96.解決に向かう事件未満
〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉
朝食をいただき、国喰い旅団討滅の後処理を任せて城の練兵場からソラに乗り飛び立った。
国境沿いに南下しつつ農地や街や村の現況を上空から確認していく。
このあたりはあんまり荒れていないな。その日のうちに黒海らしき海へ出た。海沿いにさらに状況を確認しながら南下。途中一泊し、翌日昼前ころ、狭い海峡の街が見えてきた。イスタンブール比定地だ。
マグダが呟く
「境界の関門アウラです。こんな視点から見られるとは感激です」
境界の関門か、立地そのまんまの意味だな。
海峡そのものは我が国の管理する領海だそうだ。両側に広がる街域のうち、東側の一部が壁で隔てられている。その壁から東側が隣国化? したアウラリア大公国の首都だそうな。
一応、一通りの解説は受けているのでどうしてこんなことになっているのかは知っている。
10代前の皇帝の弟がここアウラを含む広大な領地を得て公爵に叙爵された。その3代後に大公とされ、さらに領地を得た。
だが、その子の代で戦場で大失敗をし、さらに帝都で失態を連発。
領地を削られて逆上し、反乱を起こす。
親戚の執り成しもあり、助命されたが、海峡を含む大半の領地が取り上げられ、爵位も伯爵まで落とされた。
以降、歴代の馬鹿領主が大公を自称し、なんなら武力を以てでもアウラを奪還しようとしてきたという。
で、あの混乱に乗じてアウラリア大公国として独立したのがつい最近らしい。
ある意味スゴい。歴代みんな馬鹿ばっか。
アウラの領地は買収を避けるため領主を置かず、中央から代官が派遣される習わし。
現在は軍出身の貴族が任についているとか。
ここには寄る。
ソラを街の外に降ろすと城まで遠いのは見て分かったから、城の中庭? に着地。
しばし待ち。
「陛下でごさいましょうか?」
「出迎えご苦労。ユリアン・エルフィネス・ルセルである」
「ははっ!」
臣下の礼。
「臣はこの地の代官副官を拝命しております、マクシミリアン・エイダスと申します」
「うん、明日の昼までこのコをここに置いてもいいかな?」
「勿論に御座います」
「あと、宿も宜しくね」
「はい、承りました」
「街を見て周りたいんだけど、案内できる人、用意してくれる?」
「直ちに……私が同行いたします」
「ゲルド! 聞いたな? 大きな寝室、晩餐、浴場の支度を急げ」
「はっ!」
「お着替えになられますか?」
「このままでいいよ」
「……では参りましょう。こちらへ」
徒歩30分あまり、やっと城の外に出た。デケェな。なんと馬車が3台も待機していた。分乗して出発。
官に属すると思しき建物が続き、またしても30分ほどしてやっと市街地へとやってきた。
どんなに頑張ってみてもこのアウラ全てを見て回るなど不可能なので、一先ずは馬車を徐行してもらって中から街を観察した。
ガイウスブルグに輪を掛けてオリエンタル。
そりゃあそうか、トルコ比定地だもんな。
とんでイスタンブールだ。
ペルシャな香りも幾分漂う不思議な街だ。いずれゆっくりと訪れたいな。
あ、あれは。
「クロエ、あの建物って教会かな?」
「使徒教会ですね」
「まだ活動しているのかな?」
「人はいますね」
「……ちょっとよってみたいな」
少し離れた場所に馬車を停めて、メンバーを絞り少数で行くことにした。
「ボクと、マグダ、クラウディア、エイダで行こうか」
「「「「私は!」」」」
「クロエはエルフだからダメ。護衛はマグダがいればいい、質問相手にクラウディアとエイダ。以上」
「エルフだからダメとはどういうこと!! ユリアンがそんな事を言うなんて……」
「ここ、使徒の教会なんだよね? エルフって……どうなんだろう」
「……フードを被りましょう。うん、耳さえ隠せば分からないですよ」
「君、耳隠すエルフは恥さらしだって大言していたよね? 歴史の授業で」
「…………ユリアンが意地悪を言う……」
やべぇ、落ち込んだクロエが可愛い過ぎる。
あ、ベアトリクスがハァハァ顔でクロエを見てる。
他の子らもなんか愛でる目で見てるな。
副官が……堕ちたな。
決定メンバーで教会へゴー。
守護精霊様はオレの中。
ってか、近頃はずっとオレの中にいる。
なんで? と聞けば「もう少しだから」と。
まぁ、いいけど。
教会はフリーで誰でも入場できることになっているはずなんで、ズカズカと乗り込んでいった。
装飾!
うちとこの城ほどじゃないけど、これは酷い。どんだけ搾取すればこんな……
「お前等! ここは下賤の者が勝手に立ち入ってよい場所ではない! 直ちに出て行け!!」
下賤?
結構いい服着てると思うんだが。
アポがいるとか?
