13 念願の…
ここ3日間、いや4日間か。夜限定のモンスターの討伐を進めてきた俺達『対策室』。
もちろん、昼夜逆転した生活を送ってるわけじゃなく、昼間に少しだけ昼寝をして、いわゆる『寝貯め』をしておいて、その分を使って少し夜更かしして……って感じである。健康への影響は最低限にしなければならないってことで、睡眠時間は確保してあるのだ。
……寝貯めして夜更かしするってのも、決して良くはないことなんだけどな。まあ少しならいいだろうってことで。
その程度のことはしても仕方ない、と思えるくらいには、夜行性モンスターの情報や討伐は重要だし……それ以上に、そいつらからとれるアイテムが有用だった。
3日前に行った自然公園とかでは、予想通り昼間はいなかった蛾や蝙蝠、蛇や猫系のモンスターが出現した。蝙蝠は昼間も橋の下とかで出てた気がするが、その時よりも大っぴらに飛び回ってたから、『夜行性』って設定で配置される敵なんだろう。
虫は強くはなかったが、見た目が気持ち悪かった……巨大な節足動物って生理的にアレな嫌悪感を催すよな……人によるのかもだけど、俺はちょっとダメだわ。
ひらひら飛んで鬱陶しい上に、的が小さいから攻撃が当たりにくくてイライラしたな……当たりにくいだけで、狙って回避とかしてくるわけじゃないから、当たる範囲が広くなるように大振りで殴ったり、引っ掻いたりすれば割と行けたが。
逆に、猫系は、雑魚敵はともかくボス級がヤバかった。何でこんな田舎町にクロヒョウが出るんだって思わず突っ込んじまったよ。ネコ科だけどさあ……日本で野生の、ネコ科の大型肉食獣って違和感ひどかった。
そして、強かった。というか、動きが速すぎて、俺も麻里奈も攻撃当てられなくて超苦労した。ヒット&アウェイ主体で攻めてくるから、相手の攻撃に合わせて殴らないといけなかったし、こっちは虫と違って避けるもんだから余計に……。
その前日の夜、ゴースト退治の時に手に入ってたあるアイテムがなかったら、もっと苦労してたか……あるいは、車の方で待機させてた真田と石栗さんの2人にも被害が出てたかもしれん。
2日目に行ったのは、昼間に行った時に、不自然なくらいモンスターがいなかった場所。こちらも予想通り、夜行性モンスターが湧いていた。
しかし一方で予想外だったのは、そこに居たのが人間だったことだ。
訂正。『人間型のモンスター』だったことだ。
ゴブリンやリザードマンみたいな、骨格が人の形をしてるっていう意味の『亜人系』ではない。本当に人間にしか見えない見た目をしているモンスターだ。
ほら、RPGとかでも、『盗賊』とか『敵国の兵士』的な感じで、どう見ても……っていうか確実に人間だけどモンスターとしてのくくりで襲ってくるやついるじゃん? それ系。
しかも日本語喋るもんだから、さすがに驚いたけど……よく観察してみれば、目が光ってるし、『死ね!』とか『みぐるみはいでやるぜ!』とか、定型文しか喋る様子無いし……これはと思って、試しに『デバイス』外して裸眼で見てみたら、消えるんだもんよ。
泥棒とか悪者は夜に動く、的な理由で昼間は出てこなかったのかね?
