2章―1 聖ソレイフィア女学院
世界には五つの大陸が存在する。
ユイルカ、セーナケト、レクシヤム、トルーイユ、ナグストの五つ。
しかし人類はそのうちの二つ、セーナケトとレクシヤムしか支配できていない。出来ないのである。
その理由は明快、世界には魔獣が溢れているからだ。
百年前、突如として現れた魔獣によって世界は破壊されていった。
しかし人類は諦めず、魔獣に対抗する唯一の手段とされた古来より伝わる神光術を使える者を集め、何とか二つの大陸は取られずに済んだのだ。
だが当たり前のことながら全ての人は救えなかった。
このことをきっかけに人類は知恵を振り絞り、魔獣に対抗する術と技術を生み出していった。
魔獣に対抗する術とはもちろん神光術のことである。
そのとき神光術を使えた者は五百に満たなかった。しかし魔獣に対抗するには神光術しかない。故に神光術は後世に語り継がなければならない。いつか人類が世界を取り戻すまでは。
そうして神光術を使える者は権力者の命によりたくさんの人々へ扱い方を教えた。
しかし実際に扱うことが出来た者は貴族だけだった。これによって、古来より伝えられてきた『才を持つ者のみしか扱えない』ということが改めて立証された。
故に貴族は人々から尊敬された。それと同時に畏怖の対象ともなった。
当然であろう。自分の知らぬ未知の力を使う者が自分と同じ人間なのだから。
そして様々な過程を経て衰退していた人類は、以前のの人類より高度な技術を手に入れた。その結果、権力者は自分の国を築き始めた。
ここから共に協力しあっていた人類は再び分かれることになった。魔獣と対抗する術だけは共有、分配して。
仕方のないことだ。力のあるものは自らの力を知らしめたいと思うのだから。
こうして出来た国はセーナケトに三つ、レクシヤムに四つ、計七つ。
レクシヤムの内の一つの名はアクレナム公国。ソルファたちのいる国である。この国は東西南北の四つの区画に分けられている。フィーナの通う学院は南地区にあるのだった。
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フィーナの通う聖ソレイフィア女学院は、城をイメージした校舎と大聖堂で構成されている落ち着いた雰囲気なカレッジである。
アクレナム公国の南地区、ニューシルマ通りに位置していてアクレナム最大の学院でもある。
中でも一番目を惹かれるのは校舎と繋がっている高い塔である。大きな時計を身に付けている塔は天を劈くような尖端を遠くからでも見ることが出来る。
貴族の子供──能力者の見習いたちが通う養成学院はアクレナム公国には一つしか存在しない。二つの大陸を合わせると計十二校存在する。中でもとりわけ聖ソレイフィア女学院は、一人前の淑女になるための教養を重点的にしている由緒正しいお嬢様学校なのだ。
フィーナとソルファは校門へ向かう石畳の道を歩いていた。
通学の時間帯ということもあり、街は聖ソレイフィア女学院の生徒達で溢れかえっている。
生徒達の服装はもちろん制服だ。白い制服の左胸に咲いている黄金の花が気品さを醸し出している。
フィーナは紙紐は解けないようになってるか、制服のボタンはしっかりついているかなど身嗜みを気にしながら歩く。
よしっ、と小さく呟くとフィーナは少し後ろを歩いているソルファに話しかけた。
「ソルファさんの手続きはもう済んでいるんですか?」
「ええ。リルノさんが手続きは済ませてくれたようです」
「どういう理由で女学院に入ることを許されたんですか?」
「リルノさんからはお嬢様の家庭教師という名目で通っていると聞いています」
ソルファは事前にリルノから聞かされたことを思い出しながら問いに答えを返す。
「なのでお嬢様」
ソルファは立ち止まってフィーナへ話す。フィーナもソルファが止まったためその場に立ち止まった。
「学院では『先生』とお呼びください。そちらの方が何かと都合がいいかと」
「分かりました。ソルファ、先生。これでいいですか?」
「はい、完璧です」
頷きながらソルファは答える。
響きが気に入ったのか、フィーナの表情は心なしか嬉しそうに見える。
そしてフィーナは前に向き直り再び歩き出した。ソルファにそれに続く。
ソルファは四方八方から視線を感じていた。その理由は簡単だ。ソルファが男で、目立つ黒い軍服を着ているからだ。
そして生徒達と比べるととても背が高い。
要約すると背と色彩が周りと比べて抜きん出ていて目立っているのだ。
「あの殿方はどなたでしょうか?」「とてもかっこいいです!」「でもなぜここに?」そんな声が次々と聞こえてくるがソルファの耳には届かない。
