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09 辞令交付

 


 1日目と同じように、各所を回って物資を回収すること数時間。

 昼頃になって、物資を一旦役場に下ろすためと、昼食を食べるために役場に戻ってきたんだが……到着してすぐに、俺達は『対策本部』に呼ばれた。


 どうも今から会議を行うらしい。昼食はもう用意してあって、食べながらでいいから参加してほしいとさ。


 会議室に行くと、出来立ての美味しそうなおにぎりが、1人2つ、机の上に置いてあった。付け合わせに漬物やみそ汁もある。


 漬物はわからないけど、おにぎりとみそ汁はどう見ても、レトルトではなく手作りって感じだったんだが……聞けば、避難民の中から、お母さん・おばあちゃんたちが有志で手伝ってくれて、役場職員達の分も含めて炊事を担当してくれたらしい。

 こんな時だから、みんなでできることをやって助け合わなきゃいけないでしょ、って言って。


 昨日会ったおばあさん――店の商品を『お金なんかいいから持ってけ』って言ってくれた人――といい、こんな時だからこそ、人の優しさや温かさ、ってものが身に染みる気がする。


 創作の、映画とかマンガとかだと……いや、そうでなくてもこういう災害時って、余裕がないから人々の心が荒んで、争いや物資の取り合いに発展したりする描写が結構あったと思うんだが……いい意味で予想を盛大に裏切られ続けてるな、今。

 いつかテレビで、『地域で助け合う時代は昭和で終わった』『今は隣に住んでいる人にも無関心な時代になってる』なんて言われてた気がするが……なかなかどうして、そうでもないらしい。


(俺、自分では割とドライな方だと思ってるんだけど……こんな風に優しくしてもらえると、あの人たちのために何かしてあげなきゃ、って気になるな。それも含めて、悪い気分じゃない)


 ま、これに関しては……ここが都会じゃなくて田舎だから、っていうのもあるかもしれないが。

 面積からして狭い町だし、役場が正真正銘地域密着な感じで機能してるから、なのかな。距離が近いし関わる機会も多いから、お客さん達に対して、あんまり他人って感じがしづらい部分があるんだよな。


 それこそさっきちらっと触れた、地域で一緒になって協力して、子育てに限らず、農業や福祉、イベント運営や施設の管理まで皆で行うみたいな文化が、まだ根強くある気がする。

 人と人とが関わる温かさ、みたいなものが、日常の中にきちんとあるのだ。


 いやもちろん。都会が冷たいところだとは言わんけどね?

 ぶっちゃけ、人口少ないから、皆で協力しないと色々成り立たないから、成り行きで協力してるみたいなところだってあるし。


 さて、田舎町賛美はこのくらいにして……本当に食べながら会議が始まった。

 まず最初に、ネットで情報を集めていた広報企画課の方から報告があるらしい。


「えー、それでは報告させていただきますが……最初にお断りしておきます。あまりいい知らせではないです。人によっては食事が喉を通らなくなるかもしれませんが、食べなきゃ働けませんし、作ってくれた方々にも申し訳ないですから、無理やり腹に詰め込んでください」


「なんて前置きと共に話し始めるんだお前は」


「だってホントのことですし、取り繕ってもしゃーないし」


 会議出席者のほぼ全員が『えー……』な顔になる中、さすがに総務課長がツッコミ入れてたが、言われた側……広報企画課の宮野課長は、しれっとそう返して話し始める。


「我々広報企画課では、昨日の午後1時16分、この異常事態発生当初より、何かしらの情報を手に入れるため、公営・非公営を問わず、ネットのニュースサイトなどを回って監視していました。その中で、複数のサイトで同一あるいは類似の情報を確認できたものについて、ある程度の信ぴょう性がある情報だとひとまず判断しましたので報告させていただきます」