こんなパターンもあるのかって、驚きと呆れが入り混じった不思議な感情になりつつも、モンスターなら何も遠慮する必要ないなってことで、殴って消滅させた。
なお、ボス的なのは特に出なかった。
そして昨日。初日に行ったのとは別な寺や墓地に行っての調査。
2カ所行ったんだが、その両方で驚かされたことがあった。
片方では、出てきたのは、初日にも見たゴースト系のモンスター達で、特に変わり映えはしなかったんだが……出現したボスが違った。
特に井戸とかがないお寺だったからなのかはわからないが、墓場の中に、ゴースト達と一緒に、それがフワフワ浮いていた。
最初は、ボロボロの布切れみたいなのが風で舞ってるのかと思ったんだが、よく見るとそれは人の形……に、近い形をしていて、布切れじゃなくて法衣やローブみたいなゆったりした衣類だとわかった。
袖の部分からは、白骨の手が覗いていて……頭の部分もまた、肉も毛もついていない頭蓋骨だった。白骨死体が襤褸布の服を着て、フワフワと飛んでいた。
そしてそいつは、俺達に気が付くと、眼窩の奥の赤い光だけの目をきゅぴーん、と光らせて……何もない空中から、その手に巨大な鎌を取り出して襲ってきたのだ。
ここでようやく、『ああ、死神だったのか』って気づいた。
窯が振るわれるたびに、ぶぉん!ってやたら大きな、危機感をあおるような風切り音が鳴ってたから……もし俺達が無敵じゃなかったら、あの一撃でヤバいダメージをもらってたんじゃないかと思う。
ゲームにもよるけど、『死神』って、『死』の『神』っていうだけあって、凶悪なくらい攻撃性能高い設定だったりするからな……それこそ、即死攻撃とか使ってきたりとか。
万が一を考えて、今回も俺と麻里奈だけで対応してよかった。
時間はかかったが、クロヒョウの時と同じ、攻撃してきた瞬間にノーガードでこっちも飛び込んで殴る、の繰り返しで倒せた。
で、もう片方のお寺では……出てきた雑魚敵の種類からして違った。
『餓鬼』って言ってわかるかね? ゴブリンの和風版みたいな……やせた体に不自然に膨れた下っ腹が特徴的な、妖怪とか化け物の類。
それに加えて、『提灯お化け』とか、『一反木綿』とか、まさかの『妖怪』カテゴリーの敵が出てきたのだ。
怖い……とは思わなかったし、強くもなかったけど、一気に和製ファンタジーっぽい世界観で戦うことになって、驚いたやら妙にテンション上がったやら……。
提灯お化けなんか、口から火の玉吐き出して攻撃してきたからな。ここにきてとうとう、物理的な攻撃じゃない、魔法要素というか、ファンタジー要素的な攻撃を使う奴が出て来たか。……今回の提灯お化けのこれは、魔法の火の玉なのかブレス系攻撃なのかはわからんが……まあいいか。
そして、ボスもこれまた妖怪系だったんだが……ヤバかったのはその大きさである。これまで戦った中で最大級だった、あの熊のモンスター。あれを超えて記録更新してきた。
墓場の地面を突き破る感じで出て来たのは、巨大な骸骨のモンスターだった。おそらく、『がしゃどくろ』あたりだと思うんだが……その大きさたるや、ゆうに6m以上はありそうだった。
しかも、出てきたのは上半身だけ……腰のあたりから上だけだったんだが、それで6mだ。
幸いと言っていいのか、下半身は埋まったまま、墓場から動かなかったんで、懐に潜り込んで殴りまくったら割と簡単に倒せた。攻撃もあんまり来なかったし。
大型モンスターって、懐に潜り込むと攻撃の死角だったりする設定が時々あるからかもな。
そういう、昼間でてくるモンスターとは、ジャンルからして割と全然違うモンスター達。
そして、そいつらが落とすアイテムも全く違うもので……そして、この間も言った通り、それらが割と優秀というか有用だったのだ。
故に、何日か連続で『夜勤』をすることになった。
昼のモンスター達が落とすのは、武器や防具、アクセサリーなど。毛皮や牙なんかの素材。そしてポーションだ。いかにもゲームっぽいものだと思える。
それに対して、夜のモンスター達が落としたのはというと。
まず、お札やお守り。これらはどうやらアクセサリーと同じ系統のアイテムのようで、持っていたり装備していると、敵の攻撃から身を守ってくれる効果があるようだった。
しかも、単に防御力を上げて痛みを減らすだけでなく、特定の攻撃に対してより有効、というようなものがいくつもあった。『物理ダメージを減らす』とか、『火属性のダメージを減らす』とか。
さらに、昼間ドロップされるものとは別な種類のポーション類。
具体的には、毒や火傷、麻痺などの、『状態異常』を直すポーションだった。
これらを手に入れた時、俺達は、『これでそういう状態異常になっても大丈夫だ』と安堵した半面……『あ、これらの出番がいずれくるってことですね』と理解して、素直に喜べない微妙な気分になった。
RPGあるあるだよな……宝箱とかから『毒消し薬』とかのアイテムが出てきた……ということは、この先にこれが必要になるような、つまりは毒状態にしてくるような攻撃を使う敵が出てくるんだ、という判断材料になる。
お札にしたってそうだ。物理攻撃だけじゃなく、火属性や水属性の攻撃……魔法的な攻撃を使ってくる奴が今後出てくるってことじゃん?
