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031_利用
書店に戻ると、重厚感のある椅子に座りながら路上で読書するアオイがいた。
「その椅子、どうしたんだ?」
「くれた」
「くれたわけじゃないだろ。見かねた店主が用意してくれたのか?」
否定しないため、どうやら正解みたいだ。
「日が暮れるから、そろそろ帰らないと。椅子を返しに行こう」
『私が?』という表情で睨むアオイ。
「アオイが無理なら、俺が返してくるけど」
無言で立ち上がり、アオイは椅子を返しに店内へ入って行った。
片手で読書しながら、もう片方の手で重そうな見た目の椅子を軽々持ち上げている。
「……こういう誘導をすればいいのか」
小声で独り言を呟く。
アオイは拒絶の性質を持った精霊だ。
その性質を逆に利用すれば、少しは彼女の行動を制御できるかもしれない。
店内から出て来たアオイを見て、オーガンは思わずため息をついた。
「なんか……一冊増えてる」
「もらった」
「……ここで少し待っててくれ。金を払ってくる」
彼女を制御できるなどと思った自分をオーガンは恥じるのだった。