「そなた、下賤とはわたくしたちにいっておるのか?」
クラウディアさん?
「……他におらぬだろぅ」
おや? 尻すぼみ。
「忍んでおるとはいえ、王族に生まれ育ったわたくしと、上級貴族に生まれた令嬢に向かい、下賤とは何事か! そなたの目は役立たずと見える。マグダ、アヤツの目を潰してやりなさい」
「はっ!」
マグダ?
暗殺者なのに殺気出せるんだ……
「ま、まて! あ、いや、お待ち下さい。わた、わたしの勘違いだったようです。どうかお赦しを!」
あ、折れた。
有無を言わせぬ高貴な血のなせる業か。オレまで頭を垂れたくなっちったよ。
「ふん、お前。我らは他国より参った。我が国では教会は貴種から貧民に至るまで解放されておる。ここでは違うと申すならば訳を申してみよ」
「あぁ、はい……広く民より支持され、多くの喜捨を得て参りました。それにより、格式を高め、より厳粛なる空間を創り出した結果、こちらにはご覧の通り貴重な装飾品や神具が多数保管して御座います。盗難などしては喜捨をしてくれた民たちに申し訳がなく、立ち入れる者を限定しているのです」
あー、つまり搾取して溜め込んだ財産が盗難に遭わないようにお前等来んな! と。
「ふむ、話しは理解しました。ではお前、こちらの下問に答えよ」
「は、はい」
「ユリアン様」
あ、オレ?
「……ん、んん。こちらの教会は使徒の教会ですか?」
「左様で御座います」
「周辺地域の枝の教会は無事なのですか?」
「この辺りは不作分は他国から買い入れており、混乱は御座いませんでしたので」
「では今現在も以前と変わらずということですね?」
「そのとおりに御座います」
「帝国から新王国に変わったようですが、何か変化は?」
「この地は中央から遠く離れて御座います。代官をやり過ごせば、干渉もなく、過ごしやすい土地に御座いますれば」
「へえ、でも新しい王は武闘派のおっかない方だと聞いたけど、大丈夫なのかな?」
「それは……聞き及んでおります。しかし、ここまでは来ますまい。いざとなれば大公様が匿ってくれますから」
「大公? なんでここで大公が出てくるの?」
「大公様は今、アウラ中の資産を大規模に買収して、この地の経済を牛耳ろうと画策しております。この教会の土地も既に大公様の手に落ちています。その際の条件に、大公国での布教と教会の再建が含まれております」
「えらくいろいろと話してくれるね、大丈夫? 部外者にそんなに話して」
「なんのことですか?」
マグダをみてみると……針を持っている……お薬?
「代官はそのこと知ってるの?」
「あの男は馬鹿な武人です故、気がついてはおりませんな。任期の終わり頃には発覚しましょうが、もうどうにも出来ないでしょう」
「こちら側に大公の代理人とかいるの? ボクにも紹介して欲しな」
「おります。代官の副官をしている男で、マクシミリアン・エイダスと言います。」
「よく分かったよ。ありがとう」
教会を後にした。
またトラブルが……
跨いじゃだめだよね。
黄門様状態だな。でもワンクールもやっとれん。
さっさと解決だ。
「エイダ、どうしよう?」
「お任せを」
躊躇なし! カッコいいッス。エイちゃん。
付いていくッス!
「先ずはどうしたらいい?」
「わたくしの商会の支店がこの街に在ります。先ずはそちらへ」
「ホント!? あ、でもあの副官なんとかしないと」
「それも大丈夫ですよ。行きましょう」
みんなと合流してから馬車に乗り、その名もミュラー商会へと移動。
支配人を呼び付け、
「わたくしはエイダ・フォン・ミュラーです」
そう言ってキレイなメダルを提示した。
支配人が臣下の礼を取った。
「初めまして、我が商いのロードよ。如何なる御用命にもお応え致します」
「いい返事だわ。コチラは我が夫
ユリアン様です。解りますね?」
今度は貴族の礼だ。
「ユリアン様、わたくし達は身分を隠します」
なるほど。それで礼を。
何処かにそうした符丁があったんだな。
因みに、副官も一緒にいる。
どうするんだろ?
