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#14 暗殺

 間違いなく、あの銀色のそれは「剣」だ。まっすぐ俺を狙ってきた。

 その剣が付き出された方角に死神は俺を押した。が、逆にそのおかげで俺は倒れ、ギリギリその剣を避けることができた。

 バタンと地面に仰向けに倒れる。俺の真上を、剣を持つ者が飛び越えていく。


「ちっ!」


 明らかに狙いは俺だ。その暗殺者は振り返ると、俺を睨みつけてくる。が、状況がまだうまく呑み込めていない。

 ともかく、反撃せねば。俺は寝転がったまま腰の銃に手を伸ばす。が、さらに状況が悪化する。

 倒れた俺の頭上にもう一人、誰かが現れる。その者は俺を見下ろすと、ゆっくりと剣を抜く。


「おお、団長殿、やっと来られたか。さ、あの方の仰せの通りに」


 暗殺者がその男にそう言ってのけた。ということはつまり、こいつも暗殺者の一味か。

 しかし、この男の着ているのは正規の騎士団の鎧だ。俺はつまり、騎士に狙われていることになる。

 やばい。俺は、銃を握ろうと腰に手を当てる。

 が、その騎士は剣先を俺ではなく、あの暗殺者に向ける。そして、鎧姿とは思えぬほどの素早い身のこなしで俺を飛び越し、暗殺者の懐に飛び込む。

 あっという間だ。俺を刺そうとしたその男の左胸を、閃光のように騎士の剣が貫いた。血飛沫が飛び散り、バタンと暗殺者は倒れる。

 が、剣を翻して再び騎士は動く。今度こそ、俺を狙ってきたか? いや、その先には別の、剣を握った男が二人いる。

 その二人を、返す剣でひと突き、まとめて倒す。まるで串焼きの鶏肉のように、刺した二人を持ち上げると、そのまま振り払い地面にたたき落とした。

 俺は銃を握ったまま、ゆっくりと立ち上がる。騎士は剣をさっと一振りして血のりを払いのけると、それを鞘に納める。

 さらに意外なことに、その騎士は俺の前でひざまずいた。


「カイエン男爵様でございますね」


 先ほどまで、暗殺者の仲間かと思ったこの男は、何と俺の味方だった。そして彼は名乗りを上げる。


「私は騎士団長のサビーノ・ヴァスコ・シエピと申す者でございます。我が国の英雄となられるお方を狙うと聞いて、馳せ参じました」

「あ、ああ……」


 何と答えたらいいのか。俺はしばらく考える。が、一つの疑問をその騎士団長とやらにぶつける。


「先ほどの暗殺者は、貴殿を仲間だと思っていたようだが」

「はい、ゆえあって仲間のふりをしつつ、彼らと行動を共にしておりました。が、一歩早くあの者がカイエン様を見つけられ、暗殺しようとなさいました。そこで私は仕方なく彼らを始末した次第です」

「どういうことだ? 彼らを、裏切ったのか?」

「少しその辺りを話さねば、ご理解いただけないでしょう。こちらへ」


 そう騎士団長と名乗る男についていった。いや、油断させて俺を指すつもりなのかもしれない。まだ、警戒の手を緩められない。


「やれやれ、暗殺者が飛び込んできたから、そなたをその者の剣に突き刺してやろうと押し付けたというに、そなたが転んだおかげで外してしもうたではないか」


 などとのたまう死神娘。やっぱりこいつは、俺をあの暗殺者の剣に向けて押してきたのか。が、こいつの意に反し、俺は後ろに倒れ、辛うじてその一撃を避けることができた。まったく、運がいい。


「ところでそなた、鉄壁騎士団じゃな?」


 が、その死神は、今度はその騎士団長に向かってこんなことを言い出す。


「いかにも。が、今は勇鉄騎士団と呼ばれている」


 そう短く答える騎士団長。確か王国最強の騎士団と言われた、その団長だというのか?


