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#16 大艦隊

「敵艦隊、さらに接近! 距離45万キロ、総数およそ3万隻、射程圏内まであと15分!」


 かつて見たこともないような陣形図が、モニター上に表示されている。3万もの大艦隊同士が、まさにこの死を迎えた後の星の残骸の星域で、死闘を繰り広げようとしている。

 敵である連盟側も、3つの星からそれぞれ1万隻づつ集めたのだろう。我が連合側も地球(アース)169、地球(アース)817という同じ連合側に属する星に救援要請をし、これを迎え撃つべく集まってきた。

 で、我が戦隊といえば、いつも通り電波管制を敷き、敵に気付かれないようにゆっくりと慣性航行で敵艦隊側面に接近していた。

 が、これほどの大艦隊相手に、たった50隻が何の役に立つのだ?

 とはいえ、与えられた役割を果たすべく、我々はいつも通り、敵に忍び寄る。


「そなたらを憎悪する連中の殺意が、ここにまで伝わってくるぞ。今度ばかりはそなたらは助からんであろうな」


 などと勝手なことをほざく死神を横目に、俺はその大艦隊に向けて、じりじりと我が戦隊を接近させる。


「相手は大艦隊だ、その左翼側の艦隊側面を狙う。推定距離は?」

「はっ、およそ7万キロ」

「いつもより遠いな……」

「仕方ありません、敵が多すぎて、先ほどから左右の艦隊が移動を続けているんですよ。これでは、むやみに近づけません」


 3つの星から集まった3個艦隊だ。指揮系統もバラバラであるため、お互いに右に寄ったり左に寄ったりと、艦隊の連携に苦労している。その辺りの事情は、味方も同じだ。

 おかげで、いつものように5万キロまで接近しようとしても、今は敵が離れて行ってしまう。かといって接近すれば、今度はこちらに寄ってくるかもしれない。

 あまり近すぎると、発見されてしまう恐れがある。そのため、むやみに接近できない状態が続いている。


「敵も、我々が前回と同じ手を使ってくることを承知しているだろうな」

「おそらくは。それゆえに、今度は大艦隊でやってきたのではありませんか?」

「それもあるだろう。が、それだけではないだろう。何かもう一つくらい、別の手を打ってくるはずだ」


 どうも嫌な予感しかしない。さっきから、死神がパフェでも平らげたかのように満面の笑みを浮かべているのが、その予感をより増幅させている。いつもでも苦しい戦いを強いられているというのに、今度はその3倍もの敵だ。

 それに、側面攻撃から後方に回り込むという戦術は、いい加減、何らかの対策をとられてもおかしくない。前回は、いつもなら後方に控えているだけの戦艦を使って攻撃を加えてきた。

 今度は、どんな手を使ってくるのやら。

 それを考慮したからこそ、我々は接近戦用の兵器を手に入れた。すなわち、人型重機隊である。50隻に、およそ150機を搭載してある。

 いつものように砲撃だけでは敵にその行動パターンを読まれ、やられてしまう。だから今度は接近戦も取り入れることにした。かなり危険な賭けだが、ともかく我々の狙いは敵を「攪乱」させられればいい。

 そのためには、こちらも頭を使い敵の裏をかかねばならない。まさにあの国王陛下と勇鉄騎士団長が、スフォルツァ公爵相手にやったように。


「両艦隊、距離31万キロ! まもなく、砲撃戦が開始されます!」


 興奮気味のエイレン中佐が、俺に報告する。あまり大きな声を上げると気づかれてしまう……なわけはないが、いくら真空中の宇宙といえども、気迫が伝わってしまうのではないかと思うほどの熱気だ。


 しかし、今日の死神はやけにそわそわしているな。よほど今回は危ないと見える。それが予感できるからこそ、うれしくてたまらないのだろう。俺はやっぱりこの戦いで、命を落とすのだろうか。

 いやいや、あまり深く考えるな。ともかく、今は戦いに集中しよう。

 そう思った矢先、ついに大艦隊同士の戦闘が始まった。青白い無数の閃光、それもいつもの3倍もの量のビーム光が、目の前を横切る。


「よし、それじゃいつも通り始めるぞ。砲撃戦用意!」


 戦闘開始と同時に、我々も奇襲攻撃に入る。キーンという主砲充填音の後、雷音のような音とともに、窓一面を覆う青い閃光が艦橋内を照らす。


「うわっ!」


 後ろで、ナポリタンが叫ぶ。とはいえ、もう何度も経験している砲撃だ。何を今さら驚いている? 訓練まで加えると、もういい加減この音に慣れてもいいころだぞ。

 なにか、様子が違うな。いつもの死神らしくない。上手くは言えないが、何かにおびえているようだ。どういうことだ?

