プロローグ 「やっぱりパシリといえば焼きそばパン」
・・・あと5分
静まり返る教室の中で担当の教師の声だけが響き渡る。
ちょうど授業のまとめに入ったところだ。
・・・あと3分
スタートダッシュのタイミングを間違えてはいけない。
授業中?そんなことは関係ないとばかりに黙々とこれからのことについて考え続ける。
・・・あと1分
このミッションは成功させないとこれからの学校生活に関わるから油断はできない。
しっかりと心を落ち着かせ時間を待つ。
そして・・・チャイムが鳴り響く
さあ、パーティーの始まりだ
号令が終わった瞬間に俺は風になったように駆けだす。
この時ばかりは余計なことは何も考えられない。
ただ全力でゴールを目指す。
そしてついに目指すべき楽園に到着した。
そこはすでに何人かの猛者たちが戦いを繰り広げていたが、急いできただけあってまだ人は少ない。
そのことに安堵しながら俺は自分の要求を高らかに宣言した。
『焼きそばパン3つとコロッケパン2つ、あと牛乳5つ!!』
こうして俺は楽園(購買)を後にしとある場所に向かった。
『やっぱり球多は他の奴らと違ってレベルが高いな!うちの購買人気あるから全然買えないのによ』
とある場所・・・バレー部の専用部室に着いた俺は背が高くガッチリと筋肉のついた男に自分の戦利品を捧げていた。
この男は3年生の先輩で名前が佐々木巌
ポジションはレフトで部内ランキングは12位だ。
『まあこれからもよろしくな。あぁこれ代金な。なに、釣りははいらねえよ。』
とにやにやしながら俺に小銭を渡す。
って300円って・・・たりねえよ!!!
と言いたくなるがぐっとこらえて先輩に一言挨拶をしてその場を立ち去ることにする。
『それでは失礼します。また何かありましたら呼んでください。』
そしてゆっくりドアを閉めて教室に戻った。
席に着きながら残った焼きそばパン1つをかじりながらもため息がこぼれる。
まあ俺なんかじゃ逆らえないんだけどさ。
俺が・・・球多光が生まれてもう16年になるけどバレーをやってて良いことなんか1つもなかった。
中学のころは毎年1回戦敗退のチームで補欠。試合に出ることもほとんど無くただダラダラとボールを追うだけの毎日だった。
高校に入って1カ月ほど経つがそれは変わらず・・・いや、パシリが増えただけさらに最悪だ。
そんなわけで俺は部内ランキング97位というレッテルを貼られている。
ちなみに部内ランキングは正式名称は琥珀高等学校男子バレーボール部内実力ランキングというが長いのでみんな部内ランキングと呼んでいる。
これはその名の通り部内の実力順のランキングになっていて1位が部長になるシステムになっている。
そして12位までがユニフォームをもらえるわけでつまり・・・
そんな人に97位が逆らえるはずがないんですよ。
ちなみに部員は100人までで整理されていてランキング100位より下になると即刻退部になる。
97位はいわゆる退部候補なのであり、それを防ぐために全力でパシリをしているのだ。
だってこのバレー部に在籍したまま卒業できれば安定した就職先が用意されているから。
今の時代、なぜだか世界的にバレーブームが到来していて大変なことになっている。
外国では戦争の代わりにバレーで決着を付けるって国もあるくらいなのだ。
当然そんな世の中だから有名校のバレー部所属という肩書は一種のステータスになる。
だから俺は必死に勉強してバレー部が強くて超エリート進学校である琥珀高等学校に入学した。
もうバレーを楽しむことは諦めた。
せめて残りの2年と11カ月は平穏無事に暮らしたいという気持ちを焼きそばパンと一緒に牛乳で流し込んだところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。