「ちょっと待て、おかしいではないか。陛下直属の騎士団がなぜ、あのような暗殺者どもと共に、行動しておったのじゃ?」


 死神ナポリタンは、珍しく突っかかる。が、その騎士団長は短くこう答える。


「死神に、答える義務はない」


 そう言いながら、俺を近くの建物の中へと誘う。一蹴されて、不満げな死神とともに。


「実は、陛下のご命令で、陛下を裏切るふりを続けているのでございます。カイエン様」


 で、その建物の一室で俺は、突拍子もないことを聞かされる。


「どういうことだ、話している意味が、俺にはまったく通じないのだが。陛下の命令で、陛下を裏切る?」

「今回の一件、その前のダグラス家や、あなた様への執拗なまでの地位はく奪に向けた一連の出来事。これらはすべて、あるお方の陰謀ゆえでございます」

「……ある、お方?」

「その前に、この死神がいた時代、今から230年前は今とは別の王朝であったことは御存知ですよね」

「ああ、それは聞いている。だが、人民や貴族、そして騎士団らの支持を失い、倒されたと」

「それと同じことを画策する者が、いらっしゃるのです」

「同じこととは……」

「最強の騎士団と幾人かの貴族らを味方につけ、革命を、王座簒奪をおこそうとしているのです」


 それを聞いた俺の中で戦慄が走る。なんとなくだが、俺とダグラス家が狙われた理由が見えてきたからだ。


「しかし革命って……誰がそんなことを?」

「実は、それが誰かわからなかったのです。そのような動きはあり、その革命派の一人が男爵のフランチェスカ一世様であることは分かったのですが、そこから向こうに誰がいるか分からない。しかし今日、あなたを暗殺するように命じられた時、ようやくその者の名が判明したのであります」

「暗殺を、命じた?」

「つまり、ダグラス伯爵家とあなた様は、その者が革命を行う上で邪魔だと判断されたのです。いずれも陛下への覚えもよろしく、かつ、戦術家でいらっしゃる。王宮内での異変にいち早く気付かれて、革命を阻止されてしまうかもしれない。ダグラス家の持つ軍備が、その革命阻止に利用されてしまうかもしれない。だからダグラス家を陥れてわがものにし、カイエン様を消し去る。そのために私は、遣わされたのです」


 ようやく、辻褄が合ってきた。どうして金にもならない軍備品の調達を担うダグラス家が狙われ、しかも俺までもが巻き添えを食ったのか。


「なんじゃ、それではダグラス家どころか、この王国もまたその名を変えてしまうところであった、というのか?」


 横で聞いていた死神ナポリタンの質問を、この団長はスルーする。そしてシエピ団長は最後に俺に、こう言い残す。


「そろそろ私が戻らねば、私が陛下に通じている者であることがばれてしまいます。カイエン様、その革命を起こそうとする不届き者の名を、陛下にお伝えください」

「貴殿が伝えればよいのでは?」

「いえ、私はあくまでも『裏切り者』を演じる身。私が直接伝えるわけには参りません」

「だが、貴殿は暗殺者を3人、倒してしまった。それはどう言い逃れるつもりだ?」


 そう、暗殺者は剣によって殺された。団長も、その場から消えてしまった。どう見ても、団長があの3人を倒したと疑われても仕方がない。

 が、団長はなんと、腰に差していた剣を、俺に渡す。


「あなた様が、倒したことにしておいてください」

「は?」

「剣術の心得があり、3人は歯が立たなかった。私がカイエン様の後を追ったが、宇宙港の中に逃げられてしまったため、逃してしまった。そう私は報告いたします」

「……無理がありすぎる気がするが、分かった。つまりこの剣を持って宇宙港へ向かえと」

「はい。私はこの代わりの剣を持って、あなた様を追いかけます。守衛の立つ宇宙港の手前で引き返せば、辻褄が合うでしょう」

「そうだ、まだその革命を起こそうという者の名を、聞いていない。一体、だれなんだ?」


 すると団長は立ち上がり、腰に剣を収めると、俺にこう一言、こう告げる。


「スフォルツァ公爵家当主である、ヨハン様でございます」


 そういうと、団長は剣を抜いた。


「さて、茶番を始めますか」


 そういいながら、シエピ団長はドアを突き破り、俺を押し出した。ふらついた俺は、ともかくも逃げる。

 猛烈な勢いで、俺に剣をふるってくる。茶番と言っていたが、まるで容赦がないな。俺はもらった剣でそれを払いのける。キンッという剣同士が弾き合う音が鳴り響いた。


「何事か!?」


 ここは宇宙港の入り口近くだ。その騒ぎを目にした守衛兵が叫ぶ。そして、銃を取り出し、団長を狙い撃つ。

 それを、団長はかわしつつ、路地裏に逃げていった。辛うじて俺は、命からがら逃げ伸びた。そういう風に周りからは見えたことだろう。


「閣下、大丈夫ですか!?」


 銃を持った守衛兵が、こちらに走り寄る。すでに団長の姿はなく、後には死んだ暗殺者3人の遺体が、向こうの路地に転がっている。


「拳銃で応戦しようとしたが、相手があまりにも接近したため、たまたま王宮からの帰りに手渡され、手にしていた剣で刺し殺した。その直後、さらなる手練れが現れ、追われていたところだ」

