95.可愛い君が好き
〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉
ヴァン・ヘルムート王国から見てかなり南下し、さらに東へ。
この世界で貴族階級以上しか見られない地図はまさに中世の世界地図という曖昧な作図だ。でも直感的に「ユーラシア大陸だ」とわかるものではある。
地球の世界地図に比定してみるとヴァン・ヘルムート王国はドイツの東側半分強とポーランド全域、さらにチェコとスロバキアとオーストリアの一部を加えたくらいの領土だ。
王都は多分ベルリンのあたり。
マルキアス辺境伯領はチェコ南部を中心としたアルプスに至るまでの広大な地域に広がる。
シュワルツクロイツ子爵領は多分プラハの南近くだ。
ユリアヌスルセル王国はそこから南、ハンガリーからバルカン半島全域(三選王国はバルカン半島とアナトリア西部あたりに比定)、東西には、東はルーマニア、一部はウクライナにも食い込んでいそう。西はスロベニアの半ばまでか。アドリア海東側沿岸諸国は全て領土だ。分裂直後の東ローマ帝国くらいかな?
このスロベニア辺りの山岳地帯が共和国との紛争地帯となっていた。
イタリアはまんま共和国。鉱山地帯は多分アルプスだ。領域としてはスイスや南フランスの一部も含まれると思う。首都のアインテンプルはミラノあたりかな?
地中海挟んだアフリカ北部沿岸部も共和国の一部というから超海洋国家だな。カルタゴに古代ローマをプラスしたくらい?
通行税徴収という名の海賊とかやってそう。近世以前の地中海は官製の海賊天国だ。オスマントルコとかね。
カリブが本場ではない。あそこはスペイン対英国の代理戦争地帯で海賊はその手先だ。途中からアンコントロール化したけど。
この世界地図には南北アメリカ大陸が存在しない。
グリーンランドはかろうじて「らしきもの」は見えるが、オーストラリア、南極大陸もない。アフリカは多分北側半分も認識されていない感じ。
ヨーロッパからユーラシア全域、一応日本も認識されている。
やっぱりほぼ地球だろ、これ。
言語もかなり共通してるし、世界を旅するのはかなり楽しそうだ。
そんなわけで、現在ウクライナに入り込んだかな? という地域にいる。
ガイウスブルグ。
ガイウスの所領だ。
ここでもオレ達は大歓迎される。
街中をぶらぶらしながら商品を見て回る。
やはりオリエントな品々をちょいちょい見かける。アジアンな品も。
あの屋台、あれってケバブか? あとでたのめないかな? おぉ? クレープ? 甘くないやつかな。
ヴァン・ヘルムートには無いものがそこかしこに。
中々ワクワクさせてくれる。
「うおっ! 何? この行列。美人さんや可愛い子ちゃんばかりじゃん! 誰か一人くらい俺と遊んでくんない?」
ん?
ナンパか? お下品だなぁ。
しかもよりによってオレに近づいてくる。
あれ?
魔力滞留量が読めない?
武の力量はだいぶ下だが、魔道士か魔術士か、格も読めない。
どうなっている?
