空に。
これは、透き通るほど純粋な想い。それは、蒼く哀しい物語。
今日も静かな1日だった。ただ授業を受け、コンビニでバイトして帰る。いつものことだった。一つ変わったことがあるとすれば、今夜の月は青白かった、それだけだ。寝る前、ふと窓から空を見る。部屋の電気はもう消してあるので、冷たい、淡い色彩に包まれていた。今夜の月は、宇宙人襲来の予兆ではないか…。そんな馬鹿げたことを考えていた。そうするうちに、眠気がした。寝ようと思った。すると、部屋の中では、月の青白さの中に透き通る白が映えていた。人だった。色白で、いかにも病弱そうな、そんな美しい人だった。でもありえるはずはないし、いよいよ眠いなのであろうと、横になった。いつの間にか眠りについていた…。
次の日寝ようとすると、また同じ女性がいた。寂しい目をしていた。男はじっと見つめた。少しの沈黙の後、女は口を開いた。ずっとあなたの夢を見ていました。神様がわたしに教えてくれたのです、わたしとあなたは結ばれる運命だった。どうも、こんなことを話しているらしい。声はちいさく、消えてしまいそうなほどだった。男は、ただ黙って聞いていた。さらに女は言う、でもわたしはこの通りこの世の人では無くなってしまった。結ばれる運命である人で、片方が死んでしまうと、残された方は哀しい最期を迎えなければならないと神様が言っていた、と。女は、男を不幸にしないために来たのだと言った。男は、重く苦しい女の話を遮るように言った。自分は、運命なんか信じたことがない。でもこの通り本当は存在するらしい。だから僕はそれを受け入れる。君と結ばれるはずだった運命を。女は戸惑った。無理もない。女はすでに死んでいるのだから。女は言う。わたしがこの世にいられるのもあと少し。わたしはもう死人。あなたはどんな運命を受け入れるというのですか。男は笑う。短い時間でも、すごく心惹かれる。これも運命の仕業かな。君が死んだのもきっと運命、僕にとっては試練なんだよ。女は言う。この青い月は、運命の紡ぐ糸が切れた証。わたしとあなたしか見えていないのです、と。男は月を見上げながら言う。僕はいいことのない人生を生きてきた。それでも、神様は僕にご褒美をくれた。君に会えたんだ。それで充分。だから、僕は運命に抗わずに生きる。さようなら。その瞬間、女は消えた。男は何も考えずにすぐに眠りについた。
男は代わり映えのしない日々に生きていた。授業をうけ、バイトをして帰る。何も楽しいと思えるものがなかった。空では、いつものように、月が、蒼く、哀しく、光を放っていた………