 そのまま報告された内容は……確かに、いい知らせとは言えないものだった。


 結論から言って、この『全世界同時多発ARサイバーテロ事件』は、発生からそろそろ24時間が経過する今もなお、解決終息の兆しは見えていない。


 名称に関しては、ネット上でおおむねこの名前が使われているからということで、仮にだがここでもそう呼称することとする、とのことだ。

 ……実際には『テロ』なのか『誤作動』なのか、そのへんも含めてほとんど何もわかっていないのだが、人の手が入っていないとは思えない個所がいくつもあることから、ネット上では『何らかの組織による無差別テロだ!』という見方が大勢を占めるようで。


 ま、考えても調べても答えが出ないんだ、気にしても仕方ない。

 それよりも、報告の内容だ。解決の兆しが見えないって点。


 ネットの記事……海外のそれも含めて自動翻訳を駆使して集めた情報によると、やはりこの混乱は日本だけでなく、世界中で起こっているらしい。

 多くの国や地域で、この六川町で起こっているのと同じようなモンスターパニックが起こり、都市機能がマヒし、対応すら満足にできないまま被害は拡大の一途をたどっている。


 ただ、それら全てが壊滅状態、というわけではなく……やや自画自賛になるが、うちみたいに、即座に対策本部を立てるなりなんなりし、情報共有を進め、きちんと『有効な手段』をもってこの事態の対応できた自治体などは、割かし無事でいられている……らしい。


 ……逆に言えば、『有効な手段』をもって対応できなかった場合は、悲惨の一言。

 その『手段』を思いつけなかったパターンもあれば、そんな悠長なことを言っている暇もなくてとにかく何かしら対応しなければならず、その方法が間違っていた、というパターンもあった。


「何度もしつこいようですが、この資料に乗せてあるのは『比較的』信ぴょう性が高い情報です。たしかな事実だと確認できたわけではないのですが……今、世界で起こっているであろう事態について説明するのに都合がよかったので載せました。資料4ページの地図と写真をご覧ください」


 言われた通りに電子資料を読み進め、そのページを見る。もちろん、周りの人達が『ゴスペルギア』で空中に投影しているのに対して、俺と麻里奈はノートパソコン型のデバイスの画面上で。

 表示された資料には、どこかの国の地図と、そこで撮影されたと思しき写真が……


「……何ですかコレ? ドラゴン?」


 写真には、巨大なドラゴンが映っていた。翼膜の張った翼が背中に生えてる、西洋タイプのが。

 周りにある建物とか、足元にいる人間とかとサイズ比較して……大きさ10mくらいはあるな。……これ、この事件で出てきたモンスターの1匹なのか?


 しかも、写真を見る限り、炎ブレス吐き出してるし……


 こんなのが出現して暴れたら、都会だろうが田舎だろうが大変なことになるぞ。今日、さっき戦ったあの熊ですら、比較対象としてあまりにも心もとない危険度だろう。


 見回してみる限り、出席者ほぼ全員そういう感想を抱いているんだろう。顔色が青いが……しかし中には、別な理由で顔色を悪くしている者もいた。

 真剣な顔で資料を読んでいた、小林係長がそれに気づいて、挙手。


「すいません、宮野課長。自分の勘違いでしたら申し訳ないのですが……この、ドラゴンの写真と一緒に資料に乗っている地図、この場所が、写真の場所……ドラゴンが暴れた場所ですか?」


「そのようにネットの情報にはありました」


「そうですか。この地図の場所ですが、自分の記憶が確かなら……原発がありませんでしたか?」


「「「…………っ!?」」」


 その言葉に、ほとんどの会議出席者がぎょっとする。


 俺もあわてて地図を見返すが……ダメだ、わからん。

 国内ならともかく、他国……世界のどこに原子力発電所があるかなんて情報知らないから、見たところでわからん。むしろ係長よく知ってたな。

 地図から読み取れるのは……この地名たしかあの国か、くらいのものだ。


 俺の無知については残念だが、そんなことは放っておいて話は進む。


「付け加えてまだ不確かな情報ですが、この、原発にドラゴンが出たという報告以外にも、重要な施設の近くに『モンスター』が出現したという情報は多数ありました。それは、大量の兵器が保管されている軍の基地であったり、数千人の患者を収容している巨大病院であったり、様々です」