「宇宙港の出入り口近くだったのが幸いでしたね。で、その手練れの者が誰かは?」

「さあな。暗がりではっきりとは分からなかった。が、鎧を着たままであの身のこなし、ただものではないな」

「ともかく、こちらへ」


 守衛兵らに連れられて、俺は宇宙港へと入る。もちろん、その後ろから死神もついてきた。


「暗殺の証拠品でもあるこの剣をもって、俺は軍司令部へ行く。すまないが、迎えの車をよこしてくれ」

「はっ!」


 俺はその場にて、軍の車を呼びつけさせる。現れた黒い無人車に、俺は剣を持ったまま乗り込んだ。無論、死神もついてくる。

 証拠の品として、剣を持ち込むと言ってあるから、剣を持っていても乗車拒否されない。おかげで大鎌を持った死神も乗り込むことができた。やがてドアが閉まり、車は軍司令部へ向けて走り出す。


「うまく言い逃れたものじゃな」


 二人きりになったところで、死神は俺にこう告げる。


「まさか、守衛兵に革命のことなどを話すわけにはいかない。ただし、バッセル大将には急ぎ、伝えなければならないだろう」

「いっそあのまま、団長に殺されておればよかったであろうに」

「お前は、俺が死ねばどんな形でも構わないのか?」

「当たり前じゃ、死神じゃからな」


 けっけっけっと不気味に笑うその死神に、俺はなんというか、怒りより呆れの方が勝る。俺が殺される千載一遇のチャンスを、こいつが余計なことをしたばかりに逃してしまったことを、あまり反省している様子はない。

 で、俺はその晩、すぐにバッセル大将に会う。騎士団長から渡された剣を前に、事の仔細をすべて話した後、バッセル大将がこう答える。


「なるほどな。確かにスフォルツァ公爵の動きがおかしいとは思っていた。同様に、勇鉄騎士団にも不穏な動きがみられたが、そちらは陛下の命によってのことか」

「いずれにせよ、軍を動かせるよう手配した方がよいかもしれません」

「そうそう、貴官にはまだ伝えてなかったのだが、急遽、3日後に勲章授与式が開かれることになった」

「勲章授与式? 誰のですか」

「貴官に決まっているだろう」

「えっ、ちょっと待ってください。なんだって急にそんな話が」

「社交界まで開き、貴官を英雄だと言った手前、何もなしというわけにはいかぬと、総陛下が申された。が、その授与式こそが、その革命の首謀者をあぶりだすために仕組まれたものだ。これは、陛下自身が画策されたものだ」

「どういうことですか」

「授与式となれば、勇鉄騎士団も参列する。そうなれば首謀者は騎士団が自身の味方だと信じているようだから、おそらくはその場にて陛下の命を狙い、革命を成就させるつもりだろう。現に200年前にも、式典で前王朝の国王が殺されて、新王朝が生まれた。そこで陛下はそれを逆手に取り、首謀者をあぶりだして騎士団らによってその革命を阻止する、そう考えていらっしゃった」

「ですが、その首謀者はもう判明しました。しかも今、国民も今の陛下の施政に不満を抱いているわけでもありません。いまさらそんな危険な賭けに出なくとも、スフォルツァ公爵を捕まえればよろしいのでは?」

「いや、スフォルツァ公爵だけではない、フランチェスカ一世にポールマンチーニ、他にも何人もの貴族が関わっている。それらを一網打尽にするための授与式でもある。当然、軍もその革命阻止に全力を挙げる」

「承知しました」

「ともかく、土壇場で首謀者の名が分かったことは幸いだ。必ずや、その陰謀を阻止してみせるぞ」


 そう息巻く司令長官閣下ではあるが、だからと言って俺だけでなく、陛下までおとりのように使わなくてもいいんじゃないのか、と思わなくもない。

 が、陛下自身のご意向だ。しかも、首謀者の名が分かったため、軍としても動きやすくなる。多少、危険だが、授与式でその革命とやらを阻止しなくて。


「革命か。そなたが巻き添えになると良いのう」


 とつぶやく死神娘をよそに、俺は例の新装備についての稟議書をバッセル大将に送付する。ものの10分で、決裁が下りた。これは、今回の「作戦」にも使えるものだ。そうと知ったからこそ、バッセル大将はすぐに認可してくださった。

 そして、3日後。ついに授与式の日を迎える。

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