79.会見の下準備
〈アウグスト・フォン・エールリヒ〉
ただただ驚愕するより他なかった。
隣国での革命、そして新王国の成立、上位精霊との関わり、共和国との関係。その全てにクロエ様とユリアン様が主体的にかかわっている。
そして低迷していた穀物価格が跳ね上がり、農民が一気に豊かになった原因もクロエ様、ユリアン様にあると?
どうなっているのだ、我が主は?
出逢いから半年も経っていないと言うのに、私を変え、世界情勢までも変え始めた。
元帝国と共和国、そこに我が国を加えれば、世界に覇を唱えるも可能であろう。
そしてその旗印はユリアン様となろうな。
もしもユリアン様にその野心があれば成ることだ。
不意に胸が躍った。
まぁ、私の知る限りユリアン様にそのような覇気も野心もなかろうがな。
なるべく穏やかに暮らしたい、争いからは遠ざかる、地位や栄誉に興味がない。
彼はそんな性格だ。
実力測定に力を尽くさなかったのもそうした性質故であろう。
平穏でありたかった。
しかし周りがそれを許さなかった。
その行き着く先が初代国王では……得心行くまいな。
羨望よりも哀れを誘う。
さて、国書とともに聞かされたこの信じ難い物語の扱いは私に一任された。
どう料理したものか。
ふむ、クラウディア第二王女の側室入りの件があったな。あれに絡めるか。
あとは軍務卿を引き込もう。外務卿は捨て置くとして……陛下には深く釘を打ち込み、慇懃に振る舞わせねばな。
よし、ヨハンとも打合せをし、うちの影からも情報を取り直すとするか。
やることは数多いが、使節団は待ってはくれない。
やり切ってみせよう、我が主の命なれば。
「それではクラウディア王女殿下、貴女様はユリアン様への輿入れに嫌はないということで宜しいのですな?」
「はい。もとより子爵家子息への側室入りが条件でした。それが今や隣国の国王陛下でいらっしゃいます。側室、いえ、側妃であろうとも不満は御座いませんわ」
「なるほど。ではそのようにお話しを進めましょう」
「よしなに願いますわ」
「王女殿下、クロエ様は懐へ入れば存外にお優しいお方で御座います。ミュラー公爵令嬢、シュトルツ伯爵令嬢とも明るく健やかにユリアン様と接っしておられるのがその証にて。王女殿下におかれましても真っ直ぐな心根をお見せし、飛び込まれれば宜しいかと」
「ありがとう御座います。わたくしの如きつまらぬ娘子が如何程に受け容れられようか……不安には御座いますけれども、そのお言葉を信じて添うてみようと思います」
健気な。
王妃の献策だというが、今や国王となられたユリアン様への輿入れともなれば別の意義が生じよう。
政治が出来ねばすり潰されることすらあり得る場への単身での投げ身。
哀れですらある。
エイダ嬢は冷徹な商売人、ヘルガ嬢は大魔道士に近しい実力者、凄まじき武人たるハンナ側妃に上位精霊のルサルカ様。
そして至高のダークエルフ、クロエ様。
そんな魔窟へと嫁ぐ娘のなんたる哀れなることか。
せめてもの扶助を捧げよう。
まぁ、悪いようにはされなかろうが。
「やあ、メーベルト軍務卿」
「ん? エールリヒ内務卿、貴方からお声掛けとはお珍しいですな」
「少々貴方にお聞きしたいことがありましてな」
「ほう、それはまたどのような」
「卿は帝国と共和国の紛争の話しを聞いておりますかな?」
「噂程度には。あれは誠のことなのか……」
「私が共和国に忍ばせた影が報告書を寄越してな。詳細がかなり判明したよ」
「それは……お聞かせ願えるかな?」
「……他言無用を約するならば」
「誓おう」
「両国の国境に山岳地帯あってな、紛争地はそこに終始したそうだ。3年もな」
「3年……よくも我らに気づかせないでやってきたものよ」
「帝国の影は辣腕だからな。そして9月中旬、最前線に突如として風弾が撃ち込まれ、天より三人の戦乙女が降りてきた。そしてその後ドライリッターと呼ばれた三人は両軍を分断し、その境を丸2日間維持し続けた」
「三人だけでか?」
「そうだ。夜間もハンターや影どもを退け続け、一人の死人も出さずに戦い抜き、両国の停戦命令が伝達されるまで戦線を維持し続けたそうだ」
「可能なのか、そんなことが」
「やり遂げたらしいな。帝国のガイウス将軍がドライリッターの前に膝を着き、武における称賛と尊敬を語ったとの報告もある」
「あの最恐の騎士ガイウスがか?」
「そうだ。そしてその三人なのだが……クロエ様とユリアン様、それに戦闘侍女ハンナ……分かるだろ?」
「あの試技のか?」
「そうだ、あの三人だそうだ」
「…………国外で?」
「そう、国外で。共和国では英雄として称賛されているとか。元帝国でも同様であろうな」
「とんでもないことではないのか?」
「そうだな、閣議に掛けねばな」
「共に陛下の元へいこう!」
うむ、此奴はこれでよし。
次は陛下か。骨の折れることよ。
明日にはクロエ様へ報告が出来よう。喜んで頂ければよいのだが。
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