1章―7 神光術
初めての剣の稽古を終え二人は庭から家に入り、ある部屋に向かった。
そこは簡易型の教室のような所だった。
机と椅子、それに黒板と言われる緑色の板が壁に付いている。
「さあお嬢様、少し休憩も取りましたので次は神光術の練習を始めましょう」
部屋の設備のせいもあってかソルファは教師口調で、フィーナと神光術の練習を開始した。
ソルファは黒板の前に立ち、フィーナは椅子に座った。その目はキラキラと輝いているようにも見える。早く教えて欲しいといったような望みが見て取れる。
「まず初めに。お嬢様、神光術がどういったものが、どのような現象なのかご存知ですか?」
「はい。先日授業で基本的なことは教わりました」
「では一応神光術の原理からお話しましょう」
神光術とは神素と呼ばれるエネルギーを操り、火、水、風、土、雷の五大元素と呼ばれるものを生成して『攻撃』や『防御』などに活用する技術である。この五つは系統元素とも言われる。
魔獣が操る魔素と神素の違いは殆どない。性質は同じとされており、違うこととすればその色が一番大きいだろう。
神素は生成する元素によって色が変わるが、魔素はいつでも闇色に染まっている。
五大元素の他に光、闇の二つの元素が存在する。この二つは対に系統外元素と呼ばれる。
なぜこの二つの元素が五大元素のようにそこに含まれないのか。その理由は演算、処理が難しいからである。
もちろん元素は全てのエネルギーの原点ゆえに、能力者なら──例外はあるが──誰であろうと生成することができ、訓練を積めば初等神光術も使うことが出来る。高等神光術も同様に使うことが出来る。才能も必要だが。
しかし系統外元素は違う。系統外元素の高等神光術は才能がないと使うことは出来ない。その理由は先に述べたように演算、処理が難しいからである。
そもそも神光術の発動は、能力者の脳の一部に存在する神素容量から神素を取り出し、それを元素へと変換する。そして無意識領域と呼ばれるところへ流し込んで演算──術式を組み立て、発動するという命令を処理する。この過程を得て神光術として顕現する。これが基本的な発動方法だ。
古式な発動方法としてソルファが使った『詠唱』や『魔法陣』などの方法もある。しかしこれらは発動が遅く用いられることは少ない。その分威力、範囲は脳内で構築した神光術より高い。
無意識領域下で行われる演算、処理のため、能力者自身はそれを認識することは出来ない。
高等神光術は高い神素容量と極めて複雑な演算、処理が必要となる。それはそれが及ぼす範囲が広かったり、威力が高かったりするためである。
系統外元素の場合、発動には五大元素の場合よりも高い演算能力と処理能力が求められる。
五大元素は演算は複雑だが処理は慣れれば簡単だ。
逆に系統外元素は演算、処理共に高い能力が求められるという難しいものだ。もちろん共に神素の消費は多いため神素容量の大きさも必須である。
演算能力と処理能力は努力では埋められるものではない。本当の才あるものと努力してそれを高めたものとの差は天と地と言ってもいいほどの差だ。
故に系統外元素の神光術は五大元素の発動より難しいため系統元素に含まれないのである。
これらの元素の他に『回復』や『探索』などの戦闘とは関係がない神光術に使われるものは、元素という概念は存在せず神素自体で行う技術のため、無系統元素と呼ばれる。すなわち無系統元素とは神素そのものであると言える。
余談だが、近年、演算・処理能力の遅さは魔獣との戦いで致命的となるとされているため、ある国では演算である術式の組み立てを機械で行おうとしているという話もある。
一通り基本的な神素についての話を終えたソルファは一呼吸した。
フィーナはというとソルファの話を熱心に聞いていていつの間にか持っている紙の束の一枚に書き留めていた。
その瞳は興味深々といったように輝いているがその中には疑問の色も見て取れる。
「お嬢様何かご質問がありますか?」
瞳の色から読み取った感情をソルファは聞くことにした。
「いえ、大丈夫です。ただ学院で習ったことより詳しかったので。......!一つ疑問があるとすれば」
フィーナはわかりやすく思いついたという表情を見せる。そして一つの疑問を投げかける。
「なぜソルファさんはそんなに詳しいのですか?記憶喪失なのでは...」
「確かにそうですね。なぜでしょうか?」
ソルファ自身今フィーナに訊かれて気づいた。なぜ自分はこんなにも神光術について詳しいのだろう。もちろん専門家などには及ばないが教師にはなれるほどだ。
「ソルファさんは記憶を失う前は教師や神素研究者の手伝い的なのことでもしていたのでしょうかもしれませんね」
「そうなのかもしれません」
ソルファの記憶が戻る手がかりになるかもしれないと思ったフィーナだったがこれだけでは分かりそうにない。それはソルファは剣を持ち、軍服を来ていたからだ。
今は神光術の練習に取り組もうと手がかりのことは片隅に置いておくことにした。
「次は実際に神光術の発動、元素の生成を練習しましょう」
ここから本格的に神光術の練習に入っていく。
ソルファは話を始める前に右手を開いてその上に風の元素を生成する。
「お嬢様、このように何でもいいんで元素を手を開いたその上に生成しようとしてみて下さい」
「はい、やってみます」
フィーナは元素の生成に集中する。
元素の生成は初めての為、生成に時間か少々かかる。
開いて出した右の手のひらに黄色の光が薄ら現れる。しかしすぐにその光は消えてしまった。
「ああ......」
光が薄ら現れたときのフィーナの表情は歓喜といった感じだった。
反対に光が消えてしまった今の表情はとても落ち込んでいる。
「初めてはそんなもんですよ。お嬢様そんなに落ち込む必要はありません」
「うぅ......」
初めて元素を生成しようとするとこうなる人が多いことをソルファは感覚的(、、、)に知っていた。
だからフィーナには落ち込む必要はないと言った。
「クラスの中で上位のレベルにはなれるように一緒に頑張りましょう!」
そんなフィーナを励ますような言葉をソルファは言う。
それに答えるように、
「はい...いえ、はい!」
元気のいい返事を返す。
「お嬢様お手数ですが、次の学院への登院はいつですか?」
どのぐらいのペースで練習していくかを計画するためにソルファは問う。
「言ってませんでした? 今日は光休日なので明日からまた始まります」
練習頑張るぞという決意が伝わってくる様子のままフィーナはソルファの問いへ答え返す。
「そうでしたか」
「?」
なぜソルファがそんなことを訊いたのかわからなかったフィーナは可愛らしく首を傾げる。
「もう少し元素生成の練習をしたら剣の稽古に戻りますよ」
「え!?」
もう剣の稽古は終わりだと思っていたフィーナは瞠目でソルファを見る。
「お嬢様には体力もつけて頂かないといけないので。明日は筋肉痛になるかもしれませんけど覚悟してくださいね?」
その顔は目と口だけ笑っている。
「善処します...」
またさっきの稽古をすることを想像すると身体が拒絶反応を見せるように動きたくない。
それでも行かないといけない。そう自分に言い聞かせフィーナは椅子から立ち上がる。
「どうぞ」とソルファが開いた扉を潜り庭へ向かう。
いろんな本を読んでいろいろな表現、言葉を勉強中です!
それより受験勉強しろってね笑
頑張ります!
 




