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83.使節団

〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉


街門ではなく、貴族街の門前にて使節団を出迎えた。


使節団長はガイウス・フォン・ケンプフェルト侯爵。

彼は元々の軍務卿の職を辞し、近衛騎士団団長と王都防衛師団師団長を兼務する、国王の側近中の側近という立場を求めた。

そして認められた。


その職責を以て今回の使節団団長の地位を得たそうだ。


副官の位置には堂々たる体格の女性が就いている。身長180cm近くはあろうか?


「陛下、お変わりなさそうで安心致しました。臣、ガイウス・フォン・ケンプフェルトは現時点を持ちまして、陛下の側仕えとして、或いは執事としてお側に侍らせて頂きます。どうぞご存分にお使い下さい」


そしてチラリと斜め後方に佇む、大柄のエラく存在感のある戦闘侍女を見て、


「こちらに侍ります我が副官はクロエ様専属の侍女としてお仕え致します」


「ベアトリクス・フォン・グレブナーと申します。陛下並びに王妃様に我が忠誠を捧げ、全霊を以てお仕えさせて頂きます」


薄茶色の腰まである長い髪を三編みにして、凛とした相貌に薄いグリーンの瞳。中々美形だ。

すると彼女を眺めていたクロエが、


「ん? お前はドレス直しの侍女だな?」


厳しさ漂う武人の顔をした彼女は文字通りパアッと表情を変え、


「左様に御座います! 覚えていただいていたとは望外の歓びに御座います!」


あぁ、堕ちてるんだ、この子。

クロエお姉様は相変わらず罪作りだな。

そこかしこにクロエシンパの女子がいて、中でも立場があり優秀な子にはささやかなご褒美と引き換えに使役していたりする。


みんな喜んでクロエの為に働くんだ。時には親兄弟すら裏切りつつ。

そのご褒美とは……あ、やった!


みんな見ている前でベアトリクスたんの顎下に指を添えて軽く引き寄せると……口づけをした。


ベアトリクスたんの頭の上にエクスクラメーションマークが幻視できる。

しかも3本だ!!!


膝から崩れ堕ちるベアトリクスたん。まだ上向きになっているお顔には恍惚(こうこつ)とした表情が張り付いている。

彼女がクロエを裏切るとか生涯に渡りあり得ないだろう。

絶対的忠臣いっちょ上がり!

である。


そんな彼女を何故かハンナがお姫様抱っこ。そして、「……お姉様とお呼びするのですよ」とかなんとか語り掛けている?

クロエ様とか王妃様じゃダメなの?


使節団員は変わらず片膝をつき、臣下の礼を取り続けている。


「皆のもの、遠路ご苦労である。顔を上げよ。当地にて家人となる者はこちらのハンナに付いて屋敷へ移動せよ。彼女は我が側妃である、丁重にな」


ここでハンナを手で指し示す。


「余のものはこれより我々と城内へ赴き式典となる。着替えなどを忘れるな」


我々か。まだ決めてないんだよね、一人称。


朕か予かはたまた……ボクはアウト。

いっそ俺様。吾輩はちがうな。


我でいっかな。

確かイングランド王がWeを使っていたはず。我々からの我。




王宮の控室を使わせてもらい式典参加者が着替える。

我達も。

違和感がぁ……


みんなでキチンと正装。並び順も確認して、いざ出陣。


見知ったお歴々に見守られ謁見の間を進む。

陛下は壇上には居らず、下で王妃共々待機だ。


5メートル程離れた位置で停止。

ガイウスが口上を述べる。


「盛大なる歓迎に謝意を表する」


普通の貴族の礼。


「この度、旧ルーメル神聖帝国が廃され、新国王を戴きユリアヌスルセル王国が発足したことをここに宣言するものである」


一歩脇へ移動してオレに向き直り礼。


「こちらにおわしまするユリアン・エルフィネス・ルセル国王並びに先頃仮婚姻を取り交わされたクロエ・ルセル王妃を初代国父、国母として戴きこれより栄光の歴史を紡ぐであろう我が国は」


