14 ゾンビ
手強い。
ゾンビも手強いが、それ以上に、ホラーゲームというこの状況、ないし設定が手強い。
普通にその辺にいて、見つけ次第襲ってくるゴブリンとかと違って、ここにいるゾンビ達は、ほぼ毎回奇襲で……というか、びっくりする、怖がらせるような演出で出てくるんだよ。
ジャンプスケア、って言うんだっけか、こういうの。
曲がり角の先から突然現れる。
扉を開けたらその先に出待ちしている。
階段を登ろうとしたら上から転げ落ちてきて登場。
階段を降りようとしたら下りた先に複数待ってて、しかも登ってくる。
ベッドの下に潜んでいて、そこから足をがしっとつかんできて、這い出してくる。
俺じゃなくて真田がそれくらって、めっちゃびっくりしてた。
倒したと思ったら実は死んだふりで、起き上がって再度襲ってくる。
通路を通ってる時に窓をガッシャン音を立てて破ってダイナミックエントリー。
なお、もちろん窓は実際に割れるわけじゃなく、そういう映像演出。
たった今俺達が通った扉を、閉めた直後にその扉を開けて入ってきて、後ろから襲い掛かってくる。……絶対ゾンビなんかどこにもいなかったにも関わらず、湧いて出る。
扉の前を通ろうとしたら『ガチャガチャガチャガチャ!!』ってドアノブを回す音がして、まず驚かしてくる。
恐る恐るその向こうを確認しても何もおらず、『何だよ……』って安心して扉を閉めようとしたところで、ガシッと扉をつかんで出現してこじ開けて入ってきて襲ってくる。だからお前絶対どこにもいなかっただろ今!
よくもまあこんだけレパートリー考えたなってくらいに、多彩な方法で驚かしに来てくれて……俺的にもこれまでで一番しんどい探索だわ。
攻撃効かねえってわかってても、びっくりするのはどうしようもないからな。心臓が……。
そして、最初のゾンビの時にも思ったことだったんだが、やはり……こいつら、耐久力が他の雑魚モンスター達に比べてやたら高い。
どうも、ゾンビは個体ごとに耐久力にばらつきがあるようなんだが、総じて高く……頑丈な奴だと、俺の『タイラントクロー』を使った拳でも、一撃では倒せず、2~3回殴る羽目になった。
真田の棍棒だと、大体平均して3~4回ってところ。多い時は10回以上必要だったが。
そして今回、石栗さんには……さっき拾った新武器『拳銃』の性能テストのため、それを使ってもらっている。
拳銃は、弓矢と同じく遠距離武器なわけだが……これも弓矢と同じように、構えるとレーザーサイトみたいに照準が視界に現れ、撃つとどこにあたるかを教えてくれる。
ゾンビは動きが遅いので、落ち着いてよく狙い、照準を合わせて打てば、当てるのは結構簡単にできた。
しかし、やはりというか……頭に命中させても1発や2発では倒せず、それどころか怯みすらしなかったりするので、何発も打ち込む必要があった。
ゾンビを倒すと、結構な確率で弾薬をドロップする。俺や真田も倒しているので、今のところ弾不足にはなっていないが……。
ただ、拳銃に関しては、ちょっと不思議なことがあった。
何度目かの実験の時、いつも通り頭を狙って撃ってもらったわけだが……その際、たったの1発でゾンビを仕留めることができたのである。
しかもその際、ゾンビの頭が吹き飛んで首から上がなくなるという、色んな意味で衝撃的な光景が……。
それが起こった際のダメージエフェクトが、赤じゃなくて黄色い光だったので、クリティカルが起こったことはわかったんだが……クリティカルのダメージ増はせいぜい数倍程度のはず。一撃で倒せるような威力にはならないと思うんだが……
ひょっとして、拳銃で攻撃してクリティカルを出すと即死判定になるのか……それとも、拳銃でゾンビを攻撃して、かつクリティカルが出た時の特殊演出なのか……色々調べてみる必要がありそうだな。
それから、拳銃を使った戦闘には、1つ注意点、ないしデメリット的な仕様があった。
高威力の攻撃を遠距離から叩き込める拳銃だが、撃つたびに『反動』がある。具体的には、撃つと少しだけ手が痛くなる……とのことだ。石栗さんによると。
