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15 急展開

 


「それで、ここ数日の『夜勤』とそれに伴う調査で判明した、いくつかの事実について説明させていただければと思います。まず初めに、兼ねてから昼夜共通の重要調査課題となっていた、モンスターのリポップについてですが……」


 今日も今日とて、『対策本部』で行われている定期報告。

 プレゼン役は変わらず俺ではなく、石栗さんにお願いしているが……回を重ねるごとに彼女の説明や進行が上手くなっている感じがする。


 経験を重ねて、っていう理由以上に、彼女、こういうのに向いているのかもしれないな。

 同じように『対策本部』で行われる他の課の報告その他を見て聞いて、その良かった点や改善すべき点を自分のプレゼンに上手く反映させて、日に日にわかりやすくなってる気がする。


 プレゼンしている内容や、今の状況がこんなんじゃなかったら、先輩、ないし上司として普通に喜べたと思うんだがな……。

 いや、それを言ったら、『こういう状況』にならなきゃ、俺と石栗さん、真田と麻里奈……部署がバラバラ(麻里奈に至っては部外者)の4人がこうして同じ係に所属して、協力して戦うことになる……なんてこと自体なかったんだけどな。


 あ、ちなみに今更だが、麻里奈の立ち位置は、役場の『臨時職員』という立ち位置になってる。

 正職員じゃないが、役場で働いている……非正規雇用というか、バイトというか……何て説明したらいいものか難しいな。まあ、そういう立場で、仮にだが『役場』所属として雇用されている。


 状況が状況だし、雇用と言っても給与なんて出ないから、単なる協力体制、っていうのが実態だけどな。

 一応、このデスゲーム状態が何らかの形で解決した際には、何らかの報酬的なものは出されるかもしれないそうだが、前にもちらっと触れた通り、今の社会は、貨幣経済そのものが息をしていないような状況なので、それも可能なのかどうか。可能だとして、一体いつになるのか……。


 ま、考えても仕方ないそのへんは置いといて……今ちょうど石栗さんが、ここ数日で新たに分かったことを報告している。

 それは、吉報と凶報の両方を兼ね備えた知らせでもあり……聞いていた総務課長達は、なんとも言葉にしがたい微妙な表情を浮かべていた。


「……再出現(リポップ)、だったか? やはり、するのか……」


「今のところ、限定的な条件下のみ確認できている事例ですが……そのようです」


 異常発生当初からの懸念だった、モンスターの再出現(リポップ)。ここにきて、それが『ある』ことが確認できた。できてしまった。

 ただし、全てのモンスターが状況を問わずそうなのではなく……どうも、一部のモンスターのみが再出現する仕組みになっているようだ。


 最初にそれが確認できたのは、『夜』の狩りの中でだった。

 寺や墓場で出てくるゴースト系モンスター。それに、『洋館』に出現するゾンビ達。

 こいつらが、前日に確実に狩りつくしたはずなのにも関わらず、翌日の夜、また行くと復活しているのである。単に見逃していただけではありえない数や密度で現れているため、明らかに『復活している』と、すぐに察せた。

 ゾンビの方は、配置されてる位置や、そのゾンビの服装まで同じだったからな。余計に分かりやすかった。


 加えて、昼のモンスターの一部もリポップしていることが、その少し後の調査で分かった。

 ただしそれは、無差別にどこででも起こっているわけではなく……


「以前、総務課長から指示を受けて私達『対策室』のメンバーが赴いていた……『これまで確認していなかった場所』の一部に、モンスターがリポップしていると思しき状況が確認できました。その瞬間を目撃したわけではありませんが……こちらもゾンビやゴースト同様、前日中に狩りつくしたにも関わらず、翌日行ってみると、同種のモンスターがある程度の数復活していました。中には、ボスモンスターが復活していた場所もありました」


 例えば、川岸の空き地で大量のリザードマン、そしてその親玉のリザードマンロードと戦ったことがあったが……そこにいた奴らは既に狩りつくしていたのに、数日後に行くと、ロードを含めてリザードマン達が復活し、たむろしていた。

