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黄昏の神女と執行者  作者: 神木 蒼空
第1幕 少女と記憶を失った剣士
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1章―9 ソルファの剣

 入浴後、フィーナは早々(そうそう)にベッドに入り眠りについた。正確にはソルファに、明日は学院があるからと言われ、聞きたいことや話したいことがあったのだがそう言われてはと渋々ということもなくフィーナは寝た。

 ソルファは寝たことを確認すると自分の部屋へ行くことにした。

 フィーナが寝るとき従者として護衛をしてもいいかと尋ねたのだが──部屋の中でなく扉の外でだ──その必要はないと湯上がりのせいか、僅かに頬を赤らめながらそう言われ、いつの間にか作られていた自分の部屋で護衛をすることにした。

 することもなかったのでソルファは今日一日のことを振り返ることにした。

 初めに出てきたことは


「少しやりすぎてしまったか...」

 

 という言葉だった。

 今日はフィーナの従者になった日、すなわち初日であるのにも関わらず、激しめの稽古(けいこ)をしてしまったとソルファは反省していた。

 もちろん意図して激しくしたわけではない。なぜなのか自分でも分からない。

 ただ一つだけ分かるのは、フィーナを誰かと自分でも気付かぬ間に重ねてしまっていたということだ。

 記憶の一部一部重要であろうこと()を思い出すことが出来ないソルファには誰と重ねているのかは分からない。

 しかしその人物がソルファと何らかの関係があることは推測できる。その人物が分かればソルファの記憶復活にも繋がるであろうことも。

 思い返してみるとたった一日で自分の立場は大きく変わっているな、とソルファは思った。


 昨日の夜この家の門の前に倒れていたときより前に何をしていて、どんな立場にあったのかは分からない。

 しかし、フィーナに助けてもらい、この家で客人のような扱いを受けていたと思ったら、お嬢様(フィーナ)の従者──お世話係になっているという立場の変わりようはとても早いものだと分かる。

 そして仕事を任せられた初日からしっかりと役目を果たす。記憶を失う前はこんな仕事でもやっていたのかと思うほどにお世話係という役割は自分に合っているとソルファは思っていた。


 こうも立場が逆転するかのように変わっているのは自分の意思であるから文句なんて微塵(みじん)もない。

 それどころかこの仕事は自分にこそ適任なのではないかと思う。

 この家には見たところフィーナ以外に能力者はいないようだ。だから今まで剣技や神光術の特訓をした事がなかった。それどころか触れたことすらなかった。そこまでいくとフィーナの親はどんな考えをもっていたのか知りたくなる。

 自分の子を使用人を雇って家族から孤立させ、ある意味一人で暮らさせているというのはどうなんだろうか。

 少なくとも昔は共に暮らしていただろう。フィーナが能力者なのならば両親の少なくとも片方は能力者であるはずだ。ならばなぜフィーナに剣技や神光術を教えなかったのか疑問が沸いてくる。

 自分の子を戦わせたくないという考えはもっていたとしても不思議はない。しかし能力者は魔獣から一般人──非能力者を護らなければならない義務が存在する。

 ならばどんな理由があろうとそれが出来るだけの技術は手にしていなければならない。それなのに教えたことなど皆無だと。それはフィーナに対する冒涜(ぼうとく)のようなものだ。


 フィーナだって非能力者を護りたいと思っているだろう。その考えを尊重をしてやるのが親の役割の一つであるはずだ。なのにそれをしてやらないとは、自分の主人の親に対するものだから言っていいことではないがどういう神経をしているのだろうとか思ってしまう。

 これ以上フィーナの、トワイライト家のことに足を踏み入れるのはやめよう、とソルファは気を紛らわすために腰の剣を磨くことにした。


 剣を鞘から抜き出す。そして月光の降り注ぐベッドの上で磨き始める。

 剣の刀身は闇色をしている。月光でギラりと光った気がした。

 刀身が闇色なのには理由がある。

 武器にも元素と同じように属性が存在する。その属性の判別は元素のように簡単で、剣や斧、刀などは刀身の色や柄の色などでわかる。ソルファの剣の場合は闇属性だろう。


 武器は基本相手を直接傷つけるために用いられるが、上級者になるとわ武器を媒体として神光術を使用する者もいる。

 その理由は威力の上昇やリーチが長くなることがあるからだ。

 武器と同じ属性の神光術を使用する場合、武器を媒体として使用することで威力の上昇が見られることがわかっている。


 リーチが長くなるというのは、剣の場合は剣先で神光術を発動させたり、弓の場合は矢に神光術を付与させておいたりと様々な方法でリーチを伸ばすことができる。

 だから上級者同士の模擬戦などは常にどこから神光術が来るかを注意しながら、隙を作らないようにと緊迫したものになる。

 これは魔獣戦では当たり前のことなので模擬戦などでこういうことで試しておくと実戦でとても役立つと言われている。

 故に自分の武器に合わせた神光術を使う者が多い。すなわち相手の武器を見れば得意な属性がわかるということでもある。だから上級者でも武器を媒体として使う者は少なかったりする。


 ソルファはフィーナの剣の稽古を見ている間、自分の覚えている範囲のことをフィーナに教えられるように剣技や神光術について記憶を(あさ)っていた。

 その時、剣を媒体として神光術を使う技術を身につけていることがわかった。ということは自分の得意な属性は闇なのだろうかと考えた。しかしそれは違うとまではわからないがおそらく最も得意な属性ってわけではないと結論づけた。

 その理由はソルファの剣には光属性と聖属性が闇属性と共に混ざっていたのだ。

 基本的に武器に付与されている属性は一つだけだ。それなのにソルファの剣には二つの属性が付与されていた。これではソルファの得意な属性はわからない。

 それでソルファは今日フィーナの稽古を見ている間ずっとこのことについて考えていた。

 もし明日時間があれば学院の教員や研究者に(たず)ねてみようと考え、磨き終えた剣を鞘へ戻す。

 そのとき、


「待っているわよ」


 そんな言葉が脳裏をよぎった。いや、脳に直接語りかけられた。その声は(つや)やかな印象があった。剣から聞こえてきた気がして柄しか見えない剣を見る。反応は微塵(みじん)もない。

 気のせいかとソルファは剣をベッドの横に用意周到においてある剣立てに立て掛ける。

 今の声は何だったのだろうか。

 聞き覚えがあるような声にソルファは思考、記憶を巡らせる。

 だがさっぱり思い出せない。

 聞こえた声は少女のものだった。「待っているわよ」この言葉が意味するものは一体なんなのか。


 ソルファはフィーナの警護をすると共にそれを考えていて結局一時間ほどの仮眠を()て翌朝を迎えた。


 


前回今回と話すシーンがなかったので次回からは多めにしていきたいと思います!

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