84.夜会
〈クロエ・ルセル〉
夜会か。
共和国成立時の夜会に出ていらい、約400年ぶりか。
いや、その後1回出ているな。
ユリアン「達」は初めての参加だという。ルサルカを除く全員がダンスは出来るというし、マナーは履修済だというから特に問題はなかろう。
……ワタシの知るダンスは400年以上前のものだが、今も変わらんのだろうか?
ユリアンに恥をかかせるわけにはいかないからな、まずはよくみてからにするか。
ヴァン・ヘルムート国王の挨拶から始まり、歓談、立食、音楽、そしてダンスか。
この辺りの流れは昔と変わらんな。
クラウディアがこちらへやってくる。学院でも普通に会話はしているのだが、以前に比べかなり控えめにしている。
ん? ユリアンの所ではなく先ずはワタシか。
「クロエ様、ごきげんよう」
「あぁ、ごきげんよう」
「此度はわたくしとユリアン様の婚約が決まり、クロエ様にはこの先お世話になることと存じます。よしなにお頼み申します」
「うむ、お前は4番目となるな。だが、前の二人は同い年だ。序列を気に掛けることはない。だが、ハンナは別格だ。それだけは肝に銘じておくがよい」
「ご忠告、感謝致します。ところで、エイダ嬢、ヘルガ嬢は既にユリアン様、いえ、陛下とご同居なさっておいでとか。わたくしもそちらへ同居しても宜しいのでしょうか?」
「……お前はどうしたいのだ?」
「今夜にでも参りたいと」
「お前の父親が許可するのならば構わんぞ。ワタシとハンナは9月末頃に仮挙式を挙げたが、来年2月にはユリアンの戴冠式と正式な挙式を行なう予定だ。その際、側妃達全員との挙式も同時に執り行なう。そのことは説明済だ」
「わたくしは一刻も早くユリアヌスルセル王国の者となるべきだと考えます。政治的にも、経済的にも。そして……肉体的にも」
「お前は『ソレ』を望むのだな?」
「はい。強く望みます。わたくしだけ仲間外れは嫌でございます」
「今夜は止めておけ。そうだな、明日、迎えに来よう」
「本当に御座いますか!?」
「待てないのだろう? 分かるぞ」
恥じらう姿が初々しいな。
可愛らしいではないか。ヘルガには及ばぬが。
「あの……陛下と踊っても宜しいでしょうか?」
「構わんぞ、ハンナに声掛けだけせよ」
「承知いたしました」
ここでカーテシーか、弁えた奴よな。
この会場で帯剣が許されたものは極少数だ。特に我々側には少ない。そんな中、ハンナは側妃でありながら帯剣を認められている。
ユリアンに最も近い近侍として、警護者として、妻として、ユリアンを守る最後の盾。
そう在りたいと強く望んだからだ。
ハンナのそうした想いにはいつも感心させられる。
そして……給仕のうち3人がユリアンへ接近し始める。
実は事前に把握していた事態だ。
クラウディアからのリークでな。
毒を仕込んだであろうニードルを袖口から掴みだし、同時に三方向から襲い掛かる。
これを瞬時に打倒し、無血のまま無力化するハンナ。
一拍置いてざわつく会場。
「クロエ様、自白を」
エイダがワタシへ促す。
直ちに闇魔導術式「審判」により精神支配し、指示した者を語らせる。
外務卿が黒幕だそうだ。
まぁ、知っていたが。
クラウディアの情報を元に、使節団に同行してきた元帝国の影を使い証拠固めをした。
この影がエラく使える「女」であった。わずか1日で事を成した。
特にハンナへの忠誠心が強く、何故かと聞いたら
「共和国との分断戦に参加していました。ハンナ様には何度も半殺しに遭い……惚れました」
耳まで紅く染めるその顔はとても可愛かった。
ハンナも覚えており、
「あぁ、ワタクシに挑んできたなかで一番強かった人ですね、覚えていますよ」
と言うと、泣き出した。
「ありがたき……ありがたきお言葉。生涯の誉に御座います」
「それではお前はハンナ直属の戦闘侍女として仕えなさい。そして思う存分に捧げなさい」
「かふぅ、謹んでお受け致します」
鼻血が出ていますね。
大丈夫でしょうか? ハンナが。
そう言えばワタシ付きとなった戦闘侍女も中々にワタシを見る目付きが危ないですね。
まぁ、キスで股を濡らしイッてしまうようではなにも出来ないでしょうが。
ともあれ、話しのネタが少ない外務卿とその一派はその場で捕縛されました。
夜会は継続します。
打ち合わせでそう決まっていますから。
会場内では次の外務卿が誰になるかでもちきり……かと思いきや、ハンナの並外れた強さに皆が注目しています。
所作の美しさ、佇まいの端正さ、目線の強さ、他にも挙げられていましたが、そのどれもが羨望によるものでした。
うん、その通り。
我が心友は強く美しい、共にユリアンの寵を受けるに相応しい同胞なのですから。
他の子らとは違うのです。
ハンナはただ一人の、ワタシの友なのだから。




