10 『仮想害獣対策室』
ここ数日仕事が忙しくて書き進められませんでした。
連続更新が途絶えてしまって無念……
モンスターパニック、同時多発サイバーテロ、リアルデスゲーム……ネット上では色々な呼び名がついている、今のこの世界全体の異常事態。
呼び名なんざ別にどうでもいいが……ともかく、この事態はどうやら長期化しそうだという見通しが、さっきの対策会議で告げられた。
それに伴い、『短期間の災害及び避難生活を乗り切る』というものから、『長期間、避難民を含む町民達の生活を保たせる』に方針がシフトすることになった。
短期間であれば、物資を集めて食いつなぎながら耐える、でよかったわけだが、長期間やりくりしていくとなれば、物資の節約はもちろんのこと、流通や生産に手を入れる必要も出てくる。
何せ、日本中、世界中がこうなってるとなれば……普段、コンビニやスーパーに食料を運んでくる、大本の流通も止まってると見るべきだろう。
商品として、『業者』を介して品物を調達することは、不可能だと言っていい、と思う。
そうなると、必然……今この町の中にあるものだけでやっていかなきゃならないわけだ。
「モンスターパニックやサバイバル系の映画やらマンガでは、やっぱ物資不足は最大の敵だよな……避難民の人数も多いし、そのへんの管理は気を遣う部分だな」
「管理するのは私らじゃないけどね。たしか、福祉課と町民課が担当するんだっけ?」
「避難民への配給管理と並行してやるらしい。……配給だってさ。歴史の教科書でしか読んだことない、戦時中しか使われなかった制度が、今のこの時代に復活するのか……」
「貨幣経済がほぼほぼ息してない状況なんだ。そりゃ昔の……『ものがない時代』のやり方に戻る必要も出てくるんだろ。……歴史の勉強って大事だったんだな」
金っていうのは、様々なものと引き換えることができるからこそ、すなわち『使える』からこそ価値があるんであって、使えなければただの鉄くずと紙切れだからな。
金そのものが腹を満たしてくれるわけでも、病気やケガを直してくれるわけでもない。それを使って『物を買う』ことができる社会があることが、金が金として機能する前提だ。
そして、今の世界はまさに『お金があってもものが買えない』『そもそも買うものがない』状態。お手本のような物資不足だ。引き換えに手に入れられるものがないんだから、自動的に『お金』の価値だってなくなる。
ちなみに、今『紙切れと鉄くず』って例え方をしてしまったが……そもそも今の時代は、『現金』そのものがほぼ使われてないんだけどな。
『旧時代』はまだ、紙のお金や金属のコインといった『現金』が広く使われていたらしいが……今の世の中、ほぼ100パーセントキャッシュレス決済だ。
現金というものがなくなったわけじゃないんだが、わざわざ荷物になるそれらを持ち歩く人はほぼいない。日常でのお金のやり取り……買い物はもちろん、個人間での貸し借りなどを含めたそれですら、ゴスペルギアと、その中のアプリケーションを使った、電子マネーが主だ。
『超情報化社会』が始まってしばらくは、『手元に現金がある程度ないと不安』と言って財布の中に現金を用意しておく人も多かったらしいが、今ではむしろ、現金での支払いに対応している店舗自体が少数派だからな。
まあ、貨幣経済に関する小難しい話はこのへんにして……要するに、お金を使った売買ってものができなくなり、そもそも物資自体が限られている状況だから、それを町全体で上手くやりくりして生活していかなければならないわけだ。
そのために重要になってくるのは、それぞれの専門の業者に適切に動いてもらうこと。
食料なら、農家から農作物を買い上げて流通に乗せる、農協とかの集出荷業者。
医薬品なら、それらを販売する薬局・薬剤師、そして診察した上で『〇〇の薬品が必要』と判断する医療機関。
そういった、実際に物品を取り扱う各業種と連携してこの事態を乗り切る対応をしていかなきゃいけないわけで……その間に立つのが、行政、すなわち『役場』の役目になる。
しかしさっき言った通り、それらの調整や管理は他の課の連中がやってくれる。俺らの仕事じゃない。
俺達『仮想害獣対策室』の面々の役目は……それらの障害になる『邪魔者』の排除。すなわち、モンスターの討伐だ。
「農協、薬局、スーパーマーケット、学校、公民館……連携するには当然、それらを行き来して話し合いなりなんなりして方針を詰めていかなきゃいけない。しかし、モンスターがそこらへんをうろついてるとそれも難しい」
