プロローグ
僕の住む町メイスには、時折魔物が出る。その度に退治しに来てくれる冒険者たちがかっこよかった。子供の頃は皆夢見た冒険者になるという夢はいつしか夢としても認識されなくなっていった。18歳にもなれば冒険者なんて言ってる奴はバカ扱い。皆手に職を付け、自営業者として食にありつくのがこの町の基本。そもそも冒険者になるには王都システマに出向かわなければならず、そこまでの道のりおよそ900kmを渡ろうなんて奴はいない。
時は遡ること3年。15歳の時だ。
「進路は如何がなさいますか?」
険しい顔つきで聞いてくるメイス学園中等部の教授に対して
「冒険者になるために王都大学システマの冒険学部魔法学科に進学するために王都立魔法学校高等部に進学したいです。」
そう言ったところ空気が凍りついた。
は?何言ってんの?って感じで見られた。親にもだ。
「もう少し現実的な進路を……」
そう言って三者面談終わってしまったがその後親にこっぴどく叱られ、結局王都システマ料理学校メイス支部に進学、そしてこの学校を卒業する。
得られたスキルは料理スキル全般と交易スキル全般。冒険者なんてなれっこない。
夢を諦め、自分で店を開くためメイスにある郷土料理屋に勤めることになった。
こうして僕は親の敷いたレールに乗って、何一つアクシデントのない道をガタンゴトンと進み、年老いたら仕事をやめて縁側でぼけぇっとして、気づいたら頭がぼけてて、死の恐怖すら忘れて死んでいく。その人生が決定した。
料理屋に勤めてはや3ヶ月。まだウェイトレスの仕事しかさせてもらえないが、久しく魔物が出たということで、メイスに5ヶ月ほど冒険者一向が滞在するらしい。そのうちの1人、白髪ショート、パッツンの可愛らしい女の子。歳は13歳ぐらいか?その子がなんか馬鹿みたいなこと言ってる。
「あなた私の付き人になってよ!」
「付き人ですか?お客様料理は頼めても私は頼めませんよ。」
「それギャグですか?面白くないです……」
あ……本気で拒絶された。
この子、僕のことからかってないか?
「ちなみに給料とかは?」
「なっす!なっしんぐ!私お金持ってないし」
「福利厚生とかは……?」
「テントなら持ってるから居住はそこで……後は特にないかな?」
うん……!これはブラック超えてデス企業だ……
「丁重にお断りさせていただきます。」
その少女はポカンとした顔をしてすぐに目がうるうるして来た。
あ……やばいと思った頃にはもう遅い。
「うあ゛ぁあ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁ」
と涙をボロボロ流して泣いた
「おい。あんな小さい子を泣かして…」
「なんだ……イジメか?」
周囲がざわついている。マズイぞ!
「分かった!考え直すよ!前向きに検討する!」
焦る俺。あたふたして咄嗟に言うとその少女はニコッと笑って
「ありがとう!さっきも言ったけどお金持ってないからこれつけとく!宜しく!」
と言ってササーっと逃げていった。料理代1500バルのお支払いが決定。
そのやり取りを見ていた店主がせっかくのチャンスだから冒険者になりなさいと言ってきて職まで失った。昔から冒険者になりたいと言っていた僕のことを知っての発言だろうがごめん…料理人は冒険者になれないよ…
お先真っ暗。これから僕はどうしたらいいのか……