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90.内情

〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉


ハンナが妊娠!


間違いなくオレの子だ。

これで他の男の種ならオレはこの世界に信じられる何物も持てないだろう。

前世から通して初めての子だ。


なんてことだ。

好きな女が我が子を孕んだ。ただそれだけのことがこんなにも世界を変えるなんて!


周りの風景の輝度が上がった。空気が暖かく感じる。陽射しに祝福がのって我が身を照らしている。

この高揚感のなんたることか!

不意に涙が零れた。


ハンナの手を握りしめ、感謝の言葉が溢れでる。


初めてかもしれない。「幸福感」というものを得たのは。

前世で後悔しかない人生を過ごし、今生では最強の庇護者に囲われて、結果、性的充足度と強者への至りには恵まれたが、流されるだけの生き方しかさせてもらえない。


何となくいきている。

そこでの我が妻の受胎。オレにも与えられたのだ。祝福が。

オレでも到れるのだ、幸福に。



それからのひと時は夢の中のようだった。



前回忍び込んだ大きな街へ降り立った。

前回同様人の気配がしない。

門衛もいない?


ソラには外で待機してもらい街中へ……いない。

誰もいない。


「あの時の兵士の会話で皆殺しと言っていましたね」クロエ


あぁ、確かに言っていた。ここを引き払うと、皆殺しにすると……


「住民を皆殺しに?」クラウディア


「農民の逃散や反乱が横行していたのです。この規模の街の住人が反乱など起こしたら一大事でしょう」ハンナ


「食料や資材を奪い、離脱時には憂いを絶つか……」エイダ


「一般的とまではいいませんが、戦時では聞く話です」クラウディア


どれだけの人口が失われたことか。

農民だって沢山死んでたり逃げたりしている。

いくら凶作の原因が取り除かれても作付けが少なくては収穫量もたかが知れているかもしれない。


甘く見ていたか。


まだこの国は綱渡りの最中なのだな。


「王都へ行こう。宰相から話が聞きたい」


「そうですね」



ここで一夜を明かす気にはなれなかった。




いつもの塔上は……手狭になっていた。

ソラが育ち過ぎて。


兵団の練兵場へ着地。


直ぐに将校らしき兵士が駆け寄る。


「陛下であらせられますか?」


「あぁ、ユリアンだ」


片膝立ちで礼をとり、


「陛下の来臨(らいりん)、心よりお待ち申し上げておりました! 玉座の間へ先導いたしまする。どうぞこちらへ」


立ち上がり、アーチの連続する回廊を指し示す。


素直に付いていく。

道すがら出会う全ての人々が立ち止まり、臣下の礼をとる。

時間の無駄だな。

改革案その25くらいに入れておくか。


玉座の間は……王座しかない。


「みんなが座れる部屋がいいな」


「では、続きの間へ」


お隣に大仰な応接セットが設えられた大部屋が……


「金掛けすぎだよ」


「……先の帝国では……申し訳ございません」


「いや、君に文句を言っている訳ではないんだ。ただ何と言うか……落ち着かないよね、ここ」


「か、閣僚待機部屋へご案内致します」


「あ、いや、君にも仕事があるだろ? ここでいいよ。あ、宰相を呼んでもらえるかな?」


「承知致しました。陛下のお心遣いに感謝致します」


ガッチガチの彼は最後に少しだけ柔和な表情を見せて下がっていった。


「今更ではありますが、ユリアン様は正に国王陛下でいらっしゃいますのね」クラウディア


「えぇ、城内にソラちゃんを降ろした時はドキドキしましたわ」エイダ


「皆さん、ユリアン様へ臣下の礼をとっておいででした」ヘルガ


「王認定されてからまだ4回目の訪問なんだけどね、だから城内が不案内で……情けないけど」ユリアン


「あら、わたくしも王宮全ては知りませんよ?」クラウディア


「え? そうなの?」ユリアン


「生活と式典などの動線以外はわざわざ行きませんもの」クラウディア


「……明日にでもこの城の探検してみない?」ユリアン


「「「「「面白そうですね」」」」」


ノック音がした。


「侍従長のセバスでございます」


「どうぞ」


内向き開きの扉が開く。

見覚えのある初老の紳士が入室してきた。

後ろにはティーセットと菓子を乗せたワゴンを押すメイド達が続く。


侍従長は貴族の礼を取る。近侍するものはいちいち臣下の礼をとるとむしろ行動の鈍化を指摘されるので、簡便化されて貴族の礼でよいのだとか。


「陛下、お久しぶりでございます。お変わりないようでこのセバス、安心致しました」


「やあ、君もご健勝なようで嬉しいよ」


「有り難きお言葉にございます。宰相閣下は今お呼び出しに向かっているところに御座います。ひとまずお茶をお持ちしましたので、お寛ぎ下さい」


「ありがとう、宰相がくるまで話し相手になってくれるかい?」


「身に余るお役目なれど、拝命致します」


「この国は……人口統計とかやってる?」


