: 神木 蒼空
第1幕 少女と記憶を失った剣士
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2章―3 模擬戦の後

 ソルファとフィーナは学院の一角に位置する保健室にいた。

 ここまで案内してくれた少女は次の授業──と言ってももちろん教師はいない──のこともあるということで、早々に教室へ帰ってもらった。

 青年はフィーナへ向き直す。今彼女は意識を失っているためベットで横になっている。無理もない、フィーナに何があったかは仮定ということでしか想像がつかないが、神素容量(キャパシティ)が極端に少ないはずの彼女が、禁忌の神光術なんて使用すれば無事で済むわけがない。

 その理由は、基本的に神素容量を超える神素を使用すると過剰使用(キャパシティオーバー)となり、立ってすらいられなくなる。

 過剰使用の状態でも一時的に神素を扱うことは出来るが、それは生命を保つために無意識に残されている神素を使うことになるので、今の彼女のように意識さえ持っていかれてしまう。

 こうして意識を失っているだけに収まっているのは何か理由があるはずだ。

 不意にその思考を遮る声が聞こえてきた。


「彼女のことが心配?」

「それはもちろん。俺の(あるじ)ですから」


 不意の問いかけにそう答えながら彼女についての情報を(さかのぼ)る。

 彼女はこの学院の治療術師(ヒーラー)、要するに保健の教師といったところだ。名はサレカ=シュヴナク。黒髪のロングヘアーの女性だ。ソルファはシュヴナクという名に聞き覚えがある気がしたが、思い出すことは出来ない。


「それもそうね。それにしても何でここは貴族と平民の区別がはっきりしているのかしら」

「昔何かあったのではないのですか?」

「うーん、私も聞いていないのよね」


 彼女は教師をしているため貴族という立場であるのだが、この学院の貴族と平民がはっきりと区別されているような状態がとても気に入ってないと思っている者の一人(、、)だ。


「区別と言えば、フィーナちゃんは貴族なのに平民クラスなんだよね?」

「ええ。俺も今日ここに初めて来たので詳しくは知らないのですが、大まかな事情はお嬢様からお聞きしました」

「そう。異例なのよね、貴族クラスから平民クラスに行く人なんて」

「それは、お嬢様には才能がないと?」

「いや、そんな事が言いたいわけじゃないんだけどね」


 自分の主が非難されて威圧的に問いを投げかける。それに、「あ」というような表情をする──訳でもなく、自然と流すようにサレカは返す。


「それにしても、サレカ様は初対面の俺にやけに親しげではありませんか?」

「そう?」


 フフッ、と微笑みながら楽しげにしているサレカ。


「何でだろうねぇ。ソルファ先生が──先生でいいよね?」

「ええ、構いません」

「ありがとう。......先生が私の知る人に似ているからかもしれないね」


 先程とは打って変わって、窓から覗ける蒼い空を悲しそうな表情で見ている。


「ごめんね。何か雰囲気がわるくなったようで」

「いえ、全然」

「そう。それなら良かった」

「う、うーん?」


 その時お嬢様が丁度起き、目をぱちぱちと数回瞬きさせる。


「ここは?」

「お嬢様お目覚めになりましたか」

「おはようフィーナちゃん。よく寝れた?」


 自分の状況を収拾しながら、目覚める前の記憶を思い出す。


「確か私はセラさんと模擬戦をしてて」

「ええ、その途中急に倒れたのです」

「多分過剰使用だと思うわ」


 サレカは付け足すように理由を述べる。


「そうなんですか? その、模擬戦の時の記憶がないみたいなんです」


 フィーナは模擬戦の前に聞こえた声についてソルファたちに話した。それが記憶がない原因だと思ったからだ。


「その声の(ぬし)は名前を述べていましたか?」

「いえ、今言った通りのことしか言っていませんでした」

「『私に任せなさい』と聞こえた後には意識が遠のいていったという訳ですか」


 その後にはフィーナとは明らかに違う者がそこには存在した。そしてその(、、)フィーナが使ったのはソルファが見た限りでは、幻剣流の剣技と禁忌の神光術。

 二人の教師は自身の知識と経験からフィーナのその時の状況を考察する。

 人の脳内に直接語りかけたのも、人の身体を操るのも、ほぼ確実に神光術であろう。

 おそらくと考えたのはそんな神光術は見たことがないからだ。しかし聞いたこと(、、、、、)はある。

 かの有名な戦争【聖魔大戦】時に用いられたとされている神光術にそんなものがあったとされている。

 が、これは前者の神光術のみだ。

 後者のものについては聞いたことすらない。少なくとも神光術では。

 次に幻剣流についてだ。

 幻剣流は今日(こんにち)の世界で使える人間(、、)はソルファのみであるはずだ。

 しかし、あの時の彼女はそれを使っていた。可能性があるとするなら、ソルファにそれを教えた者が彼女に憑依(ひょうい)したということか。

 だとしてもそれは解決には繋がらない。なぜならソルファには教えられた際の記憶がないのだ。

 誰かから教わったのであろうということは分かるのだが、その誰かは分からない。

 記憶の欠乏がこういう時にその重要性を再認識させる。記憶がなくては経験すら思い出すことは出来ないのだから。

 後半の考察は全て家庭教師のものだ。

 そして自分の考察を伝え合う。


「これ以上のことはなんとも言えませんね」

「そうねー」


 フィーナは、初めて見た自分の従者の真剣な表情に一瞬ドキッとしてしまった自分の心を落ち着かせる。


「時にお嬢様」

「は、はい!」


 丁度その時にいきなり呼ばれたので驚いたおかしな答えになってしまう。


「また声が聞こえることがあったら教えてください」

「わかっ、りました」


 一瞬返答が詰まったのに気づき従者は付け加える。


「それと今日お屋敷にお帰りになられましたら少しお話が」

「? わかりました」

 

 不敵な笑みを見せるソルファに対し、フィーナは疑問符を浮かべるも了承した。

 

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