「だから私達がそれを討伐して、移動に伴う危険を少しでも取っ払う……ってわけですね」
「そういうこと。そうすりゃ、安全になったルートを使って人やモノが行き来して、避難民の人達の暮らしが少しでも楽になる……かもしれない」
「断言はしないのな」
「そのへんはさすがにやってみないとわからんだろ。こんな規模の災害……うん、災害、この町で起こったこともないんだ。当然、職員にだって対応のノウハウはない。総務課長や町長達も含めて全員が手探りだよ。その分全力でやらねーと」
「で、全力でやれるためにも私達が……おっと、お出ましだね」
話してる最中に、モンスターを発見。
ああ、今更ではあるんだが……今、俺達は車で町内を回ってるところだ。
さっきちらっと話したように、主要な機関同士が連携するために、その間のルートにいるモンスター達をあらかじめ駆除しておかなきゃいけない。
そして、それが最も効率よくできるのは、俺と麻里奈……『ARD』であり、モンスター達の攻撃が一切効かない、俺達2人である。
俺達をアタッカーに据えて、他のメンバーがその手伝い、って感じで動いている。
なお、同行しているのは、午前中同様に真田と、もう1人。
「じゃ、俺と麻里奈でやるから……真田は車を守って。んで、石栗さんは記録とか諸々頼んだ」
「わかりました。しっかり録画しておきますね」
「もっとも、今までもさんざん見たゴブリンだから、特に何か見るものもないかもだけどね」
俺、麻里奈、真田、石栗さん。
この4人が『仮想害獣対策室』の設立メンバーであり……今日からこうして、町中を走り回ってモンスターをハントしていく仲間である。
俺は言わずもがな、『ARD』であり、モンスターに対して無敵なんだから、そりゃ編成されるだろう。
同じ理由で麻里奈も。彼女は役場職員じゃないんだが、外部協力者ってことで『対策室』に所属してもらうことになった。
真田は、役場をゴブリン達の襲撃から守る防衛線で活躍していたのに加え、運動神経いいし体力もあるから、怪物退治なんていう体力勝負の仕事でもこなせると見込まれて。
それに加えて、ゲーム好きだっていうのも大きい。頭に『デス』が付くとはいえ、まさにゲームみたいになってしまったこの世界で上手く渡っていくためには、そういうのに慣れ親しんでいて、『ゲームならこういう時はこうだな』という視点を持てる者が必要だ、と判断された。
なお、ゲーム好きは俺や麻里奈も共通である。おかげで雑談の話題にはことかかない。
そして石栗さんは……もともと彼女は中途採用の新人であり、今の彼女の本来の所属先の仕事も覚えている最中だった。
その、覚えるはずだった『通常業務』は、この災害でどこかに吹っ飛んで行ってしまったのに加えて、非常事態対応中の今は、『新人指導』を行っている余裕もない。
だったら……どうせ『仕事を覚える』ところから始めなければならないのなら、今まさに人を必要としている部署を任せた方がいい。『仮想害獣対策室』なら、戦闘は俺達3人に任せるとして、活動内容の記録なんかの庶務・雑務なら、今の彼女の能力でも十分こなせるし、力になれる。
以上のような基準や思惑で集められたのが俺達4人ってわけだ。
なお、『仮想害獣対策室』は総務課付きの組織なので、『室長』である俺のさらに上に立っているのは、総務課長である。司令長官みたいなもんで、役場の飯間の状況に応じて俺達に『〇〇地区のモンスターを駆除して来い』みたいな感じで今後、指示を出していくらしい。
たった4人で町全域のモンスター駆除を担当するわけか……激務の予感。
まあ、だとしてもやるっきゃないわけだが。
幸いと言っていいのか、滑り出しは順調といっていい。
午後になって、『対策室』発足後の初出動となったわけだが……何度かモンスターと交戦して、問題なく倒し、データ物資も回収できている。雑魚しか出てきてないから、時間もかからんし。
それに加えて……午前中に『熊』と戦って手に入れた、俺の新武器……この『タイラントクロー』がまー強い。強いったら強い。
今のところ、会う敵会う敵全て一撃で倒せている。
さっきまで使ってた『棍棒』ももちろん強かったし、たいていの敵は一撃で倒せてたんだが……『タイラントクロー』は、上位種のホブゴブリンや、より強力な種族のオークやオーガすら一撃で倒せている。マジで強い。
大概の相手と戦いにならない。これ絶対序盤で手に入っていい武器じゃねえって。ありがたいけどさ。