ま、お任せだけど。
「支配人、お隣のアウラリア大公国がここアウラの資産を買いまくっているとか、ご存知かしら?」
「勿論に御座います。我が商会にも来られましたよ」
「彼らの資金源はなにかしら?」
「ここ3年間、代官は不足する穀物を他国から買い入れていたのですが、この取引の殆どにアウラリアが絡んでいました。そこでの利もございましょうが、恐らくは代官側の買い取り価格が上乗せされていたことが予想されます」
「買い取り担当者は誰かしら、副官殿?」
「あ、いや、どうでしょう。もどって調べないとなんともお答えしかねますな」
「賄賂は幾ら貰っていたのかしら?」
「わ、わたしに聞かれましても……」
「穀物取引だけで積上げ可能な金額かしら? 支配人、ほかに予想される資金源は?」
「大公の旗を掲げた船は無税です。旗の供与と密輸、あとは、そうですね、拐かしと奴隷売買のお話しもございますね。なんでも代官所に捕らえられた若い女性や見目のよい男児など、手広く扱っているようです」
「副官、注文に沿った捕縛をしていたのね?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! さっきからなんですか? まるでわたしが犯罪者かのような扱いをなさって!」
「あぁ、それはもういいから。貴方が代官所側の大公代理人であることは確定しているの。そこについて議論する気はないわ」
「確定?」
「さっきの教会の聖職者が教えてくれたもの」
「なにをばかなことを、彼がそんな事を言うわけがない」
「今の発言がほぼ自白しているものだと分からない貴方はあまり優秀な方ではないようですね」
「なっ!?」
「支配人、我が国の要の一つとなる地方都市を捨て置く訳には参りません。全てひっくり返します。強行策などはこちらで引き受けましょう。お金はいかほど必要ですか?」
「大金貨10万枚ほどでしょうか」
「クロエお姉様、お願い致します」
「ここに出してよいのか?」
「……支配人、金貨蔵は在りますか?」
「はい、こちらへ」
店の奥の更に地下の、隠し扉の中の更に金庫的重厚な扉。
この中へ…………凄まじい量の金貨袋が積み上がった。
「クロエ・ルセル様、存じてはおりましたが、噂に違わぬ富豪に御座いますな。それにその術式は商人には垂涎に御座います」
店舗へと戻って、闇に拘束されたままの副官を連れて応接室へ移動。
ここで1時間ほど打ち合わせをし、解散。
この間、副官には全て自白してもらった。強制的に。
代官屋敷へ赴き、全て話す。
死のうとする程に反省しきり。軍人上がりにこんな曰く付きの土地の代官をさせるほうがどうかしている。
エイダがそう言ったら更に落ち込んだ。可哀想に。
コイツにとっての信頼できる部下ってのは信用出来ないので、文官と武官の主だったところをあらかたよんだ。
名前を言わせ、副官がゲロった名前と摺り合わせる。
その連中を別室へ連れて行き、尋問。名簿を作り、代官へ渡す。
「ここに名前が上がった者達は副官の一味です。明日一番で捕縛しなさい」
エイダがその後も大活躍。
時々クラウディアに相談しながら事を進め、白認定された文官や武官達を自分の部下のように使い、あっという間に指揮命令系統を構築、大公に押さえられている不動産や利権などを凄まじい早さで洗い出していく。
リストを作成し、さらに写しを二部。一部をミュラー商会へ届けさせ、一部をクラウディアへ渡す。
そこからは二手に分かれる。
エイダには護衛としてマグダとベアトリクスを付けた。
他はソラに乗って既に宵闇の中にあるアウラの上空へ。
夜間でありながら航行している大公の旗を付けた船を……襲撃した。
翼を拡げたソラの大きさが大型交易船と大差ないという……育ったね。ソラ。
無理矢理拿捕した船を沿岸の桟橋へ曳航。待ち構えていた官吏によって臨検が実施される。
「こ、この船は大公閣下の庇護下にあるのだぞ! 貴様ら僭越ではないか!」
「我々は大型飛竜の襲撃を受けた貴船の保護をしにきたのだ。内部に怪我人などいないか確認せねばならん。これは我ら沿岸警備隊の職掌である。規則に従え」
「そんな保護などのぞんでおらん。今直ぐ出て行け………」
ガアッ、ゴフゥー
「ヒィッ!」
「いかん! 直ぐに救助だ、かかれ!!」
奴隷候補の女や子供がわんさか積まれていた。
それに禁制の薬物や武器など、ヤバ目の物品も含め全て押収され、船長以下、全員捕縛した。
大公が関わった証拠となる書類も多数押収。
代官屋敷
「大公を僭称する伯爵は独立を正式には認可されておりません。その証拠にここにおわします陛下がご認識されていない。よって、本件は国内事案として対処致します。皆さん宜しいですね?」クラウディア
「こちらのリストには伯爵が資産として取得したアウラ内の物件が記載されています。登記所と示し合わせて代官特権により接収、その後速やかにミュラー商会へ売却なさい。所有権の移転を急ぐのです」エイダ
「伯爵がアウラにもつ利権は陛下の権限により全て停止。代官から密輸の件で捕縛令状も発行されました。明日払暁に合わせ伯爵を捕縛します」クラウディア
「それぞれの役目は把握できていますね? 明日午前で全てに蹴りをつけます。気を引き締めて掛かりなさい……陛下の御為に!」エイダ
「「「「「「「「「「「陛下の御為に!」」」」」」」」」」」
え、誰? あ、オレ?
特権階級の頂点か。慣れないなぁ。
結局その晩は城へは戻らず代官屋敷に泊まった。何もせずに寝た。