 むしろ、我が戦隊にとっては絶体絶命のピンチといえる状況、死神にとっては願ったりかなったりな気がするのだが、むしろいつもよりも臆病になっているような、そんな気がしてならない。


「続けて、第2射用意! 撃てーっ!」


 2発目を放つ。いつもなら3発撃って全速前進といったところだが、今回は早めに離脱しよう。なにせ敵が多すぎる。


「面舵一杯、全速離脱!」


 俺は2発目の発射後に、すぐに命令を下す。


「面舵いっぱーい! 最大戦速!」


 航海長が叫ぶと、艦が動き出す。猛烈な轟音と共に機関が回りだし、一斉に転回し始める。

 と、その直後だ。猛烈な閃光が、すぐ脇を通り過ぎる。

 敵の砲撃だ。やはり、敵は早めの反撃を加えてきた。もしいつも通り3発撃っていたら、全滅させられていたかもしれない。

 今回の敵は、明らかにやばい。


「このまま、敵の後方に向かうぞ。取舵90度、最大戦速!」


 俺は戦隊に命令を出す。当然のことながら、前回同様に後方に控える戦艦隊が我々を捉え、砲撃を仕掛けてくる。

 動いている分には、攻撃は当たらない。だが、停止したときが危険だ。移動しながらの砲撃は、命中精度がほぼゼロとなる。このため、こちらの砲撃を当てるには停船しなくてはならない。

 そのタイミングが、実に難しい。敵の狙いから大きく外れたポイントで停船し、さらに狙いを定めて撃つ。敵の反撃が来る前に、再び全力で逃げる。

 ジグザグな動きでランダムに動き回ることで、動いている限りは狙いを定められないが、停船するポイントを見定める勘は、指揮官である俺にかかっている。じっと陣形図と、敵の砲撃の密度とを見定めながら、そのポイントを探る。


「今だ、全艦停止! 直ちに敵艦隊中央に砲撃を加える!」


 急減速により、周囲の星の流れが止まる。大きく向きを変えて、正面に見える艦隊主力同士の砲撃の光が目に入る。こちらに後ろを向けた敵艦に向けて、この50隻が一斉に狙いを定めてこれを沈める。

 何度も、訓練を重ねてきた、熟練の戦隊だ。だが、敵とて馬鹿ではない。何度も同じ手を使えるとは限らない。

 とはいえ、ランダムに動き、止まる相手を止める方法などあるのだろうか。それが俺には思いつかない。ということは、敵だって思いつけるはずがない。せいぜい、止まった相手を後方の鈍重な戦艦隊で狙うしかない。なれば、その戦艦からの反撃の前に、沈められるだけ沈める。


「初弾発射、撃ち―かた始め!」


 50隻から、一斉に砲撃が放たれる。弾着観測を待たず、第2射を加える。我々の狙いは、敵の攪乱だ。撃沈ではない。沈もうが沈むまいが、敵が混乱を収拾するためにこちらに艦首を向けさせることで、艦隊主力からの砲撃に敵駆逐艦の後方をさらさせる。その一角を切り崩すことで、敵艦隊の陣形崩壊を促す。それが、我が戦隊に課せられた基本戦略だ。


「第2射、発射、撃てーっ!」


 艦長が我が5101号艦の砲撃を指示している。が、俺は第二射の直後、すぐに命令を出す。


「そのまま仰角45度、全速前進! 敵からの反撃が来るぞ!」


 できれば第3射を撃ちたかったが、死神の表情を見た。ついさっきまでおびえていたというのに、ニタリと笑みを浮かべたため、危険を察知した。

 そこで俺は、我が戦隊を上方に移動させる。すぐさま戦艦隊の強烈な集中砲火がかすめるが、すでに動き始めた我が戦隊に当てることはできない。

 しかし、いつ見ても肝が冷える。生きた心地がしない。わずか数百メートル先に、敵の無数の砲撃が我が戦隊のそばをかすめるのだ。まぐれ当たりでもすれば、それだけで艦艇を失い、50隻しかいない我が戦隊はかなりの攻撃力を失う。