実際、提灯お化けが火の玉吐いて来たし……ああいうのが今後も増える見込みだと。
それから、『魔除けの鈴』というものがあった。
装備して歩くとちりんちりんと音が鳴って、弱いモンスター達を遠ざけてくれるというものらしい。一定時間使い続けると壊れるようだが。
これは特に有用なアイテムだと思う。俺達『対策室』メンバー以外が、移動や物資運搬などのために動く時とかに、モンスターに襲われるリスクを減らせる。
全く遭遇しないわけじゃないようだし、強いモンスターには効果がないみたいだから、過信は禁物だろうが。
そして、変わり種のアイテムとして……『呪いの鈴』というアイテムもあった。これは、『魔除けの鈴』の逆で、持っていると一定時間、モンスターに狙われやすくなるというものだ。
もし普通のゲームなら、レベリングとかをする際に、モンスターと遭遇しやすくなるためになら使い道ありそうではある。
そしてコレ、俺や麻里奈にとってはすごくありがたいアイテムだった。使うとモンスター達の方からじゃんじゃん向かって来てくれるから、こっちから寄って行かなくても、襲ってきたモンスター達を殴り倒すだけでいいから。
加えて、ヘイトが俺達だけに集中すれば、車の方にいる真田や石栗さんがより安全になるし。
さっき話に上がってきた、ヒット&アウェイがめんどくさいクロヒョウ型のボスモンスターも、コレを活用して倒した。思いっきり挑発して集中攻撃してくるように仕向けて、攻撃のチャンスを増やして……あとはさっき説明した通りだ。
そんな感じで、連日の夜勤で、物資的にも情報的にも成果を上げることができていた俺達だが……予定通りに行けば、今日が『夜勤』の最終日となるだろう。
そして、やってきたのは……『一番後回しにする』と決めていた、一番やばそうな候補地。
今から十数年前、ほんの一時だけ『リタイア後の隠居先』としてこの六川町が注目された時に、移住者によって建てられた……あまりにも場違いな雰囲気を醸し出している、『洋館』。
夜に訪れたらヤベーのが現れそうな候補地の、最後の一つにして最大の厄ネタ……だと、個人的には思っている。
なお、昼間に訪れても何も起こらなかったことは既に確認済みである。残念ながら。
なので、こうして夜に改めて来なければならなかったわけだ。残念ながら。
「ついに来ちゃったけど……見れば見るほど『出そう』な雰囲気だよねココ……」
「マジでどこの誰なんだろうな、こんなもん作って放置してる奴」
「事前に町民課の方から聞いてきました。家主だった人は既に死亡していて、諸々の権利は相続権者の方に移っているそうなんですが、その人は別な場所に家があるのでここに住む意思はないそうです。しかし、この通りあちこち痛んでいる上、かなり大きな建物なので、整備するにも撤去するにも費用がかかるとかで、そのまま手つかずで放置されている、というような状況ですね」
「よくある空き家と同じってことか……スケールはだいぶ違うけどな」
不気味なのもあるが、それと同じくらい……整備も掃除もされていない空き家ってのが二の足を踏ませる。主に衛生面での問題的な意味で。
一応、防塵性能のあるマスクとかは持ってきたが……環境が悪すぎて長居できないようなら帰る選択肢も検討しなきゃならないな。毎年子供達が肝試しに不法侵入してるくらいだから、そこまで汚くはない……と思いたいが。
軍手をはめた手で(その上からさらに『タイラントクロー』装備)ドアノブを回し、中に入る。
まず出たのは、やたらと広いエントランス。ひとまずモンスターの類は見当たらな……
―――うわああぁぁああっ!!
