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85.我慢しない女

〈クラウディア・ヴァン・ヘルムート〉


まさかの展開でした。


新学期が始まり間もなく、学院長からの報告がありました。

(にわか)には信じ難いその内容は時が進むにつれて、新たな情報により次第に補完されてゆきました。


これは事実であると誰しもが認めるところとなった頃、わたくしの価値と意義が変容しました。


王妃の献策により下位貴族へ側室として嫁ぐ憐れな姫は、長年の頭痛のタネであった厄介な隣国を短期間で制し、民衆の絶大なる支持を受け、新国王となった英雄へと嫁す期待の姫へと変貌したのです。


周りの驚きは凄まじいものでした。勿論わたくし自身にとってもです。


しかし、驚きと羨望はやがて妬みと嫉妬へ変わるものです。

人とはそういう生き物なのは幼き頃より知っています。


我が君にもそうした負の感情を向ける者が現れることでしょう。

それは例えば国防の為とか、王家の為とか様々に糊塗(こと)されて、自身に都合のよい理由を(つむ)ぎ出して正当化されてゆくのです。


閣僚や高級官僚、上位軍属の人格、性格、人品、思考の性向については網羅(もうら)し把握しています。

手駒の数は限られているので、長男を除くお兄様方にも協力を願い出て、影や上級ハンターをわたくしが指定した人物へと張り付けました。


王太子のニコラウスお兄様は表向きの顔はとても人好きのする好青年なのですが、実際は猜疑心の強い、独善的なお方です。

ご自身が何かしらの行動を起こしかねない危うさを秘めています。


後の二人はわたくしの信頼を得るに相応しい人品を備えております。


特に帝国皇女を妻に娶った同腹のアーベルお兄様は自己犠牲を(いと)わぬ高潔なるお方。

元皇女は実家の権勢を傘に着て我儘放題。その上お兄様が自ら申し出て公爵へ臣籍降下(しんせきこうか)すると、次期国王の継承順位が下がったことに激怒してお兄様を殴ったというのは知らぬ者なき恥ずべき醜聞として有名になりました。


まぁ、帝国は消滅したそうなので、そう遠くない未来に彼女はご自身の行いのツケを払う事となるでしょう。



あっけなく暗殺計画が網に掛かりました。3件も。

内2件は外務卿によるもので、あとの1件は内務卿による釣りネタでした。

彼がクロエ様を裏切るなどあり得ませんから。

そちらに掛かる有象無象は内務卿へお任せです。



詳細を調べ尽くし、全てクロエ様へご報告致しました。

ただ残念なことに、計画そのものは把握できたものの、外務卿が関わっている証拠が見出だせずにおりましたところ、元帝国の影だったという方がたった1日、いえ、半日強で明確な証拠を見つけてきました。

凄まじい能力です。

欲しい。ユリアン様に嫁したら下さいと頼んでみようかしら?


え、ハンナ様に絶対の忠誠を?

