一度世に出たものは取り消せない 或いは信頼というエントロピー
作品は誰のものか。
作品はファンのモノだ。
なんて答えもあるかもしれないが。
所有者は明らかに作り手側だ。
しかしその事は。
キャラを好き勝手できる事を意味しない。
正確には好き勝手した場合には、ファンの反応を自由にはできない。
筆者がこの事で真っ先に連想するのは。
魔神英雄伝ワタルの虎王だ。
彼の役割はライバル。
敵のボスの息子、魔界王子で。
主人公の旅を阻む、強敵として立ちはだかり。
最後には力尽き死んでしまう。
しかしその正体は、世界を統べる女王の息子で。
実は虎王は敵に操られ、利用されていた姿だった。
ラストには本来の姿、翔龍子として復活。
物語は大団円を迎える。
……え?
それの何が問題なんだ?
ハッピーエンドじゃないかって?
実は放映当時、かなりモメた。
作り手側としては。
真の姿に戻れたから良かったね、救われた。
って認識だった。
だけどファンの目線から見て。
翔龍子は虎王とは別のキャラにしか見えない。
虎王は今までの経緯があって好きになったのに。
ポッと出の知らないキャラが出てきた。
むしろそれどころか。
虎王がただ死んだだけならまだしも。
俺が本物なんだから、もう虎王は要らないだろ、と。
ファンが愛した虎王という、キャラすら取り上げた大悪党だ。
そういう理屈で。
このラストは当時の虎王ファンからは。
大ブーイングが巻き起こる事となった。
ちなみにこの後。
原作者による虎王が主役のスピンオフ小説が始まるが。
ハッピーエンドのつもりだったのに、受け入れられなかった事。
虎王というキャラは親元を離れ、強く愛されていた事。
それらを強く認識した旨が記されている。
たしか贖罪とまで書かれていた気がする。
そして、この手の事例には、枚挙に暇がない。
読者の皆さんにも、思い浮かぶものがあるはずだ。
週刊少年マガジンで連載されていたマンガの涼風。
人気のあったヒロインが、作者の都合で消されたり。
作品そのもののラストだったり。
一世を風靡した覇権アニメの涼宮ハルヒの憂鬱。
エンドレスエイトの演出で。
深刻なファン離れを迎えたり。
当時大流行で話題だった艦これのアニメ。
取ってつけたようなキャラの死。
大人気だったアニメけものフレンズ。
1期で築いた全てを。
葬り去るかのような2期の内容。
細かいものも含めれば。
もっといくらでもあるだろう。
コレはアイドルとか女性声優の。
熱愛報道などのスキャンダルにも似ている。
清純だと思っていたあの子が。
実はそうではなかったなんて。
そんな期待の裏切り。
こういうものは、今風な言葉で言えば。
厄介オタクだとか。
解釈違いだとか呼ばれるのだろう。
世間ではそういう反応をする人は。
感情が大きすぎて。
自分の思い描くものこそ現実であるべきと叫ぶ。
身勝手で我儘な人とカテゴライズしがちだ。
だが、本当に切り捨てていいのだろうか。
理解できないジャンルの事だから。
他人事と思っているだけで。
もしもこれが自分が興味を持つコンテンツなら。
とてもたまったものではないはずだ。
誰だって怒るだろう。
事前の説明と違っていたら。
清楚を売りにして。
全然モテませんよーだの。
彼氏なんてできたことないですーだの。
言うなればそれは。
景品表示法違反だったり。
優良誤認なわけだ。
商品価値には処女性まで含まれてるわけだから。
スクープ発覚は、まるで守るつもりのなかった約束。
空手形でファンを騙した形になる。
セットで同梱してると説明のあったアイテムが。
事前の説明なく抜き取られているなんて。
そりゃ詐欺だ。
アイテムまで込みで買ったんだし。
騙されたら誰だって怒る。
騙された方が悪いは詐欺師の言い分だ。
騙された方と騙した方なら。
騙した方が悪いのなんて当然。
アイドルとか声優とかアニメとか。
どんなものでも怒り出すオタクなんて気持ち悪い。
そんな感想を抱く人も多いかもしれないが。
怒るのは当然だろう。
なにせファンは払ってる。
勿論グッズ類の購入とか。
イベントの参加費用とか。
少なくないお金を払っている。
可処分時間の使い方が。
問われて久しい今の世の中。
娯楽が溢れ返ったこの時代で。
数限りある時間を何より費やしている。
ファンは作り手ではない。
だからといってコンテンツと無関係ではない。
むしろ誰より顧客という当事者で。
金と時間を投資したステークホルダーだ。
蔑ろにしていい筈がない。
そっぽを向かれたらもう終わりだ。
何せ世の中に娯楽は溢れ返っている。
代わりなんて幾らでもある。
掴んだファン。
最早それは契約にも等しい。
なのに自らの手で切り離す。
そんなのはただの自殺に等しい。
客が口を出し過ぎるのも問題だが。
売り手が勝手に商品仕様を変更したら。
クレームが入るのは当たり前じゃないか。
ビジネスであれば当然だろう。
売り手の都合だけで変えられたら。
買い手は溜まったものじゃない。
世に出したキャラの扱いを変更したり。
暗に処女性を商品価値に含んでいるのにスキャンダル。
そんな内容物を勝手に抜き取るような真似。
商品価値を棄損したら、怒られるのは当たり前だ。
信頼は積み上げるのは難しく。
崩れ去るのは一瞬とよく言う。
ありとあらゆるコンテンツは。
誠実でなければならない。
期待を裏切ってはならない。
コンプライアンスが煩い時代。
それは基本だろう。
ちなみに殺伐とした糾弾だが。
実は真逆のいいエピソードもある。
それはDr.スランプアラレちゃんだ。
鳥山明先生の代表作。
アラフォー以上なら誰もが知ってる。
一世を風靡した大人気作だ。
その主人公のアラレちゃんは、女の子型のロボットだ。
そして眼鏡をかけている。
コレはロボットなのに目が悪い、という。
ナンセンスギャグのつもりで始めたもので。
いずれ眼鏡を外す予定だったらしい。
しかしアラレちゃんは、最後まで眼鏡をしていた。
これはなぜか。
実は小さな女の子からのファンレターに。
こんな事が書いてあったらしい。
自分は目が悪くて眼鏡をしているのが嫌いだったけど。
アラレちゃんが眼鏡をしているから好きになれた。
高度情報化社会のこの世の中。
一度世に放ったものは。
良くも悪くも消えないものだ。
消えない何かを残すなら人間。
アラレちゃんの眼鏡を残したいものだ。