「概ね10年に一度、各領地での人口調査が行われております。首都におきまして集計を行ない、軍編成や穀物生産量などと紐付けて国力増減を測る指標としていました」


「最後にやったのは?」


「……13年前となります」


「皇帝がサボった?」


「左様にて」


「その際の人口は?」


「されば425万人程と記憶しております」


「この前の混乱でだいぶ減ったよね?」


「……しかと言えることではごさいませんが……3割減と予想されております」


「約128万人も……」


「……お早い……調査をご指示なさいますか?」


「この混乱冷めやらぬ中で可能かい?」


「陛下がお命じになれば」


「無理をさせる意図はないよ。今は復興こそが最優先事項でしょ?」


「いえ、民自身にやらせるのです。陛下はご自覚がないようですが、この国において陛下は軍と民衆から圧倒的支持を得ております。陛下が人口調査をご指示為さいますれば、民衆が自ら調査し、報告書を取りまとめることでしょう」


誰かのツバを飲む音が聞こえた。


「うーん、分かったよ、マテウスにも聞いてどうするか決めるよ。ところで、さっきのボクを支持する勢力に貴族は入っていないの?」


「彼らからすれば陛下は体制の破壊者に他なりませんから。聖職者達にとっても同様でございます」


「ハハハ……そうか、聖職者か。創造神の使徒教会ってここでは国教でしょ? 彼らはどうしてるの?」


「ほぼ崩壊しております」


「またなんで?」


「聖職者の殆どは領地を持ち貴族化しておりましたから、民からの搾取、高い税、様々な強要などにより民の怒りと憎しみを買っておりました。昨年来の反乱や民衆蜂起によりかなりの聖職者が惨殺され、逃げたものも多くが捕らえられ投獄されております。今も」


「……今も?」


「元皇帝と同様の扱いでございます」


「あぁ、なるほど。教会の本部的なものはないの?」


「この王都に御座います。建物の形状だけは保った状態で、で御座いますが」


「うわぁ、それじゃあ創造神の使徒は教勢としては終わりかな?」


「いえ、フランシア王国の半ばくらいは根を張っているはずに御座います」


「あちらも腐っているのかなぁ」


「その情報はわたくし共には届きません」


「クラウディア、ヴァン・ヘルムート王国ではどうなんだろう?」


「強いていうならば創造神の下僕教会がやや教勢が強いくらいですね。そもそもヒューマンが介在した教義などなんの意味があるのかわたくしには理解できません。だから王族や貴族の殆どは創造神様に祈るのみで、間に介在しようとする何物をも拒絶しております」クラウディア


「宗教に権威付けを求めないということか。理性的だね」ユリアン


「神との間に介在できるのはシルフィーネのみです。下僕の連中はシルフィーネ様の教えに従う信徒だと言いますが、後付けが多すぎて本質が見えない程に変質してしまっています」クロエ


「どいつもこいつも、か」ユリアン


「立場が薄弱な生き残り貴族はこの先どうなるのでしょう?」クラウディア


「……殆どが粛清されるんじゃないかな。宰相にはそのための全権委任を与えてあるし、マテウスは躊躇しない人だと思うな」ユリアン


「領地が浮いてしまいますが?」エイダ


「基本方針は示してあるから、マテウスがなんか考えているんじゃないかな?」ユリアン


「ユリアン様の国ですよね?」クラウディア


「違うよ、この国はこの地に住む全ての人々の国だよ。ボクは皆の考えが纏まるように、一つの目標の目印となるように、ただそこに在る象徴だよ。国王だとかは単なる記号に過ぎない」ユリアン


「なんと……陛下はそのようにお考えとは……わたくしは正しく天より真の主を頂いたのだと今悟りました。このセバス、改めまして陛下の従僕として生涯の忠誠をお誓い申し上げます。

貴方様こそが真の王者に御座います!」セバス


「「「ユリアン様にお仕えできることが誇らしい」」」クラウディア・エイダ・ヘルガ


感激屋が多いな。

その誇るべき旦那様をもっと労るべきだとは思わないのか?

具体的には週3回にするとか。


「ワタシのユリアンは権力とか栄誉とかに興味がないのだ。特に今はハンナにしか興味がなかろう」


皆がハンナを見る。


「あー、セバス。ハンナは妊娠しているんだ」


「……陛下の、お子にございますね」


「うん」


「リカルダ!」


うわっ、ビックリした!

どうした、セバス?


「はっ!」


うおっ?

どっから出た!


「ご側妃ハンナ様、ご懐妊にあらせられる! 直ちに各方面へ連絡し、あらゆる事態に備えたあらゆる対策を定めよ。良いか? これは国家存続に関わる最大優先事項である。速やかに掛かれ!!」


「はっ! 身命に変えましても任を遂行致します!」


「陛下、臣には重大事が出来(しゅったい)しました故、これにて辞去(じきょ)致します」


メイドを残しセバス以下、室内に潜んでいた影? 達がわらわらと退出していく。

いや、いるのは気付いていたよ?

でもさ、ああいう人らって終始じっとしているものじゃないの?

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