 そこでまた殲滅し、そしてさらにその翌日行くと……やはり復活していた。


 ただし、数はだいぶ少なかった上に、ロードは復活していなかった。


 それからさらに数日間、毎日そこでリザードマンを狩っていると、雑魚リザードマンは毎日ある程度の数が復活するんだが、ロードは数日経過したところでようやく出現した。


 これらのことから、いくつかのことが推測できる。


 モンスターのリポップは、ある程度場所や時間的に限定されたところでのみ起こるということ。

 リポップには一定のペースがあり、雑魚敵は毎日ある程度の数リポップするが、ボス級の奴は数日に1体ペースでしか出現しないこと。

 そして、リポップしたモンスターは、そのリポップ地点の周辺でのみ行動し、それよりも外に出ては来ないようだ、ということ。


 3つ目については、モンスターがリポップしているのに俺達がそれに気づけなかった理由の1つにもなっている。リポップしたモンスターが、リポップ地点付近から離れず、他の……俺達が探索している範囲に現れることが無かったからだ。

 このことから、モンスターがリポップする場所は、そのモンスター達の『巣』みたいな感じなのかも、と今のところ考えたりしている。


 もっとも、このルールも『確実にそう』とは言えないから、今後も色々観察や検証が必要になっていくんだろうけどな。

 ゲームやマンガでもよくある話だ。例えば、基本的にモンスターはダンジョンの中にしか出現しないけど、放置しすぎるとそのダンジョン内がモンスターであふれかえって外にまで出てくる……なんてことが起こったりもする。いわゆる『スタンピード』って奴だ。

 そういうのが起こらないとも限らないしな。リポップするモンスターがある程度の数で止まるのかとか、時間経過で際限なく増えるのかとか……注意して観察していくのは必要だろう。


 モンスターのリポップは、『倒し続ければモンスターを根絶できるのでは』という希望が失われたという意味では凶報だ。

 しかし、モンスターを倒すことで手に入るデータ物資を、リポップする限りいくらでも得ることができるという意味ではありがたくもある。ポーションに砥石に、その他色々、このARデスゲームと化した世界で生き抜いていくためには、いくらあっても困らない……どころか、ガンガン必要になっていくであろうものばかりだからな。


 ただし、ボスモンスターを倒した時にドロップする武器は、2度目以降倒してもドロップすることはなかった。どうやら、初回限定のボーナス的な扱いらしい。


 リザードマンロードの薙刀『黒顎』や、その他のボスドロップ武器を量産して役場職員達に配布できれば、避難所の防衛もだいぶ楽……を通りこして万全になると思ったんだけどな。残念。




 俺達『対策室』からの報告はそんなところだったんだが、この日は他に、企画調整課からも報告が上がってきていた。

 相変わらず……というと言い方がアレだが、ネットを漁って情報収集を続けてくれているんだが……そこで進展がなかったらしい。


 言い間違いではない。進展が『なかった』。

 あるいは、『なくなった』。それが、報告の内容なのだ。


「災害発生当初は、あちこちから……ニュースサイトや災害伝言板、SNSや動画投稿サイトなどに頻繁に投稿があり、それらを元に世界の状況などの情報を得ることができていたんですが……ここ最近、そういった投稿がほとんど見られなくなりました。おそらく……そんな余裕もなくなってきているところがほとんどなのでしょう」


「それに加えて、参照していたSNSや動画投稿サイトなどの一部のサービスが閲覧不可能に、あるいは閲覧環境が不安定になってきています。規模の大きな大手のそれが特に顕著で……結果として、急速に外部の情報が手に入らなくなってきています」


「……この混乱で、そういったサイトやサービスの管理運営ができなくなっているからだろうな。システムによる自動的な処理だけでは追いつかない情報量、システムへの負荷、バグやエラー……そういったものに対して、普段であれば逐一SEが対応するのだろうが……」


「この状況でそんな『通常業務』をやっている余裕があるわけもなし……そもそもSEが生きているかもわからないし、生きていたとしても仕事なんてしてる暇はないだろうな」


「災害時に人と人とをつなぐツールとして機能させる、っていう意味で言えば、その『通常業務』には立派な意義があると言えばあるんだけど……それができるかどうかは別問題だしな。まして、自分自身がその災害のさなかにいて大変な時だ。できなくなっても責められはしないだろう」