 無茶な任務だ。通常の艦隊司令長官ならば、こんな無茶な艦隊運動はさせない。一歩間違えれば、少数のわれらは全滅するからだ。

 たかが50隻といえど、一隻当たり100人が乗船している。ということは、5000人がいるということだ。たかが5000人、されど決して少ない数字ではない。その5000人にはそれぞれ家族がおり、友人もいる。この先の人生を描いて戦いに参加している者だっているはずだ。

 もっとも、我々はこの戦隊以上の数の艦艇を撃沈、または撃沈させるきっかけを作ってきた。彼らにだって家族があり、友人がおり、そして将来があった。それを奪った張本人が、生きながらえることを主張する資格はあるのか、と。

 だったら、戦いをやめればいいのに。

 それを気づかせるために、俺は戦っている。背後で時折笑みを見せる、あの不気味な死神とともに。


「あと二度、方向転換をしたら停船する。そのまま、全速前進しつつ面舵80度だ」

「はっ!」


 俺は副長に指示を出す。敵艦隊中央への砲撃は、意外にも敵の混乱を招いているようだ。考えてみれば、敵は数が多い上に命令系統が統一されていない。わずかな攪乱が、大きな混乱につながる。となれば、中央部を集中的に攻撃するのはありかもしれない。その意図を受けた戦隊は、大きく右に回頭し始める。が、その時だった。

 死神のナポリタンから、意外な一言が飛び出した。


「そっちに回ってはならぬ!」


 なんだ、こいつは。死神が、行くなと言っている。つまりそちらの方角が安全だと示していることになるじゃないか。その言葉に俺はかえって確証を得て、さらに指示を出す。


「そのまま全速前進だ、急げ」

「おい、アレックスよ! 人の話を、いや、死神の話を聞け! そちらに行けば、確実に死ぬぞ!」


 何を言っているんだ、こいつは。確実に死んでほしいんじゃないのか。まるで死んでほしくないかのような物言いだぞ。


「少し黙っててくれないか。そっちに進むことがお前の願い通りだとするならば、本望なのだろう? なぜ必死に向かうなと主張する」

「馬鹿かお前は! 本当に死にたいのか!?」

「そんなわけあるか。だから、死神が言うことの逆をした方が、死ぬ確率が低いのは当然だろう」

「今、向かってる先はそんな甘い罠ではない、もっと狡猾で大きな罠が仕掛けられておるのじゃ!」

「まさか死神のいうことを、俺が信じろと?」

「何のためにわしが、死を予感したときに笑みを浮かべておったと思っておるのじゃ! 勘の良いそなたならば気づくだろうと、そう思ってのことじゃぞ!」


 それを聞いた瞬間、俺はハッとした。そういえば、こいつはいかなる時も、危ない時は笑みを浮かべていた。てっきり俺は、ようやく死神としての念願がかなうと信じて漏れ出た笑みだと、ずっと思っていた。

 が、本物の死神が現れた時に、やつはナポリタンにこう言った。「狙った獲物を何度も生かした、情けない死神だ」と。そういえば、つい先日もやつは暗殺者の前で俺を押し倒したが、そのおかげで俺は、命を助けられたようなものだ。

 もしかして俺は、考え違いをしていたのではないか? そういえば、この死神の行動は結果的に、いつも俺を「生かす」方向へと向わせていた。

 それが、この死神の「狙い」だったのではないか?

