1-5初クエスト
「じゃあまずはレベル上げにクエストにでも行っとく?」
今日もキラキラ明るいナツ。
昨日は散々な事を言ってしまったが、1番の足でまといは俺。
メイは料理人が1番重要なポストと言ってくれたが、
ほか2人の反応を見る限り、そうではなさそうだ。
特にメグミ。彼女のあの死体を見るかのような目がそれを物語っている。
全員が魔法使いになったとはいえ、高学歴で知力も悪くない。
そう深く考える必要も無さそうだ。
「ツトムさん! このクエストでいいですか?」
「なんだ? これ?」
そこには「畑を荒らすスライムの討伐」と書いてある。
なるほど!如何にも初級らしいクエスト。
スライムなら俺の町の奴らが素手でも倒せるくらいだ。
これならいいだろう。
「いいな! ちなみにスライム1体倒すとLvはどれ位あがる?」
「ざっと、1Lvくらいかな? 5Lv超えたら2体くらい?」
ナツのその言葉に違和感を感じる。
スライムってそんなに経験値もらえただろうか?
100体倒してやっと1Lvくらいな気がしたのだが……
『Lvがなんですか?つべこべ言わずに行きますよ?役立たず』
「今俺のこと役立たずって呼んだだろ」
すると、何も知らないと言わんばかりにぷいっとそっぽを向くメグミ。この女はどうしても苦手だ。
「じゃあこれでいいですね?」
そういうと、メイはクエスト申請用紙を酒場の職員に出す。
その後、王都南口の正門にて馬車に乗り、俺たち一行はスライムのいるシステマ平原にむかった。
馬車搭乗中にて。
「なぁメイ。あの英雄掲示板なんだが、お前の写真以外はクエスト用紙が下に貼ってあったよな? あれなんでなんだ?」
その言葉に、俺以外のパーティメンバー、馬車の運転手含め、皆ばつが悪そうに沈黙した。
「おい……どうしたんだよ。なんか言えよ」
「……あのクエストはまだ完了されてません」
「え……? でもあのクエストには魔王討伐とか、権力者から国を守るとかそういうクエストだよな? 」
「……はい……。ですが、彼らはクエストを完了してないんです。正確に言えば完了報告できなかったんです」
「……それって……」
「英雄と讃えられるパーティは13組。合計48人の人がいますが、生きて帰ってきたのは私だけです。要するにクエスト完了したのは私だけです。クエスト完了報告と同時にクエスト申請用紙は消滅しますが、完了報告がされなければ一生残ります。あの用紙は彼らが戦い、命を落とした証明です。皆相打ちで自らを犠牲にこの国を守った証なのです」
「そうか……なんか悪いな……」
気まずい。
聞かなければよかった。
明るいナツでさえしゅんとした顔をしている。
何らかの形でやはり交流があるものなのか。
「……ッ!」
突然手がチリチリっとした痛みに襲われた。手を見ると
『馬鹿ですかあなたは。何となく死が関係していることは分かるでしょう。景気づけに一発芸でもしてください。』
コミニで手に書かれたであろう文字が…
くそ……この尼。
やってやる。だったらやってやるよ!
俺はバッとその場て立ち上がり
「ニートの長男。ちょうなんでいいんか?」
「……………………」
「……………………」
『………………?』
盛大にかました俺のダジャレは大滑りで終わった。
というか、メグミに限って『?』はねぇだろ。
お前が指示したんだろ!
「さっ! 到着しました。ここが王都システマが管理する平原! システマ平原です!」
「おおー! 普通の平原だな。」
『平原に普通もクソもあるか。』
「そーだよね。普通もクソもないね。」
暴言を吐く2人に敵意を向けていると、馬車を操縦していたおじさんが、誰かと話している。
「おいナツ……あれは誰と話しているんだ?」
「……? あれ? あれは馬と話しているんだよ。スライムの鳴き声が聞こえるか確認してくれてるの。」
『語彙変換魔法ですね。』
あれも魔法なのか。便利だな!
「この近辺にスライムが3体ほどいますね。」
「じゃあ、それを討伐しますか。」
メイの問いかけにみなコクリと頷くと、ナツがポーチから笛を取り出し、空に向かって吹いた。
ピューという威勢のいい音がした直後、
ドシン、ドシンと森の奥で重低音が鳴り響いた。
気づけば俺たちは3体のスライムに囲まれていた。
…………でか!俺達の近くに出るスライムの100倍はある!なんでこんなに成長してるんだ。大丈夫か!?これ!?