 これらの予想が正しいとすると……今後、ますますネットはあてにならなくなっていくと見ていいだろう。それどころか、今は当たり前に……ではないけど一応使えている他の機能も、もしかしたら今後使えなくなっていくかもしれないわけだ。サーバーのメンテナンス不足で。


 今の社会を『超情報化社会』たらしめていた数々の便利なツールが、使えなくなっていく。

 半面、この混乱を作り出している元凶たるデスゲームは残り続ける。

 なんとも……むなしいというか悔しいというか、言葉にするのが難しいものを感じるな。今まで人々の暮らしを豊かにしてきたものが、人々を苦しめることしかできなくなっていくのは。


 ……別に俺、それらのシステムに何か携わったとかそういう立場でも何でもないんだけどな。


 しかし、モンスターのせいで流通はもちろん、人の行き来も全くと言っていいくらいできなくなっているんだ。この上さらに、ネットでの通信による情報交換すらできなくなっていくとすれば……最終的に、『旧時代』以前の、最低限の情報交換・共有すらおぼつかなかった時代に逆戻りしてしまうんじゃないか。

 いや、むしろもう既にそうなっていると言っていいんだろうな。他県や都市部の現状がどうなっているのか、もう既に、まるでわからない状態なんだから。


 結果、俺達は今目に見える範囲だけを見て、自分達にできることだけをやっていく……そんな、よく言えば、今できる限りのことを、悪く言えば、その場しのぎで場当たり的な対応を繰り返して、皆の命を繋いでいくしかないのだ。

 もちろん、それに意味がないとは思わないから、引き続きやるべきことは全力でやるが。


 ……しかし、考えれば考えるほど、いらんことが思い浮かぶというか、見たくもない現実を直視しなきゃいけなくなって……気が滅入るな。

 必要な報告、情報共有だったのは間違いない。間違いないけど……後味が悪い……。

 報告した企画調整課の代表者も、苦虫をかみつぶしたような表情のまま、報告を終えて席についていた。




 幸いと言っていいのか、そんな報告の後に続けられたのは……健康福祉課と町民課による、決して悪くはない内容の報告だった。


 報告と言っても、内容は単純で、『食料などの物資の調達・管理は順調にいっています』ということだけだが。

 ……だけだが、これが結構大きいというか重要というか。


 前にも言った気がするが、こういう、日常崩壊系というか、モンスターやゾンビで社会がパニックな展開のマンガや小説にお決まりの展開と言えば、割と相場は決まっている。


 物資……特に食糧が少なくなって、生活が苦しくなって。

 一向に改善しない状況に、不満と不安が溜まっていき、それもあって人間関係がギスギスし始めて、だんだんと避難民達の集団生活・助け合いが立ちいかなくなっていって。

 しまいには争いからコミュニティの崩壊を招いたり、食料の奪い合いに発展したり、その果てに色々なモラルハザードが起こったり……そんな感じだ。


 しかし幸運にも、今、俺達のところでそう言った問題はほぼほぼ起こっていない。


 何といっても、相場としてこういう時に不足しがちになる食料が十分にある点が大きい。

 今はちょうど秋、すなわち、米を含む様々な作物の収穫時期である(あるいはすでに収穫を終えたタイミングでもある)。加えてここは田舎町。農家の数が多く、さらに1件1件が結構な規模の農地で作物を大量に作っている。

 本来であれば、農協などの業者を介して流通に乗せられるそれらの作物であるが、そうせずに町内での消費に回せば、食料不足とは無縁の生活をしばらくは続けられるわけだ。


 具体的にどのくらいかといえば……米だけなら、まず年単位で飢えることはない。

 他の作物……大豆とかそば、その他野菜類もそれなりに量はある。まあ、米に比べれば全然少ないから、全く枯渇しないってのは難しいかもしれないが……ビニールハウスなんかも活用しつつ、適宜生産を続けていければ、こちらも何とかなるだろう。


