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11 分布と強敵

 


 『仮想害獣対策室』発足から、およそ10日が経った。


 毎日同じようにモンスターを狩り、生存者を助け、情報を集めていた俺達だが……数日かけて町の大部分を見て回ることができたわけだが、その時間をかけた調査のおかげでわかったことがあった。

 今ちょうど、それを『対策本部』の定例会議で報告しているところだ。


 なお、説明しているのは室長である俺……ではなく、石栗さんである。

 なぜかというと、俺はARDで、会議の際に便利なソフトウェアの大部分を使えないから。


 空間に資料やデータを投影したり、ホログラムモニターやホロキーボードを操作して見やすく、わかりやすく説明するってことができないからだ。

 それらを使わないアナログなやり方なら俺でもできるが、効率のいいやり方をわざわざ使わないのも違うだろうしな。


 そんなわけで、資料作成やその他打ち合わせは俺と一緒にやった上で、石栗さんに説明はお願いしてある……というわけだ。


 で、その肝心の説明内容は何なのかというと。


「『モンスター』がいなくなりつつある?」


 聞いていた職員の誰かが、オウム返しのように、今石栗さんが言ったことを繰り返して言った。


「この十日間、我々『仮想害獣対策室』ではモンスターの討伐を進めてきましたが、町全体でその絶対数が減少しているように思えます」


「それはつまり……以前から言われていたように、モンスターは倒された後に再出現(リポップ)することがない、ということか?」


 総務課長がそう聞くと、期待を込めた視線が石栗さんに一斉に集まった。

 もしそうなら、モンスターを倒せば倒しただけ、確実に外が安全になるということだ。そりゃ期待もするだろうが……


「それはまだわかりません。確認のしようがありませんので……ただ、今回この『モンスターの数の減少』について触れさせていただいたのは、別な部分で気づいたことがあったからです」


「別な部分、とは?」


「我々の仕事の中で、モンスター討伐の業務を始めて4日目以降、目に見えてモンスターとの遭遇が少なくなったのですが……一方で、一部地域では、以前と同じか、むしろ以前より多くのモンスターと遭遇し、戦闘になっています」


「以前より……多く? やはりリポップしているのか?」


「でも、それは確認できていないとさっき言ってただろ。それに、地域によってはと言っていたが……まさか、モンスターが移動している?」


「はい。それについて、こちらをご覧ください」


 言いながら石栗さんは、新たに空中にホログラムモニターを投影する。

 出てきたのは、町全体の地図だ。そこに、石栗さんが編集して落とし込んだ、モンスターの発見・交戦地点が記されている。


「こちらが、『対策室』発足直後、およそ5日間の、モンスターとの遭遇場所と数です。そしてこれが……」


 さらにもう1つ、同じく町の地図を投影。


「ここ5日間で確認された、同じく遭遇場所と数のデータです。違いは一目瞭然と思います」


 俺達『仮想害獣対策室』が稼働していた、この10日間。その前半と後半の、それぞれのデータを示した地図。

 食い入るように皆が見つめる。表示されているデータ2つは、明らかに『違っていた』。


 前半5日間は、町全体にモンスターが満遍なくちらばっているように見える。ほとんど偏りらしい偏りは見えない。


 それに対して、後半5日間は……明らかに出現分布が偏っていた。

 集落や町内会、住宅建物が密集している場所の付近に、モンスターがいない。

 逆に、集落の外……特に、その集落と集落を繋ぐ、移動の際に通る場所に、より多くモンスターが出現するようになっていた。


「人間の生活圏からモンスターが遠のいている……のか? ありがたいと言えばありがたいが」


「こういうのって普通、人間を襲う怪物は、人がより多い所に集まってくるものじゃないんですか? 何で逆に逃げてるんだろう……」


「いや、野生動物の生態として考えるならむしろ合理的だぞ。古くから野生動物は、人間の生活圏に近寄らないように自分の行動範囲を定めて生きていたからな。人間に近づきすぎれば狩られるとわかっていたからだ」


「黒田さん達が狩りまくったから、恐れて人間に近づかないようになったんでしょうか?」


「だったらありがたいんだが……考えづらくないか? 今更人間を恐れるような奴らじゃないだろ……見つけた奴は逃げたりせずに、普通に襲い掛かって来たし」


 前にテレビのドキュメンタリーで見たことはあるな。

 昔、狩人が山の獣を適切に狩って間引きしつつ、人間の怖さ、危険さを動物達に教え込んでいたからこそ、野山から人里に動物が下りてくることはなく、両者の生活圏は分かれていた。


