005_小さな村
彼女の瞳から強い意志を感じ取り、オーガンは肩の力を抜く。
「……本気なのか? すぐに破滅するぞ」
「何もせずにこの感情を抱えたまま過ごすよりいい。それに、私は世界中の人間を敵に回す覚悟はしていた」
確かに、オーガンが黒幕を探す提案をしたとき、彼女は『拒絶』しなかった。
「私の死によって、彼女に対する認識が少しでも変わるなら十分――死ぬ価値がある」
「……わかった。アオイの自由にしたらいい」
オーガンの諦めを感じ取ったアオイは、優越感を含めた微笑みを見せる。
だが、オーガンもそのままでいいはずがない。
「じゃあ、街か村に着いたら俺は降りるから。後は頑張って」
オーガンも少しくらいなら、この精霊と行動を共にしても良いかと思っていた。
しかし、『アオイ』の名を騙るのであれば別だ。
精霊と違い、オーガンは早死にしたくはなかった。
「ダメ」
「いや、俺も無理」
「それなら私も無理」
全く話の進む様子がないやり取りを繰り返す。
若干苛つきながら、オーガンは問う。
「なんで?」
「貴方がいないと魔力が回復出来ないから」
その答えは予想できていなかった。
オーガンから魔力を吸い上げたように、他の人間や動物から同じことを出来るはずだ。
仮に無理だったとしても、他の精霊を喰らったり、生物の身体を乗っ取ればいい。
これは彼女の発言でもある。
「どういう意味――」
言いかけたところで、馬車は停止した。
会話に夢中になっていて気付くのに遅れたが、馬車の後部から外界を見渡すと、連なった数件の家屋が視界に入った。
「ついたよ」
御者のおじさんはオーガン達に声をかける。
そして、オーガンの顔色を確認した御車は、屈託のない笑顔を見せた。
「なんだ、元気そうじゃないか。馬車に運び込まれたときは死人かと思ったくらいだ」
「あ、すみません。ご心配おかけしました」
「いいからいいから。転ばないように気を付けて降りな」
軽く一礼したオーガンは、積み込まれた貨物を崩さないように気を付けながら降りる。
陽の光に直接照らされ、眩しさから眉を近寄らせた。
馬車の周囲には年季の入った木造の家屋が並んでいる。
小さな村の本通り、といった場所。
街と比べて整備されていないところも多くあるが、それも田舎らしくて良いところだ。
「ん?」
オーガンは村人たちから視線を集めていることを不思議に思った。
余所者という意味では確かに目立つが、そうではない。
正解はオーガンの背後にあった。
路上に貨物を並べていた御車だ。
手際よく並べられていくそれらに、村人たちは興味深々といった様子で集まってくる。
人が増えてきて群衆と呼べる規模になった頃、いろいろな声が聞こえて来た。
それは、あーでもないこーでもないと話す他愛もない雑談だったり、子供が親にねだる甘い声だったり、考え事の末に漏れ出た深いため息だったり。
そんな彼らに釣られてオーガンも並べられている商品を覗き込む。
「ふーん」
街へ行ったことのあるオーガンにとっては珍しいものではなかった。
食器、本、服、装飾品、玩具。
共通点として挙げられることは、どれもが使い古されていること。
回収した廃品を、御者は安く販売しているようだ。