立て続けに何発も売っていると、その手の痛みが積み重なって、動かすのがつらくなってくる。最後には撃つどころか、握っていることもできなくなってしまいそうだ、とのこと。
その痛みは、ポーションをかけたら直ったので、やはりデータ的な痛み……すなわち、拳銃を使って攻撃した際に起こる『仕様』としてのデメリットなんだろう。
試しに真田にもやってもらったところ、同じように痛みを感じたらしい。
誰が使っても同じくらい痛むのか、それとも人によって違うのかは気になったが……比べるのが難しいのでそこは保留にした。
なお、ポーションを使わなくても、しばらく待てば痛みは治まるらしい。時間や状況に余裕があって、物資を節約したい場合はそうしてもいいかもな。
そしてその反動の痛みだが、防具やアクセサリーで軽減することができなかった。
防御力を上げても下げても、感じる痛みや、何回くらいで持っているのがつらくなるのか、そのあたりに差がなかったのだ。
軽減する手段がないのか、それとも別な方法を使わなければならないのか……これも、どうやって調べればいいのかはわからんけど、今後の課題だな。
☆☆☆
洋館はかなり広い上、上は3階、下は地下室まであって階層があって、とても一晩で調べつくせる広さじゃなかった。
いや、やろうと思えばできないことはないんだろうが……いつどこからゾンビが出てくるかわからんから、気を張り詰めながら慎重に進んでたからな。時間かかるんだよ。
そのせいで、一通り調べ終わった頃には、日付が変わっていた。
あらかじめ役場には『遅くなります』って連絡は入れておいたが……これまでで最長の勤務時間になっちまったな。
しかし、それに値するだけの収穫はあった。
拳銃や弾薬を手に入れられたことや、その仕様にかかる情報、ゾンビという敵に関する情報や注意点なんかもそうだが……何より大きな成果が2つ。
1つ目は、拳銃以外にもう1つ、さらに強力な武器を手に入れられたこと。
―――ジャコッ! ズドォン!!
ポンプ音を響かせて弾丸を装填した真田が、それを構えて撃つと……目の前に迫ってきていた2体のゾンビのうち、前側にいた1体の頭が消し飛び、一撃で葬った。
さらに、その後ろにいたもう1体のゾンビも大ダメージを受け、大きくのけぞった。そこに今度は石栗さんの拳銃が火を噴いて、残った方も仕留める。
「威力やべえな。さすがというか……やっぱゾンビ相手にはショットガンだな!」
「腕は大丈夫か、真田?」
「ああ。反動は……拳銃より倍以上きついけど、我慢できる範囲だ。それに、頭に当てれば一撃で倒せるから、連射しない限りはあんまり問題なさそうだし」
真田が使ってみている武器……散弾銃。探索中に拾って手に入れた。
ゾンビが出てくるホラーゲームではかなり御用達と言っていいんじゃないか、そう思えるほどにメジャーな武器だ。
真田が言っていた通り、これがまあ協力で……専用の弾丸は必要だけど、複数のゾンビをまとめて攻撃できる上に、頭に直撃させることができれば、確定でクリティカルが出て、一撃で倒せる。
いや、本当に『確定』なのかはわからないが……今のところ、4回やって4回ともクリティカルなので、そうでなくても相当高い確率でクリティカルが起こるんだろうと思われる。
ただ、射程距離が拳銃よりも短く、さらに反動が大きい点がデメリットだが……それを補って余りあるくらいに強力だ。攻撃性能は、棍棒やタルワールなんかのボスドロップ武器と同等か、それ以上じゃないだろうか。
あと欠点として……銃火器である以上当然だが、弾薬が必要な点だな。これもゾンビからドロップしたけど、ハンドガンの弾よりも確率が低い感じがしたので、レア度は高そうだ。
ハンドガンの弾共々、使うのには慎重になった方がいいかもしれない……
…………と、思っていたんだが。
さて、大きな収穫、そのもう1つについて説明がまだだったな。
それが何かというと……今まさに俺達が直面している、この状況がそれにあたる。
―――ガシャァン!