 しかし、人口が減って耕作放棄地が増え、人がいない=動物が行動できる範囲が増えたことで、人里に降りてくるようになってしまった。その結果、農作物や、時には人が襲われる被害が発生するまでになってしまう。

 21世紀初頭特に大きな問題になり、さらにはそれを狩るハンターの不足もあって割と深刻だったらしいな。


 たしか、『超情報化社会』の到来と同時に、野生動物の監視や侵入防止その他にかかる体制が一新されて徐々に収まっていったらしいが……そこまで詳しくは覚えてない。


 まあそれはともかく、それと同じように『モンスターが人のいるところにあまり来なくなった』って話だが……それを聞いて、ある職員がふと、気づいたように言った。


「……ちょっと不謹慎かもしれないのは承知で言うんですけど……ゲームみたいですね」


「? みたいも何も、ここんとこずっと、やってることはゲームそのものだけど……」


「いや、そうじゃなくてこの状況がです。今言った、人里にモンスターが出ないって話。ほら、RPGとかでも……人がいる町の中にはモンスターって出てこないし、外から入ってくることもないけど……町の外に一歩出ると、いつ襲われてもおかしくないレベルでうじゃうじゃ出るでしょ」


 ……言われてみると、確かにそうだな。

 集落や町内会が、ゲームの中でいう町や村。それ以外の場所が、町の外の『フィールド上』だと考えれば……なるほど確かにそう見える。


 総務課長とかの、恐らくはゲームをあまり、あるいは全くやらない人達は、いまいちピンと来ていないように見えるが。


 なんだろう、そこに気が付くと……この、まるでゲームのような分布の変化に、何か意味があるんじゃないかと思えてくる。なまじ、起こっていること、ないし世界の状況がゲームそのものだから、余計に。


 思えば、今まで俺達が言った場所ないしエリアのうち……今まで行ったことがなかった場所、そもそも普段から人があまり来ないような場所には、モンスターが普通よりたくさんいた。

 中には、ゴブリンキングとかと同じ、ボス級のモンスターがいることもあった。……さすがにあの熊レベルのはまだ他にお目にかかったことはないが。


 今まで来たことがない=討伐もされずにモンスターがそのまま残っているわけだから、ある意味当然だと思い、不思議にも感じてなかったんだが……それらも『モンスターが人里を離れている』というこの現象の一環によるものだったんだとしたら?


「これ、ひょっとしてこのままモンスターの分布変化が進んだら……集落内にモンスターは出ない代わりに、外に出るとモンスターが出て来て襲われる、みたいな状況で固定されるのかな?」


「『ゲームみたいに』なるならそうかもしれないが……決めつけて色々考えるのは危険だぞ。何か別な法則みたいなもんがあるのかもしれないし」


「もしそうなったとしたら、『人里』の中は安全だけど、そこから移動しようとするとむしろ倍増しで危険になるかもしれないってことでしょ? 食料や生活必需品なんかの物資を動かさなきゃいけない時に、それが妨げられるのは苦しいですね……」


「せっかく黒田さん達が安全にしてくれたルートが、むしろ危険になるかもしれないってこと?」


「あらゆる可能性を考えて、対策を練っていく必要があるな」


 改善や解決の兆しは、相変わらず見えない。

 わからない、不透明なこともまだまだ多い。もちろん、不安も尽きない。


 しかし、徐々に状況は変化しつつある。

 そして、何もしなければ追い込まれて、あるいは取り残されていくだけ。対応して、対抗して、苦しくても前に進まなければならない。


 この苦しい状況は……この先まだまだ続きそうだ。



 ☆☆☆



 会議が終わった後は、今日も俺達『仮想害獣対策室』は、モンスターを狩りに町へ繰り出す。


 しかし今日は、さっきの会議を受けてだろう、総務課長(司令官)から、いつもと違う形でのモンスターハントの指令が下った。


 いつもなら『このルート上のモンスターを駆逐』って、経路を示されるんだが、今回は違った。

 『ここに行ってモンスターがいるかどうか調査。いたら駆逐』という感じで、具体的に場所を指定されたのである。

 もちろん、行く途中にモンスターがいたらそれらも駆逐するが。


 さっきの会議で話題になった、『出現分布の偏り』が気になってるんだろうな。

 今まで俺達が見に行っていなかった……見に行く必要がないと思って放置していた場所に、モンスターがいるかもしれない。放置しておくわけにはいかないレベルの、危険なモンスターも。


 そこにいて動かないでいてくれるんであれば、放っておいてもいいのかもしれないが……残念ながらモンスターは、狭いと言えど一定範囲内を徘徊するようだ。

 人間がいるのに気づくとその範囲を多少超えてでも追って来たりするし、家の中にも入ってくる。後者に関しては戸締りをすれば、『破壊』されない限りは防げるが。


 放置していた、ないし把握できていなかったモンスターが人を襲う……特に、ゴブリンキングのようなボスモンスターが隠れていて、何かの拍子に配下を連れて移動を始め、近くの避難所に向かって人々を襲ったら……なんて考えると、ぞっとしない。


 ん? 『近くの避難所』って何かって?