「……現場のチームからの報告では、モンスターの攻撃を受けると、電子機器が動作不良などを起こすようだと聞いていますが……」


「ええ、そのようです。そして、今言ったこれらの施設においてそういった被害が発生した場合……想像もしたくないような、掛け値なしの『惨劇』につながるでしょう」


「……実際にそうなったんですか?」


「残念ながら、最終的にどうなった、という情報については、手に入りませんでした。単に我々が見つけられていないだけならばまだいいのですが……」


「『どうなったか』を外部に発信することができなくなった……そういう可能性もあると」


「……先程述べた例の中で、軍事基地がモンスターに襲撃されている例があったかと思いますが、そのモンスターに対して、現地の軍は通常兵器……すなわち、銃火器類を使って対抗しようとしたようです」


「! それ……意味ないですよね?」


「いや、むしろ逆効果だろう」


 モンスターに対して効果があるのは、データ武器による攻撃のみだ。それ以外はほぼほぼ有効打にならない。


 まあ一応、モンスターに対して……データ武器以外の攻撃が全く無意味なわけじゃない。ごくわずかだがダメージは入るし、思い切り大きな衝撃を叩き込めば、体勢を崩したりすることくらいはできるようなんだ。


 だがこの場合、問題はダメージの有無じゃない。

 モンスターは所詮はデータだ。攻撃されると痛い、死ぬことがあるとしても、データである以上……現実に存在しているわけじゃないのだ。そこに『いない』怪物なのだ。


 そんなところに銃火器なんぞぶっ放したら……普通に通り抜けて、その向こう側に飛んでいく。そして、そこにあったものに当たる。建物か、家具か……人か。

 大量に出現したモンスターに、軍隊が組織的に抵抗してそんなことやらかせば……跳弾、流れ弾、フレンドリーファイアで大変なことになる。


 あるいは……極端な例を言おう。

 午前中に戦った熊みたいな、大きくていかにも強そうな敵を相手にするのに、拳銃やサブマシンガン程度じゃ心もとないだろうから、そうだな……グレネードランチャーやロケットランチャーでも持ち出したとする。そして、使ったとする。


 でもそれは、モンスターに当たっても爆発しないわけだ。当たり前だ、そこに居ないんだから。

 そして、すり抜けてその向こう側に飛んでいくわけだ。……果たしてそこに何がある? あるいは……いる?

 味方の兵士か、建物か、物資か……火気厳禁の兵器保管庫か……原子炉か……。


 世界各地で過去に起こった『原発事故』……その被害と同じようなことが、繰り返されて起こるかもしれないと思うと……

 同じ理由で、病院や軍事施設で、モンスターの攻撃で機械類が誤作動、動作不良……生命維持装置が停止するとか、保管されていた爆薬がドカーンとか……。


 さらに言えば、モンスターの攻撃に対して、装備を整えて『防御』することは意味がない。

 ライオットシールドや防弾ベストなんてものを用意しても、相手の攻撃はそれらをすり抜けてくるんだから、意味をなさない。

 あっさり無視されて攻撃され、悲鳴を上げて動かなくなる味方。

 それを見て余計に焦り、手元が狂って誤射・誤爆が増えて……。


 ……こんなやばい予想がいくらでも出てきてしまう。


「ネット上には、地震かと思うような衝撃を感じたとか……キノコみたいな形の煙が上がってるのを遠くの空に見たとか……そんな情報もありましてね」


「おい、それ、『アレ』がどっかの国で起爆したんじゃ……」


「混乱をあおるための冗談だとしたら不謹慎極まりないですが……いっそ不謹慎でいいので、冗談であってほしいと願うばかりです」


 資料にはほかにも、モンスター退治のためにミサイルが発射されて、しかしモンスターと一緒に町を破壊したとか、人が大勢死んだとか……そんなニュースも数多あったそうだ。


 ……デスゲームだけでもヤバい状況だと思ってたけど、それどころじゃねえなコレ?