「……聞こえた?」
「「「聞こえた」」」
悲鳴……それも、人間のそれらしいのが聞こえてきたんだが。
「聞かなかったことに……はできないよな」
「二重の理由で無理だな。あの悲鳴が本当に人間のもので、例えば生存者がここにいて、今何らかのピンチに陥っているのなら、助けないといけない。もし、一昨日みたいな人型モンスターとかの声ならその限りじゃないが……今聞こえたあれだけで判別すんのは無理だろ」
「様子を見に行かなきゃいけないってことね……」
「そういうこった。……行くぞ、ゆっくり歩きながら、前後左右をそれぞれ警戒しながら進む。……あ、訂正、上も適宜警戒しろ」
ここは、見通しのいい空き地とかじゃなく、建物の中。視界的にも障害物が多くて、隠れようと思えばいくらでも場所がある。どこから何が出てくるかわからん。……怖いなコレ、結構。
言った通りにそれぞれで全方位を警戒しつつ、ドアを開けて、悲鳴が聞こえた方に進んでいくと……その部屋には誰もいなかった。
しかし、
―――よ、よせ、やめろ! こっちに来るな化け物……あ、あぁぁ……うぎゃああぁあああ!!
……断末魔、に聞こえた。
それがやんだ後……何か、ぐちゃぐちゃ、って、水っぽい、気味が悪い音が聞こえる。何かを食べているような、噛んでいるような音だ。
加えて、ハァ……ハァ……っていう息遣いみたいな音も聞こえてくる。
それらの、聞きたくもない音が……聞こえ続けている。
(洋館……ホラー……予想しないじゃなかったが……これはマジで『出る』かもしれん。雰囲気的にぴったりな『アレ』が……)
皆で顔を合わせて頷いて――麻里奈がもう既に半泣きで帰りたそうにしてるが――覚悟を決めて、そのさらに先にあったドアを開ける。
するとそこには、あおむけに倒れて動かない男が1人。
顔がここからでもよく見える。金髪に白い肌の……外国人の男性のようだった。目はカッと見開かれたまま……しかし、動く気配はなく、どう見ても絶命していた。
それは、彼の胸から首にかけてのあたりが、血で真っ赤に染まっていることからも明らかだ。
そして、その男性に覆いかぶさるように、顔を押し付けるようにしているもう1人の……体格からして男のようだが、それが、物音でこちらの存在に気づいたのか、ゆっくりと振り返る。
その口元は、血で真っ赤に染まっていて……目は、黒目がないかのようにどろりと白く濁って、何も映していない。半開きの口元は、不自然なほど歯をむいてよく見えるようになっていて……そこからぼたぼたと血や、何かの食べかすのようなものが流れ落ちてこぼれている。
今まで貪り食っていたであろう、その白人男性の血と肉だと、考えなくてもわかった。
そいつはゆっくりとした動きで立ち上がり……次の獲物に狙いを定めた。今、その濁った眼に映ってしまった、俺達に。
ボロボロの体に服、口からだらだらと血を流し、知性があるようには見えず、まるで死体が動いているかのような恐ろしい見た目。
うめき声を上げながら、よたよたとした動きでこっちに向かってくるそいつは、誰がどう見ても……
「あ゛ぁ……オ゛オ゛ォォあ゛ぁああ゛ァア―――!!」
……どう見ても……『ゾンビ』だった。
そして、
「い゛ぃぃいぃや゛ぁぁああ――――!!!!」
見た目的に、完ッ全に“アウト”だったらしい麻里奈が、ゾンビのうめき声を余裕でかき消す音量で絶叫し、すさまじい速さで動いて俺を盾にした。
……いや、いいけどな別に? こうなるかもとは思ってたし。……館に入って、どんどん顔が青くなっていく様子を見てたから。
でもお前、そんなためらいもなく味方を、しかも幼馴染をさあ……まあいいや。
ちらっと見ると、真田や石栗さんも、あっけにとられている。
真田はともかく、石栗さんも結構怖がってたように見えたんだが……なんか、震えも止まってるし、平気そうだな? 顔はまだちょっと青いが、そんなに怖がってはいないように見える。
……多分これ、『自分よりパニックになってる人が近くにいると、逆に冷静になれる』的なアレだ。麻里奈の怯え方とかリアクションが大きすぎて、石栗さんが冷静になったと見た。
麻里奈以外は大丈夫そうなので、ゾンビに視線を戻す。