 不安があるのは肉……つまりは動物性たんぱくだが、町内には畜産農家も一応いる。養鶏場で卵が取れるし、肉牛や豚もいる。あと乳牛も。

 潤沢にとは言えないだろうが、何とかなるだろう。他、タンパク原としては大豆もあるし。


 ペース配分さえ間違えなければ、そして不測の事態を極力避けることができれば、繰り返しだがしばらくは食糧不足で飢えることのない生活を続けて行けるだろう。

 それだけでも随分、先行きは……比較的だが明るくなる、と思う。


 食糧問題がないのに加えて、田舎って言うのは普段から互いにコミュニケーションをよくとっている人達が多い。町内会皆顔見知り、友人関係、みたいなもんだ。

 気心の知れた間柄であるからこそ、いざって時に仲たがいするのではなく、むしろ家族間のように助け合う方向に自然と向かっていく。これがまた大きい。


 人間皆、自分のことが一番かわいい。いざって時になったら、他人を気遣ったり助ける余裕なんかなくて、自分のことだけを考えて動き出す生き物だ。


 ……なんて風な話を色々なところで耳にするけど、『そんな戯言は知らんな』とばかりに、当然のように協力して乗り越える方向に進んでいくこの町の人達はホントすごいと思う。この町に住んでいることを誇りに思えるレベルで、ホントそう思う。


 お母さん達、おばあちゃん達は協力して避難所の掃除や避難民達……だけでなく、役場職員の皆の分も料理を作ってくれるし、お父さん、おじいちゃん達は、必要な力仕事や大工仕事でその都度進んでこなしてくれる。

 避難所の不便な生活も、何かしらのトラブル発生時も、助け合って乗り越えていっている。


 もちろん、この先ずっとこれを続けるのは難しいだろうが、さすがに数か月もすれば政府なんかも動いて何かしらの進展・改善が望めるだろうし――むしろそうじゃなきゃマジで日本、あるいは世界ヤバいだろうし――状況が改善するまでなら、この分なら、協力して乗り切っていくことも十分に可能だろう。

 だからそのために、俺達もできることを全力でやって彼ら彼女らを助け、支えて行……




 ―――ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 ―――ビーッ! ビーッ! ビーッ!




「「「…………っ!?」」」


 前触れも何もなく、唐突にそれは鳴り響いた。


 大音量な上に、音質的にすさまじく耳障りな……ブザーのようなその音は、まるで警報。ひどく不吉な響きをもって俺達の耳に届いた。

 いや、訂正。『耳に』届いたのは俺と麻里奈だけだろう……おそらく他の面々は、『ゴスペルギア』によって、脳で直接その音を聞いたはずだ。


 周りのリアクションを見るに、老若男女問わず、無差別にこのブザー音は鳴り響いたようだし。


 『対策本部』の会議が行われている部屋の外では、避難民の人達が『何だ何だ』と戸惑い、慌てていて、それを職員達が必死で落ち着かせようとしているのが、視界の端に見えていた。


 咄嗟に『何か手伝った方がいいか』なんて頭によぎったりしたが、そうするより先に、さらに事態が動く。

 俺達は今度は目で、追加で不吉なものを認識することになった。


 丁度その時、俺はここ最近――といってもこのモンスターパニックが始まる前だが――やったゲームで似たような場面があって、その時はこれに似た警報と同時に、自爆のカウントダウンが始まった施設から脱出するっていう展開があったんだが……それを思い出していた時に、突如目の前にタイマーが現れて、それがカウントダウンを始めたもんだからそりゃ驚いた。


(自爆装置!? いや、まさかないよな……何だこのタイマー? 何の制限時間かわからないけど……72時間?)


