#13 代田くんと文化祭 〜下編〜
雪宮さんと文化祭を回っていたとき、急に蓮に戻ってこいと呼び出された春樹は、急いで教室に戻り、呼び出した本人に話を聞いていた。
「えっ、 ちょっと待って、 一旦話を整理させて、 えっと、今さっき舞台から一旦捌けたメインの2人が盛大に足を捻ったと、 ここまではあってる?」
「うん」
「で、 今2人とも保健室に行ってて、この公演のラストシーンだけ出れそうにないと」
「そうだね」
「それで、 代理を立てないといけないけど、ここにいた人はそれぞれの仕事があって出れないと」
「そうそう」
「だから、 僕と雪宮さんに代理をして欲しいと」
「よく話を分かってるじゃないか、 じゃあ頼んだ」
「ちょっと待ってくれ、 急に言われてもセリフとか見ただけで覚えてないし、動きすらも曖昧だよ、 そもそも百歩譲って僕は良いとしても、雪宮さんはどうなるんだよ、 って、あれ、 雪宮さんどこ行った?」
「雪宮さんならもう衣装に着替えに行ったぞ」
―あっ、 それならもう逃げ場無いじゃん―
そう思い、春樹は溜息をついた。
「わかったよ、 代わりやるよ、 その代わりカンペとか頼むよ」
「センキュ、春樹、 カンペは任せろ、 出すの俺じゃねえけど」
「それなら安心か」
「おい」
しれっと蓮をディスった春樹は、蓮に連れられて舞台袖の奥に入って行った。
「やっぱりこれ、人選間違ってるって」
春樹はそう言って、自分の姿を鏡越しに見る。それは袖口が明るい水色になった白いタキシードだった。
「大丈夫だよ、春樹」
「いや、でもさ」
「大丈夫だって春樹、お前のビジュとか演技に期待してる人なんてそうそういないって」
―それは慰められているのか?―
なんて、少し複雑な疑問を抱く。
「それよりお前、驚いて固まるなよ」
「ん? 何かあるのか?」
「いや、これは言わない方が良いな」
「何だよ、 それで僕はこっちから入っていったら良いんだよな」
「そ、 まぁ頑張れよ、 あぁそれと、人が変わるってのはもう観客に言ってるから、その点は気にすんな」
「りょうかーい、 じゃあカンペ頼むよ」
―さっき蓮が言ってた事何だったんだ? まあ取り敢えず今は劇に集中するか―
そう思った春樹は、改めて台本に目を通し直した。
―クライマックスだよな、 結構な重役だし、緊張してきたな、 ん?待ってよ、 白雪姫の最後って、、 まさか、、―
何かある予感がした春樹は台本を再度読み漁った。なるべくその予感が当たらないことを願って読み返した。しかし、無情にもその予感は当たってしまった。
―白雪姫の最後って、キスじゃん、 実際はしないとしても、キスじゃん―
そう気付いたところで、蓮が言っていたことの意味が分かってきた。
―待って、 雪宮さんじゃん、 姫役、雪宮さんじゃん、 キスの相手、雪宮さんじゃん、 これヤバいヤバい、 心臓が持たんて、ホントこれ、、―
狼狽えることしか出来ていない春樹は、明らか挙動不審になっていたが、そんな事を気にする暇はなかった。
―せめて、もう少し、 もう少し落ち着いてから、、、―
「あ、いたいた、 春樹もうすぐ出番だから、こっち来ててー」
「蓮、ちょっと待ってくれ、 もう少し心を落ち着かせてから、、、」
「おっ、 やっと気付いたか、 だけどもう遅いぞ、 さぁ行こうか、代田くん」
そうして春樹は抵抗虚しく、蓮に連れて行かれるのであった。
幕が1回下りると、舞台セッティングの係の人が段ボール製のベッドを中央に置いた。いかにも魔王城などにありそうな見た目である。ちなみにあのベッドの見た目の案を出したのは僕だったりする。
そんな事を考えて気を紛らわしていると、後ろから再び蓮から話しかけられ、声が聞こえた方向を向く。
「春樹、 一応確認だが、 今あのベッドの中には白雪姫、もとい雪宮さんが眠っている、 お前は幕が上がったらあそこに行く、 そしてキスをするフリをする、 そしたら姫が起きてめでたしめでたしだ、 もしセリフが分からなかったら舞台袖のカンペを見るか、最悪アドリブで頼む、 あ、それと、キス終わったら雪宮さんの肩でも叩いて合図を送ってやってくれ、 そしたら起き上がるように言ってるから」
「おーけい、 センキュ蓮、 じゃあ行ってくるわ」
そう言って再度舞台の方を向き直す。自然に見えるかもしれないが、内心ではバックバクのドッキドキである。
しかし心を落ち着かせる前に、始まってしまった。幕は上がり、照明は薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。
「しらゆきひめー!」
そう言いながら舞台上に走り込んでいく春樹、もとい王子。そうして、舞台中央のベッドの所へ歩いていく。
