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#8 鉄壁

「全艦回頭! 戦闘用意!」

「はっ!」

「通信士、近傍の戦隊に応援要請せよ!」


 すでに射程ギリギリだ、逃げている余裕はない。まずは反転して防戦しつつ、近くの味方艦艇が駆けつけるまでもたせるしかない。


「敵艦隊、電波管制を解除しつつ陣形転換、砲撃、来ます!」

「支援艦隊が到着するまでの間、踏ん張れればいい。シールドを展開し、極力やり過ごせ」


 5倍もの敵に、ずっとつけられていた。まったく気づくことができなかったとは不覚だった。


「おう、数倍の敵が現れたと申すか? 愉快愉快じゃ」


 うれしそうな顔をする死神。いきなり訪れた危機に、まさに嬉々とした表情を見せる。しかし、こちらはそれどころではない。


「シールド展開、急げ!」


 艦長が叫んだ直後、猛烈な直撃弾が浴びせられる。ギギギギという不快な音が鳴り響いた。初めて聞くこの不快音に、死神ナポリタンは耳をふさいでふさぎ込む。


「な、何じゃこの音は!?」


 6倍の敵だ、つまり一隻あたりに、6隻の敵が照準を合わせてきている。一撃命中したかと思えば、さらに別の敵の攻撃がシールドをかすめる。グラインダーで金属の塊を削るような不快な音が、再び鳴り響いた。


「ひえええぇ、なんとかせぇ!」


 何とかしたいのはやまやまだが、こればかりはどうしようもない。後退しても、敵は追従してくる。6倍の数の敵による攻撃が予想以上に激しすぎて、反撃に出られない。


「味方はまだか!」

「第13戦隊500隻がこちらに急行中とのことですが、20分はかかるとのことです!」


 この激しい直撃弾がシールドを削る音により、会話もままならないほどだ。副長のエイレン中佐とは叫びながらの会話となる。


 モニターを見るが、あまりにも激しい砲撃エネルギーにより、レーダーがほとんど役に立たない。陣形図が乱れ始めている。このままでは、本当にやられる。

 どうする。

 俺は考えた。今、撃たれっぱなしの現状を打破しない限り、いずれシールドが尽きて全滅は必至だ。その前に、打開策を見出さなければならない。

 そこで俺はふと、昨夜のあの話を思い出した。

 鉄壁騎士団といったか、やつらの基本戦術は、盾による防御、その隙から繰り出す長槍による正確な突き。その戦術で、やつらはまさに6倍の敵の奇襲にも耐えた。

 こちらも、同じような状況だ。ならばその戦術が、ここでも有効なのではないか?

 とはいえ、槍とビーム砲とでは違い過ぎる。盾とシールドは同じようなものではあるが、鉄壁な守りは作り上げることができるが、攻撃に転ずるには……

 そこで俺は、ふとひらめいた。


「副長!」

「はっ!」

「全艦に伝達だ、攻撃を受けつつ、陣形を再編する」

「陣形再編ですか!?」

「まず、3隻で防御陣を作り、その後方に2隻、下がらせる。艦名の下一桁が3番から5番、8番から0番の艦でシールド展開のまま防御陣を作り、その後方に1、2番、6、7番の艦が主砲を装填する」

「まさか、3隻のシールドの合間から、敵を撃てと!?」

「そうだ、急げ!」

「はっ、直ちに!」


 死神から聞いた昔話をヒントに、我々は攻勢に転ずることができるのか。元ネタが死神の話だというのがやや気に入らないが、今は手段を選んでいる余裕はない。


「陣形再編、完了しました!」

「よし、3隻のシールドを盾に、2隻が交互に攻撃する!」

「はっ!」

「反撃を開始するぞ、砲撃開始!」

「当艦も攻撃に転ずるぞ、主砲装填、撃ちーかた始め!」


 俺の砲撃開始命令の直後、艦長の攻撃命令が続く。主砲装填音の直後に、落雷のような砲撃音が鳴り響いた。これはこれでうるさいが、シールドによるビーム防御時のあの不快音に比べたらまだマシだ。

 3隻のシールドの隙間から、我が艦が一隻の敵を狙う。まさか反撃が来るとは思わなかった敵は、あっさりと直撃を受けて撃沈する。全部で10集団の防御砲撃により、3隻の敵が沈んだ。

