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ジョジョ風に舌切り雀

作者: 義雄


あらすじ


 昔々あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。

 ある日おじいさんは山に畑仕事へ、おばあさんは川に洗濯へいきます。

 その時おじいさんが飼っていた雀が、鳥かごを抜け出しておばあさんのこさえた障子張り替え用のでんぷん糊を平らげてしまいました。

 びっくりしたおばあさんはこけて糸切りばさみで雀の舌を切ってしまい、雀はそれに驚いて逃げ出してしまいます。

 おじいさんは色んな人に道を聞いて哀れな雀の行方を探すのですが……。





「もし、もう一度聞かせてもらっても?」

「いいですとも。貴方が馬を洗った汁を三杯飲み干すことができたなら」


―――ゴゴゴゴゴゴゴ―――


 家であったことをすべて話すと、若い馬洗いはおじいさんに条件を突きつけた。

 おじいさんは馬洗いから異質な威圧感を覚える。

 まるで剣理を修めた達人を前にしているかのような、背筋が粟立ってくる奇妙な感覚。

 一介の馬洗いではない、と認識を改める。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ。


 男が差し出す杯は決して大きいものではない。

 一合(180mL)にも満たないほんの小さなものだ。

 その三杯分、さしたる量ではないと感じられるだろう。


 だが、それでも馬の洗い汁。

 馬の体を洗った水を誰が飲みたいと思うだろうか。

 体を洗ったものでなくとも、馬と同じ桶から水を飲む間抜けはいない。

 おじいさんが見ると濁った水には何か得体のしれないものが浮いている。

 よっぽどの覚悟を決めねば尋常の人には飲めない。

 そしてもう一つ、おじいさんには気にかかる箇所がある。


――この男の狙いはなんじゃ。


 馬の洗い汁なんぞ飲ませて何になるのか、それを考えないことにはこの申し出を受けるのは危険だ。

 どんな病気にかかるかもわからないし、そもそも本当にこの男が雀の行先を知っているのか。

 おじいさんにはわからない。


「さあ、たったの三杯ですよ……早くしないと、気が変わるかも……」


――情報を引き出すほかあるまい。


 じり、と半歩右足をにじり寄らせる。

 男は余裕の笑みを浮かべていた。


「一つ、質問してもいいかの……?」

「いいですとも……」


 不気味な沈黙が舞い降りた。


――利点じゃ、この男の利点を考えるのじゃ。


 おじいさんは必死に思考を巡らせる。

 馬の洗い汁を飲ませることで馬洗いにはどんな利点が生まれるのか、それを考える。

 彼が思いついた可能性は三つ。


 一つ目、洗い汁を捨てに行くのが面倒で飲ませようとした。

 これはない、たった三杯で何が変わるというのか。

 それなら桶の水すべて飲み干せというに違いない。


 二つ目、怨恨の線。

 馬洗いがおじいさんに恨みをもっているか、それとも恨みをもつものに依頼されたか。

 この可能性は否定できない。

 人間どこで誰の恨みを買うかなどまったく予想できないのだ。

 そしてこれが正しいなら雀の情報を知っている、ということすら嘘である可能性が高い。

 おじいさんは警戒心を一段階引き上げる。


 三つ目、なんとなく。

 これが一番始末に負えない。

 全ての前提条件が覆されてしまう、雀の情報も、相手の利点なども。


 おじいさんは二つ目の線だと仮定して馬洗いを観察する。

 慇懃な態度で口元には穏やかな微笑すら浮かべている。

 彼自身の怨恨ではないと感じた。

 この態度が演技なら凄まじい馬洗いだったというだけの話になる。

 むしろ彼は善人であるように見えた。

 今も馬を撫でてやっているがその手つきは深い慈しみを感じる。


――慈しみ……?