―ヤバい、心臓が持たない、 なるべく平静を装って―
そう思った瞬間、舞台袖のカンペの文字が目に入る。
『キス!!』
そこに書かれてあった2文字にとどめを刺された春樹は、平静とはほど遠い、カチコチとした動きでキスの準備をする。
ベッドの横に来た春樹は、ドレス姿の雪宮さんに顔を近づける。まじまじと見ると気絶でもしてしまいそうだから、両目をしっかり瞑る。そして、口元を手で隠したまま口通しの距離が当たる寸前まで来たところで、そのままゆっくり起き上がり、雪宮さんに合図を送る。
すると横たわっていた雪宮さんはすっと起き上がり、こっちを見る。
「おうじ、さま?」
「ひめさま! 良かったです、」
そうして見つめ合っていると、ナレーションが流れて、ライトが明るくなっていく。
「こうして、白雪姫は王子様のキスで無事目を覚ましました、 そして、2人は城に帰ってからも末永く幸せに暮らしましたとさ」
ナレーションが流れ終わると幕は下り始まっていき、観客はまばらに帰っていく。下りきった頃には残っている人はいなくなっていた。その様子を見た春樹はようやく緊張が解けていった。
そして雪宮さんの方に目をやると、まだベッドに上ったままで、ヒールを履いていて下りづらそうにしていた。
「雪宮さん、 手貸しましょうか?」
声を掛けると、雪宮さんは春樹の方を向いた。
「代田さん、 じゃあ手お願いします」
そう言って立ち上がった雪宮さんの全身が春樹の視界に映る。それは、純白のドレスを身に纏った姿だった。それはもうこれ以上このドレスが似合う人はいないと断言できると言っても過言ではない程だ。それに所々から見える肌は、ドレスに引けを取らない程白く綺麗だった。そんな姿を身近で見た春樹は見惚れる他なかった。
「ありがとうございました、 私達も行きましょうか、代田さん」
「…」
「代田さん?」
「……あっ、 すみません雪宮さん、 行きましょう」
そう言って歩き出そうとした時
「あっ」
春樹がその声の方を見ると、雪宮さんがヒールでバランスを崩して、そしてそのまま倒れそうになっていた。
―あぶない!―
咄嗟にそう思った春樹は、雪宮さんの方に手を伸ばした。
"ガシッ"
―よし!このまま引き寄せたら―
しかしそう思ったのも束の間、春樹もバランスを崩してしまった。
―あっ、 やべっ―
どうにかしようと思った春樹は、自分でも驚くほど体が早く動いた。
"ドサッ"
誰も見ていない2人だけの舞台上に鈍い音が響く。春樹が目を開けると、その視界は雪宮さんでいっぱいになるほどだった。春樹は雪宮さんが床に衝突する寸前に床と雪宮さんとの間に体を滑り込ませたのだ。
「痛たた、、雪宮さん、大丈夫ですか?」
そう言って目を開けた瞬間、雪宮さんとバチッと目が合う。その一瞬で春樹はすべての感覚が研ぎ澄まされた様に感じた。黒い艶が一目でわかるサラサラの髪。なんとも形容し難い良い匂い。静寂の中かすかに聞こえる2人の吐息。徐々に赤く染まっていく頬。そして体を介して伝わる体温。それらを一斉に感じた春樹は何かを考える余裕なんてなく、そのまま2人は見つめ合ったまま静寂を過ごした。
どのぐらいの間この状態だっただろうか。春樹は、動けるまでは無かったが、徐々に冷静さを取り戻していった。そしてずっと続いていた沈黙は不意に絶たれることになった。
"ガラガラ"
床に叩きつけられた音の次は、教室のドアの開く音が響き渡る。その音に2人はハッとし、すぐさま起き上がった。しかしすぐに互いの事を見ることは出来ず、辺りを見渡しながら話していた。
「雪宮さん、大丈夫でしたか?」
「はい、 ありがとうございました」
「…」
「…」
2人の間に気まずい空気が流れる。この空気を変えようにも特に話題も思い浮かばず、どうする事も出来ていない。
しかし、そんな状況を打破する救世主が舞台袖から現る。
「春樹、まだ居たのか、 もう少しで次の公演始めるぞ、 メインの2人も帰ってきて次は出れそうだから大丈夫そうだって、 雪宮さんも、助かったよ、ありがとうな、 そんで2人ともお疲れさま」
「蓮、ありがとう」
「ありがとうございます、白上さん」
「おう、 じゃ俺は次の準備があるから失礼するよ」
そう言うと救世主は来た方の反対側の舞台袖へ行って姿を消した。蓮のお陰で場が和むと、2人の間に会話が出始めた。
「改めて見るとセットとか結構クオリティ高いですね」
そうやって背景や装飾などを見渡す。
「そうですね、 このベッドって代田さんがデザイン考えたんでしたっけ?」
「そうですよ、 結構僕的には自信作なんですよ、 それで言うと衣装もスゴイですよね、 特に雪宮さんのドレスとか、 これこそクオリティ高いなって思います」
「本当にそう思います、 私にはもったいない気がします」