気が付くとベアトリクスがすでに抜剣して襲い掛かるところだった。
体術を交えた数合で順次削ってゆき、最後は、
「待って、まっガハッ!」
心臓一突き。
後ろから引っ付いてきた騎士や兵士が人集りを押し退け辿り着いた時には決着していた。
彼らは遺体をチェックしながら何やら深刻顔。
聞けば国喰い旅団とかいうゴロツキ傭兵団らしい。
それについて多分クロエが解説しようとしていたところにベアトリクスが割り込む形で教えてくれた。
無自覚勇者ベアトリクスの説明は分かりやすかった。
会話の流れのなかでドライリッターの名が出されると周りの人々がざわつき出した。
「武神」とか、「あれが破国の」とか、「誰が舞姫だ?」とか、ハンナが一番人気? わかるよ。その気持ち。
あ、クロエが切れそう。もうね、何考えてるか何となくわかる。
とりあえず釘を刺しておく。
幹部が一人きりで街に繰り出してきているとは考えにくい。
とにかく一旦城へ行くことにした。
食事を済ませ、お茶をいただきながら……デビルイヤーに微かな交戦の音が。
現況を聞き出し討伐の協力を申し出た。
敵に抑えられているのは表裏の門2箇所。
オレとクロエで二手に分かれて対応することにした。
ここで予定外のヘルガとハンナからの出陣要請。ハンナはまぁ、懐妊中だしと外したけど、大丈夫だと。まぁ、大丈夫だろうけど。
ヘルガは元々軍役に就く予定で魔道士目指していたし、その為の試練も済ませている。以前から実戦を経験したいと請われてもいた。
うーん、クロエに預ければいーか。
そんじゃあ、オレは侍女二人を連れて行こう。
移動中、「我らにお任せを!」とかいうので、「危なくなったら引いてよ。あとはボクがやるから」と交わし、裏門の上に出た。
閉門したまま二人が飛び降りて戦闘開始。
幹部然とした、まぁまぁ強そうなのが4人ほどいる。ソイツらは後方で見物している。
マグダのほぼ不可視な援護を受けてベアトリクスが圧倒的フィジカルで、ほぼ一太刀で一般兵? を斬り捨てていく。
それなりに強い。
父くらいの実力があるかも。
そう考えると元影のマグダの力量は異常だな。あいつは父超えしている。
強さの指標に父を多用するのはいかがなものか……
漫画やアニメに出てくる初期の強敵のような扱い。
「強い、よもや父超えか!?」的なやつ。
今度謝っておこう。父には何のことやら分からんだろうが、オレの自己満足の為に犠牲になってもら…………あ、息切れしてきたな。
マグダも敵の数が減ってきて隠形が保ち辛いようだ。自らも狩ってるし。
そろそろチェンジかな。
半分強倒した辺りで幹部が二人前に出てきた。
日中のアイツくらいの力量。そしてアイツ同様魔力滞留が掴みにくい。
試しに不可視の風弾を放った。全く意に介さない。弾かれたというよりも消えた感じ。
クロエが言っていた魔力無効化ってやつか。なんかの加護を受けると取得できるらしい。
それじゃあ殺戮の黒騎士が槍で屠ってやろう。
門上から弾丸の如く飛び出してドゴォォ! っと着地。
ピンチなベアトリクスの前に庇うように立つ。
「なんだぁ!? 可愛いな、おい!!」
「そんなに褒めないでよ、殺りずらいじゃないか。それじゃあいくよ」
石突きではなく穂先を敵に向け、横薙ぎ一閃。10人ほどが胴体真っ二つ。
そこからの蹂躙は数分で終了。
残ったのは陶然とした顔のマグダと、トロケ顔したベアトリクスのみ。
ふっ、惚れるなよ?
オレはクロエの所有物だぜ?
いや、マジで。
門衛に声掛けして扉を開けてもらい城内へ入った。
「アレの処分宜しくね」
と指差してからその場をあとにする。
食堂に集合し、クロエ側でヘルガ大活躍の話しを聞いて褒めてあげた。
政治や経済の分野では役に立たないことを自認していたこの子はソレをだいぶ気にしていたのは知っている。
だからここぞとばかりに褒めちぎった。
「私はユリアン様にとって役立つ女でしょうか?」
直裁な聞き方だな。よほどに煮詰まっていたらしい。
抱きしめた。
「そうだって言いたいところだけど、違うな。ボクはね、可愛いヘルガが大好きなだけだよ。他の子もそうさ。可愛いみんなが好きなんだ。役に立つとかそんなこと気にしないで一緒にいたい。ただそれだけだよ」
ヘルガの両腕がオレを強く抱きしめる。
「ずっとお供してもよいのですね?」
「いてくれなきゃ困るよ」
「大好きです!」
そんな感動的一幕のあと、やっぱり蹂躙された。
一人は辛すぎる。早くエクスカリバー2号できないかな。
あ、名前かえようかな。妖刀「ムラマサブレード」なんてどうだろう?
うん、妖刀か。いいね。