ここでヴァン・ヘルムート王へ再度向き直り、


「貴国、ヴァン・ヘルムート王国との末永き友好を望むものである。いかに!?」


あちらの宰相が口上をうけとる形で返答をする。


「貴国の(くらい)と平穏たる有り様に危惧するところなく、新王の資質、人品に疑念なしと認むる。よって、我が国はユリアヌスルセル王国との末永き友好を望むものである」


ここで国王同士が歩み寄り、握手。


周りから盛大な拍手があがる。

さらに包容。

ここで国王が「良い匂いが……」とか、小声で呟いている。

お願い、止めて。


それから会見の間に用意された席に着き、外交基本方針について軽く話し合いをした。

細かいのは明日以降。


そのまま間髪入れずに晩餐会へ。


そこで第二王女であるクラウディア・ヴァン・ヘルムート姫がユリアン・エルフィネス・ルセル国王の側妃として嫁すことが正式に発表された。


第四である。



その夜は屋敷へ使節団全員で引き取った。



クラウディア王女を娶る件はソラに乗ってハンナが事前にガイウスへも通告してある。


屋敷では今後について、他の側妃達も交えてガイウスや文官達と話し合った。

クロエが企図していたのは、恐らくは稀代の政治巧者? たるクラウディア王女を迎えることだった。

これが成った以上、ここの地に留まる特段の意義はない。

だが、


「今少し、友誼(ゆうぎ)を確実なものとしたほうが宜しいかと存じます。過去の遺恨もありますれば、器が改まったとはいえそうそう全てを割り切れるものではありますまい」ガイウス


「それは……確かにそうだね。でもただ王都に滞在しているのもなんだか疑念の元になりそうな」ユリアン


「それこそ学院通いを続けられては?」エイダ


「最早ユリアンの成長になんの役にも立たぬが?」クロエ


「クラウディア王女殿下の輿入れも御座います。かの政略家に国内調略の時間を与えることは決して無駄ではないと考えますが」エイダ


「王女殿下の政略? むしろこちらに不利な状況を創出されるのでは?」ガイウス


「いや、ガイウスよ、ソレはない。あの娘、ユリアンにぞっこんだ。実家を裏切ってでもユリアンに尽くすだろうよ」クロエ


「わたくしもその考えに同意します」エイダ


「……実は私もそう思っていました」ヘルガ


「……そうなの?」ユリアン


「「「「「ハァ……」」」」」


「で、では外交戦略上の区切りが着きますまでは学生をおつづけになるということでしょうか?」ガイウス


「まぁ、それでよかろう」クロエ



その後、戴冠式や正式なみんなとの挙式の日取り、他の国との外交基本方針の確認とかを話し合ってお開きとなった。もうひとつ、クラウディアからの使者があり、その対応も。まぁ、担当者を決めて丸投げだけど。


明日は光の曜日だけど式典以降の様々なプログラムがあるので、来週は休学願いを出してある。

そして今日は新月の日。


「それじゃあハンナ、湯浴みするから準備よろしくね」ユリアン


「…………」ハンナ


「ハンナ?」ユリアン


「なんともうしますか……今夜は身体の熱が……格別なるお情けを頂戴することはかないましょうか?」ハンナ


「……ハンナのお願いなら聞いてあげたい気持ちはあるのだけれど、今日は気疲れしたというか……」ユリアン


「ワタクシではユリアン様を癒やすこと叶いませんか……」ハンナ


「そんなことは……1回だけだよ? 済んだら直ぐに湯浴みを……」ユリアン


「お一人だけなんてズルいです!」エイダ


「あ、あの湯浴み前に掛けるだけでもいいので」ヘルガ


「ゴメンねユリアン、今日はわたし役立たずだから」ルサルカ


「ユリアン、観念しましょう。さ、行きましょう。愛の巣へ」クロエ


連行されるオレを羨ましそうに見る者、憐れむ目で見る者、様々だ。

ガイウスだけが武人の目をして、


「お勤めご苦労様にございます。お世継ぎの誕生を国民皆が待ち焦がれておりますれば」


と言って礼をした。他の皆もそれに倣った。

あぁ、そうだっけ、王家の義務だっけ。子作り。



ハンナにかけられていた避妊の術式はこの少し前に解除していたらしい。

本人の希望で。そしてこの日は排卵日だったそうな。



後日聞いた。懐妊の報告と一緒に。

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