 その影響が現実の世界、この『超情報化社会』のあちこちに現れて、世界が物理的に滅茶苦茶になり始めてるんじゃないのか……!?


「どれもこれも、目を覆いたくなるような情報ばかり。ネット上の情報ですから、デマもいくらか含まれているでしょうが……『ありうる』ことばかりなのが頭の痛い所です。ただ、そういう情報を片っ端から漁って見ていた中で……いくつか、気づけたことがありました」


 次のページへ。


「世界各地の大都市から、地方の……行ってしまえば、田舎町などまで、モンスターの出現・目撃情報を調べてみたのですが、どうも、規模の大きな都市ほど、モンスターが多く表れているようです。また、目撃されたモンスターも、強力なものが多いようです」


 資料にもそんな感じの内容が書かれてまとめられている。

 各国の規模の大きな都市には、見上げるほど大きな鬼や悪魔、ドラゴンといったモンスターが出現していて、猛威を振るっている。市民達がこぞってSNSに情報を乗せているようで、簡単に情報が手に入ったそうだ。


 それとは対照的に、まさにこの『六川町』もそうなわけだが……一般に『田舎』と言えるような、発展度合いや人口に置いて、大都市に大きく劣っている場所では、そういうのは見つけられなかった。

 単に発信されているデータが少ないだけ、見つけられなかっただけかもしれないが、少なくとも目に見える限りでは、だいたいが俺が今日戦った熊みたいなのがMAXのようだ。


 人口や発展度合いに応じて、出現するモンスターの強さや量が決まるのか? それとも、ただ単に面積が広いから、それに応じて沢山モンスターが湧いたように見えただけか……


 それと、写真見ていて気づいたんだが、モンスター、かなり色々な種類がいるんだな?


 俺達は、ゴブリンやコボルトみたいな、ファンタジー系の連中しか見てこなかったし、ドラゴンもその系統に分類できるんだろうが……広報企画課がネットで集めてくれたモンスターの情報の中には、それとは全く別ジャンルなモンスターも記載されていた。

 率直に言って……『出てくるゲーム違うよな?』というような奴らが。


 背中に蝙蝠の羽が生えて、紫色の肌の……悪魔みたいなモンスターや、その逆?で、純白の翼を持った、天使そのものって見た目のモンスターもいた。

 鋭い牙や鉤爪を見せつけながら、のっしのっしと歩く、1億5千万年前の地上の覇者達……恐竜の姿をしたモンスター達もいた。

 これらはまあ、まだファンタジー系になんとか分類できそうではある。


 けどさすがに、UFOから降りて来て人間を襲う、なんていうんだっけコレ……リトルグレイ?みたいな見た目の奴ら。これはさすがに違うだろ。

 かとおもえば、宇宙スペクタクルの映画やドラマに出てきそうな、自立行動するロボット兵士みたいなものもいるみたいだし……ファンタジーじゃなくてSFってパターンもあるのか。


 それから、まあ、いるんじゃねえかと思ってたけど……ゾンビな。

 サバイバルホラー系統のアニメやゲームで出てきそうな、薬品やウイルスで蘇った系の『あ゛ぁー……』ってうめき声上げながらのろのろ歩くグロい見た目の奴。これもいるようだ。


 さらに紛らわしいというか厄介なことに、見た目が完全に人間にしか見えない――というか、キャラクターとして『人間』なんだろう――しかし、実在の人間ではなく、敵クリーチャーである、というようなのまでいた。……FPSの世界からでも出てきたのかね?