「おい! 大丈夫かよ! Lv1の俺達には適わないんじゃないのか!?」
「メイ! 炎系の魔法を頼めるか?」
「了解! 任せてください!」
俺の心配そっちのけでメイは魔導書に数式を書き込み、本をパタンと閉じ、スライムに向けた。
その瞬間、システマ語で書かれた数式が体を取り巻くように出現した。
緑がかった白色でメグミとは魔力が違う事をハッキリと分からせる様に神々しく光を放っていた。
「偉大なるマーリンよ。新世界より来る我に力を貸したまえ。エルヒタンインフェルノ!」
ビリビリと空気振動させ、左足からベールのような紅色をした炎と、右足から稲妻のように電光石火で光が飛び出し、メイの体をグルグルと回るうちに2つの魔法は混ざり合い、轟音をあげながらスライムに飛び込んでいった。
その衝撃波はすさまじく、大量に出る砂煙と衝撃音で何が起きたか分からなくなる程であった。
「流石は英雄! Lv1の魔法使いとは思えないよ!」
『ケタ違いですね。下級魔法とはいえ、雷系と炎系の魔法を混ぜて使えるとは。その才能が羨ましいです。』
「俺も見くびってたよ! みんな魔法使いになったって聞いた時はどうしようかと思ったけど、これなら楽勝だな!」
「あーーはっはっは!これが私の力です! つべこべうるさく言ってましたが、これで安心したでしょう! これがあれです! キウイというやつですよ。」
杞憂をキウイと言っているのは放っておいて。
本当に杞憂だった!
メイの魔法は雷系を使っていたこともあり、スライムに電気が伝導し、ほか2体もぐたーっと倒れた。
ーーーーしかしーーーー……
ドシン……ドシンと鳴り響く音。
間違いない。
スライムだ。
「なんで!?この周辺には3体しかいないんでしょ!?」
『いや……これは……』
砂煙をかき分け先ほど強烈な一撃を食らわしたはずのスライムが出現した!
「に……逃げて!」
ナツの掛け声をスタートの合図に皆必死に駆け出した。
『やはり……』
「メグミ!なにか心当たりがあるのか?」
『スライムは倒した相手を吸収し、自身の体の中にある酸性の液体で溶かし、スキルを奪います。恐らく魔法耐性の強いモンスターを飲み込んだのでしょう。』
「でもあれだけ強ければなんとか……」
『無駄です。魔法は一切効きません。どんなに強くても……です』
「どんなに強くても……か?」
『どんなに強くても……です』
「…………ところでメグミ……お前いい女だな」
『殺しますよ?』
「2人ともふざけてないで!」
あれ?あんなに遠かったスライムがもう目と鼻の先まで来ている。
スライムって結構早いんだな……
やばいやばいやばいやばい!呑気なこと思ってる暇じゃねぇ!どうする。
ここは平原。
目の前には池や岩はあっても他に何も無い。ん……?池?
そうだ!!
「おい! 魔法使いって空飛べるか?」
「飛べます!」
「俺を連れて飛ぶことは?」
「出来ます! 出来ますから話しかけないで!」
「ちなみにこのスライム空飛べるっぽい!」
それは分かっている。
魔法耐性のあるモンスターなら大概飛行スキルは持っている。
なら……
「皆!全力で池に向かって走れ!」
『なぜです? スライムは炎系の魔法の熱で水分を失い弱体化しています! 水を与えたらもう勝ち目は無いですよ!?』
「大丈夫だ! おれに策はある!」
池まで200m。
あーーー!前まで料理人だった俺には辛いよ!
全力で走るメンバー一行に、スライムはもうスグそこまで来ていた。
すると、ネトっという感触が俺の肘に触れた。
「……? なんかついて……」
ジューっと音を立てる肘……これは……
「痛ってーーーーーーっ! 痛い! 肘が焼ける!」
スライムの内部の液体が付いた。その液体は人をも溶かすとあり、焼けるほど熱い。
「耐えて! なんとか耐えて!」
『もう間に合いません! 仕方ない、ツトムを囮に逃げましょう。彼には犠牲になってもらいましょう。あーー仕方ない。残念!』
「嫌だ!死にたくない!」
池はもう30m先まで近づいている。
ベストタイミングだ!
「いけッッッッ!ボイラーッ!」
池に手を向けるとボコボコっと音を立て水が沸騰し始めた。
「今だ!飛べ!」
俺の合図でみな飛行を開始する。
俺は置いてかれそうになったが、メグミの体にしがみついた。
俺の体がふわりと浮かぶ。
『離して! 離して下さい! 何があってもあなたにはここで死んでもらいます!』
「おい! 今本心出ただろ!」
必死に抵抗するメグミ。
下を見ると、スライムは沸騰した池の中に飛び込んだのだろう。
茹で上がっていた。
ふうっとため息をついたのと同時に、俺の掴んでいたものがスルスルとメグミの体をつたいメグミの体から離れた。
上空5mから俺は落ちて某マップアプリで目的地を調べた時に刺されるピンの如くブスリと地面に突き刺さった。
メグミのくまさんパンツを持ったまま。