……引き下がりましょう。


ハンナ様はユリアン様、クロエ様の特別です。

わたくし如きの無理は通せません。



夜会が始まりました。

この場で全て型をつけます。その後は何事も無かったかの如く夜会を継続して、我が国の鉄壁ぶりを皆に知らしめるのです。

因みに我が国とは愛しのユリアン様が王位に就くユリアヌスルセル王国のことです。

ユリアン様によるルセル家の王国。

良い国名です。

その国民、いえ、側妃(そくひ)となる栄誉は身震いする程に、我が身の羨望(せんぼう)です。もうじきそれに手が届く。



マークしていた給仕が三人、ユリアン様へと近付きます。

暗器を手に襲い掛かる瞬間、ハンナ様が人間技とは思えぬ剣捌きで一息に三人を打倒しました! 瞬きの早さです。

暗殺者は複数箇所の骨を折られ行動不能に。自死も叶いません。


エイダ嬢から声があがり、クロエ様が尋問用の術式を展開しました。


なんと強力な……訓練された影であろう男は問われるがままに雇用主について全てを語り、その背景についても何もかもを吐露しました。


さらに証拠が示されて……外務卿が捕縛され連行されてゆきます。



わたくしの調査がムダでないことは自明ですが、この方々だけでも何とかしたのではないかと考えてしまいます。


そこにわたくしも仲間入り……ゾクゾクしますね。



あぁ、早く……ユリアン様に鞭で打たれたい。手足を縛られ床に転がされ、無体な、口汚い言葉で貶され、他の方々が見ている前で惨めに穢されたいのです。

あぁ、待ち遠しいこと。


うぅん、今は元皇女の先行きに想いを馳せて、わたくしの身の上に重ねて妄想するに留めましょう。

それだけでショーツがヌルヌルです。


ユリアン様から穢され凌辱される日が待ち遠しい。

あ、明日でしたね。


いっぱい意地悪してくださいませ。

ユリアン陛下。




〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉


ハンナがマジ、カッケェ。

ショートソードってあんな使い方出来るんだ。

ホント、剣技だけならオレと同格だな。術だって実は魔道士だし。

風ばかり使うけど、水と土も最近魔道に至り、火も魔術士中級だ。

光と闇も生えてる。

あれ? 大魔道士じゃん。まさかのヘルガ超え。


接近戦での術式待機や使用タイミングの上手さを加味したらオレより上もあり得るか。

流石オレの出来る女、ハンナ。


近頃は何だか若々しいし、美しさが増してきた気がする。


なんでかやたらと気になる。

つい目で追っていることが多い。



「ユリアン、明日にはクラウディアを屋敷へ迎えることにしました。もう一人増える訳だけれど、覚悟はいいですか?」


そんなものあるわけがない。

今でも心が折れそうなのに、一体なにを覚悟せいとおっしゃるのか。


「全員一斉にというのが無理なんだよ。3組くらいに分けない?」


「自身は悶々とした夜を過ごし、他の誰かが愛しのユリアンに抱かれている事実を受け止める。そんな残酷な夜をあの子達に過ごさせると?」


「その言い回しだとクロエはローテーションの外側ということ?」


「当たり前です。ワタシは正妻ですから」


「クロエさえ我慢すれば頻度の向上が可能では……」


「怒りますよ?」


なっ!? ちょっ、こ、怖っ!!


周囲半径10m範囲内にいる人達の下半身に悲劇が!

その周りでもザワついている。警護の騎士達が剣柄に手を掛けて大量の汗をかいている。



「やっぱりみんな一緒がいいよね?」


収まった。

オレはクロエを舐めていたのか?

いや、知っていたはずだ。ただウッカリしてしまっただけだ。

その結果としての大惨事。


せめて温風で速やかに乾かしてあげよう。

匂いはどうしようもないけど。


人数が減ったあとも夜会は続く。

正側全員と踊ったよ。

意外だったのはルサルカだ。かなり上手いし、踊りやすい。


クラウディアとも踊った。


「ユリアン様は異性に何をお求めになりますか?」


「特にはないかな。クラウディアもありのままでいいと思うよ」


「ありのままのわたくしでも……受け止めて頂けると?」


「君に不満などないさ。クロエも君を認めているしね。でも、ホントに明日いきなり迎えていいの? 成人まで待つよ?」


「……わたくしが待てませんので」


そう言って潤んだ悩ましげな瞳をオレに向けてきた。これは……大人の眼差しだ。

シッカリとした自分を持っている。

本来ならば男になど運命を委ねずとも生きてゆける自立した女の目だ。

それでもオレに寄り添いたいと願う恋する女の眼差しでもある。

フッ、断れないな。


「わかったよ。楽しみにしているよ。部屋はちゃんと別室を用意しているから……」


「別室? そんなものはいりません。常にユリアン様と共に在りたいのです。いけませんか?」


くっ、可愛いところもちゃんとある!

オレの周りはこんな子ばかりだ…………子。そう、女の子。


大人はかろうじてルサルカ込みで三人。

そして女の子がこれで三人。



こんなはずでは……オレはロリではない。ホントだ。

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