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【短編小説】動物実験

作者: 青いひつじ
掲載日:2026/04/19


研究員たちは感情を失ったロボットのごとく、淡々と、動物たちに物質を点眼していく。


『責任感を持って仕事に挑むというのは大変素晴らしい志である。命を無駄にしない計画的な実験も、法令遵守もおおいにけっこう。人間として心優しくあることも。だが、このセンターで働くうえでは、必要以上の慈悲は殺さなければならない』


ここは民間の動物実験センター。このセンターでは、病気の解明や新薬開発という名目のもと、日々実験が行われている。


『これは、人類発展のために必要な犠牲なのだよ』


しかし、その実態は誉められたものではない。違法な動物実験と報告の数々。近年コンピュータ実験も増加する中、このセンターではいまだに多くの動物たちが道具のように扱われていた。



ある朝のことである。研究員を玄関で出迎えたのは、平凡な段ボール箱だった。ガムテープで頑丈に留められた、中くらいの大きさの段ボール箱。


『宅配か』


ところが、送り主の情報は記載されていない。宅配のラベルがないとなると、内容物も分からない。

研究員が恐る恐る箱を持ち上げると、中には生き物が入っていたようで、カサカサと這いずり回るような音が聞こえた。


『うわぁ!なんだこれは』


投げ捨てられた箱は、逃げろと言わんばかりにバンバンと激しく揺れている。

続いてやってきた別の研究員は、躊躇することなく箱を持ち上げ、軽く横に振った。


『捨て犬か?誰かが置いていったのか』

『いや。この動きと重さ、犬ではない。開けてみよう』


厳重に巻きつけられたガムテープを力ずくで剥がし、蓋を開けると、段ボールの中に入っていたのは1羽のウサギ、そして2本のニンジンだった。


ふたりの研究員は、すぐさま贈り物について報告をあげた。するとウサギを見たボスは、不思議がるどころか瞳に炎を灯し、声を振るわせた。


『…おぉ!なんて美しいウサギだ…。これはきっと、我々の会社を支持する誰かが寄付してくれたのだ!支援に恥じぬよう、社会への貢献のためさらなる技術向上に努めなければ!!』



贈り物は連日にわたり届けられた。しかし、毎日ではなかった。

中身は必ずウサギかニンジン。またはその両方。なぜか、ニンジンだけが届けられる時もあった。


2回目は3本のニンジン。3回目と4回目は1羽のウサギと1本のニンジン。5回目は2羽のウサギ。

送り主の気分なのか、数量に決まりはないようだった。

6回目には2羽のウサギと2本のニンジンが届けられた。



いつものように箱を開けた研究員Aは、あることに気づき、同僚に相談した。


『このウサギたち、腹は減らないのだろうか』


『なぜだ?』


『毎回、ニンジンがひとくちも齧られていないんだ』


『満腹の状態で送られているんだろう。見るからに毛並みもいいし、目ヤニひとつ付いてない。大事に育てられていた証拠だ。なぜ我々に渡すのか不思議なくらいだな』



まだ別の日には、送られてくる日時に規則があることが判明した。

箱は毎月、第2水曜日と第4水曜日に届けられ、祝日の場合には次の日の木曜日に届けられる。


『気分で不規則的に送ってきているのだと思っていたが、違ったようだ。そうすると、この中身にも何か意味があるのだろうか…』


箱を見つめていた研究員Cは、何かを閃いたようにハッとした。


『これはまさか、誰かからのメッセージか……』


『メッセージ?ウサギとニンジンでどうやって』


『……例えば…モールス信号…とか』


Cの発言に、周りにいた研究員たちも続々と集まってきた。


『これがどうしてモールス信号だというのか』


短点(トン)がウサギで、長点(ツー)がニンジンとしよう』


『するとどうなる…?』


『1回目がK、2回目がO、3回目4回目がN、5回目がI、6回目がCだ』


『KONNIC……こんに…』


『これがメッセージだと?さっぱり意味が分からん』


『やっぱり送り主の気分だろう』


『なんだ。面白いことが始まるかと思ったのに』


謎は解明されず、勝手に期待を膨らませていた数人の研究員は肩を落とした。


『さぁ、無駄なことを考えている暇があったら手を動かそう』


誰かの呼びかけで、箱を取り囲んでいた研究員たちは元の場所へ戻り、それぞれの実験に勤しんだのだった。




その頃。

雲の上の、さらに上。銀河を横断する宇宙船の中では、ある実験の報告会が行われていた。


『進捗はいかほどだ』


『はい。現在、贈り物が我々からのメッセージであるというところまでは近づいています。贈り続けて3ヶ月、これまでの対象と比較すると、中々に早い方かと。ニンジンを食べないことにも勘づいていましたが、さすがにロボットだということまでは気づいていないようです』


『ほぅ、3ヶ月か。知能は高そうだな』


『はい。しかし問題がひとつ。ウサギが送られてくることに関しては、ボランティアだと思い込んでいるようで』


『はっはっはっ!少し平和ボケしているくらいが扱いやすくて丁度いい。よし、このまま実験を続けてくれ。頃合いをみて狩りを始めよう。彼らには私たちのために戦う、優秀な兵士になってもらわなければな』



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― 新着の感想 ―
「こんに」この後に続くのは、もしかするとあの挨拶の言葉でしょうか…。 実験に熱中している者たちは、まさか自分たちが実験されているとは気づかないのでしょうね。
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