1章―8 疲れを浴槽で
明日からの学院のために一日中剣の稽古と神光術の練習に取り組んだフィーナは、夕食を食べ終えたあと、疲れきった身体を癒す目的でお風呂に入るためにに浴場に来ていた。
お世話係であるソルファだが流石に中までは入ってきていない。扉の向こうにはいるようだが。だから中の声、音が聞こえる可能性はある。
しかしプライベートということもあり、近年は一般的に殆どの浴場の扉は神光術によって【静寂】の付与がされているため、外に中の音が漏れることはない。
初めに髪紐を解く。一枚一枚丁寧に服を脱いでいく。ちなみに夕食前に制服から部屋着に着替えているため脱いだのは部屋着である。
そして可愛らしい下着が露わになる。水色の下着は俗に言うフリフリが付いたものだ。
何を思ったか、フィーナは下着のまま鏡の前へ立った。
「はあ〜......」
そして自分の下着姿を見て溜め息をつく。
「わたしってソルファさんに女の子として見られているのかな...」
ソルファには、自分の一時的にではあるが従者になり、お世話係として初日から剣の稽古と神光術の練習をしてもらった。
しかし、初日にしては激しすぎないかとフィーナは思っていた。
それに激しいのは置いておいたとしても女の子として扱ってもらえてない気がしたのだ。
確かに扉を開けたりすることは女の子に対する行いだったりするかもしれない。だがそれは従者としての行動としても取ることができる。
だとしたらソルファは自分のことを女の子として見てくれていないんじゃないかとフィーナは不安になったのだ。
自分に女の子としての魅力がないのではと。
自分でもまだ十三歳だからだと言われればその通りだろうと納得はできる。
しかし、今まで一生懸命に淑女らしい言動ができるように頑張って来たつもりだ。本性を隠してまでも。
それなのにソルファには女の子としてすら見られていないのかと思うと、努力が否定されたような気分になったのだ。
だから言動では無理なら身体ならどうだろうかと思って鏡で自分の身体を見た。
身長は百四十五センチセンチ前後であり、十三歳しては普通だ。
しかし女性特有のものである──胸。フィーナは自分のそれを見て溜め息を付いた。
フィーナの胸には確かにふっくらと双丘がある。
しかしこれは世間では『ない』と言うらしい。
学院の入学式で見た限りではこれが普通なのだろうと思ったのだが、新入生代表の女の子の胸はとても立派だった。
フィーナとは比べ物にならないと言わざるを得ないほどに。
なぜこうも世界は理不尽なのだろうとフィーナはその時思った。だからフィーナは胸のことでここまで気を落としているのである。
女の価値は胸じゃないってよく言うけれど、結局は胸が大きい女の子が殿方は好きだって言うしとフィーナは思っている。
これ以上考えても意味は無いとフィーナは胸のことは意識の隅へやってさっさと下着を脱ぎ、浴場の扉を開け入った。
シャワーを浴びて身体を洗い湯船に浸かる。
「ふう〜〜」
とフィーナは気持ちよさそうな声を出す。
目も閉じて腕を枕代わりにするように浴槽の端で湯船に浸かる。
そうだ今日の復習をしよう、とフィーナは目を閉じたまま頭の中でイメージを浮かべる。
ソルファに言われたように剣のイメージトレーニングもしておく。
すると何故か徐々にソルファの顔が頭に浮かんでくる。
整った顔立ち、キリッと鋭いが優しい目、黒い髪、ガッチリとした体。かっこいい...とそんなことを思ってしまう。
「いやいやいや!なんで会ってまだ一日も経ってない人のことをこんなに考えているのわたしは!」
口調が素になっているのに気づき周りには誰もおらず、外に聞こえるはずもないのに反射的に口を噤む。
続いて、自分でもなんでこんなに声に出すほど焦っているのだろうと思った。ソルファへ自分の考えていることがおかしいと思い、すぐに違うもので書き消そうとする。
気を紛らすように口まで湯船に浸かり、ぶくぶくと泡を出す。自分でもはしたないことだとわかっているが周りには誰もいないしとそのまま少し続けた。
逆上せそうになってフィーナは浴場を出た。
すぐ横にある部屋へ入る。中では心地よい風が全方向からかかってくる。
これは神光術の術式を組み込んだ全身風温機と呼ばれるものだ。
風と火の元素を合わせた混合神光術【風火】の弱化版を使用している。
乾いた体に寝巻きである桃色のネグリジェを着る。
そして髪紐は手に持ち、浴場を後にした。
今回は少し短めですいません!
急いで次を書こうと思ってこうなってしまいました。
次はもう少し投稿ペースを上げたいと思うのですが、勉強があるので無理そうです。
それでも読んでくれる人がいたらほんとに嬉しい限りです!