 理由は分からない、が、そう考えればこれまでの行動のつじつまが合う。

 さらに、この死神は叫ぶ。


「そなたらの中で、目の良いものがおったであろう! この先にある罠を見つけられれば、わしのいうことが本当であると分かるはずじゃ!」

「おい、サロウ准尉!」

「はっ!」

「レーダーサイト内、進行方向に何か見えないか?」

「待機を!」


 ともかく、死神が何かあると言っている以上、優秀なレーダー士の目に頼るほかないだろう。が、意外にも早くレーダー士から回答が来た。


「無数のデブリ、おそらく、機雷源です! あと20秒で接触!」


 いともあっさりと、罠の存在に気付いた。もう避けている暇などない。俺は副長に命じる。


「全艦、シールド最大展開! 前方の地雷原に全速で突入する!」


 こうなったら、シールドを使って強引に突入するだけだ。今度の大艦隊の敷いた罠は、この機雷源に我々を追い込むためだったのか、と。

 だが、シールドさえ展開すれば、機雷源を突破できる。全速ならばその爆発に巻き込まれる恐れもない。だから俺は、むしろ突入を指示した。


「機雷源に、突入します!」


 そうサロウ准尉が叫んだ直後だ。猛烈な爆発が、艦の周囲で起こる。ギギギギッと何かを削るような不快な音が艦橋内に響く。窓の外は、真っ白な光で覆われる。

 しばらく、その機雷源は続く。連鎖的に爆発を起こし、辺り一面が真っ白な光に覆われた。が、幸いなことに全速力で突っ切った我々50隻に、被害がない。

 間一髪だった。死神の警告は、大当たりだった。だが、我々を生かしたその死神は頭を抱えながら、こう呟く。


「お、おしまいじゃ……死神が、死を避けさせるなど、どう考えてもろくな結果を生まぬ。わしはどうなるのじゃ……」


 それを見た俺は、やつの肩を叩く。


「おい、今さら悔やんでも仕方ないだろう。俺だってあの本物の死神から脅されているんだ、ここまで来たら、覚悟を決めるしかない」


 俺はどことなく、こいつの愛嬌さや一喜一憂する姿に、愛情というかそんな類いのものを感じていたのかもしれない。こうなったら、一蓮托生だ。ならばこの死神を徹底的に利用し、戦隊を生かし、この戦いを生き延びるしかない。

 その後で、本物の死神の裁きとやらを受けるだけの話だ。やつ一人に、それを負わせるつもりはない。


「そ、そうじゃな……このまま先に進み、合図とともに停止するんじゃ!」


 こうして、死神が「味方」になった。いや、最初から味方だったのか。どこかで聞いたような話だな。まあ、いいか。


「今じゃ!」

「よし、全艦停止、砲撃戦用意!」

「全艦停止、砲撃戦用意!」


 副長のエイレン中佐が、俺の命令を復唱し、全艦に伝える。急減速して向きを敵の艦隊後方へとむける。一斉砲撃が、開始される。

 効果は、ないわけではない。だが、敵の数があまりにも多すぎる。50隻ごときのかく乱作戦など、海に投げ入れた石の如く、波にかき消されてしまうようだ。

 仕方がない、危険ではあるが、あれをやるか。


「全艦、向きそのまま、全速前進!」

「提督、まさか……」

「そのための新装備だ。これを活かす」

「はっ! 進路そのまま、全速前進!」


 俺は全艦に、敵艦隊中央への突入を指示する。距離は、すでに2万キロを切った。


「何をするつもりじゃ?」

「接近戦だ。お前も見ただろう、陛下への狙撃を阻止した、あの人型重機を」

「まさかあれで、敵の船をやっつけると申すか」

「その『まさか』だ」


 あまりにも無謀な作戦に、死神といえど驚愕の表情を隠せない。いや、こいつははなから表情を隠したことがない、怖いときはおびえ、美味いものを食べた時は歓喜し、昔の話を語るときはドヤ顔をする。

 ただ一つ、死を予感したときは偽りの笑みを浮かべていた。こいつにしては、さぞかし無理をしていたのだろう。


「あと30秒で、敵艦隊後方だ。人型重機隊、全機発進用意!」

「はっ、人型重機隊、全機発進用意!」

「敵も重機隊を出してくるかもしれん。対空戦闘用意!」

「はっ! 対空戦闘用意!」


 駆逐艦が、主砲以外で戦いに及ぶなど、珍しい作戦ではある。50隻の上面にあるハッチが一斉に開く。急減速に入り、艦隊後方にとりつこうとする我が戦隊を、敵が慌ててこちらに狙いを定めようと向きを変えてくるのが見えるほどまで接近した。

 が、背中を向けた敵の艦が、味方の艦隊主力の砲撃で何隻かが撃沈される。


「全機、発進!」


 俺の号令と同時に、開かれたハッチから一斉に人型重機隊が飛び出す。ロボット兵器ではあるが、名前の通り、元々は汎用型の重機、つまり産業用機械だった。それに兵器とシールド、そして大型の重力子エンジンを搭載して兵器化した。

 接近戦など、めったにやらない。が、逆に言えばやられた時は防ぎようがない。全長が300メートルの駆逐艦に対して、人型重機はせいぜい10メートル程度の小型兵器であるが、シールドが展開できない艦後方ならば小型機の兵器といえども、ダメージは大きい。

 150機の人型重機が、一斉に敵艦隊後方へと襲い掛かる。次々に爆発が見える。一方で、味方の砲撃によるビーム光もすぐ近くをかすめる。まぐれでも当たれば、大変なことになる。