―――ああぁあ゛あァ……!
「次来たぞ、真田、行けるか?」
「ちっと反動きついかも……しばらくショットガン休むわ。棍棒で行く。石栗さんは?」
「私もちょっと手が痛くなってきたので、弓矢で援護します!」
「わかった。大体は俺がやるから、漏らした奴だけ頼む。やばそうなら我慢しないでポーション使って一瞬で治せよ? まだまだおかわりはいくらでも来るんだからな!」
そう言って俺は、窓ガッシャンで飛び込んできた新手のゾンビ達に向き直る。立ち上がり、のそのそとした動きでこちらに向かってくるそいつらに接敵して……顔面目掛けて拳を叩き込む。
それを繰り返して、襲ってくるゾンビ達を全員叩き伏せる。
床に倒れて少しすると、解けるようにその死体は消えていき、ドロップアイテムだけが残る。
そして、それらを回収したあたりで……
―――ガシャァン!
―――う゛あ……ああぁあ゛ァ……!
「はっはっは……入れ食いだなおい。よォしどんどん来い!」
新手のゾンビ達がさらに現れる。
これをもう、30分くらい続けている。
どういう状況かというと。
まずここは、洋館の中にあった、礼拝堂らしき場所だ。何でこんな部屋があるんだか……ここの元の家主って、クリスチャンだったのかね? まあいいか。
ここに俺達が来たのはついさっきなんだが、入ったと同時に『ガチャリ』と音がして鍵がかかり……閉じ込められてしまった。どうやら、トラップルームだったらしい。
……と、思ったら、普通に扉は開いた。
閉じ込めたんじゃないのかよ、と思わず突っ込んでしまったんだが……そりゃ、ゴスペルギアが作用できるのはあくまで人間の感覚だけだから、物理的に扉に干渉して『施錠』することなんてできないよな。当たり前だ。
一応コレは、ゲーム設定的には、扉に用意されたパズルを解かないと外に出られない、というものらしい。これもARで、それらしいパズルが扉のすぐ横に出現していた。
解くのはそんなに難しくはなさそうだったんだが……問題は、ただ閉じ込めるだけの部屋じゃなかったことだ。
俺達を閉じ込めたと同時に、窓を突き破って、何体ものゾンビがダイナミックエントリー。そのまま襲ってきたのである。
どうやら、ゾンビの攻撃を防ぎながら、あるいはゾンビ達を倒してからパズルを解いて脱出する……というのがこのトラップルームの仕様らしい。
そしてこのゾンビ達、全滅させると一定時間で再度湧いて出るようで、パズルを解いて部屋を脱出しないと、何度でもゾンビと戦わなければならないのだ。
普通の人なら、こんな状況地獄でしかない。焦ってまともに回らない頭を精一杯使って、どうにか早くこのパズルを解いて脱出しないと、延々ゾンビに襲われて、いつかは……という感じになるわけだからな。
が……逆に考えれば、この部屋は……脱出しない限りは、いくらでもゾンビのおかわりがやってきて、無限湧きするそいつらと戦って倒し続けられるわけだ。
そして、ここに沸くゾンビ達は……きちんとドロップアイテムを落とすのだ。
つまりここは……外に出ずにずっととどまり続けていれば、無限にゾンビ達を倒し続け、弾薬を回収できるという、最高の狩場なのだ。
そして、もしここでゾンビ達と戦う手段が、銃火器だけ……ハンドガンやショットガンだけであれば、ドロップアイテムで補充できる弾薬と、ゾンビ達を倒すための弾薬でトントンか、あるいはわずかに黒字程度かもしれない。反動もあるし、じり貧になってしまう危険もある。
が、俺が殴ってゾンビを倒してしまえば、弾薬消費なしで回収し続け、圧倒的黒字に持ち込むことができる。俺が撃ち漏らした奴だけ、真田と石栗さんに倒してもらえばいいしな。