 ああ……そう言えば流してたというか、説明してなかったかもな。


 町役場と、そのすぐ近くにある公民館や福祉センターを避難所として運営してる、っていうのはもう何度も言ってることだが、さすがにそれらの施設だけで、生き残ってる人達皆の面倒を見ることはできない。


 死者・行方不明者多数。耳をふさぎ目を覆いたくなるような惨状ではあるが、生き残った人の数も決して少ないわけではない。

 そして、それらの生存者は各集落の、災害時の避難所に指定されてる……町内会の公民館とかの大きな施設に避難してるわけなんだが、そこから役場に来れるかっていうと、距離や人数の関係で難しい。

 子供やお年寄りも多く、移動自体が困難なのに加えて、そんな大人数で動いたら、確実に途中でモンスターの襲撃食らうことになるからな。


 その為、それらの場所も独立した避難所として扱い、そこにも物資を回すことで独自に運営していってもらう……というのが、対策本部の建てた方針である。


 当然それには膨大な量の物資が必要になる。雑貨類、衣類、医薬品……特に食糧。

 しかし、それはどうやらどうにかなる見込みだそうだ。総務課長達が、各所との調整や協力体制の締結を本気で頑張ってくれたらしい。


(今が秋で、ここが田舎町でよかった……米や大豆、その他いろいろな作物がもうとれる)


 ここ『六川町』がある『宙内地方』は、県内でも有数の米どころとして知られており、ひたすらだだっ広い田んぼがあちこちにある。そしてそこで米が作られていて……今ちょうど収穫の時期である。

 さらに、田んぼだけじゃなくて畑もあちこちにあり、米以外にも野菜や穀類、豆類など色々作られている。

 田んぼだけど畑の作物を作っている、ってところもある。転作って知ってる?


 そして、それらの多くはもうすでに夏のうちに収穫が終わっているか、米と同様今まさに収穫の時期だ。

 それらをきちんと収穫ないし回収できれば、膨大な食糧が手に入る。


 具体的にどのくらいの量になるのかとかは知らないが……そういや真田が農政担当だったな。


「真田。収穫した米とか使えば、避難民達も飢えずに過ごしていけると思うか?」


「多分余裕。今年の主食用米の作付面積が……で、基準単収が……だから……いやでも大体基準より低くなるから少し小さく見積もって……」


 真田はしばしの間、よくわからない……多分、農業関係の専門用語っぽいものを独り言でブツブツ呟いていた。後何やら指を空中で動かしていたので、電卓アプリケーションとかを使って計算をしていたんだと思う。

 十数秒後に、『うん』とうなずいて、


「町全体で……きちんと収穫できれば、ざっと4000トンくらいは取れるんじゃねえかな」


「それ多いの、少ねえの?」


「確か前に、日本人が1年間に消費する米の量は、1人あたり約70㎏だと聞いたことがあります。六川町の人口は約7000人ですから、年間だと消費量は……500トンくらいですね」


「余裕どころじゃねえ!?」


 町民全員が8年分食っていけるだけの量が『このくらいは』ってざっとの見積もりで手に入るのかよ。なんか食料やべえって感覚薄れそうになるんだけど。


「当たり前だろ。宙内平野のど真ん中にある県内屈指の米どころなめるなよ。今じゃ農業関連の技術諸々発展してるから、機械化とか自動化も進んでて収穫も早いし楽だからな。短時間で行える上に収穫量も昔に比べて増えてるって話だぜ」


「それに……こういうことを言うのは少し不謹慎ですが、その7000人のうち、かなりの数が今回の件で亡くなったはずです。さらに生き残った方々のうち、一部は乳幼児やお年寄りで、まだ米を食べられないか、多く食べることはできないような人のはず……」


「8年分どころじゃねえ量の米になるってわけか……そこまでいくと、先に食いきれなかった米の方が腐るんじゃね?」


「お米って腐るの? 適切に保管しておけば、何年でも食べられるよね。『古々々米』とか見たことあるし……そもそも『米は腐らない』って聞くし。味は落ちるらしいけど」


「どうなんだ、農政課?」


「梅津さんの言う通り、適切に保管しておけば何年も保管できるけど……具体的に何年、とかはさすがに聞いたことねえわ。最長で5年前の古米扱ってるのは聞いたことあるけどよ。……つーか、そんな何年先までこの状況が続くとか考えたくねーんだけど」