石畳を歩いていった先には校門代わりのトンネルが見えてきた。トンネルを潜り抜けると、そこには広大な敷地を誇る聖ソレイフィア女学院の全貌が明かされた。
目の前の校舎へフィーナたちは入っていった。ふとソルファがフィーナを見ると僅かだが身を縮めているように見えた。その理由はすぐに明らかとなった。
「フフッ、あの子平民クラス所属の子よ」
「まあ、貴族の家系ではなかったのですか?」
「確かに貴族なのだけれど平民クラスなのよ」
「ということは.....」
「ええ、そういうことよ」
「要するに落ちこぼれってことですね」
そんな会話が少し離れたところから聞こえてきてフィーナとソルファは立ち止まった。わざと二人に聞こえる声量で話していたように見えた。
どういうことなんだ? ソルファはそう思った。それも当然だ。彼はこの学院の制度をまだ知らないのだから。
「先生、このことは教室に着いた後に話しますので」
そう一言いってフィーナはすたすたと逃げるように校舎へ歩いていった。ソルファもその後を追いかける。先程フィーナに向かった淑女らしからぬ発言をした少女たちに見つからないように睨みつけながら。そのとき彼の周りに黒い瘴気が纏われているように見えた。
フィーナの学院は三学年制で、四階建ての本校舎の各階ごとに学年が分かれている。彼女が所属する第一学年は二階に位置している。
ソルファが二階の図を見てみると教室が五つあるようだ。しかしクラスは四つしか存在しない。そしてそのクラスごとに、正確には三つと一つのクラスに圧倒的とも言える差が見えた。
三つのクラスは『貴族クラス』とされており、一つのクラスは『平民クラス』と表記されていた。四つの教室の意味は、三つの貴族クラスと一つの平民クラスの間に一つ教室が空いていることからわかる。そしてフィーナのクラスは先の少女たちの会話から察するに平民クラスだ。
ソルファの予想通りフィーナは一番奥に位置する平民クラスへ向かって歩いていった。
その途中先の少女たちと同様な言葉が聞こえてきたのは言うまでもない。その中にソルファに対する疑問や不安の声も聞き取れた。ソルファはフィーナに対する悪口を言わない少女には愛想笑いを浮かべて見せた。
教室に入るとフィーナはすぐさま自分の席である最後尾の最も左に位置する席に座った。もちろんソルファはその後について行くのだがその最中様々な視線を感じたのは先同様に言うまでもない。愛想笑いを浮かべて見せたのも。
席に着いて落ち着いたのかフィーナは自分の学院での立ち位置についてをソルファに説明し始めた。
「私は貴族なのですが平民クラス所属なのはここまでの経緯でわかりますよね?」
「はい、大体の事情は察せます」
事情というのはフィーナが圧倒的に神光術を使えないことや剣技が全くなっていないことから平民クラスへ移されたという事だ。
基本的に養成学院へ入学する生徒は神光騎士を目指す者が殆どだ。そのため神光術を使えること、剣──剣以外の武器ももちろんあるが初めは剣から始める──を扱えることが必須だ。
そのためいくら貴族でも必須科目が出来なれば言ってしまえば『価値』がないのである。それでも才能の開花を期待して平民クラスへ所属させたのだ。
移動先が平民クラスなのは底辺のクラスであるからだ。もちろん優秀な者もいるにはいるのだがそれも平民というだけで評価されない。貴族から非難されるのだ。
故に授業はカリキュラムが建てられるだけで殆どが自主勉強だ。そこにフィーナを所属させるということはやはり才能の開花は期待していないのか。
何にせよフィーナは平民クラスに所属しているということだ。
「だから私は学院ではその...」
「はい、それも察せます」
「なのであの方々を見返してやりたいのです」
その言葉にソルファは一瞬硬直した。
無能とも言える彼女が貴族クラスの生徒たちを見返す? それはソルファには難しいことなのではと思った。
しかしフィーナは命の恩人であり、従者である自分の主であり、何より今はフィーナのしたいままにしてあげたいという気持ちがあった。
だから、
「いいでしょう。俺は言いました、お嬢様には学年一位を目指していただくと」
そう返した。
「ありがとう先生! って学年一位!? 三位って言ってなかった!?」
「そうでしたっけ?」
周囲の不思議そうな視線に気づきつつソルファは笑って返答した。
そしてソルファは誓った。
俺はお嬢様を蔑む奴らを見返してやると。
そして授業開始のチャイムが鳴り響いた。
遅くなりほんとに申し訳ありません!
受験勉強が大変なもので。
なんとか投稿できるように頑張ります!