 そして、個人的に一番ツッコミどころが大きかったのは……特撮ヒーローから出てきたとしか思えない、怪人や雑魚戦闘員ちっくな見た目の奴らまで出現していたこと。

『Eeeeee!!』とか奇声を上げながら襲い掛かって来たらしい。……残念ながら、それらの専門家であるヒーローはいないので、引き立て役とかじゃなく本気で人類の脅威なわけだが。


「バリエーション豊かっすね、モンスター……」


「いや、ここまで来たら『節操がない』って言った方がいいんじゃないからしら。世界観滅茶苦茶だし……このテロをやった連中、どんな基準で出現するモンスターを決めたんだか」


「そんなことは今考えても仕方がない。……これからどうするべきか。それが問題だ」


 ため息をつきながらも、そうはっきりと告げて全体の空気を引き締める総務課長。


 全員の視線が自分に集中したところで、放し始める。手元に新たにウインドウを展開して表示した、自分用の読み原稿らしき資料を参照しながら話すようだ。


「ここでまず総務から報告だが、つい先ほど、県庁を介して政府から連絡が来た」


「「「っ!?」」」


 俺を含め、全員が息をのむ。

 この異常事態に際して、ようやく行政機関としての上……のさらに上である、政府から、何か指示や連絡事項が来たのか。今後の方針や予定見込みが示されたのか、と。


 しかし、総務課長の顔色は悪い。……それだけで、俺達が期待しているような連絡ではなかったんだろうな、ということだけは、ひとまずわかった。わかってしまった。


「本日午前11時00分時点の政府からの通知では、現在発生しているARにおける異常事態について、原因及び解決方法に関する調査は上手くいっておらず、解決の兆しは立っていない。今後、新たな情報が入り次第連絡するので、各自治体は、関係機関と連携の上……」


 この後しばらく、政府から送られてきたらしい通知の音読が続いたが……要約すると、『解決の目処は立っていない』『規模が大きすぎて政府では助けられないので、しばらく各自治体で頑張って耐えて』という感じ。

 ネットの情報に加えて、政府の公式見解でも……短期での解決が見通せない、ということがはっきりしてしまった。この『非常事態』……長期戦になる。


 そして、そう言い切った後で……総務課長は、自分のすぐ横に座っている人に視線をやった。


 ここまで触れてこなかったが、そこには……これまでの『対策本部』の会議には出てきていなかった、ある人が座っている。

 ここ六川町の『町長』その人だ。


 今までももちろんこの役場内にちゃんといたんだが……『対策本部』に顔はあまり出していなかった。

 他の市町村の首長や、他の関係機関と連絡を取ったり、町長だからこそ今できること、しなければならないことをするために、ずっと町長室であちこちに連絡したり、資料に目を通したりしてたそうだ。


 本来なら、総務課長以下の事務方が普段はやるようなことでも、彼らには『対策本部』に力を入れてほしいからってことで。

 副町長(元町職員)と一緒に、普段なら職員がやるようなことも含めて自分がやって、あちこちと連絡を取り合って確認を進めて……という風にやっていた。


 そのうち、ネットが満足に使えなくなると、今度は避難民の人達のところに顔を出して、話を聞いたり励ましたりしていたそうだ。

 見る機会はなかったけど、できることを一生懸命やってくれているんだな、と思った。


「今後もしばらくの間、避難生活が続くと考えられます。また、それが終わっても直ちに元の生活に戻れるかと考えると……その旨、避難している町民の皆さんに伝えなければなりません。対策本部の責任者として、私の口から伝えてもいいのですが……彼らが望む内容を告げられないことや、今後もこの生活がしばらく続くことを考えると、少しでも町民に安心を与えるため、可能な限り町としての誠意ある対応を見せた方がいいかと思われます。ですので……」