「おぬし、動物は好きか?」

「好きですが、それが何か……」


 からくり箱の解き方を閃いたような、膨大な考えがおじいさんの頭を駆け巡った。


「正直に言おう、儂は洗い汁を飲みたくない」

「なるほど、雀程度のためにはやりたくない、と」


 馬洗いの目に微かな嘲りが浮かぶ、相手を観察したおじいさんがそれを見逃すはずがない。


――確定じゃ。


 おじいさんは内心ほくそ笑む。


「じゃが、誇りを捨てることはできる!」

「なッ!」


 バッと体を地に投げ打ちおじいさんは馬洗い相手に土下座をした。

 若い馬洗いはおじいさんの突飛な行為に度肝を抜かれる。

 自然足が一歩引いていた。


「動物好きのおぬしはこう思っていたはずじゃ。『このくそじじいなんだかんだ言って雀を罰するために探しているんじゃ』とな」

「……」

「じゃが違う、わしは心底あの雀を案じておる」

「ではなぜ馬の洗い汁が飲めないと……?」


 おじいさんは顔だけあげて、茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。


「それを飲んで体調を崩せば今日はもう探せんじゃろ? わしこう見えても歳じゃからの」


 馬洗いはふっと優しい笑みを浮かべ、おじいさんに手をさしのばした。

 その表情は馬洗いの心中を、清々しさを感じさせるものだった。


「負けましたよ、あなたの言うとおりです。雀はこの先に行きました」

「おお、ありがたい。それではわしは先を急ぎますじゃ」

「ええ、是非見つけてあげてください」


 馬洗いに見送られておじいさんはずんずん山をいく。

 しばらくしてから舌をペロッと出して一言。


「馬の洗い汁飲むより土下座の方がよっぽどマシじゃわい」





あらすじそのに


 紆余曲折あって雀の無事を確かめたおじいさん。

 踊りや料理を振舞ってもらい、さあ帰るかとなったときに二つのつづらが差し出された。

 大きなつづらと小さなつづら、どちらがいいかとおじいさんは聞かれて……。





「さあおじいさん、好きな方を選んでください」


―――ゴゴゴゴゴゴゴ―――


 たらりと冷や汗がこめかみに浮かぶ。

 先ほどまでの楽しげな宴の雰囲気は消し飛び、まるで賭場のような殺伐とした空気が場を覆い始めた。

 何故こうなったのか、おじいさんには予想もつかない。

 ただなるべくしてなった、それだけだ。


 まず大きなつづら、大人が一人膝を抱えて入れるくらいの大きさだ。

 背負うための紐もついているため持ち運ぶことに苦労するかは重さ次第といったところ。

 もう一つの小さなつづら、こちらは肩幅ほどもなく両手で苦も無く持ち帰れるだろう。


 この二つのつづらを出した理由をおじいさんは的確に見抜いていた。


――間違いない、こやつらはわしを試そうとしておるッ!


 雀たちの顔つきはもはや嬉しそうなものではない。

 ひたすらにおじいさんという人物を見抜こうとする、観察の視線に変わっていた。

 視線の意味におじいさんは素早く気づき事態を打開しようと頭を働かせる。


――単純にどちらを選ぶか、という興味ではない。こやつらが求めているのは動機ッ! わしが何故そちらを選んだかという理由を知りたがっておる!!


 じっとりとした雀たちの目つきはどこか人間じみていた。

 おじいさんは再びつづらに目をやる。

 手がかりは大きさ以外になさそうだ。


「両方受け取らないというのは……?」

「遠慮しないでください」


 スパッと言い切られる。


――謙虚さを求めている、というわけではなさそうじゃな……。


 視線は相変わらずおじいさんに集中している。

 その一挙一言を見逃すまいと雀たちは会話も交わさない。

 これは困った、とおじいさんは腕組みした。


――それぞれのつづらを受け取ったときに、人間ならどう解釈するかの?


 大きなつづらを受け取ったとする。

 強欲な、謙虚さを知らない人だと罵る人もいるだろう。

 逆に隠すことなく自分の欲をさらけ出したとして好感をもつ人もいる。


「それぞれの重さは?」

「見た通り、としか……」


――厄介な!


 見た通りならきっと大きなつづらの方が重いに違いない。

 おじいさんの家からここまでは遠い。

 大きな方をとれば体力自慢ともとれるし、自分の限界をわきまえないという取り方もできる。


 一方小さなつづらを受け取ったとすればどうだろう?

 大きなつづらをお土産にしたときとは逆の評価を得られる。

 謙虚、隠し事、自信のなさ、自分を良く知る。

 ふむ、と顎に手をあてる。

 髭の感触が少し冷静さを取り戻してくれた。


――ふむ、そもそも雀たちは何故動機を見たがっておるんじゃ?


 話はそこからだ。

 雀たちをよく見ると、時折怪我をしたあとが目についた。

 おじいさんが飼っていた雀がされたように故意に人間につけられたものか、野生で生きるうちについたものかはわからない。

 だがそういった雀に限って瞳は濁っているように見える。

 遠慮するなと言った雀もそちら側のようだ。


――善意のみとはかるのは危険かもしれん。


 おじいさんはつづらが罠である可能性に思い至った。

 好意的な雀と悪意をもつ雀がおり、後者が罠を仕掛け人間に仕返ししようとしているのではないか、と。


「持ち上げてみても?」

「それは御免こうむります」


 あやしさが増した。

 おじいさんは本格的にお土産の辞去を考え始め、ハッとした。

 『自分を試そうとしている』、一番最初に感じたことを思い出したのだ。

 今の自分を客観的に見ればどうか。

 漏らすようなヘマはしていないと自負しているが、眼の数が違う。

 ここまで歓待してくれた雀に疑心を抱いているととられている可能性もありうる。


――そうか!


 冷静に考えれば、罠にかけたいならその気配を隠すこともできたはずだ。

 なぜなら宴会のとき、おじいさんは心の底から楽しむことができた。

 昏い視線を感じればその時点で感知できたはずなのだ。

 そして宴会のときにも怪我のあとがある雀たちはいた。

 つまり、この纏わりつく視線は嘘!


――どちらを選んでも一切問題ない、わしが雀たちを信じているかをはかっているにすぎん!


 今見せるべきは小賢しい態度より偽りなき私心!

 そして現実的な方針をとるべきだ、とおじいさんは決意をかためた。


「ではわしは夜も遅いし家まで距離もある、折角用意していただいたところ悪いですが、小さなほうを頂こうかの」

「どうぞ……決して帰り道では開けぬように……」


 雀たちはそれだけ言っておじいさんを送り出しました。

 おじいさんは言われた通り家に帰るまでつづらを開けませんでした。

 おばあさんはほっつき歩いていたおじいさんに文句一つ言わず迎え言えれて二人でつづらを開けてみます。

 すると中には金銀の欠片、珊瑚や目を見張るような大きな赤石などお宝が雑然と突っ込まれていたのです。


「やれやれ、苦労したかいがあったの」


 その後おじいさんとおばあさんは楽しく暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。




なんだかふと思い立って書きたくなった短編。

そしてちょっとしたヒントを答えに結び付ける練習をした短編でした。

少し強引過ぎてジョジョどころかMMRちっくかもしれないです。

登場人物の姿は皆さんのご想像にお任せします。


…果たしてコレはオリジナルで投稿していいのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしいの一言しか言えない…ッ!!
[一言] 普通に面白くてワロタ
[一言] このじいさん・・・ただ者ではないッ! 貴様ッ!この設定ッ!作りこんでいるなッ!
2012/07/21 07:11 退会済み
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