「それはそうだわ」


 ひとまず、収穫さえなんとかできれば、町民が向こう数年飢えることはなさそうだ。それは安心したかもしれん。

 米だけじゃなく、同じように野菜とかも作ってるらしいし――さすがに作ってる量は米に比べれば桁が違うらしいが――それらを慎重に消費していけば食料は何とかなりそうだった。


 こういう、モンスターパニックからのサバイバル物って、物資……特に食糧が一番不足して問題になるのがお決まりだからな。ぶっちゃけ、そのへん心配してたんだよ。

 あちこちから物資を回収して避難所の人達に回してるとは言え、それがいつまでもつか、って。


 田舎町の生産力ってもんを、そこに暮らしていながら理解していなかったようだ。恥ずかしい。


 ……いつの間にか盛大に話がずれたな。

 何の話してたんだっけ……ああそうだ、今まで行ってなかった場所にモンスターがいるかもしれないって話だよ。それがどうして食料の話になったんだっけな。……まあいいや。


 話してる間に、ちょうどその目的地に到着……おお、こりゃまた。


「予想、大当たりってことか……しかも見たことねえモンスターだよ」


「二本足で歩くトカゲ人間……リザードマン、っていう奴ですかね?」


「たぶんな。しかも真ん中にきちんとボスまでいやがる」


 到着したのは、川の近くにある空き地。

 そこには、石栗さんが言った通り、全身を強固そうな鱗に覆われた、二本足で歩くトカゲの亜人が群れを成していた。


 ゴブリンやコボルドよりも体が大きく、気のせいか筋肉も盛り上がってるように見える。身長は平均で170㎝くらいはありそうだ。

 そして、持っている武器は、ほとんどが三又の槍……いや、モリか? 魚とか突いて仕留められそうな形してる気がする。

 弓矢やこん棒っぽいものを持ってる奴もいるにはいるが、少数派だな。


 そして、その中心にいるのが、身長2mを優に超える大きさの、筋肉ムキムキのリザードマン。名前はわかんねえけど……リザードマンのボスなんだろうし……リザードマンロードとかそのへんだろうか?

 手に持ってるのは……モリでも槍でもねえな。薙刀かあれ? いい武器持ってんな。


「これまでのパターンからすると、中ボスって自分が使ってる武器ドロップするよな」


「ってことはアレが手に入るかもしれないわけか……ドロップしたら私貰っていい? 一気にたくさん倒せて体力節約できる武器がほしい」


「いいんじゃねえの? タルワールはサブ武器にするか、それとも役場で留守番してくれてる人達の誰かに託す手もあるな」


「もしかしたらアレみたいな中ボスをこの先も何体か倒して、レア武器が集まるかもしれないしな。その都度考えて行こうぜ」


「それでいいと思いますけど、捕らぬ狸の皮算用はそこまでにしませんか? 気づかれる前にこちらから仕掛けてしまった方がいいと思います。あの数ですし」


「賛成。……んじゃ、行くか」




 5分後。

 俺達は、河原にいたリザードマンの殲滅(親玉含む)を完了した。

 ドロップ武器も無事に回収完了。『大薙刀“黒顎(クロアギト)”』という名前だった。……名前からモンスター名がわからないタイプか。


 雑魚敵のリザードマンもモリ構えて一斉にかかって来たし、ボスのリザードマンロード(仮)は無双ゲームさながらの勢いで薙刀振り回してくるしで、迫力半端なかった。まるで合戦だったよ……俺も麻里奈も、効かないとわかっててもたじろいでしまった。


 ……まあ、それでも効かないんだから一方的に蹂躙させてもらったが。

 すごい勢いで振るわれるモリ、あるいは薙刀をガン無視して懐に飛び込んで、顔面に一撃。この繰り返しで全滅させた。


 ロードはさすがに一撃じゃ倒せなかったけど、どうやら喉が弱点部位になってるってことに気づけたので、そこを集中攻撃して1分かからずに倒せた。


 事前に話しておいた通り、『黒顎』は麻里奈が使うことに。これで敵の殲滅力がまた上がって、今後の戦いも一層やりやすくなっただろう。

 さあ、この調子で他の場所も見ていくとしますか。





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― 新着の感想 ―
そうか、自動機械なら、アプリを入れ直せば現実の機械には損傷ないから、そのまま使えるって事かな?(内部のアプリがモンスターの攻撃で破壊されたとして)
面白かった 田んぼほぼ自動化してそうな世界観だけどほとんどゴブリンに壊されてそうなんだが大丈夫か?
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