 表示が『72:00:00』から表示が動き出し、今は『71:59:47』になっている。

 これが『00:00:00』になった時に何かが起こるのは間違いないと思うんだが、果たしてそれが何なのか……その答えは、幸か不幸か、すぐに知れることとなった。



『モンスター襲撃警報!!』


『血に飢えたモンスターの大軍が、拠点名『六川町役場』に向けて進軍を開始している!』

『猶予時間内に準備を整えて、モンスター達を迎え撃ち、拠点を守り抜け!』



「「「…………」」」


 非常に簡潔でわかりやすい説明だったが……それでもいきなりのことだった上に内容がとんでもないせいで、かみ砕いて飲み込むのに時間を要したものがほとんどだった。

 その後、最初に口を開いたのは……総務課長。


「……タチの悪い冗談……ではないのだろうな、これは」


「残念ながら、マジでしょうね。こんな『地図』まで一緒に表示されているとなると」


 カウントダウンのタイマーと、不吉どころじゃないメッセージに添えて……目の前の空間表示されているのは、見間違いようもない、この『六川町役場』周辺の地図だった。

 自分達の職場なんだ。その周辺の地理も含めて把握してるし、そうだと一目でわかる。わかってしまう。


 そして、その役場に向けて……なんかどでかい矢印が描かれていて、しかもそれにドクロマークがついてる。役場の正面入口へ向けて、何かが向かっている、とでも言わんばかり……いや、何が向かっているのかなんて考えるまでもないんだろうが。


「……多少不謹慎な物言いになってしまうのは承知で……でもすぐには適当な言い回しが思いつかないんで、率直に言わせてもらいます」


 総務課長が口を開いてから、誰も何も言わない……言えないようなので、『仮想害獣対策室』室長として、俺が挙手して、口を開かせてもらった。

 皆が言いづらい、言いたくもないことを……それでも言葉にして確認しなきゃならん。


「これは恐らく、ゲームで言うところの『拠点襲撃イベント』です。おそらくこのカウントダウンが0になった時、すなわち今から72時間後に、このメッセージどおりに、モンスターの大軍が……この役場を襲撃してきます。プレイヤー……つまりはここを仕切っている我々役場職員、および有志で協力してくれている町民各位は、準備を整えたうえでそのモンスター達を迎撃し、この拠点を、そしてここにいる町民の皆さんを守らなきゃいけません。そういう、イベントです」


「そんな理不尽で物騒なイベントがあってたまるかよ……!? ふざけてるのか!?」


「誰がそんなクソみてえなイベントなんぞ企画しやがったんだよ!? このサイバーテロを起こしやがった犯人達か!? くそっ、一体何者が……何だってこんな!」


「やめろ……言っても仕方ない。犯人もわからなけりゃ、わかったところでどうすりゃいいかもわからないんだ……なら、この危機をどう乗り越えるべきか、それを話し合わなきゃいけないだろう」


 現実ないし事実を俺が言葉にして突きつけたことで、今度は口々に思いのたけを――ほとんどが怒号や悲鳴として――吐き出していた会議参加者達。

 しかし、何を言ったところで結局は『どうしようもない』という結論で終わってしまう。


 ならばこそ、その『どうしようもない』状況の中で最善を尽くすべく、これから何をすべきかを話し合うことになった。

 事態が『モンスターの襲撃』だということで、この先の会議は、そのモンスターの専門家的に扱われている俺達『対策室』主導で進められることになった。


 と言っても、やるべきことは単純だ。別に会議して決めるようなことじゃない。


「このメッセージだけでは、どんな種類のモンスターが、どれだけの数攻めてくるのか……そのあたりが全くわかりません。ただ、ゲームとしてお決まりのパターンであれば、これまで我々が戦ったことのあるモンスターが現れるはずです」


 大軍の襲撃イベントってのは、数と勢いがその危機感を演出するフレーバーだ。

 今までは少数ずつ戦っていたから楽勝だったモンスターが、見たこともないほどの数一気に現れる、というのがインパクトと絶望感につながる。


 同時に、これは俺のゲーマーとしての感覚というか印象なんだが、こういう『数』を敵側の強みに据えた襲撃イベントでは、全く未知なモンスターが大軍で現れるということは少ない気がする。

 プレイヤーの印象が『あんなに敵がたくさん…』とか『1匹1匹は弱い奴らばかりだけどこの数はまずいって!』というような感じではなく、『何だあのモンスターは?』という方向に移ってしまい、数と勢いのインパクトの邪魔になるからじゃないか、と個人的には思っている。


