封筒交換
短編です
普段よりも二時間くらい早く起きて、制服に着替えた。両親からは「珍しいね」なんて言われたけど、「朝錬なの!」と言って誤魔化した。今日は朝錬休みの日だけど、両親はその辺、よくわかってないから大丈夫。
カバンの中に入れた、重要な封筒。今日はこれだけは忘れない。部活も授業も今日は関係ない。この書類だけは、確実に持っていく。
ドキドキと心臓が高鳴っている。まだ学校までは距離があるし、まだ何もしていない。ただ登校しているだけだ。それだけなんだけど、ちょっとだけ、浮ついているのは確かだ。
なんとなく、バスの中でカバンが押しつぶされるのを回避した。別につぶれたって、問題は無いんだけど。
バスを降りて、学校の門の前に来ると、なんとなく、ソワソワする。まだほとんど誰も来ていない学校。本当に朝錬のある野球部の人たちの声、体育館の方からはバスケ部の人たちの靴が擦れる音が聞こえる。
なんか、いつもと違う時間に来ると、違う学校に来てしまったみたいな感じ。
「・・・・よし」
電気もついていない下駄箱に入って、自分の下駄箱に行くよりも前に、彼の下駄箱に向かう。カバンを開けて、目的の書類を取り出して、息を整える。
ピンクの封筒、意味深なハートのシール。ちょっとやりすぎだろうか。でも、もう決めたんだ。今日こそこの手紙を、彼に渡すんだって。
一年の頃から一目ぼれして、ずっと気になっていた。ずっと目で追うようになっていた。彼のことを知りたいと思うようになっていた。そんな私の高校生活三年分の想いを、この封筒に押し込めた。封筒には、送り主の私の名前は書かなかった。だって、別に、付き合いたいとか、そんなんじゃないし・・・。彼の人格とか、そう言う、素晴らしい所を褒めただけの・・・そう、ファンレター、ファンレターみたいなものだから!
意を決して“ファンレター”を下駄箱に入れた。蓋を締めて、落ちて来ない事を確認した。
入れた、入れてしまった・・・。あぁ、どうしよう、こんなところ見られたら、恥ずかしい!
自分の下駄箱を半分乱雑に扱って、上履きに履き変えた。
急いで教室に向かう。自分の席に座ると、なんだか妙な気分だ。してはいけないことをしてしまったような、背徳感がある。
ちゃんと手紙、入れたよね?あれ、下駄箱閉めたかな?あれ、下駄箱合ってるよね?彼のとこだよね??あれ?どうしよう、気になる。
時計を見ると、まだ同級生が来るような時間じゃない。
よ、よし、確認しに行こう。
急いで下駄箱に向かうと、彼がいた。
「あ、はよ~。お前、下駄箱あけっぱだったぞ~」
「あぇ、あ、お、おは・・・おはよ・・・」
やばい、やばい、なんでこんな早い時間に!?今日は彼も朝錬お休みのはずなのに!って言うか下駄箱!閉めたと思ったのに!!絶対雑な女と思われた!嫌だ~!
彼が下駄箱を開けると私の手紙が、ポロリと零れ落ちた。
「あ、そ・・・それっ」
やばい、き、気まずい・・・どうしよう!!
「・・・・」
無言で手紙を拾って、彼が開けた。え、ココで開けるの!?私いるのに!?
ガサガサと音がする。よ、読んでる・・・・。私は何も言えず、ただ立ち尽くしたまま、彼の言葉を待った。
というかこれ、何の苦行!?目の前でラブレター、いやファンレター読まれるとか!
「・・・ん、じゃぁ、これ・・・」
そう言って彼は、私の下駄箱から青い封筒を取り出して、私にくれた。
——「帰ってから読めよな」って・・・——
剣道部らしい潔い恋文だった。