「そんな事無いですよ、 雪宮さん、とても綺麗で似合ってます」
そう言うと、雪宮さんは一瞬ハッとしたようなそんな表情になった。
「ありがとうございます、 私行く所あるので着替えに行ってきますね」
そうして、雪宮さんはサッと舞台袖に入っていった。1人残った春樹はもう一度舞台上を見渡した後、雪宮さんとは反対側に捌けていった。
雪宮さんは舞台を降りると、誰もいない更衣室に来てドレスから制服に着替え始めた。しかしドレスの着脱が簡単な部分でさえ脱ぐのに時間がかかっていたり、シャツの本来と違うところから腕を出したり、いつもの冷静さは少し欠けているようだった。
―私どうしたのかしら、 それにこの気持ちは何? いつも綺麗とか可愛いとか言われても何もないのに、どうして代田さんに言われたら、こうドキってしてるの? もしかして私、代田さんのことが…―
"ガチャ"
「あれ、雪宮さんじゃん、 役代わってくれてありがとうね、 とても綺麗だったし、演技もやっぱり上手だったよ」
「内山 心葉さんでしたよね、 ありがとうございます、 足を捻ったと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
―やっぱり代田さん以外から言われても、いつも通り何もない―
「うん、 おかげさまで全然痛くないよ、 だから後は任せて雪宮さんは春樹と回ってきていいよ」
急に「春樹」という言葉が出てきて、思わず「えっ」と漏らしてしまう。
「どうして代田さんが出てくるのですか?」
「私、さっき2人で回ろうとどこか行くの見たんだよね、 文化祭を2人で回るっていうことは、そういう関係なのかなって」
そう言われた途端、雪宮さんの心臓が「ドキッ」と跳ね上がった。
「全然いいと思うよ、 春樹優しいし良い奴だし」
「私と代田さんが付き合ってるなんて事無いですよ、 少なくとも代田さんは私にそんな事思っていないでしょうし」
「ふーん、そうなんだ、 でもその言い方だと、雪宮さんは春樹のことを『少なくともそんな事思っていない』では無いみたいなことを言ってるように聞こえるよ」
「そうなんですね、 でも実際の所はそんな事思っていませんので、忘れていただいていいので、 では私、先に失礼しますね」
そう言うとそのまま更衣場所の外へそそくさと出ていった。 もうその時には耳も頬も赤くなっていたということは、心葉以外誰も知る人はいなかった。
こんにちは、小鳥遊 雪音です。「#13 代田くんと文化祭 〜下編〜」を読んで下さりありがとうございました。そして投稿が空いてしまってすみませんでした。私、この前の1週間、東京の方に旅行に行かせてもらっていました。その影響で十分な時間が取れなかったり、またそもそも納得のいく内容が思いつかなかったりしたためにこのような事になりました。それで改めて技術的なのが足りないなと実感しています。 そこで、色々サイトで人気のある小説から内容以外で参考にできるようなことないかなと、内容を楽しみながら読ませていただきました。そこで感じたのが、思っていたよりも1話分の文字数が多いなと言うことです。リアルでの友人に聞いても、これぐらいなら全然良いと言うことも言ってもらったので、今回の話は以前の話の約2.5倍の文字数にしてみました。 そのため投稿頻度がまた少し空くかもしれませんが、以前とどちらが良いか考えながら色々試行錯誤してみようと思います。
さて今回のお題は「お茶とコーヒーどちらが好きか」です。先に結論から、私が好きなのは「コーヒー」です。といってもちゃんとコーヒーを飲み始めてからあまり経ってないですが。まだブラックは、飲もうとはしていますがまだ飲めません。 なので近々飲めるぐらいになっておきたいなと思っています。 逆にお茶の方も好きなお茶と苦手なお茶がありますね。好きなお茶だと麦茶とかルイボスティーも好きな部類に入ります。苦手な方には緑茶とか抹茶とかがあるかなと思います。これらもいつかは克服とか出来たらいいなみたいな感じでは思ってますね。 ということで「お茶とコーヒーどちらが好きか」の答えは「コーヒー」でした。
さて今回の話はどうだったでしょうか。今回で文化再編は終わりになります。雪宮さんが春樹に対する気持ちに気づき始めた所で終わりましたが、この後どうなっていくのか、そして春樹の気持ちははたしてどうなのか、これから色々書いていく予定ですので、こうご期待ください。
話は変わって、1つお願いなのですが、後書きで書くお題が尽きてきています。なのでよろしければ気になる事等を感想のところなどに書いてくれると私とても嬉しいです。
これからも不定期で、期間が空くかもしれませんがよろしくお願いします。