「そろそろ、引き揚げた方がよいぞ」


 新たな参謀役となった死神が、そう俺に助言する。


「そうか、潮時か。では、例のやつを使う」


 さて、問題はここからだ。出したはいいが、回収するのに難儀するのが接近戦闘の厄介なところだ。これを、敵に当たらないよう移動しながら重機隊を回収する。

 そのための秘策として、俺はあるものを取り付けさせた。

 それが、一斉に放出される。


「捕獲網、展開!」


 副長であるエイレン中佐が叫ぶと同時に、50隻の艦艇から一斉に大きな漁獲網のようなものがパッと広がる。その網に3機づつ、重機隊がとりついた。


「よし、全機つかまったな、全速前進、眩光弾を放出しつつ、離脱するぞ!」


 敵も必死にこちらに砲撃を加えてくる。そのうちの何隻かが、30万キロ離れた先にいる味方艦隊によって狙い撃ちされる。そこで眩光弾と呼ばれる大きな光の玉を発し、雑電波でレーダーを無効化する弾を撃ち、退路を作る。

 真っ白な光の玉が数十個、光る。その光の最中を抜けて、敵の艦隊中央を突っ切り、そこで大きく弧を描くように前進する。再び敵の艦隊を突っ切って、敵艦隊後方に至る。


「もう一度だけ、中央部に打撃を与えるぞ。おい、ナポリタン!」

「なんじゃ、アレックス。わしを呼んだか?」

「もう一度だけ、停船のタイミングを教えろ」

「やれやれ、死神使いの荒いやつじゃ……」


 などと言いながら、ナポリタンのやつ、窓の外をじっと見つめてその機会を探っている。ビュンビュンと、敵の戦艦から発せられた青白い光が戦隊を横切る。いつもより、数が多い。


「今じゃ!」


 死神が叫ぶ。それを聞いた俺は、全艦の停船を命じる。


「全艦停止、砲撃戦用意!」


 いつも通り、副長がそれを全艦に伝える。まだハッチを開き、網を広げたままの50隻の艦艇が、一斉に方向を変える。振り落とされまいと、人型重機はその網にしがみついている。


「砲撃開始、撃てーっ!」


 多分、一撃与えられればいい方だと思っていた。それ以上は、死神に言われなくても危険だと分かる。なにせさっきからすぐ脇を、敵のビーム光が横切っているからだ。


「よし、全艦、全速離脱!このまま敵艦隊から離れるぞ!」


 なにせまだ人型重機の回収が終わっていない。このままでは、やつらを振り落としかねない。いや、実際に何機か振り落とされたようだ。やむを得ないが、この宙域から敵艦隊が撤退するまで宇宙を漂っていてもらうしかない。

 接近戦までやらかした。おかげで敵の艦隊の中央部は混乱に陥り、陣形が乱れた。当然、乱れた場所に味方の砲撃が集中する。多くの爆発光が、ちょうど人型重機で襲ったあたりで光るのが見える。

 重機隊によって、後部を破壊された駆逐艦は動けなくなる。それを狙い撃ちすれば、やがてシールドを失い撃沈する。何隻やれたかは分からないが、少なくとも200隻ほどは航行不能に陥れたはずだ。


 それから30分ほどは戦闘が続くが、我々は射程圏より離れた場所で停船し、人型重機を回収していた。


「未帰還機、17。思ったより振り落とされませんでしたね」

「いや、17といえど精鋭中の精鋭だ。できる限り、回収したい」

「とはいえ、敵が後退してくれなければ、無理ですね」


 が、中央に大打撃を受けた敵の艦隊は、いよいよ後退に移り始めた。陣形図からは、徐々にではあるが敵が下がり始めた様子が見える。


「軍司令部より入電、敵艦隊は後退を開始、追撃戦に入る、と」

「そうか」


 重機隊の回収を終えた我が戦隊は、その報告を受けてもその場にとどまり続ける。たかが50隻が追撃戦に加わったところで、たいして効果はない。側面攻撃をするという手もあるが、逃げる敵を撃ったところで、むしろ敵の後退を妨げる結果になりかねない。

 さっさと後退して、未帰還機を回収したい。俺としては、敵がこの場を去ってくれることを願うばかりだ。

 そんなわけで俺は、40万キロほど離れた地点で敵の後退をただ眺めていた。

 が、そんな静寂な中、それを打ち破る者が現れる。


 艦橋内の照明が、暗くなる。いや、正確にはどす黒いガスのようなものが艦橋内に蔓延し、光が遮られた。

 これは、以前にも経験がある。そう思った俺は、天井方向を見上げた。

 そこには、宙に浮いた本物の「死神」の姿があった。

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