あと欠点としては、決して狭くはないが広くもないこの部屋で、見た目的にきついゾンビの大軍を延々相手にしなきゃいけない……しかも俺の場合、至近距離で殴り倒さなきゃいけない点だが……もうそろそろ慣れたわ。
とまあ、そんな感じで延々倒し続けて……ハンドガンの弾もショットガンの弾も、全員持てる限界まで回収するまで戦いまくった。
そして、『そのアイテムはこれ以上持てません』という状態に全員がなったところで、とっくの昔に解き終わってたパズルを完成させて部屋を出た。
時計を見て見たら、日付が変わってさらにしばらく経っていた。いやあ……時間を忘れて資源回収しちまってたわ……。
役場の人達は心配させちまったかも。それに関しては謝らなきゃな……けど、今夜のこの収穫を知れば、きっと喜んでくれるだろうし、今後の戦いの役にも立つだろうし。
どんな風に運用するかも含めて、『対策本部』に……総務課長達に相談して、話し合って決めてもらわないとな。
あー疲れた……さあ、帰って寝よう。
☆☆☆
その後……っていうか翌日。
昼頃に、昼食時に合わせて開催された『対策本部』の会議で、俺達が昨日持ち帰った情報……『銃火器』が手に入ったことと、その弾薬をいくらでも調達できるめどが立ったことが、報告情報として全体に共有された。
これまでの武器達にまして、わかりやすく強力で、なおかつ遠距離での攻撃が可能な武器とあって、対策本部……特に、俺達が不在の間に、モンスターが侵入してこないように警備・迎撃を行う担当としてローテーションに組み込まれている面々の喜びは大きい。
俺達が持ち帰った防具やアクセサリーで固めて、敵の攻撃をある程度減衰させることはできているものの、近づいて刺されたりかみつかれればやはり痛い。
だから、近づかなくても敵に痛打を与えられるような武器は……そりゃあありがたいだろうな。
なお、俺達は今の近接武器で事足りているので、望まれればハンドガンとショットガンは、防衛担当のチームに譲り渡すつもりでいる。
試しに今日1日、貸し出して使ってみてもらって、使用感が問題なければそれも視野に入れて検討する……という感じにまとまった。
ただ課題として、その弾薬を手に入れるためには……定期的に、少なくとも数日に1度くらいのペースで、あの『洋館』に行かなければならない。しかも夜。
そして、あのトラップルームにこもって、無限湧きするゾンビ達を延々倒し続け……さらに可能であれば、収支を黒字にするために、弾薬をあまり使わず近接武器でそれをやる、というのが必要になってくるわけだ。
あの時は、ゾンビ相手、というかデータモンスター相手なら無敵である俺がいたから、そうする選択肢がそもそもあったが、そうでない人がやるには危険が大きすぎるよなコレ……。
ゾンビは1体1体がかなり耐久力が高くて、ボスドロップ級の武器でも複数回攻撃するか、銃でクリティカルでも出さないと素早く倒すのは難しい。そして、無限に湧いて出るゾンビ達を素早く倒し続けるということができないと、食いつかれて死ぬことになる。
つまり、数日に一度くらいのペースで、俺達『仮想害獣対策室』があそこに狩りにいかなければならないわけだ。
まあ、行けと言われれば別に行くけども……
(麻里奈は担当から外していいか、総務課長に後で聞いとかなきゃな。ゾンビが相手の時だけは、連れて行っても戦力にならねえし)
結局あの洋館で、デバイスを再び着けることなく、最後まで俺達についてきた『だけ』になってしまった幼馴染のことを思い出しつつ、俺はため息をついた
そして、この数日後に再び行った『洋館』で、また新たにいくつかの事実ないし情報を発見して持ち帰ることになるんだが……それはまあ、またの機会に、ということで