加えて、この武器が『手甲』……すなわち、手に装着して使う武器だっていうのも何気にいい。自分の手、ないし拳でぶん殴るのと大体同じ感覚でモンスターを殴って暴れられるからな。小回りも利くし、より素早く動いて色々な事態に対応できるだろう。
欠点があるとすれば、拳で殴る=ゼロ距離で戦うことになるリーチの短さくらいか。棍棒で一度に薙ぎ払えていた頃よりはどうしてもな。
けれど『タイラントクロー』は、指部分が鋭く尖っていて、文字通り爪も武器にできるデザインになっている。『殴る』ではなく『ひっかく』形にしたり、手刀の形にして、腕の長さの範囲で『薙ぎ払う』ことはできる。なので、そこまで極端に不便に感じることもない。
何度も言うが、俺はデータモンスター相手なら無敵なので、当たる距離まで行って殴るなり引っ掻くなりすればいいだけだからな。それで相手は死ぬ。
そんな感じでメインアタッカーを俺が、援護というかサブアタッカーを引き続き麻里奈が勤めている。
なお、俺達が今持ってる武器の中で、一番強いのは言うまでもなく『タイラントクロー』だ。
次点で『小鬼王の棍棒』と『犬人将の曲刀』。この3つが、雑魚モンスター相手なら一撃で倒せるくらいには強い。
俺が使ってる『タイラントクロー』以外の2つは、麻里奈と真田が持ってる。『棍棒』は俺が持ってても仕方ないからな。使わんし。
で、真田はさっきまでは『曲刀』を持ってたが、今は『棍棒』に持ち替えている。で、麻里奈が今は『曲刀』を使っている。
元々真田は、災害発生当初は金属バット持って戦ってたし、ホントかどうかわからないが鈍器の方がしっくりくるとかなんとか言って笑っていた。
はた目からは、タルワールを持ってた時と動きに差があるようには見えんけども……まあ、本人がいいならそれでいいんじゃねえかな。
ああでも、1回、とびかかってきたゴブリンをホームランして、別なゴブリンにぶつけてダブルノックアウトしたのを見た時はさすがにびっくりしたな。
あんなこともできるのか……さすが野球部。
また、麻里奈は元々弓を使ってたわけだが、それも一応サブ武器として持ってる。
威力はタルワールには劣るけど、遠距離で攻撃できるのも大きいし……弓を持ってるだけでドロップアイテムに矢が追加されるので、物資補充にもなるしな。
それに、近接武器は動きが大きくなる。実際に体を動かす『ARゲーム』では、疲労がたまるのも早くなるので……疲れたら弓に持ち替えて、体力回復しながら戦う、みたいなこともできる。
なお、残る石栗さんだが……残念ながら彼女は戦力としてはカウントできない。
一応、彼女にも弓矢を持たせてはいるが、あまりゲームとかやってこなかったからか、お世辞にもプレイヤースキルが高いとは言えない。
なので、さっきちらっと言ったように、彼女には主にバックアップを担当してもらっている。
モンスターの観察とか、討伐記録とか、取得したアイテムの記録とか、マッピングとか、その他色々。討伐に伴って発生する、色々な仕事を全部。
……戦闘以外の全部をやってもらってる、って言った方がいいかもしれん。なにせ、車の運転もお願いしてるからな。
おかげで俺達は戦闘と……力仕事として、物資の運搬だけやってればいいので、地味に……いや決して地味にじゃないな、普通にすごく助かっている。
そんな感じで、モンスターの駆除も、物資の回収も割と順調なんだが……町中を回っていると、それら以外にも嫌でも目にしてしまうものがある。
そこかしこに倒れている、人。
もうすでにこと切れている、ご遺体である。
データモンスターの攻撃は、それそのものは傷をつけたりすることはない。まあ、投影して見せてるだけだからな。
けれど、攻撃された瞬間に感じる痛みでショック死することはある。
また、即死はしなくても、痛みで気絶したり体が動かなくなって、そのまま熱中症や脱水症状で死ぬこともある。……まだまだ暑い時期だからな。
また、数は少ないけど……外傷が原因で死亡したと思しき、見た目的により痛々しいご遺体も中にはあった。
今言った通り、モンスターの攻撃で傷はできないが……おそらく、逃げる際にもみ合って転んで、あるいは車とかに巻き込まれて、とかの理由だと思う。
道路脇の花壇にもたれかかるような感じになってて、頭から血を流してたり、糸が切れた人形みたいな不自然な体勢で道路脇に転がってたり……そういうご遺体があったから。
