リオコは火星でホットケーキを(こっそり)焼いて食べたい
拙作SF「Vermilion noon,indigo sunset 火星コロニー『リトプス1』の日常」からのスピンオフ(というか小噺)です。リオコに限らず大人も大好きホットケーキ。で、好きなものは一人でこっそり食べたくなるでしょ?
部屋を片付けてたら、荷物の奥からホットケーキミックスが出てきた。
火星には甘いものがないからって持ってきたんだった。幸い今日は休み。誰にも内緒で作ろう。だって四人前しかないから。
おっと状況説明しとくわ。ここは火星。オリンポス山東麓の地下にある「リトプス1」っていう建設中のコロニーの中で、今私は自分の部屋にいる。今日は休みの日。手にはホットケーキミックス。
◇
「リオコ。」
隣の部屋のアニタが来た。
「ドライヤー貸して。私の壊れちゃった。」
はいはい。
「ありがと。」
どういたしまして。
「なんかいい匂いするわね。」
なんて鼻が効くのまだ袋も開けてないのに。
まあどのみち作り始めたらばれるか。
その前にお湯を沸かそう。コーヒー淹れたい。
あ、IHコンロの電源が入らない。故障だ。
◇
アニタに頼んで、食糧生産部のキッチン開けてもらった。
これが失敗の始まり。アニタの部屋で作っちゃえば良かったのよ。
「ホットケーキって何?」
パンケーキの事よ。日本ではホットケーキって言うの。
「袋の写真なんか分厚いけど。」
日本ではこれが普通よ。
「オコノミヤキなら大阪で食べたことあるわ。」
あれは野菜とか肉が入る甘くないやつ。これはスイーツね。
あ、卵がない。牛乳も。
料理担当のソフィさんに豆乳を分けてもらう。卵はなし。
「リオコいいもの持ってたわねー。」
荷物整理してたら出てきたの。
「トウモロコシ粉は?ギリシャでは普通入れるんだけど。」
◇
これで三人。あと一人で定員ね。
そう思ってたら、電源管理の李さんが来た。
「ニラは入れないの?」
それはチヂミだから。
◇
あとはもう順不同で、色んな人が覗きに来た。駄目よ四人前しかないんだから。
粉に水と豆乳を入れて、よく泡立てる。
キッチンの中、もう十人以上居るんだけど。
みんなボウルを覗き込んでは、あれが入ってないこれはどうしたとか大騒ぎ。
ちょっとボウルに触らないで。
あ。
手が滑った。
◇
ボウルが床に落ちて、ホットケーキが台無し。
思わず涙ぐんだら、みんな静かになっちゃった。
「ごめんねリオコ。お詫びに今日はみんなにホットケーキ作るわ。」
◇
火星に今ある材料で工夫して作る、ソフィさんのホットケーキ。
粉は試作の小麦。砂糖はアリ君が作る人工光合成品。豆乳は火星産大豆。なんとか作れそう。
やがて、いい匂いがしてきた。
◇
食堂に座って、みんなでホットケーキを食べる。
みんな甘いものは久しぶり。いい顔して食べてる。
ごちそうさまでした。




