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大悪党、現る!

清水しみず村。

ここが何処かと問われれば、大和國やまとのくにの都、六京ろくきょうの関所を西に一つ越えた村、と言う説明が妥当だろう。

関所一つといえど、越えれば様子は大違い。

人、人、人な六京とはまるで違い、清水村は名前の通り綺麗な湧き水が豊富な分、田んぼが多い。

暖かくなってきた今日この頃、そんな静かで平穏な村は田植えとは別の理由で沸き立っていた。



村の小さな境内。

普段、ささやかな祭りをやる以外にほとんど人が来ない石畳に人集りができていた。

腰の折れた老婆、作業途中であろう籠を背負った娘に、手を泥まみれにした男、そこらへんを走り回っていたのであろう少年達まで老若男女問わず、村の人間殆どがそこにいた。

その半円状の人混みの中から元気な声がとんだ。


「さァさァ、そこのおっさんもおねぇさんも、金がなくても寄ってきな!六京一番の大道芸!

流れ、流れてやってきた、巷で噂の旅一座、花筏はないかだたぁ、あたし等のことだよ!」


後ろまで聞こえるように声を張りあげていた少女は明るい茶色の目をきょろきょろと動かし目の前の人の山に満足気に笑みを浮かべた。


「この小さい村でこれだけ集まれば上々よね。」


そう、村人達が集まっているのはひとえに少女が村中に触れ回ったからである。

それぞれが、滅多にお目にかかれない旅芸人を見ることが出来ると期待に目を輝かし、口々に話している。

そして、少女はその旅一座、花筏の一員だった。

普通の村人ならば着ない、可愛らしい桃色の派手な着物やシャラリとなる簪も、宣伝に一役かったようだ。

自分の成果に少女が満足していると、横から声が聞こえた。


「うわ、こんなにたくさんの人が…。」


文面だけみれば少女と同じことを言っているのに声の調子は真反対。

何処かがっかりした、嫌そうな調子に少女は眼光鋭く振り向いた。


「なによ。あたしが触れ回ったんだから集まるに決まってんでしょ?それとも何、何か文句あるの、しゅうは。」


「そ、そういうつもりで言ったんじゃないんだっ…、桔花きっか!」


睨まれた少年、柊はぶんぶんと取りなすように手を振った。

松葉色の頭巾を被った彼は、少女…桔花と同じく、派手な格好をしているものの、存在自体が華のある彼女に対して本人の影が薄く、着物に着られている感が否めない。

柊は緑がかった目を伏せた。


「だって…失敗するかもしれないし、そしたら笑い者になるし、それに…。」


さらに続けようとしていた柊は顔を引きつらせやっと自分の犯した過ちに片付いた。

うじうじした態度はハッキリしたことが好きな桔花の機嫌を逆撫でするだけなのだ。


「あんたねぇ〜。いつまでもうだうだと…。」


村人達などすでにお構いなし。

指をポキポキと折りながらにじり寄る桔花に柊はたじたじと後ずさった。


「根性叩き直してあげよっかぁ?」


ふふ、と不敵に笑う桔花を止めたのは大きな手だった。

桔花は頭に乗せられた手の主を見上げた。


いつき。」


「うわわわっ…やめてください斎さん!」


もう片方の手で柊の頭をぐりぐりと撫でながら斎と呼ばれる初老の男は桔花の頭をポンと軽く撫でた。

軽く、なのは折角整えた髪を乱さないようにという斎の配慮だろう、と桔花は受け取った。

斎は2人を見てにこりと笑った。

笑うと目尻にシワがよる。


「ほらほら、仲がいいのはいいけどケンカしない。もう始めるからね。」


「…はーい。」


桔花はそれに渋々ながらも従った。

現に人が集まった今、いつ始めてもいい状況なのだ。


「行くよ、柊!」


「うぇ?あ、ちょっ…」


ズレた頭巾を慌てて直していた柊は反論する暇もなく引きずられていった。

その姿を見届けてから、斎は満員御礼、といった場を見てから、意識的に口元に笑みを浮かべた。


「皆々様、お待たせ致しました。

これより都一番と自負致します、花筏の雑芸をいたします。とくとご覧あれ。」


その一言で場が静まる。

寂れた神社が、なにか特別な場に変わった。


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