(規模の大きな災害は、それそのものだけでなく、逃げる際のパニックでも人死にが出る……って昔受けた災害対応研修でも習ったっけな。実際目にする機会が来るとは思わなかったが……)
老若男女問わず、助からなかった人達が町中に倒れていて……まさしく災害の爪痕というようなショッキングな光景。
この光景は、昨日、町を回っている最中にも何度も目にした光景だ。
俺や真田はもちろん、今日役場に合流した麻里奈や、昨日俺と一緒に役場まで行った石栗さんもな。だから、今日初めて見てショックを受けたとかではない。
けれど、今日は昨日と比べて、より人が多く通るエリアを回っているから……目にするご遺体の数がかなり多い。今言った関連死含む。
というか、道路の真ん中にご遺体があるし、血の跡とかもある……
「……どうする? この道路、ご遺体全部退かさないと通れないけど……」
「さ、さすがに触るのは嫌かな……あ、いや、失礼なこと言ってるのは承知の上なんだけど、死体に障るのってどうしても生理的な抵抗があるっていうかね?」
「それは仕方ないと思いますよ……損傷の大きいものもありますし、衛生面を考えても、少なくとも準備もなしに触るのはやめた方がいいと思います」
「というか、この死体ってどうすんの? 俺らが片付ける片付けないは別として……このまま放置してたら、町中でその……腐る、よな? まだ暑い時期だから、痛むの早いぞ?」
「そうは言っても軽く何百人規模、下手したら4桁行く数だし……いや、見て回れてないところがまだまだあるのを考えたら、確実に数千人分あるわよね」
「……六川町って人口7000人くらいだろ……何十パーセント飛んだんだろうな」
「一応、健康福祉課が話していた限りだと、ご遺体はなるべく回収して、可能なら火葬施設で荼毘に付すそうですが……確実に足りないですからね……。いくらかは……簡易的な設備を作って、屋外で火葬することになるかと」
「マジか……歴史の教科書で読んだ戦時中の話みたいじゃん」
「でも仕方ないだろ。火葬って1人燃やすだけでも1~2時間かかるし、その後の片付けもあるし……そもそもこの町に火葬場ないだろ?」
「隣の鳶岡市に行かんとない。片道30分くらいだけど、ピストン輸送でそこまでご遺体運ぶ労力とか燃料の余裕はどう考えてもないからな……」
「どちらにしても、総務課長達が決めて、実行するのは我々以外になると思います。決まったら告知されると思いますから……私達は、私達の仕事をしましょう」
石栗さんが少し強引に締めくくってくれたので、それに応じて俺達は仕事に戻る。
予定していた道が使えそうにない――通れはするけど車では通れない――ので、少しルートないしやり方は変更する必要があるが。
仕事に戻り、モンスターの討伐と並行して町内の調査等を進める俺達。
さっきは亡くなっている人達の話をしたが、生き残っている人達もいる。
サイバーテロが始まってモンスターがあふれ出してから、ずっと家や、建物の中に隠れて耐えていた人達なんかが主にそうだ。
そして、そういう人達を見つけて助けるのも、俺達の仕事だ。
少人数なら、俺達が乗ってる車に乗せて保護して、そのまま役場に連れて行けばいいが……何人もいて車に乗せきれない場合は、応援を呼ぶ。
役場に連絡して、『ここに何人生存者がいるので迎えをよこしてください』と頼むと、十数分後には大勢乗れる車で迎えに来てくれるので。
俺達がここまで来てるってことは、ここに来るまでの露払いは既に済んでるってことだからな。安全度も比較的上がっている。
そして念のために、回収班が合流するまでは護衛として俺達が残って守ってる。合流出来たらそこで『後はよろしく』って引き継いで、俺達は俺達の仕事に戻る。
そうして生存者を保護していく過程で、いくつか分かったことがあった。
まず、モンスターの行動についてだが……どうやらモンスター達は、建物の中に入ってくることはほとんどないようだ。
どうも、壁やドアを通り抜けて中に入ってくるってことができないらしい。さらに、物陰に隠れていれば、見つかる危険も少ないようだ。……絶対とは言えないみたいだが。
なので、家の奥でじっと身を潜めて静かにしていれば、モンスターに気づかれることはないし、気づかれてもある程度籠城することは可能なのだそうだ。
助けた人達の中で、赤ちゃんが泣いてしまって外にいるゴブリンに気づかれたけど、ドアの前で騒いでるばかりで入っては来なかった、という話を聞けた。