近寄ってくるゾンビは、動きは遅い。ゴブリンより遅い。身のこなし的には今まで戦ってきた中でも最低レベルだろう……脅威に感じようがないレベルだ。
しかし、それを補って余りあるレベルで見た目が怖い。怖いし、気持ち悪い。
近づいたら、つかみかかってきてそのまま噛みついてくるんだろう。これまで同様、俺には別に効きゃしないんだろうが……それでも……やだな、噛みつかれるの。
つーか、近づきたくねえし触りたくねえ。なんかばっちい気がする。……殴りたくない。
(用意しといてよかった……)
念のためにストレージに入れておいた、タルワールを取り出す。サブ武器として持っておいたものだが……それを手に持って、ふるう。
つかみかかって来ようとしていた手を斬……うっわマジかよ、斬り飛ばせたけど……断面見えるし、飛んで床に落ちた手がびくびく震えててあっちも気持ち悪い。
「R18Gだなこりゃ……」
「気持ち悪いです……怖いのもそうだけど、コレ、無理な人はこの描写も無理だと思います」
後ろで見ていた真田と石栗さんも同意見のようだ。石栗さんなんか、口元に手を当てて……吐き気を我慢してるようにも見えた。視覚的にとことんきついぞこれは……
……麻里奈? 俺の背中に顔を押し付けて全てを見るのを拒否してるよ。
「麻里奈。マジで無理ならデバイス外せ。俺が全部やるから」
「あっ、そ、そっか! その手が……」
はっとしたように麻里奈は、かけていたゴーグル型デバイスを外して、それでも恐る恐る、再度前を見る。
ARDである麻里奈は、それがなければ……
「よ、よかった……ちゃんと消えた……! 怖かった……!!」
データモンスターであるゾンビを見ることも、唸り声を聞くこともできない。
薄暗い洋館の中っていうシチュエーションの気味悪さは健在だが、ゾンビが見えなくなっただけで安堵感は段違いのようだった。みるみるうちに顔色が元に戻っていく。
安堵のため息をついている麻里奈はひとまず置いといて……俺は再度ゾンビに向き直る。
両腕がなくなってもよたよたと近づいてくるそいつにとどめを刺すべく、タルワールを振るい、首と胴体を泣き別れに……うっそ、斬れねえの!?
「ああぁあ゛あァ――!!」
「うおわっ、無理!」
振り抜いたはいいんだが、首元から血は出るものの、切断はできず……さらには倒れることもなく、そのまま噛みついてきた。
とっさに拳を振り抜き、噛みつこうとしてきたその顔面に一撃入れると……吹っ飛んで仰向けに倒れ込み……動かなくなった。
死んだふりとかじゃないよな……?
……よし、ちゃんと死んだみたいだ。死体が空気に溶けるように消えていく。
斬り飛ばして泣き別れになった腕も、向こうの床の上で一緒に消えていった。
ああ、怖かった……作り物だし、攻撃が効かないと知っててもきついわ……
しかし、それ以上に気になることがある。
「……なあ真田。今のゾンビ、中ボスか何かだと思うか?」
「いや、出現する一発目のゾンビが中ボスってことはねえんじゃねえかな?」
「だよな。だとしたら雑魚敵か……いや、堅すぎね?」
タルワールで2回斬った上に、『タイラントクロー』で殴ってようやく死んだんだが。
このタルワール、ボスドロップの強力な武器だから、雑魚的なら1発、上位種でも2発攻撃すれば倒せる性能なんだが。実際今までも、ホブゴブリンとかコボルトソルジャーとかの、普通の雑魚敵よりも一段上のモンスター達が相手でも、1発か2発で倒せてたのに。
なのに、2回斬りつけてもこのゾンビは倒せなかった……それよりさらに攻撃力が高い『タイラントクロー』で殴ってようやく倒せた。
ゾンビ系が全部この耐久力を持ってるなら、動きが鈍いとしても……かなり脅威だぞ。
俺は効かないからいいけど、真田達は危ないかもしれん。
油断したり、一度に大量に向かってこなければ、ヒット&アウェイでどうにかなるだろうが……
麻里奈……は多分戦力にならんよなコレ。つか、カウントするのはかわいそうだ。
「あ……あの、お二人とも! ちょっといいですか!?」
対策を考えなきゃいけないかと思っていたところに、何か興奮した様子で、石栗さんから声がかかった。
