7.将来のアレコレと暴威の初体験
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
クロエが去って半年ほど経ったころ祖父が来た。
挨拶を交わしてお茶をすることに。向い側に座る祖父は何故かオレを哀れなモノを見るような視線で眺めてから右手で目頭を押さえ上を向き、しばし後に下を向き、ゆっくりと顔をあげ何かを言おうとしてから口ごもり、眉間にシワを寄せてやや考え込んでから今度はなにやら羨ましそうな顔を向けてくる。
こんな謎の百面相が30分ほど繰り返されたあと、
「強く生きよ、お前は私の大切な孫でいつでも私はお前の味方だからな。辛いとき、苦しいとき、いつでも私のもとに来るが良い。そして心癒えるまでいつまでもいてよいのだぞ」
そしておもむろに立ち上がるとオレのとこまできて何故か抱きしめられた。全てが謎の一時であった。まぁ、真相は数年後に本人から告白されるのだが、この日にオレとクロエの婚約が一族内で内定したのだとか。
じつはこれより前にオレの身柄を派閥内にキッチリ囲い込むための婚約が画策されていて派閥の伯爵令嬢との仮婚約がすでに決まっていたそうな。決めたのは勿論じいじ……辺境伯だ。
仮婚約者にされていた伯爵家の娘とは会ったこともないし、なんの思い入れもないんだけど、この時の手当てが不十分であったため後年ちょっとしたトラブルの元となる。周りの大人達の優秀さに疑問が生じ始めるきっかけになってたりもする。
時は流れた。オレは11歳になった。
前世ならば小学5年生か。
魔術も独学メインでたまに母やヒルダに聞きながら鍛錬を続けて4元素全て魔導に至り、外法3種にも覚醒していたので思ったよりも早く賢者にまで登りつめた。
条件を満たすと勝手に次の段階へクラスアップするような感じで覚醒するんだが、理屈は解らん。
勿論誰にも教えていない。
更に新系統に開眼していたりする。
電気魔法、電撃魔術、雷撃魔導。放電系統は多分プラズマ現象だ。一通り調べてみたが、家人に頼んで取り寄せた国立図書館所蔵本も含めて公的な記録上には一切記されていない。
多分だが、現象に対する理解の有無によって元素と言われる事象の属性が生えるのではないかとの仮説をたてた。ここでは電気に対する理解など皆無と言ってよいのだから。
但し、これがロストなのか全くの新規なのかは判断がつかないので、まずは隠匿しておいたほうがいいやつだろう。
こんなんばっかりだ。
数か月前くらいから、実戦不足解消のためハインツさんやヒルダと、たまに父や母も伴って魔獣狩りに出かけている。月に1、2回、5~10日間くらいの日程で遠出して。
連携云々よりも個としての戦闘経験を重視しているので同伴者はただ見てるだけだ。
まぁ、往復込みで10日で帰れるような狩り場にそんなに強い魔獣がいる訳もなく、今となっては緩めの修行だ。
そんな短い旅から帰ると思いがけない人物がオレを迎えてくれた。
オレの1番推しなダークエルフで今も焦がれる魅惑の体臭と美貌と豊満なバストの持ち主クロエだ。
今生の童貞は是非彼女で卒業したいものだ。
ま、相手にしてもらえないだろうけどね。
あまりにも過ぎたる高嶺の花だ。
オレは劣等種の中人族だし。
エルフからはめっちゃ下に見られている下等種族なのに、幼児の頃はだいぶ面倒みてもらった。けれどもそれは彼女自身が出産と育児を経験したからゆえの母性か気まぐれからだろうとのことだ。
そう、経産者なんだよね。彼女。知ったのはここを去ったあとだ。ヒルダが教えてくれた。
まぁ、そんなことは彼女の魅力をほんの僅かもスポイルしない。
むしろあの抱かれ心地はそれ故の保持スキルであろうし、思い返せばオムツ替えの技術も素晴らしかった。
でもまぁ、幼児相手にあの事務的かつ無表情な彼女と、精通を経て少年まで育ってしまったオレとの間にはあの頃のようなスキンシップはもう成立しないだろうな。
ざんね……肩と頭部に腕を回し強力な力で抱きしめられた!
顔面にはタワワな乳房の感触と、あの恋焦がれた体臭に包まれた至福の世界が……って、えぇっ!?
彼女の姿を確認した時点での距離は30mはあったはず。
体感で1秒もかからずに眼前まで接近し、ぶつかるでもなく静止し抱きしめるとか、可能なのか? そんなこと。
いろんな感情と思考がない混ぜになるなか包容を緩めたクロエが顔を寄せて囁くように呟いた。
「ユリアン、あなたはワタシのものです。そしてワタシはあなたのものです。これより先は死するまでともに」
ホントに訳が分からない。
だが彼女の気持ちだけは理解できた。
「そうなんだ」
なんて、間の抜けた返答をしながらその想いを素直に受け止めることにした。
時刻は午後2時過ぎくらい。
「まずは旅の汚れを落としてから改めて……」と言いかけてたところをクロエに遮られた。
「ワタシはもう限界を超えてしまいました。せめてもの理性の発露として人前での行為は避けたいと考えます。一切の猶予なくあなたのお部屋へ参りましょう。反論は時間の無駄です。さぁ!」
オレを抱きかかえて疾風の如き速さで屋敷内を駆け抜け迷いなくマイルームへと滑り込むと何やら呟く。すると部屋内に結界が張られたことが感じ取れた。
え? なに、逃さないため? オレ、このあとどうされちゃうの? いや! なんだか怖い。
ふとクロエの目を見ると……文字通り血走っている。
いや、マジで怖い。
晩飯抜きで深夜まで及んだ行為はクロエのまるで失神するかのような突然の睡眠により終わりを迎えた。
オレはというとまだ荒い呼吸を整えられずにいた。
貪るようにオレの身体を求めた彼女は今や1流騎士にも劣らない体力を持つはずのオレを、まるで巨体の大人が小さな子供を蹂躙するかのよう圧倒的な力でもって手荒に扱った。
完全に理性が飛んでいたのがわかり抵抗せずに身を任せた。
全身を隅々まで舐め回され……もうお嫁に行けない身体にされてしまった。
多分クロエからは逃げられない。屋敷で待ち受け、内部のこととはいえ嫡男を連れ去られているのに食事の誘いもなく放置。
間違いなく父も母も承知のことなのだろう。
クロエは言った。「あなたはワタシのもの」と。
婚姻までもが確定しているとみていいだろう。
まぁ、憧れのみならず届かぬ前提の劣情すら抱いていた1番推しの女だ。
しかもいつまでも若々しく美しい。そして今も漂う芳香を放つ魅惑の身体。
強く賢く多分一途で純粋。非の打ち所がない……怖い女。
あとはオレの器次第か。
浮気とかは命にかかわるな。主に相手の命。
とにかく、もっと身体を鍛えよう。
毎回こんなではないと思うけど、他事に振り向ける体力が根こそぎもっていかれてしまってはいけない。
まぁ、なんにせよ明日話をしよう。
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