生きた心地がしなかったけど、子供共々助かってよかった、と安堵で涙をこぼしていた。
しかしそれも絶対ではないようだ。それと相反する証言を、別な生存者から聞けた。
同じように家族で息をひそめていたが、物音を立ててしまって外のモンスターに気づかれた。
そのまましばらく籠城していたが、扉のあたりから『バキィッ!』という破壊音が聞こえてきたと思ったら、扉をすり抜けてゴブリン達が中に入ってきたらしい。その中には、大柄な上位種……おそらくは『ホブゴブリン』も混じっていたとか。
建物の中にいれば安全なんじゃないのか、と、俺達も困惑していたが……少し考えれば。仕組みに予想はついた。
この2つの違いは……『破壊音がしたらモンスターが流れ込んできた』という部分。多分これが重要なんだと思う。
そして、後者のモンスターの中にはホブゴブリン……ゴブリンよりも強力な種族がいた。
予想だが、建物なんかの壁は、ある程度の魔物の攻撃からは守ってくれるが……一定以上強力な攻撃を受けたり、あるいはダメージ蓄積によってか、『破壊』されてしまうんだろう。
物理的には破壊されないが、ゲームシステム上は『ここの壁は破壊されてしまってもう無い』という状態になり、モンスターがそこを通って中に入れるようになってしまうと見た。
壁の素材や厚さなんかによって違いがあるのかまではわからないが……この予想が正しければ、家の中に閉じこもっていても100%安全とは言えないということになる。
そしてそれは、役場でも同じことが言えるだろう。報告して、対策を考えてもらわないとな。
……あと、細かいことかもしれないが……そういった話を聞きとれたパターンの多くで、壁ではなく、扉や窓を壊して入ってきていたっていうのも少し気になる。その位置を優先的に狙うようになってんのかな……妙にリアルというか、律儀というか。
それが基本の仕様なら、ありがたいっちゃありがたいが。いきなり壁をぶち抜いてモンスターが襲ってくる、なんていうことが起こりにくいわけだからな。
そんな感じで戦っていたが……何十回目かの戦闘を終わらせ、ドロップアイテムを回収している最中のこと。
ふいに、麻里奈が『あっ』という声を上げた。
「どうした、麻里奈?」
「……ゴメン。これ以上の探索は……ちょっと厳しいかも。デバイスのバッテリーが切れそう」
今かけている、サングラス型デバイスを指さしながら、申し訳なさそうに言う。
「あー……午前中からずっとだもんな。そりゃ充電も切れるか」
「ということは……黒田さんのデバイスもそろそろ充電切れ……あれ? でも黒田さん、いつも業務中ずっと使ってて、合間に充電とかしてるの見たことないですけど……?」
たった1日足らずで充電切れるの? と不思議そうにしている石栗さん。ああ、確かに俺、いつも業務時間中はずっとデバイス使ってて――時々目を休めるために外してはいるが――充電も特にしなくても1日余裕で持ってるもんな。
現に今も、まあバッテリー減ってるっちゃ減ってるが、すぐに切れそうになってもいない。
まあ、理由は予想はつくが。
「いや、元々私のデバイスの充電が少なかったからだよ。私のも本来、フル充電なら1日くらい余裕で持つんだけど、昨日から充電できてなかったからさ……」
「家に籠城中に充電はしなかったのか? ……あ、停電か」
「うん。私の家があるエリア、運悪くどこかで電線が切れちゃったみたいで。予備電源の蓄電があったから、真っ暗になったりはしなかったんだけど……デバイス充電する前にそれも尽きちゃったんだよね。だから、役場に来た時点で半分くらいしかなかったんだ」
「そこからずっと起動させ続けて、しかも、ゲームシステムに合わせて負荷の大きな稼働をさせ続けたとなると……切れそうになってもおかしくないな。残りどのくらいだ?」
「15%切って画面の端っこにアラート出た。それで気づいた」
「そういうことなら仕方がありませんね……今日はひとまずここまでにしましょう」
俺と麻里奈は、デバイスを使えなければモンスターを見ることすらできない。
それはイコールで、モンスターの討伐という仕事をこなせなくなるということを意味する。デバイスの充電はそのまま俺達『仮想害獣対策室』の生命線だ。
ちょうどいい……と言っていいかはわからないが、そろそろ夕方になるし、今日のところは切り上げて役場に戻ることにした。
回収できた物資を届けるためと、今日わかった諸々のことを報告するため。それらの理由もあるしな。