いつの間にか移動していた彼女は、さっきこのゾンビが食い散らかしていた被害者である白人男性の死体のところにいた。
ちらっと一瞬だけ、俺もデバイスをずらして外してみる。白人男性の死体が消えた。
あれもやっぱりARのデータキャラクターだったようだ。おそらくは、ゾンビの登場シーンをより恐ろしく見せるための演出。
凝ってんなあ、と思いつつデバイスを元に戻すと、石栗さんが興奮した様子で小走りで戻ってきて……手に持っている、あるものを見せてきた。
それを見て……驚愕する俺と真田。
麻里奈は、デバイスを外しているので見えていなかったが、もうゾンビはいなくなったことを執拗に確認した上で再装着。そして、同じように見て、驚愕した。
石栗さんが右手に持っていたのは……
「これが……あの男性の死体のところに落ちてました」
それは、拳銃だった。スタイリッシュな見た目の、銀色の銃身の、ハンドガンだ。
詳しいわけじゃないので名前とかはわからん。リボルバーじゃなくてオートマチックだってことくらいしかわからないが……あ、でもアイコンが出てて選択できるな。
……『コルト・ガバメント』っていうのか。聞いたことあるようなないような。
そして、石栗さんの左手には……紙の箱。
パッケージには、銃弾のイラストが描いてあって、あまりにもわかりやすく『弾薬』だった。おそらくは、ハンドガンの弾……なんだろうな。
「こっちの弾……の箱は、今黒田さんが倒したゾンビの死体があったところに落ちてました」
「……ということは……真田」
「ああ、どうやら……怖いし堅いしでめんどくせえけど、ここでゾンビを狩るでかいメリット、ないし目的ができちまったらしいな……! あれ一匹ってことはないだろうしよ」
それを聞いて、俺も、石栗さんもこくりとうなずく。
俺は、『ゾンビ』という怪物がゲームに出てくる際、その状況ないしジャンルは、大きく2種類に分けられると思っている。
1つは、ファンタジー系のRPGとかにおいて、アンデッド系の敵モンスターとして出てくる場合。これは、特に何か……特筆するようなことはない。そういう系統に属するだけの、他のそれと同じ『モンスター』でしかないわけだしな。
もう1つは……ホラーゲームに出てくるゾンビだ。こちらも雑魚敵には変わりないんだろうが、戦闘を行う敵としてよりも、プレイヤーに恐怖を与える舞台装置として機能する場合が多い。
そしてその場合、必ずしも倒すことが必須ないし正解ではなく、可能な限り避けて、逃げて進むことを求められたりもする。
そして、それ系のゾンビが出てくる作品というのは、近代・現代の世界を舞台にしている場合が多い。
ファンタジーの世界観なら『敵は倒すもの』という考え方でも何も違和感はないだろうが、これが現実の世界観なら、そんな恐ろしい怪物相手に戦ってなんかいられない。逃げる、隠れる、生き残ることがまず重要になってくるだろう。
が、問題は……戦いの舞台が近現代の世界ということは、そこに登場する、主人公達が使うことになる武器は……銃火器である場合が多いということなのだ。
これまで俺達が戦ってきたモンスターは、その『ジャンル』に応じたアイテムをドロップしていた。
ゴブリンやコボルドなどのファンタジー枠の怪物は、同じようにファンタジー系の武器やアイテムを。
夜に出くわした妖怪系のモンスター達は、お札や鈴などの、和製ファンタジーを彷彿させるアイテムを。
同じく夜に出た人間系のモンスターは、武器とかの他にも、人間が使う道具っぽいものをいくつか落としていた。
ならば……ゾンビなら? それも、近現代が舞台の『サバイバルホラー』のゾンビなら?
その世界観に合った武器を……すなわち、銃火器や弾薬をドロップするのではないか……そう、なんとなく思っていたのだ。
正直、『でもそんな都合よくは行かないよなあ』程度に思っていたんだが……どうやら、その都合がいい展開に、俺達は遭遇することができたようだ。
ここで戦えば……念願の銃火器と弾薬が、弓よりも強力で、一般人にも使いやすいであろう遠距離武器が手に入るかも知れない!
(麻里奈には悪いが……ちょっとくらい、『残業』していくのもアリかもな……!)