 もちろん、この法則が正しいって保証はどこのいもないし、結局は何が出て来ても対応できるように準備しておくのが一番、ないし必須なんだろうがな。


「恐らく襲撃イベント発生時に押し寄せる敵モンスターの数は、このサイバーテロ発生直後に役場入り口で繰り広げられていたアレとは比較にならないそれになるはずです」


「マジかよ……あれでも俺達結構ギリギリだったんだけど……」


「ギリギリ(アウト)な」


「まあ、今なら色々武器や物資もそろってるし、あの頃よりは割と善戦できそうだけどな……でも、比較にならないくらいの大軍……しかも、あの時にはいなかったモンスターも出るんだろ?」


「モンスターの種族については何とも言えないですが、俺達『対策室』がこれまで町内で戦ったモンスター達については、全て情報を可能な限りまとめて『対策本部』で報告・共有してあります。庁内のクラウドサーバーに、レポートにまとめて、画像やムービー付きで保存してあるので、各自で時間見つけて可能な限り閲覧・把握しておいてください」


 襲撃イベントの際は、もちろん『専門家』として俺達『対策室』メンバーが戦うつもりではいるが……『大軍』とまで言われる規模なんだ。俺達4人……いや、実働戦闘メンバーはそのうちの主に2人っていう体制で止めきれるとは思えない。

 俺と麻里奈は、モンスター達に無双こそできるものの、そのモンスターから味方を守ることには向いていないのだ。いっそ、モンスター達が全部俺達2人だけに襲い掛かってきてくれた方が楽と言えば楽なんだが、それはさすがに、ヘイト集中アイテムの『呪いの鈴』を使っても無理だろう。


 どうしたって、真田や石栗さん、それに他の役場職員達や有志の協力者達にも戦ってもらわなきゃいけない。そうしないととても回らない。


 その為に必要なのは……大量の武器と、物資。


 モンスター達を倒すための、少しでも性能のいい武器を、予備も含めて少しでも多く。

 その武器を修繕して繰り返し使い続けるための『リペアキット』も、これも多く。


 モンスターに攻撃されても耐えられるように、防具やアクセサリー、そして回復用のポーションも少しでも多く。


 そして、そのためには……


「俺達だけじゃ足りません。戦闘もそうですが……その前準備としての物資調達も、手の空いてる職員や協力者にも手伝ってもらって進めなきゃいけない。『大軍』とまで言われるモンスターが攻めてくるんであれば、そのくらい大量の物資がいると思います」


「これまで『対策室』の探索で、結構な量の物資を集めて来てくれて、備蓄もあるはずだが……足りないというのか?」


「どれだけの規模の『大軍』が来るのかわかりませんから。希望的観測で『最初のイベント戦だしそこまで多くないだろ』なんて楽観的に構えるわけにはいきません。セオリーなんて無視して殺人的な量がぶっこまれてくるかもしれないし、それで後れを取ってしまえば、失われるのはリアルの人命です。防衛戦力の面々を含めて、全員の人命を守り切るなら、過剰なくらいの備えは必要です」


 戦闘要員には、なるべく高性能な武器を人数分……いや、予備を含めてその数倍は欲しい。

 敵の攻撃から身を守る防具やアクセサリーも、予備含めて1人で複数個持っておきたい。


 武器を修復するリペアキットや、体力回復……というか、攻撃によるダメージを取り除くポーションもだ。


 特にポーションは人数分×ストレージの枠カンストするくらい持っておきたい。

 少しでも攻撃を食らったら即座に回復して、常に最高のパフォーマンスを保てるように。近くにくらった奴がいたら取り出して助けられるように。

 痛みで怯んでそのまま立て続けに攻撃を食らい続けて負ける、っていう事態を避けるために。


 とんでもない量が必要になるかもしれないが、一番弱いゴブリンやコボルドでも頻繁にドロップするアイテムだし、それらの『巣』の位置も把握できているので、集めるのは難しくないと思う。

 大人数で役割分担して、効率よく集めることができれば、だが。


 もう、俺達……『ARD』で無敵な2人だけとか、『対策室』の4人だけが動くだけでどうにかなるレベルの事態じゃない。

 総力戦だ。準備段階から、皆で力を合わせて立ち向かって……この危機を乗り越えないと。





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