 300隻の内の3隻。たった1パーセントであるが、この打撃が敵を乱した。

 それはそうだろう。予想外の反撃に、無防備だった艦が3隻失われた。こうなると敵も、防御をとらざるを得ない。

 こちらはさらに反撃する。が、今度はシールドに阻まれる。だが、こちらは3隻の艦に守られつつ、2隻の艦が交互に砲撃を加える。

 再び、敵が1隻沈む。これで4隻。2隻による交互撃ち方としたのは、シールドで防御した直後にわずかにあいた穴に続けざまに撃つためだ。それが功を奏した、というわけだ。

 ならば、こちらのシールドに穴は開かないのか? それは、3隻が円を描くように回りながら回避運動を繰り返しているため、集中砲火を避けることができる。

 ようやく、反撃の糸口を見出した我が戦隊は、20隻のみでの砲撃を続ける。だが、徐々に敵は防御を固め、撃沈は難しくなってきた。

 だが、我々の狙いは、そこではない。

 ついに、来るべきものが来た。


「第13戦隊、まもなく到着! 敵との距離32万キロ!」


 そう、援軍だ。ここは地球(アース)1064宙域だから、味方が近くに多数いる。こうなると敵は、逃げるしかない。


「よし、全艦、反撃に転ずる! 陣形を転換、全速前進!」


 敵が後退を始めた途端、我々は、我々の戦術に切り替える。猛烈な速度で敵の側面に回り込む。

 しばらく敵側面へ向けて進み、ちょうど敵の側面が見えたところで停船する。


「全艦、一撃離脱を行うぞ、目標、敵艦隊側面側!」


 後退から反転に移ろうとする敵の側面に、50隻の集中砲火が浴びせかけられる。パッと青白い光が数十ほど光る。


「敵艦隊は、どうか?」

「はっ、後退を一時停止、こちらに砲身を向けつつあります」

「よし、全速離脱だ、再び側面に回り込むぞ」


 敵が撃ってきた。が、全速で離脱を開始した我々を当てることはできない。執拗に攻撃を続けるが、逃げ回ることに慣れている我々に当てることなどできない。

 が、この時間稼ぎが功を奏した。


「第13戦隊、砲撃を開始!」


 300隻の敵艦隊のやや後方から、追いついてきた500隻の支援艦隊が砲撃を開始した。形勢は逆転。しかし、我々は攻撃の手を緩めない。


「再び、砲撃に転ずる。敵の後方を撃つぞ」

「はっ、砲撃準備に入ります!」


 エイレン中佐が全艦に砲撃戦を命じる。敵艦隊は数に勝る500隻の味方艦隊に追いつかれて、反撃のため全艦がそちらを向いている。その後方から、我々は砲撃を加えた。

 あとはいつも通りの戦いだ。後方にはシールドが展開できない、そこを我々は突く。何隻かが、無防備な後方からの砲撃によって撃沈させられる。

 当然、何隻かがこちらに振り向き、反撃に転ずる。が、それは味方の500隻に背中を向ける行為だ。だから、500隻からの砲撃によってやはり撃沈させられる。

 こうなると敵は撤退するしかないが、その判断があまりにも遅すぎた。

 300隻の内、100隻以上を失ったところで敵艦隊は降伏した。


「なんじゃ、つまらんのう」


 どうにか危機を乗り越えて、逆に敵の艦隊を降伏に追い込んだ。しかしやつらは確実に我々、50隻のこの戦隊を狙ってきた。

 つまり、我々はあの話で言うところの「鉄壁騎士団」と同じように、敵にとっては疎ましい存在だったということだ。

 それを打ち破ろうとしたら、我が艦にいた優秀なレーダー士によってその存在を見抜かれた。枯葉を踏みしめる音を聞き逃さなかった、騎士団長のように。


「サロウ准尉」

「はっ!」

「貴官のレーダー士としての目によって、我が戦隊の危機的状況は回避できた。感謝する」

「はっ! 光栄であります!」

「しかし、よくあのデブリの中から潜む敵を見つけ出したものだな」

「普段から、デブリや小惑星を見てますから、不自然な動きには違和感を感じただけです」


 本人は謙遜しているが、その動きに違和感を感じること自体が彼の優れた感性であることに違いない。


「おい!」

「はい?」


 ところが、そんな優れたレーダー士に文句を言うやつがいる。

 手に持った大鎌を、サロウ准尉に向けてそいつは叫ぶ。


「そなたが敵を見つけてしもうたから、こやつの命を奪いそこなったではないか!」

「いやあ、奪われたらダメでしょう」

「ああ、悔しい! もうちょっとであったのに!」


 と悔しがる死神だが、正直、あまり本気で悔しがっているようには見えない。ぶつぶつと文句を並べてすぐに艦橋の壁際にもたれかかり、不満げな顔で艦橋内を見渡している。

 変なやつだ。しかし、撃たれていればこいつだって無事では済まなかったのではないか? いや、死神が高エネルギービーム光を浴びたらどうなるかはわからないが、服はごく普通の布製のローブだった。となれば、やはり我々同様、消えてしまうのではないか。そう思えてならない。


「やれやれ、そなたが死ぬのはいつのことになるんじゃろうなぁ」


 その後の風呂場で、湯船につかりながら物騒な発言を俺に向ける死神ナポリタンだが、そう言いながらも風呂を気に入っているようだ。男たちの視線を浴びることを除けば、であるが。


「俺が死んでいたら、のんびりと風呂に入ることはできなくなるぞ」

「わしは別に風呂に入る必要はないんじゃ。そなたが入るから、仕方なく入っておるだけじゃ。でなければ、なぜわしは男らの目にさらされる恥辱を受けねばならぬのじゃ」

「知るか。お前が勝手に入ってくるから悪いんだろう」

「どうして死神が悪いことになってしまうんじゃ? 納得いかぬであろう」


 納得も何も、死神というだけで悪の存在じゃないか。何を言っているんだ、こいつは。


 ともかく、このときの戦いは、優秀なレーダー士の目によって辛うじて勝利した。しかし、紙一重の勝利だった。もう数分、レーダー士の違和感を感じるのが遅かったら、今ごろ俺はあの世行だったことは間違いない。

 今度の戦いは、死神とは無関係だ。さすがにあの本物の死神は現れたりしないだろう。

 いや、ちょっと待てよ?

 あの反転攻勢に出られたのは、ナポリタンから聞かされた昔ばなしがきっかけだった。こいつ、無意識なうちに俺に反撃のアイデアを与えてしまった。まさかそれを口実に、本物の死神が現れたりしないだろうな?

 しかし、ヴェローニア港に戻るまでの間、そして宇宙港を降りて宿舎に戻っても、あの死神が現れることはなかった。

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