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80.焦がれる者たち

〈元帝国のとある影〉


俺は精神支配の闇魔道術にでも掛けられているのだろうか?

どうにも眼の前の光景が信じ難い。


幼きころよりどうかしているような修練を課され、次々と脱落して生命を落とす仲間達。数十人いた同期は気が付けば4人になっていた。

さらに影の何たるかを刷り込まれ、先達からあらゆる手練手管を叩き込まれた。


もとより正々堂々戦うなどという立場にはないとはいえ、そこいらの騎士ならば簡単に無力化できる。

それだけの武は身に付いているし、暗殺術ならば仲間達の誰にも引けは取らぬとの自負もある。


正面を避け、不意を突き、虚をつくる。

そうすればどんな強者だって(ほふ)れる。いや、実際に屠ってきた。

それなのに……


眼の前の双刀使いの女はどの様な業をも受け付けず、むしろこちらの虚をついて、圧倒的な武を以て我ら影を蹂躙したのだ!


強者? そんな比較対象者などではない。アレはそう、絶対者だ。

闇女帝などは論外だが、それに付き従うヒューマンがこのような人外の化け物などと、誰が信じよう。

我が目すら疑うほどの絶望的な武を。



一刀のもとに意識を持っていかれた。

だが生きている。

戦力として有用な者から優先して治癒を受けられる体制が出来ており、俺は直ぐに治癒された。


食事と強壮剤を与えられ、その夜2度目の襲撃に駆り出された。

またしても一撃だった。しかも拳でだ。

力量に開きがあり過ぎて、どう戦えばよいのか見当もつかない。


再度治癒を与えられたが、今宵はそれまでとなった。正直ホッとしたものだ。


翌日もあの化け物は目にも止まらぬ瞬動を駆使し、名のある剣士や騎士達を無人の野を行くが如く蹂躙していった。

ふと遠くを見やると、黒天令嬢とあだ名された黒槍の騎士がほぼ立ち位置を動かずに見えない槍捌きで数十メートル先の騎士を打倒しているのが見えた。

あちらも化け物か。


しかもアッチは闇女帝の主だという。…………

もう、無理だろう。戦線に影を投入している時点で勝ち筋が見えていないと言っているようなものだ。

物量で押せば恐らくは死を賜わるだろう。

小競合いでの対応だからこそ「生かして」もらえているのだから。


ふう、また夜がくる。

憂鬱な……だが、少しばかり心躍る夜がくる。

俺担当の化け物の技前は美しい。

その佇まいすらも美麗だ。あんな女になら仕えてみたいとすら思うほどには焦がれている。

昨夜、2度も殺されかけて……惚れた。


その夜は矢張り2度半殺しにされ、翌朝戦闘は終わりを告げた。


監視も不要との上からの指示により、俺達影も帝都改め王都ユリアナへ帰参することとなった。



軍の大規模な再編成、それに伴う影の所属変更などが言い渡された。

そして、あのドライリッターはなんと新国王とその王妃、そして側妃だという情報が公開された。


なんと……憧れの戦姫が側妃だと?


新王はヴァン・ヘルムート王国出身の子爵家子息で救世の御子! いまは学院の新学期に合わせてアチラへ帰国したと?

なにより……ヴァン・ヘルムート王国で王にお仕えする人員を抽出中で、その要員の中には影も含まれるとか。


絶対にそのお役目をもぎ取らねばならない!!


あのお方にお仕え出来るなど、俺……いや、私こそが相応しい。


まずは人事担当者の割り出しからだな。ここからは得意分野だ。



下命に従い、名誉も実もない生だった。

だが、初めて自ら望んだ任だ。今までだって生命は掛けてきた。だが私はこの任に今後の人生を賭ける。


勝ち取ってみせる。

狂乱の舞姫、その部下の地位を!




〈とある侍女〉


なんという高貴さ、尊さ、そして美しさか。


思い起こすだに溜め息が零れる。

神聖帝国の前身、ルーメル王国救国の英雄でありながら此度の救国にも多大なる御力添えを頂いた至高のダークエルフ、クロエ・ルセル王妃様。


未だ回収が済んでいない「戦力」を得る為にと、陛下の故国へと旅立たれたのは9月も末の頃。

人手が足りず、手慰みの手技としていた裁縫の技術を生かして、仮婚姻の為に先代皇妃様のドレスを手直しした際、


「ほう、良い腕だな。どうだ、ヴァン・ヘルムート王国、王都屋敷の家人として来ぬか? アチラには懇意にしているその道の先達がいる。其奴と共にワタシや他の側妃達の花嫁衣装を作らぬか?」 


「わたくしがでございますか!?」


「うむ、この地ならではの意匠などもあろうからな。お前のような者が居れば助かるのだが」


天にも昇るとはこのこと!

わたくしなどにお声掛け下さり、しかも必要として頂けるなんて……


「わたくしなどでお役にたてるのならば、是非承りたく存じます」


「お前、名は?」


「ベアトリクス・フォン・グレブナーと申します」


「わかった。では宰相へ伝えておこう。ではな、あちらでまた会おう」


「身に余るお引き立て、有り難き幸せに御座います」


手を挙げて去りゆく後ろ姿が今もこの目に焼き付いております。



必ずやクロエ様のご期待に沿う最高の花嫁衣装をご用意いたします。

このささやかな身命に賭けて。



その3日後、辞令を頂きました。

使節団長ガイウス・フォン・ケンプフェルト卿の副官という辞令です。


この元近衛騎士団副団長にして天断の二つ名を持つ戦闘侍女、ベアトリクスの武名に賭けて、必ずや任務を成し遂げてみせます!

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