「ああ、わかった。俺の口から話そう」


 総務課長からの提案に、1も2もなく了承する町長。

 町民との関わりを、町民に寄り添ってその声を聴くことを普段からの信条としている人なので、提案に関してはもっともだとすぐに納得したんだろう。

 ……なんだったら、何も言わなくても『私の口から言おう』とか言い出したかもしれない。そういう人だ。


 総務課長は『ありがとうございます』と頭を下げて町長に感謝すると、そのまま続けて、俺達職員への指示出しを始めた。


「今言った通りだ。この事態、未だに解決の兆しは見えず……それに伴って、我々の『対策本部』としての対応も、このまま長期戦にもつれ込む可能性がたかい。ひいてはこれより先、この災害時対応が長期間継続していくこと、その間、避難民として役場、あるいは周辺施設に滞在し続けることになると前提を定めて動いていくことになる!」


 広報企画課は、引き続きこの事態に関する情報の収集、


 農政課は、農業協同組合やその他農業関係の各団体や業者と連携し、食料等の物資の確保や流通の調整。


 町民課と健康福祉課は、避難民の人達の対応や管理、それに精神面や医療面のケアなどを協力して行う。


 建設環境課と教育委員会は、今もなお町内の各地に残っているであろう、助けを待っている町民達の救出や、町内の各所から物資を運び出して分配するための運搬役。


 その他、あちこちの部署の割り当てが発表されていき……最後。

 俺達『対策本部』所属のメンバーは、これまでと同じく、物資の回収……しかしこれは今後、今言った通り建設課と教委がやってくれる。


 なので、あくまで俺達は、メインとしてはモンスターの討伐。

 兼ねて、そのモンスターが落としたドロップ品という『データ資源』の収集。

 次点で、そのルート上にある、現実の物資の回収……といったところ。


 この先しばらく、今のメンバー……に、さらに何人かプラスして、本格的にモンスターの討伐を行っていくことになった。中~長期間、本腰を入れて。この事態が解決するまで。




 それともう1つ、変わったことがあった。

 各部署の業務の割り当てが決まり、『今後頑張って行こう!』ってなった後に、付け足すように発表されたことなんだが……なんか、このタイミングで、その『部署』を1つ、新設することに決まったらしいのだ。

 俺達、モンスター駆除チームについて。『対策本部』のメンバーからの抜粋であると同時に、そのために設立された部署の職員、って立場にするんだと。


 必要か必要ないかで言われれば、こんなん別に必要じゃないだろう。

 単なる茶目っ気というか、遊び心というか……まあ、こんな事態だから、少しくらい気分転換にでもなれば、と思ったのかもしれない。


 ……繰り返しになるけど、モンスター退治っていう俺らの仕事も、この先しばらく続いていくことに決まったからな。気がめいらないように、気を回してくれたのかも。


 けど、まさか辞令をきちんと発行して、辞令交付式までやるとは思わなかった。無駄に本格的にやるのな。


 まあ、別に受けたからって損をするわけでもない。やることが変わるわけでもない。

 なので、言われたとおりに拝命することにした。『遊び心』に乗らせてもらうことにしよう。


 本来なら、スーツ着て革靴履いてネクタイもしめて、きちんとした格好でやるべきなんだが、何分こんな状況なので、作業着にスニーカーのまま失礼。

 総務課長らも『まあ急だし仕方ないだろ』『予告も何もしなかったしな』と容認してくれた。


 会議室の前の方。町長が待っているところまで進み出て、一礼。

 辞令交付だから、交付してくれるのは町長だ。……もしかしてこのためもあって、今日、会議に出席してたのかも?


「辞令。黒田響平。総務課防災対策係主任を命ずる。兼ねて―――」



 ―――六川町『仮想害獣対策室』室長を命ずる。六川町長、工藤誠一郎」



 所属が防災になるところまでは予想できた。

 が……何か、新設された部署の『室長』なんてものになってるのは予想外だったんだが……ていうか、職名も『主事』だったのに『主任』になっちまったし。


 しかも名前……『仮想害獣対策室』? また、洒落た名前つけたもんだな……。

 『仮想』『害獣』とは……うまいこと考えたな。個人的にはカッコいいと思うが……一体誰が考えたんだろうな。


 何にしても、これから忙しくなりそうだ。





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