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89.変わり始めた女

〈クロエ・ルセル〉


12月、ユリアンの学院休学願いを再び提出した。


ユリアヌスルセル王国へ視察に行くためだ。勿論正式なものではない。

ソラに乗って……7名全員で行く。

ソラはなにかワタシも首を捻る勢いで育っている。10人位なら乗れそうです。

これは……食事だけではないですね。



ユリアンに聞いてみました。


「うん、ルサルカに勧められて魔力注入したよ、10回くらい」


それだ。


「会うたび大きくなるから楽しくて、ソラも喜んでるし、最近は何だか形状や鱗もなんか変化してきててさ、カッコよくなってきてるよね」


「…………風属性の上位竜になりつつありますね。いえ、なっていますね」


「え? 飛竜となんか違うの?」


「……希少性、強度、強さ、速さ、全てが数段上がってますね」


「速くなったんだ! ソラ良かったね」


「がぁぅ、うん」


「え、喋った?」


「まだ、すこしたけ」


「おぉ! ソラ、スゴい!!」


ユリアン大はしゃぎ。

可愛い。



乗れる人数に余裕もありますし、ベアトリクスとハンナの侍女のマグダも連れて行きましょう。

ハンナはまず間違いなく妊娠しています。

置いていって一人にはしません。だから補助を付けます。

このことはマグダには告げてあります。



「ハンナ様ご懐妊! じ、準備をせねば! あぁっ! 何も分かりません!! ど、どうしたら?」


「落ち着きなさい。赤子からの子育てならばワタシもハンナも分かりますから」


「……武神様が?」


「神ではありません。ワタシ達は乳飲み子の頃からユリアンの世話をしてきた僚友です。なんでも分かります。ましてやワタシ自身、一人産んで育てた経験がありますから」


「クロエ様のお子がいるのですか!?」


「ええ、離れて750年くらい経ちますが」


「会われないのですか?」


「エルフは子が自立したらもう互いに干渉はしません。興味が無くなると言い換えてもよいですね」


「それは……分かる気がします」


「貴女にはハンナの警護と身の回りのことをお願いしますね」


「はい、お任せください」



ベアトリクスには、出発の10分前に言えばいいですかね。

いつでも戦えるそうですから。


さて、新月が過ぎ2日、明日出立しますか。


それを皆に告げると途端に目をギラつかせます。獲物に狙いを付けた野獣の如く。

獲物の方は、


「先にルサルカやってよ」


「いやよ、先の方がキツイじゃない!」


「そんな変わらないよ」


「嘘つきユリアン」


「あ、それ言う?」


「じゃあ、先んやる代わりに20時交代ね」


「え? 早くない?」


「キツイ方が短く、基本じゃない?」


「え〜、」



「「「何時までやってるの!」」」


いつものように貪られていますね。


近頃、皆に蹂躙されているユリアンを俯瞰して眺めるのがなんだか楽しくなっています。


なんでだろう?


自分でもよくわかりません。

ハンナの妊娠を認識したあたりからでしょうか。


ハンナの子……ワタシの子……


二人の子、ユリアン。




国境の大きな森を越えユリアヌスルセル王国へと入りました。

敢えて高空ではなく数百メートル上空を飛行します。領民に見せ付ける為に。


種蒔きを終えたとおぼしき麦畑が広がる地が見えます。


「ねぇ、ルサルカ。今期の麦はちゃんと育つんだよね?」ユリアン


「ちゃんとどころか爆育ちするわよ」ルサルカ


「爆て……もう種蒔きも終わってる筈だし、農民たちは一安心だね」ユリアン


「余りに豊作過ぎても穀物価格がさがり過ぎて、農民の現金収入に響きそうだけど?」エイダ


「それでも飢えるよりは……」ヘルガ


「国が一括買上げして流通量の調整をすればよいのでは?」クラウディア


「自由経済が理想なんだけどなあ」ユリアン


「国家の下支えのない流通や、介入なき制度は荒れますよ? ましてやこの国はまだ荒廃した状態です」クラウディア


「まぁ、そうだね。理想はあとからにして、今は実かな。宰相に話してみるよ」ユリアン


「わたくしの意見が国政に反映されるのですか?」クラウディア


「実績なき者の意見は普通は通らないよね。でも君は……君達は優秀だから、ボクが取捨選択して口添えすればいいことさ」ユリアン


「「ユリアン様……」」エイダ、クラウディア


「ユリアン様、ワタクシがユリアン様の子を孕んだことはご存知ですか?」ハンナ


「「「「妊娠!?」」」」ユリアン、エイダ、ヘルガ、クラウディア


「クロエ様?……コホン、恐らくは10月末のあの時かと。一月半ほど月のものがきていません。まず間違いないかと」ハンナ


「あの……ハンナが珍しくおねだりをして、その後酷い目に遭った日……」ユリアン


「……その日です」ハンナ


「「酷い目に遭ったってどう言う意味ですか!」」エイダ、ヘルガ


「……こんな旅をして大丈夫なの? 屋敷で安静にしていた方が良くない?」ユリアン


「えぇ、ワタクシはそんなにヤワでは御座いません。……それで、ですね。産み月となったら、ユリアヌスルセル王国、王都ユリアナへ行き、ユリアン様のお国でユリアン様のお子を産みたいと……考えています」ハンナ


「ボクの国……ボクの子。ハンナはボクの子を産んでくれるんだね? そんな大業を……ありがとう、ありがとう。ボクのハンナ」ユリアン


ユリアンが泣いている。ハンナの純真が通じたのだろう。


中人族の我が子に対する思いはエルフなどとは比べ物にならぬほど強い。ましてやそれが想い人との子となれば尚更であろう。



ユリアン。いずれワタシも貴方の子を産むわ。

たくさん産むわ。



二人で世界を旅して、本当に落ち着ける土地に住まい、環境を調えたならば……家族愛というものを共に養いましょう。


…………あ、この子達がユリアンとベッドで戯れている姿。もしかしたらそうした家族愛になぞらえていたのかも知れませんね。

だから微笑ましいと思えた?


ハンナの妊娠でなんとなくリンクしたのかもしれない。



ワタシは価値観や思想までも変わり始めているのかも知れませんね。

ユリアンと……この子達によって。

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